公開日:2024年5月30日(木)
調査名 | 転勤に関する定量調査 |
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調査目的 | 企業が転勤の見直しを検討する際の示唆を得るべく、ホワイトカラー正社員や就活生の転勤に対する意識や ニーズを定量的に把握するための調査を行った。 |
調査対象 | ■社会人:20~50代のホワイトカラー正社員 計1800名 ・正社員規模301人以上の日本企業勤務者 ・職種:間接部門、事務職、営業・販売職、情報処理・通信技術職、商品開発・研究職 ・除外業種:農業・林業、漁業、鉱業・採石業・砂利採取業、学術研究、国家公務・地方公務、専門・技術サービス業(法律、税理士、測量など) ■就活生:2025年4月に民間企業への就職を希望する大学生・大学院生 計175名 内訳は以下の通り ※社会人は労働力調査(2023年)の正規雇用者の性別・年代構成、学生は令和5年度学校基本調査の学歴・性別構成に基づいてスクリーニング調査を回収し、スクリーニング調査結果における対象者の出現率に基づいて割付 |
調査時期 | 2024年 2月29日-3月13日 |
調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※図版の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。
調査報告書(全文)
転勤制度は採用にどの程度影響するのか。「転勤がある会社への応募・入社を回避する割合」を見ると、就活生50.8%、社会人(ホワイトカラー正社員)49.7%で、ともに約半数を占める。
国内転勤が応募意向に与える影響を見た。「1~2回の転勤がある」は、「転勤なし」と比べて応募意向への影響(効用値)が1.0~1.1下がる。「現在の給与」(就活生においては希望する業界の平均初任給)と、「現在より20%高い給与(給与が30万円の場合は6万円のアップ)」では、応募意向への影響(効用値)に約0.4~0.8の差しかない。つまり、給与の増額よりも転勤があるほうが応募意向に大きな影響力をもつことが分かった。
※コンジョイント分析(CBC)にて応募意向を聴取した結果を抜粋。
効用値は、各カテゴリごとに「0」を基準として、「好まれるもの」がプラス、「好まれないもの」がマイナスに表示され、数値の大きさはその強さを示す。
質問文:次のうち、あなたが最も応募したい会社を1つお選びください。給与は、学生の方は希望する業界の平均初任給、社会人の方はご自身の今の給与を基準としてお答えください。(給与の金額例は基準を30万円とした場合の金額)
次に、転勤制度は定着にどの程度影響するかを見た。転勤がある企業に勤める総合職であっても、転勤の内示が出た際に「どのような条件であっても転勤は受け入れない」人が2割弱を占める。「不本意な転勤を受け入れるくらいなら会社を辞める」 と考えている人は4割弱に上る。
「不本意な転勤を受け入れるくらいなら会社を辞める」意向を属性別に見ると、20代男性や20~40代の女性、人事評価が高いハイパフォーマー層(0-10換算で8-10程度の人事評価)で高い。一方で、人事評価が平均程度の層(0-10換算で5程度の人事評価)では不本意な転勤による離職意向は低い。
※括弧内はサンプル数。n<30は参考値。合計値と比べて+5pt以上を赤枠、-5pt以上を青枠
※人事評価は、直近に受けた人事評価について、5を平均とした0-10の数値で回答したもの
転勤を理由に離職した人が離職を決めたタイミングは、「内示・辞令が出てから転勤する前までのタイミング」が男女共に最も多いが、半数以下にとどまる。一方、転勤の内示・辞令前に「私生活に変化があったタイミング」で将来の転勤を懸念して離職を決めた人も約4分の1を占める。
はじめに、会社と従業員の関係性に対する価値観と「不本意な転勤による離職意向」の関係を見た。家庭事情に配慮せずに転勤させるような会社は従業員を大切にしているとはいえないといった「家庭事情への配慮期待」や、会社は個人のキャリア意思を尊重すべきだといった「主体的キャリア形成意識」、会社からの指示であっても皆が断っていることは自分も断るべきだといった「同調圧力」の3つが、不本意な転勤を受け入れるくらいなら会社を辞める意向と関係している。
「同調圧力」は、「不本意な転勤による離職意向」に対してプラスとマイナス両方の作用が見られる。皆が従っているのであれば不本意な転勤でも受け入れるが、皆に個別配慮などが行われている状況では不本意な転勤を受け入れるくらいなら会社を辞める意向が高い。
次に、自発的貢献意欲やワーク・エンゲイジメント、継続就業意向といった組織や仕事に対する前向きな態度(エンゲージメント)を低下させる「会社への不信感」と、転勤が行われている企業で実施されている支援や配慮との関係を見た。
キャリア目標の共有や従業員主体の異動、やりたい仕事や目指したいキャリアといった本人の意思への配慮、ポジションの透明性の担保などといった「本人主体のキャリア形成支援」の実施や、本人・親の健康状態への配慮といった「健康への配慮」など、従業員全員を対象とした支援が行われていると会社への不信感が低い。一方で、子どもの教育環境や配偶者の仕事といった「家庭環境での特別扱い」が行われていると会社への不信感が高い。
転勤を受け入れる条件は、毎月の手当や一時金などの「金銭的手当」、やりたい仕事ができることや昇進・昇格を伴う転勤であること、希望勤務地であるといった「本人の希望の実現」、自分が選ばれた理由の「説明」が上位に入る。
昇進・昇格を伴う転勤であることは受諾につながりやすいが、将来の昇進・昇格において転勤経験が考慮されることや転勤によって成長できることは受諾につながりにくい。
転勤を理由に離職した人に対して、辞めた会社にどのような制度があったら辞めずに働き続けたと思うかを聞いた。「手厚い転勤手当の支給」「一時的なコース変更」「本人の希望の反映」は、離職の歯止め効果が比較的高い。
今回の調査では、転勤の有無が入社や離職の意思決定に大きな影響を与えることが明らかになった。転勤制度があることによる採用母集団の取りこぼし、従業員の離職リスクは大きい。特に、若年層や女性、ハイパフォーマー層で離職リスクが大きい。また、実際に転勤の内示を出さなくても私生活に変化があったタイミングなどで将来の転勤を懸念して離職を決定していることにも留意が必要だ。
今となっては、企業主導の転勤は時代遅れであるともいえる。採用や定着へのインパクトを鑑みると転勤の廃止も一考に値するが、転勤制度を継続させるのであれば、確かな見返りを与えて「転勤のコスパの悪さ」を低減させることが必要である。不透明な将来の昇進可能性ではなく、目先の確かな見返り(金銭的ベネフィットや本人がやりたい仕事内容への変更、昇進昇格の随伴、選ばれた理由の説明)が求められている。中でも、十分な手当てのニーズが最も高いが、転勤の見返りとして納得が得られる金額は高額である。手当ての充実は重要であるが、それ以外でも、本人がやりたい仕事が実現できるように仕事内容の変更を行うことや昇進・昇格とセットにすること、本人のキャリアにとってプラスになることを説明して納得を得ることといった本人の意思に寄り添う運用を心掛けたい。
その他、遠隔地勤務や一時的な転勤なしコースへの変更といった施策も考えられる。ただし、どちらもニーズが女性や若年男性に偏ることから、万人受けする施策ではない。遠隔地勤務は、テレワークに対する個人の選好も異なる。孤独感への不安も多く挙がることから、遠隔地勤務を行うには、テレワーク環境の整備に加えて、オンラインでの定期的なミーティングやチームビルディングなどで人間関係の構築を支援することもポイントになりそうだ。また、一時的な転勤なしコースへの変更は離職防止効果が見込まれるが、その際、転勤なしコースを選ぶ際に減給するのではなく、転勤を受諾する場合に待遇を良くすることでモチベーションを維持させることが望ましい。
キャリア自律の観点からいえば、転勤制度はキャリア自律と矛盾するものではない。特定層の家族状況について特別扱いするのではなく、各々のライフプランや希望勤務地、やりたい仕事といったキャリア意思の反映を行うことが大切だ。転勤とキャリア自律をどのように両立させていくか、企業の手腕が問われている。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「転勤に関する定量調査」
調査報告書全文PDF
転勤に関する定量調査
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