公開日:2022年5月23日(月)
調査名 | パーソル総合研究所 「企業の新規事業開発における組織・人材要因に関する調査」 |
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調査内容 | ・大企業における新規事業開発の実施状況および成功度を明らかにする。 ・大企業における新規事業開発の組織的な成功要因(手法、組織マネジメント、人事の支援、組織風土等)を明らかにする。 ・大企業における新規事業開発の担当者の実態を明らかにする。 |
調査対象 |
①新規事業開発実施企業における正社員:全国の新規事業開発実施企業の正社員 20~64歳男女 n=13,816 ③(②のうち、)業務外で自らの関心に基づいた新規事業開発にも取り組む、ダブルミッションの新規事業開発者 n=91 |
調査時期 | 2021年 10月28日-11月4日 |
調査方法 |
調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※報告書内の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計と内訳の計は必ずしも一致しない場合がある
調査報告書(全文)
本調査は、企業内で行われる新規事業開発を対象とする。社外と連携する新規事業開発(※)や個人が企業内で非公式に行う個人主導の取り組みも取り扱う。既存事業の改善は対象としない。
※本書では、社外と連携する新規事業開発を「オープンイノベーション型新規事業開発」と呼ぶ。
自社の新規事業開発の成功度を尋ねると、「成功している」30.6%であったのに対して、「成功に至っていない」は36.4%であった。自社単独新規事業開発とオープンイノベーション型新規事業開発に分けて見たところ、「成功している」と回答する企業の割合は、自社単独が29.4%、オープンイノベーション型が30.1%と、ほとんど変わらなかった。「成功に至っていない」割合は、自社単独の方がオープンイノベーション型より3.6pt多い37.2%だった(図1)。
図1.新規事業開発の成功度
新規事業開発の進展度を聞いたところ、「将来自社の主力事業になりそうな有望な事業が生まれている」企業は40.1%。事業の規模に限らず新規事業が生まれている企業は8割に上る(図2)。
図2.新規事業開発の進展度
新規事業開発の成功に寄与すると考えられる組織マネジメント要因を作成し、新規事業開発担当者に自社の状態としてどの程度あてはまるかを聴取した。回答結果を解析し6分類13因子を抽出。その内、実施率が比較的低いが成功度との相関が高く、注力すべきポイントは、「意思決定の迅速さ」「プロセス構築」「スキル・ノウハウ獲得」「新規事業開発人材の確保」「適切な評価・マネジメント」「既存事業からのリソース確保」「社内の関心の高さ」だった(図3)。
図3.新規事業開発の組織マネジメント要因と注力要因
DX推進、マーケティング・企画、経営企画、研究開発以外の既存事業部主体で新規事業開発を行う企業は「意思決定の迅速さ」「既存事業の足かせのなさ」「プロセス構築」をはじめとする組織マネジメントが弱い傾向があり、新規事業開発の成功度が低い。独立部門の設立が効果的であることが示唆される(図4)。
図4.新規事業開発の実施主体別に見た組織マネジメントの状況と成功度
社長/CEOが最終決裁者の企業は「意思決定の迅速さ」「新規事業開発のプロセス構築」「社内の関心」をはじめとする組織マネジメントが弱いという特徴があり、新規事業開発の成功度が低かった。適切なタイミングで、トップから権限委譲を行うことが、組織マネジメントに効果的であることが示唆される(図5)。
図5.新規事業開発の最終決裁者別に見た組織マネジメントの状況と成功度
オープンイノベーションの成功に寄与すると考えられる組織マネジメント要因を20項目作成し、オープンイノベーション担当者に自社の状態としてどの程度あてはまるかを聴取した。回答結果を解析し8因子を導出。特に、実施率が比較的低いが成功度との相関が高く重点ポイントとなっていたのは、「業務プロセス設計」「社内外の連携を円滑にする仕組み構築」「適切な情報発信と探索」「連携判断基準の明確化」だった。
オープンイノベーションの成功度を高める手法を分析したところ、「オープンイノベーションの専門部署・担当者の設置」は、オープンイノベーションの成功度を高めていた。連携先探索手法については、「ビジネスコンテストやアクセラレーター(※)・プログラムの実施」といった手法も、系列企業やグループ企業、顧客を対象に探索、既存事業に外部を参画させる手法も成功度を高めていた(図6)。
※アクセラレーター:スタートアップ企業のビジネス拡大を支援するプログラム
図6.オープンイノベーションの成功度を高める手法
新規事業開発に対し、人事施策の側面から人事部が「積極的に関与している」企業は33.2%。また、人事部が積極的に関与している企業において、その取り組みが「効果的だ」と考える担当者は70.7%に上る(図7)。
図7.新規事業開発に対する人事部の関与度と効果
人事施策の中でも、「挑戦的な取組みを推奨・評価する人事評価制度」「社内の知見を共有する仕組みの構築」「社外人材との交流会」「データに基づく科学的な異動」が、特に新規事業開発の成功度を高める傾向があった(図8)。
図8.新規事業開発の成功度を高める人事施策
新規事業開発を成功させるために強化すべき人事施策を問うと、新規事業開発担当者は「上長の理解やサポートの促進」47%、「挑戦的な取組みを推奨・評価する人事評価制度」38.8%と回答。一方、人事部管理職は「新規事業開発に適した人材の採用」(33.7%)が最も多く、新規事業開発担当者では回答率が高かった「挑戦的な取組みを推奨・評価する人事評価制度」は6位にまで後退するなど、両者の間でやや認識のギャップが見られた(図9)。
図9.新規事業開発の成功のために強化すべき人事施策(ランキング比較)
新規事業開発担当者の周囲からの評価を見ると、評価されている比率(高い評価+ある程度の評価を受けているの合計)は、「組織ミッション型」が44.2%であるのに対し、「ダブルミッション型」は53.8%と9.6ポイント上回る(図10)。
【組織ミッション型】:組織が業務として認める公式の新規事業開発のみ行う。
【ダブルミッション型】:組織が存在を知らないもの、知っていて黙認しているもの、起案されたが許可しなかったものなどの非公式な新規事業開発と、組織が業務として認める公式の新規事業開を並行して行う。
図10.新規事業開発担当に対する周囲の評価
ダブルミッション型は社外活動(副業、勉強会、NPO・ボランティア活動、異業種交流会、地域のコミュニティの活動など)に積極的で、聴取した5つの社外活動のうちいずれかを現在している割合は65.9%に上る。
社外活動の効果としては、「業務へのモチベーションが高まった」「自律性・主体性が高まった」との回答が、組織ミッション型、ダブルミッション型ともに多く、意識面へのプラスの効果が示唆される。ダブルミッション型はより広範に効果を感じているが、中でも「新規事業のアイディアを思いつくきっかけになった」「業務上の問題に対して、創造的な解決方法を思いついた」「新規事業開発における社外連携先が見つかった」など、より実用的な効果を感じる傾向にある(図11)。
図11.社外活動の効果
今回の調査では、新規事業開発成功の明暗を分ける要因解明を、働く環境に着目したピープルマネジメントを主軸において試みた。その結果、新規事業開発の成功に向けて、経営層、人事部、開発現場それぞれが果たすべき重要な役割、取り組みは以下といえる。
【1】経営層は開発現場が効果的にマネジメントできるような環境をつくる
【2】人事部と開発者が協働しながら新規事業開発の職場環境を整える
【3】開発現場のピープルマネジメント強化
既存事業部を主体とした開発組織は、新規事業開発専任の組織と比べて「意思決定の迅速さ」「既存事業の足かせのなさ」「プロセス構築」をはじめとする組織マネジメントが弱く、新規事業開発の成功率が低い傾向にあった。また、社長/CEOが最終決裁者である場合、新規事業の成功率は低かった。また、分析を進めると、社長/CEOが最終決裁者である組織は、「意思決定の迅速さ」「新規事業開発のプロセス構築」「社内の関心の高さ」などの組織マネジメントに課題が見られた。
組織体制やプロセスを見直す、現場に権限を与えて迅速な意思決定ができるようにする、といった経営層だからこそできる支援を行い、開発現場が効果的にマネジメントできる環境をつくることが肝要である。
新規事業開発において人事部の関与の重要性が明らかになった。しかし強化すべき人事施策に関して、人事部と開発現場との認識が必ずしも同一ではないことから、お互いにすり合わせて優先順位をつけ、着手することが必要となる。例えば既存事業と同じ期待値や尺度による人事評価になっていないかなど、新規事業を推進させるための人事評価やインセンティブの仕組みを再構築していくことも検討に値する。
また、副業・兼業や越境学習といった組織の枠を超えた活動や人材交流は、業務外で新規事業開発を行う意欲的な個人に多く見られ、それが業務内の新規事業開発に波及している効果も今回の調査で確認された。業務や組織の枠を超えた個人の自律的な働き方を認める仕組みを構築することは、今後の大きな成果が期待できる施策である。
新規事業開発は創造的かつ失敗確率の高い業務である。だからこそ、既存事業部やチーム内で円滑、密接な連携ができているか、チームの士気は下がっていないかなど、チーム内で取り組むべき要素をはじめとして、新規事業開発の組織マネジメント13因子が効果的に機能できているかを検証して対策を練ることが重要となる。
潜在ニーズの探索、有用な情報や技術の収集、連携先とのコラボレーションといったビジネスマネジメントに注力することと同等に、その活動の基盤となる自組織のコンディションを良化させるピープルマネジメントにも気を配ることが、事業の成功につながる大きな意味をもつ。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「企業の新規事業開発における組織・人材要因に関する調査」
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