公開日 2024/12/02
2017年に丸紅の人事部長に就任した鹿島氏。「当時、史上最高収益を更新していながら、経営陣には『今のままで10年後も生き残れるか』という危機感があった」と振り返る。入社以来、人事一筋、経営変革に伴う人事制度変革を率いてきた鹿島氏が思う、これからの人事にとって重要なことを伺った。
丸紅株式会社 常務執行役員CHRO 鹿島 浩二 氏
1989年丸紅に入社し、現在に至るまで一貫して人事業務に従事。2001~07年まで米国・ニューヨークへ赴任。帰国後人事部企画課長に就任。13~15年に中国・北京にて2度目の海外駐在を経験。17年人事部長、20年執行役員人事部長、23年執行役員CHROを経て、24年より現職。処遇制度、タレントマネジメント、働く環境の3つの視点から人事制度改革に取り組む。
人的資本経営や経営戦略に沿った人材戦略の重要性が、多くの企業に浸透してきている中で、私が課題として感じているのは《「人材」の力をいかに「組織」の力につなげていくか》ということです。多様な価値観や個性を持ったメンバーが増え、外部のビジネス環境の変化も激しい今、組織をまとめる難度は確実に高まっています。同質な人たちを採用し、ビジネスの変化も少なかった頃の勝ち筋は通用せず、成果を出すことが難しくなっています。
昨今はキャリア自律をはじめ、「個」がフォーカスされていますが、いくら個人のレベルを上げたとしても、組織力が高まらなければ会社への貢献にはつながりません。ここでいう「組織」というのは、会社全体ではなく、チームや部・課といった単位のことです。個々が所属する組織がビジネスの実践の場であり、そこで人材が力を発揮してこそ会社の業績につながるのだと考えます。
経営の変革に合わせて、丸紅では2020年に大きな人事制度改革を実施。その頃から、人材の力を生かして組織力を強化することを念頭に置いた制度を導入し始めました。「ミッションレーティング制度」は、その一例です。ミッションに基づいて等級や基本給を決定することで、適材適所と時価的な処遇、より大きなミッションに挑戦する風土の実現を目指しました。また、管理職のボーナスを「貢献度加算」に変えたことも大きな変革です。従来は全社で分布調整される個人業績評価でボーナスを決めていましたが、個人の貢献度に応じて、組織長が原資を分配する形にしたのです。
仕事のミッション設定やアサイン、評価・処遇の権限をすべて現場が主導する形にしたことで、各組織は「誰が何をやるべきか」を深く考えます。これは組織の戦略実行力を高めることに寄与しました。同時に、権限・負担の増える現場を支援するため、営業の各グループにHRBPとして人事部員を配置しました。
また、エンゲージメントサーベイの結果を用いて組織の状態を可視化し、特別なプログラムによる改善も行っています。
現在は、改革した制度を実践している最中ですが、おおむね社員からはポジティブに受け入れられています。経営会議で徹底的に議論を重ねた制度でもあることから、各組織のトップ自身が腹落ちした状態で推進できていることも大きいと思います。
とはいえ、この人事制度を決して完璧なものとは考えていません。必要に応じて今後も修正を繰り返すべきであり、経営も社員もそれを理解しています。
一般に、人事に携わる人は「人事は常に正しく、過去の施策と整合性がとれているべき」という価値観が強いように感じています。しかし、これだけ変化の激しい時代ですから、経営環境も目まぐるしく変わっていきます。完璧な人事制度を目指すのではなく、走りながら修正していく。これからの時代、人材の力を組織力に変え続けていくには、そのようなスピード感を持った柔軟な対応が必要なのではないでしょうか。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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