インタビュー

《無自覚・無能からの脱却》企業成長に貢献する人事への変革は人事自身のアンラーニングからはじまる

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人事に求められる機能は、採用・教育・評価などインフラ的な役割にとどまらず、戦略人事の役割まで拡張してきている。この大きな変化の中、人事はいかにして企業成長に貢献すべきか。日清食品で長年、財務経理に携わってきた経験を基に、独自の人事再構築を推し進める正木氏に話を伺った。

正木 茂 氏

日清食品ホールディングス株式会社 執行役員/ CHRO 正木 茂 氏

1993年に新卒で日清食品に入社。経理課に配属後、アメリカへ社費留学し、会計学修士を取得。財務部、人事部を経て再び渡米し、アメリカ日清にてCFOを務める。帰国後、全社の基幹業務システム刷新のプロジェクトリーダーを経て、2018年に財務経理部長。翌19年人事部長。22年4月よりCHRO、執行役員に就任。

Index

  1. 企業価値への人事施策の貢献を投資家に伝わる言葉で届ける
  2. 人事自身がアンラーニングして次のステージへ

企業価値への人事施策の貢献を投資家に伝わる言葉で届ける

正木氏

財務経理の観点から表現すると、将来の企業価値は、現在の《儲ける力》を表す金額と、今後《儲け続ける力》がどれくらいあるかの時間を掛け合わせた積で決まってきます。従来の人事は主に、社員の生産性を高め、《儲ける力》を伸ばす役割を担ってきましたが、これからはそれに加え、人材の育成・開発によって《儲け続ける力》を伸ばす役割がより求められると思います。

加えて、人的資本の情報開示の義務化に伴い、CHROとして投資家に説明する場で人事に関する質問を受けることが増えています。人事施策がいかに企業の利益創出や持続的成長に貢献しているかを説明できる、人事自身のスキルが今後ますます求められるでしょう。特に、施策を投資家に単に《伝える》のではなく、《伝わる》言葉で届けていくことが重要です。そのためには、女性管理職比率や育休取得率といった数値目標に加え、数字では表しづらい取り組みと企業成長の関連性を、投資家が納得できるロジックで説明しなければなりません。だからこそ、人事施策も、1粒1粒のブドウが房を成すように、1つひとつの施策が日清らしさを成して企業成長につながるように、理論と実践を行き来し、効果を確かめながら取り組んでいます。

人事自身がアンラーニングして次のステージへ

正木氏

《儲ける力》《儲け続ける力》を伸ばし、企業価値を高めるには、カップヌードルはじめ既存ビジネスを維持すること、さらに深化させること、探索によってまったく新しい領域を開拓することの3つの方向性が必要です。その方向性によって社員に求められる「優秀さ」は異なり、特に新領域の開拓は従来とはまったく異なる「優秀さ」が必要になります。そのため、社員が従来持っていた「優秀さ」を壊し、変化を促す数々の施策に取り組んでいます。一部の例を挙げると、毎年さまざまなポストを公募し、社員自らエントリーする「公募制度」や、自然環境下でのサバイバル体験を通して自活力を身に付ける「新任管理職アウトドア研修」などがそれです。

社員が進化に向けたチャレンジをするならば、人事である私たちも変わらなければなりません。私が2019年に13年ぶりに人事に戻ってきたとき、人事の扱う領域の拡大ぶりに驚きました。人事が今、期待されている役割は、採用・教育・評価などインフラ的な「今日の仕事」を維持しつつ、ダイバーシティやジョブ型への移行など「未来に向けた変革」、つまり戦略人事の実践です。そのため、人事に求められる「優秀さ」も変化しています。大胆に戦略が描ける力と、とはいえ情が伝わるから人は動くわけですから、現場の社員の気持ちが分かる力が欠かせません。

長年、財務経理の道を歩んできた私も2年間大学院に通い、人事の新しい在り方を学びました。50代でのアンラーニングは、これまで積み上げてきたものを一度手放さねばならない痛みを伴うものでしたが、次の成長ステージにおいて自分はまだ無能であり、その自覚もなかった、ということに気付かされる体験でもありました。社会が目まぐるしく変わる中で、自身の《無自覚・無能》に気付き、そこから脱却すべく知識・経験を磨き続ける姿勢こそ、今の人事に必要だと感じています。


※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

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