コロナ禍で「ワーク・エンゲイジメント」はどう変化したのか?ー企業規模に注目して

公開日 2023/09/14

執筆者:シンクタンク本部 研究員 児島 功和

定点調査コラムイメージ画像

本コラムは、民間企業正社員(以下、就業者)の「ワーク・エンゲイジメント」がこの数年間でどのように変化したのかに注目し、ワーク・エンゲイジメント向上の鍵を探ることを目的とする。ワーク・エンゲイジメントをひと言でいえば「働きがい」といえるだろう。ワーク・エンゲイジメントは、仕事への熱意、仕事への没頭、仕事から得る活力を示す概念として注目を集めており、ワーク・エンゲイジメントの高さは就業者だけでなく企業にとっても良い影響があるとされている[注1]

日本政府は、2019年の「働き方改革関連法」を皮切りに所定外労働時間の上限規制や年次有給休暇5日取得の義務化など「働き方改革」を推し進めることで、「働きやすさ」を改善しようとしている[注2]。もっとも、常用労働者の平均年間総実労働時間数は1960年代から減少傾向であり、年次有給休暇取得率も2019年以前から上昇傾向であったが[注3]、近年の政府の「働き方改革」が「働きやすさ」改善を後押ししたのは確かであろう。しかし、「働きがい」はどう変化したのだろうか。就業者が「働きがい」を感じられていないとすれば、その組織が成長することも難しいはずだ。

本コラムでは、パーソル総合研究所が2017年から毎年実施してきた「働く10,000人の就業・成長定点調査」の過去5年間(2019年・2020年・2021年・2022年・2023年)の結果を用いて、企業規模に着目しながら次のことを見ていく。

①ワーク・エンゲイジメントの高低の影響
②ワーク・エンゲイジメントの推移
③会社満足度の推移(ワーク・エンゲイジメントとの比較として)
④ワーク・エンゲイジメント向上の要因

  1. 【ワーク・エンゲイジメントの影響】ワーク・エンゲイジメントが高いと成長志向・実感やポジティブな感情を抱く
  2. 【ワーク・エンゲイジメントの推移】企業規模による差が生じている
  3. 【会社満足度】会社満足度は上昇傾向、ただし大企業と中小企業の差は拡大
  4. 【ワーク・エンゲイジメント向上の要因】「自己裁量」「スキル獲得」が企業規模にかかわらず重要
  5. まとめ

【ワーク・エンゲイジメントの影響】ワーク・エンゲイジメントが高いと成長志向・実感やポジティブな感情を抱く

ワーク・エンゲイジメントは生産性を高めることが知られているが、成長や仕事に抱く感情との関係とあわせて本調査データから確認しておきたい(図表1、図表2、図表3)[注4]。ワーク・エンゲイジメント高群のほうが低群よりもジョブ・パフォーマンスが高く、ポジティブな感情(「私は、はたらくことを通じて、幸せを感じている」)になっており、仕事を通じた成長を重要だと考えているだけではなく、成長実感もある。

図表1:ワーク・エンゲイジメントの影響(ジョブ・パフォーマンス[2023年])

図表1:ワーク・エンゲイジメントの影響(ジョブ・パフォーマンス[2023年])

図表2:ワーク・エンゲイジメントの影響(はたらくことを通じた幸せ実感[2023年])

図表2:ワーク・エンゲイジメントの影響(はたらくことを通じた幸せ実感[2023年])

図表3:ワーク・エンゲイジメントの影響(成長志向と成長実感[2023年])

図表3:ワーク・エンゲイジメントの影響(成長志向と成長実感[2023年])

【ワーク・エンゲイジメントの推移】企業規模による差が生じている

図表4は、企業規模別にワーク・エンゲイジメントの推移を見たものである。大企業、中小規模ともに2020年から2021年にかけて若干上昇しているが、2019年から2023年で見ると低下傾向にある。しかも、2019年の時点で大企業と中小企業は同じ値であったが、2023年にかけて中小企業の低下が大きく、大企業との差が生じている。

図表4:ワーク・エンゲイジメントの推移(企業規模別)

図表4:ワーク・エンゲイジメントの推移(企業規模別)

【会社満足度】会社満足度は上昇傾向、ただし大企業と中小企業の差は拡大

ワーク・エンゲイジメントは全般的にゆるやかな低下傾向であったが、会社満足度はどうなっているのであろうか。「働きがい」が低下しているのにあわせて会社満足度も低下しているのであろうか。それを見たのが図表5である。大企業、中小企業ともに会社満足度は上昇していた。政府の「働き方改革」の影響が職場環境に良い影響を与えているのか、「コロナ禍という厳しい状況の中、安定して働けるのはありがたい」といった意識があるのか、それ以外の要因があるのか分からないが、就業者の会社に対する満足度は上がっている。ただ、ここでも大企業と中小企業の差が大きくなっていることは注目すべきだろう。

図表5:会社満足度(企業規模別)

図表5:会社満足度(企業規模別)

【ワーク・エンゲイジメント向上の要因】「自己裁量」「スキル獲得」が企業規模にかかわらず重要

会社満足度は上昇傾向にあるのにワーク・エンゲイジメントは低下傾向にあった。企業にとって就業者のワーク・エンゲイジメント低下は看過できない問題である。どのような要因がワーク・エンゲイジメントに影響を与えているのかを、企業規模別に確認しておきたい。先行研究を参考に[注5]、以下を分析の指標として用いた。

●月あたりの残業時間
●職場の雰囲気(「上司でも部下でも、分け隔てなく仲が良い」「職場では、いつも活発な意見交換が行われておりにぎやかだ」)
●職務特性(「様々な能力や経験を必要とする仕事である」「仕事の範囲ややり方は、自分で決めることができる」)
●上司役割(「上司に仕事上の悩みや不満を聞いてもらっている」「上司からスキルや能力が身につくような仕事を任されている」「上司から、責任のある役割を任せてもらっている」)
●職場外の学習(大学・大学院・専門学校、資格取得のための学習、語学学習、NPOやボランティア等の社会活動への参加、勉強会等の主催・運営、研修・セミナー、勉強会等への参加、通信教育・eラーニング、読書、副業・兼業)

その結果を見たのが図表6(大企業)と図表7(中小企業)である。ワーク・エンゲイジメント向上に与える影響力の大きさ(各項目記載の数値の大きさがそれを示している)から第1位から第3位まで順番をつけた。

大企業では「自己裁量」「スキル獲得」「責任ある仕事」、中小企業では「スキル獲得」「自己裁量」「様々な能力・経験」の提供がワーク・エンゲイジメント向上に大きな影響をもつことが分かった。すなわち、大企業と中小企業で共通しているのは、仕事を進めるうえで一定程度の裁量を認めることに加えて、スキル獲得に繋がる仕事を任せることがワーク・エンゲイジメント向上にとって重要ということであった。大企業と中小企業で異なる点としては、大企業では責任のある役割を任せること、中小企業では様々な能力や経験が必要になる高度な仕事を与えることがワーク・エンゲイジメント向上と強く関連していた。

図表6:ワーク・エンゲイジメントの要因(大企業)(2023年)

図表6:ワーク・エンゲイジメントの要因(大企業)(2023年)

図表7:ワーク・エンゲイジメントの要因(中小企業)(2023年)

図表7:ワーク・エンゲイジメントの要因(中小企業)(2023年)

まとめ

本コラムでは、「働く10,000人の就業・成長定点調査」の過去5年間の結果から、民間企業正社員のワーク・エンゲイジメントの変化を企業規模という観点から明らかにしてきた。

本コラムのポイントは、次のとおりである。

・ワーク・エンゲイジメント高群は低群よりも生産性が高く、ポジティブな感情を抱えて仕事をしている。また、ワーク・エンゲイジメント高群は低群よりも仕事を通じた成長を重視しており、実際に成長を実感している。

・過去5年間のワーク・エンゲイジメントの推移を企業規模別に見ると、大企業も中小規模も低下傾向であった。2019年の時点で大企業と中小企業は同じ値であったが、2023年にかけて中小企業の低下が大きく、大企業との差が生じている。

・企業規模別に会社満足度を見ると、大企業、中小企業ともに会社満足度は上昇していた。ただ、ここでも大企業と中小企業の差が大きくなっていた。

・どのような要因がワーク・エンゲイジメント向上に影響を与えているのかを見たところ、大企業では「自己裁量」「スキル獲得」「責任ある仕事」、中小企業では「スキル獲得」「自己裁量」「様々な能力・経験」の就業者への提供が大きな影響をもつことが分かった。

先述したように、ワーク・エンゲイジメントは「働きがい」のことである。会社満足度が上昇したとしても、「働きがい」を感じない就業者が増えていくことは結果として組織の基盤を掘り崩すことになるだろう。近年のワーク・エンゲイジメントの低下は、会社満足度上昇の陰で、静かに、だが確実に組織を危うくさせているのかもしれない。そうした状況を変えるためにも、上述の施策は意味があるのではないだろうか。


注1:厚生労働省『労働経済の分析(平成30年版)-働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について』https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/18-1.html(2023年8月11日アクセス)、リクルートマネジメントソリューションズ『RMS Message』57(2020.02)https://www.recruit-ms.co.jp/research/journal/pdf/j202002/m57_all.pdf(2023年8月11日アクセス)。

注2:厚生労働省「『働き方改革』の実現に向けて」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html(2023年8月11日アクセス)。

注3:労働政策研究・研修機構「早わかり グラフでみる長期労働統計」https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/index.html(2023年8月11日アクセス)。

注4: ・「ワーク・エンゲイジメント」は、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度を参考に「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「仕事に熱心である」「仕事をしていると、つい夢中になってしまう」(「5.あてはまる」から「1.あてはまらない」)を合成(α係数は0.866)した変数の回答平均値である。参考:Shimazu, A., Schaufeli, W. B., Kosugi, S. et al. (2008). Work engagement in Japan: Validation of the Japanese version of Utrecht Work Engagement Scale. Applied Psychology: An International Review, 57, 510-523.
・「ジョブ・パフォーマンス」は、「任された役割を果たしている」「担当業務の責任を果たしている」「仕事でパフォーマンスを発揮している」「会社から求められる仕事の成果を出している」「仕事の評価に直接影響する活動には関与している」に対する五件法回答のうち「あてはまる」を5点~「あてはまらない」を1点とし、上記設問を「ジョブ・パフォーマンス」を示す変数として統合し(α係数は0.828)、その平均値を出した。参考:Williams, L. J., & Anderson, S. E. (1991). Job satisfaction and organizational commitment as predictors of organizational citizenship and in-role behaviors. Journal of Management, 17(3), 601–617.
・「成長志向」は、働くことを通じた成長に対する重要度を尋ねた質問に対する「とても重要だ」を7点~「まったく重要ではない」を1点とした値である。「成長実感」は、過去1年間の仕事を通じた成長実感を尋ねた質問に対する「とても実感した」を7点~「まったく実感しなかった」を1点とした値である。

注5:久米功一・鶴光太郎・佐野晋平・安井健悟「正社員のワーク・エンゲイジメント」(『ディスカッション・ペーパー』2021年9月、経済産業研究所)https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/21090006.html(2023年8月11日アクセス)。

執筆者紹介

児島 功和

シンクタンク本部
研究員

児島 功和

Yoshikazu Kojima

日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。


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