公開日:2024年8月28日(水)
調査名 | 出張に関する定量調査 |
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調査内容 | ・雇用組織と従業員にとって有意義な出張の在り方を探る ・出張者の地域貢献意識を高めるための観点を探る |
調査対象 | 直近3カ月以内に国内出張を経験した正社員20~64歳:1,834s ※従業員数10人未満の企業に属する者/出張の滞在日数が日帰り、もしくは2週間以上の者/ その地域に10回以上出張経験のある者 は除外 (追加調査)上記同様の条件の正社員:1,316s ※使用箇所:報告書PDF P8、P22、P42、P44 |
調査時期 | 2024年4月3日-4月5日 (追加調査:2024年7月23日-7月25日) |
調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※図版の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。
調査報告書(全文)
所属組織における業務として、主たる勤務地とは異なる場所へ宿泊を伴い移動することとした。移動距離は問わず、かつ、日帰り出張は除外した。
オンライン会議が普及した今、出張に対してどのような意識を持っているのだろうか。出張前に「今回の業務は、出張でないと遂行できない」と、出張を前向きにとらえている層(出張肯定群)の割合は75.8%だが、出張を終えた後は50.4%に低下。
年代別に出張への意識を見たところ、出張肯定群の割合は、出張前・後のいずれのタイミングにおいても若年層が低い傾向。また、20・30代の出張後の出張肯定意識は、出張前に比べて約28pt下がっている。
同様に「今回の業務は、出張以外の方法(オンライン等)で遂行してもよい」と、出張を後ろ向きにとらえる層(出張否定群)の割合も、出張前・後ともに若年層が高い傾向。特に20代は、出張後に出張への否定意識(44.9%)が肯定意識(40.3%)を上回っている。なお、出張を否定する理由の上位に、「長距離の移動が面倒くさい(21.4%)」「移動時間が無駄だと思う(15.8%)」が挙げられる(図略、報告書PDF8ページ参照)。
若い世代ほど出張を否定的に捉える割合は多い傾向にある。しかし、出張後の意識としては、若年層であっても半数は肯定的に捉えていた。では、就業者は出張に対して具体的にどのような効用・メリットを感じているのだろか。
直近の出張経験に対する効用・メリット*1がを尋ねたところ、最も「あてはまる」の回答が多い項目は「その場の雰囲気を肌で感じられる」で77.0%。次いで「相手とコミュニケーションが取りやすい(76.2%)」、「相手との信頼関係を築ける(74.6%)」が続く。
*1出張の効用・メリットの項目は、予備調査の回答傾向をもとに作成・整理した(11機能・31項目)。
また、出張の肯定意識への影響要因を分析したところ、「その出張が企業・チームまたは自分自身にとってメリットがあった」と感じる意識が、「出張への肯定意識」を高める傾向が示唆された。そこで、「企業・チーム」と「自分自身」のそれぞれにとっての、出張の効用・メリットについて確認した。
その結果、双方に共通して、新しいアイデアや考え方が生まれるなどの「新たな気づき」、仕事に対して意欲が高まるなどの「前向きな態度変容」、出張業務以外の新しい仕事が得られるなどの「偶発的なビジネス拡大」の項目が上位に挙がっており、有意義な出張を行う上で重要な効用・メリットである可能性が示唆された。
有意義な出張を行う上で重要な3つの出張の効用・メリット「新たな気づき」「前向きな態度変容」「偶発的なビジネス拡大」は、出張時のどのような行動によって得られるのか。まず、出張に行く移動中に「自己研鑽」を行っている人ほど「新たな気づき」を得ていることが分かった。
次に、出張時の業務時間外の過ごし方別に「新たな気づき」「前向きな態度変容」「偶発的なビジネス拡大」を得る度合いを比較した。いずれの効用・メリットも、業務時間外は特に何も行っていない「巣籠り」群で最も低く、出張業務の関係者との懇親や近郊の観光名所を訪れる「懇親&娯楽」群で最も高い傾向。
出張者と出張先地域との関係を見るため、出張中の支出金額を見た。出張者は1回の訪問につき平均で合計62,216円支出しており、交通費を除くと34,284円を地域で消費している。
※総務省「労働力調査(2023年)」における性年代別正規職員・従業員数に対して、本調査内で算出された性年代別出張経験率を掛け、その性年代構成比に合うようにウェイトバック補正を行った。
※本調査(追加調査)における出張滞在日数は平均2.8日。左記日数の中で支出した金額である点に留意されたい。
次に、出張者の出張先地域に対する貢献意識を確認した。その地域の消費に貢献したい気持ちが高まる「地域消費意向」、その地域のふるさと納税を利用したい気持ちが高まる「ふるさと納税意向」、その地域のボランティア活動やイベントに参加したい気持ちが高まる「イベント参加意向」のいずれも2割強が高まったと回答。
次に、出張先への地域愛着の高まり度合いの実態を確認した。「その地域は私にとって大切である」「その地域とのつながりを持ち続けたい」「その地域に行けなくなったらかなしい」のいずれの項目も3割程度が高まったと回答。
出張先への訪問回数別に地域愛着の度合いを比較した。1回目(今回の出張が初めて)から2回目、3回目と回数を重ねるごとに地域愛着は高くなるが、4回目以降で下がる傾向が見られる。
では、何が地域愛着を高めているのか。出張先の地域住民(出張関係者以外)との交流において、「簡単な挨拶の機会」「軽い会話の機会」「対話・議論の機会」が出張先への地域愛着を高めることが分かった。特に「簡単な挨拶の機会」の影響度が強い傾向である。
出張先の地域住民と交流した場所は、居酒屋やカフェ・喫茶店が多い(図略、報告書PDF33ページ参照)。その際、交流のきっかけを作ってくれた「つなぎ役」がいた割合は77.5%である。
「つなぎ役」の特徴を分析したところ、「ほがらかな社交家」や、ビジネスを促進し得る知見を有する「ビジネスドライバー」などが浮かび上がった。さらに、「ほがらかな社交家」と「ビジネスドライバー」の特徴が強いつなぎ役ほど、出張者と地域住民との交流機会を創出している傾向が示唆された。
※「つなぎ役」の人物像の因子分析の詳細は報告書PDF36ページ参照
以上の結果を基に、企業などの組織と地方自治体関係者に対して、それぞれ提言を示す。
出張は「現地・現物確認」「他者との信頼関係構築」など、業務を円滑に遂行するための重要な機会であることが再認識された。しかし、価値観の多様化やコロナ禍を経て、オンライン会議でも事足りると考える傾向も確認され、特に若年層において顕著であった。今後は、出張業務の目的や内容を機能面から再評価し、オンラインで代替可能な業務については積極的にオンライン会議を活用する方針も強化されるだろう。
他方で、出張業務の成果とは目下の業務遂行だけにとどまらない。出張者は出張を通じて「新たな気づき」や「仕事への前向きな態度変容」、「偶発的なビジネス拡大」といった組織や個人にとっての副次的な意義を見出していた。とりわけ、「新たな気づき」は、移動中に行う学びの時間や、業務後に地域と関わる時間の中で生まれる可能性が示唆されている。このような副次的効果も視野に入れて、出張機会を奨励する姿勢を維持することも重要と考える。
就業者が出張を肯定的に捉え、自身の学びや成長機会とするためにも適度な余白時間を大切にしたい。業務外に人との交流や娯楽を通じて、新たな気づきや仕事への前向きな姿勢(ワーク・エンゲイジメント)を促す効用が期待できるのであれば、出張中やその前後に休暇取得を許容(奨励)することも一案である。
また、出張とは、捉え方次第で職場内では得難い多様な学びを促進する越境的な学習機会ともなり得る。このため、出張後のリフレクションは重要である。上司との1on1や組織内で体験共有機会を設けるなど、個人の成長と組織全体のナレッジ向上を図ることを提案したい。
各自治体において、地域や地域の人々と多様に関わる人々である「関係人口」を創出する政策が進んでいる。しかし、来訪実態を把握し難い企業などの出張者は、主たるターゲットとはなっていなかったかもしれない。オンライン会議が普及する今日、企業などの組織が出張経費を支出してまで地域を訪れる人物は、地域に新たな刺激を持ち込む可能性をも秘めている。
調査結果では、出張者は1回の訪問につき平均で34,284円を地域で消費しており、交通費を含めた支出額62,216円は、国内宿泊旅行者と同等であった*2。また、出張を通じて地域における消費やふるさと納税、イベント参加などに対する意識が高まったと述べる出張者が2割強確認された。さらに、出張者は業務終了後の飲食・娯楽を通して地域住民と交流することで、地域への愛着が高まることが示唆された。
ただし、地域への愛着は訪問3回目でピークとなり、この間に有効な地域とのつながりを結べなかった出張者の愛着は、その後薄れていく傾向が確認された。出張者の持続的な地域愛着形成には、人的交流のきっかけを作り媒介する「つなぎ役」の存在が重要であり、その人物には「ほがらかな人柄」、「ビジネスを促進し得る知見を有する」などの特徴が示唆された。
今後、地域政策として、出張者向けの地域情報発信や地元消費を促進するキャンペーンを展開することは有効だろう。さらに、出張者が業務終了後に街に出るきっかけを作るにはどうすればよいかを考えてみたい。例えば、出張者が気軽に立ち寄れるコワーキングスペースなどを活用し、ビジネスラウンジ的機能を付加することを提案したい。執務空間の提供のみならず、来訪者同士(出張者や地元企業)を自然に引き合わせたり、当日参加可能な地域イベントや人気の飲食店の紹介などを行ったりすることも有効と考える。ただし、その場を機能させるには、先述の特徴を有するつなぎ役の存在が鍵となりそうだ。上記は一案だが、出張者の関係人口化は、地域ごとに工夫の余地のある観点と考える。
*2観光庁(2024)「観光統計 旅行・観光消費動向調査 2024年1-3月期(速報)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001742886.pdf(2024年8月19日アクセス)
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「出張に関する定量調査」
調査報告書全文PDF
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