公開日:2023年10月30日(月)
調査名 | パーソル総合研究所「職務給に関するヒアリング調査」 |
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調査内容 |
仕事基準の給与の考え方と運用実態、今後の課題を明らかにする |
調査対象 |
・職務給/役割給を導入している各業界の大手企業 |
調査期間 |
2023年5月23日-6月23日 |
調査方法 |
人事責任者/人事企画責任者へのヒアリング調査 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
調査報告書(全文)
本調査は、以下に焦点を当て調査を実施。
・職務給の支給基準となる「職務」をどのような枠組みで決めているのか
・職務給の形態や運用はどうなっているのか
・職務給導入企業の実態
調査対象は次の通りである。
1.いわゆる「総合職採用の正社員」
有期雇用社員はすでにジョブ型雇用が一般的である。無期雇用社員でもコース別人事制度を導入している場合、総合職以外の一般職・技能職などは職務内容がある範囲に限定されており、給与体系・水準は総合職と切り分けられている。
本調査では、総合職社員にどのように職務給を適用するのか。その実態と課題、論点を考察し、職務給に関心がある企業の参考に供したい。
2.基本給の主要項目としての「職務給」
本調査でいう「職務給」とは、「仕事基準の等級制度に基づいて定めている給与、かつ、基本給のうち主要な項目になっているもの」を指し、「役割給」も含めて考える。給与項目の名称は問わない。 役職手当、営業手当などの「手当」は仕事基準ではあるが補助的な位置づけであり、給与の根幹を仕事基準で決めようという取り組みとは考え方が異なるため対象にしない。
また、基本的な処遇を決めるという意味では、人材マネジメントの骨格をなす何らかの等級制度に紐づいた給与であることを前提として考える。
職務給・役割給導入各社の取り組みスタンスは一様ではなく、次の3タイプに分類できる。
必ずしもタイプⅢからタイプⅠに向けて職務給体系が進化していくというわけではなく、それぞれのタイプ想定する「あるべき姿」が異なっており、併存・並列的であると考えられる。
[タイプⅠ:グローバル志向型]グローバル環境への適合を強く意識する企業
全社的に本格的職務給の導入を企図。個別ポジションの職務記述書(JD)単位で職務評価を行う伝統的アプローチを採用。異動は社内公募中心。[タイプⅡ:組織長厚遇型]管理職層を主対象として職能資格的処遇観からの脱却を目指す企業
矛盾が拡大している管理職層の処遇の修正と需給がタイトな特定職種の採用・リテンション対策が主眼。必ずしもJDは作成せず、グレーディング(格付け)は役職位序列を重視。[タイプⅢ:フレキシブル型]役割等級やハイブリッド型を採用し、柔軟に職務給的要素を取り入れようとする企業
必ずしも欧米的な職務給体系にこだわっているわけではない。職能的な人材マネジメントの利点を温存しつつ、処遇における職務要素を高めようとしている。
総合職系の社員を「マネジメント職(管理職層の組織長)」、「プロフェッショナル職(管理職層の非組織長、専門職)」、「一般社員層(非管理職層の総合職)」の3つに区分して全体を俯瞰すると、職務給導入は長らく続いた職能資格的処遇観の矛盾を修正すべく、管理職層各社員の職責を明確化し、マネジメント職の処遇を差別化することに優先順位がある。(タイプⅠ~Ⅲに共通)
図1.職能給と職務給の処遇差別化対象の違い
マネジメント職の各ポジションの職務記述書(JD)を作成する企業もあれば、そうでない企業もある。実際には必ずしもJDが必須とは位置づけられていない。むしろ、タイプⅡ(組織長厚遇型)やタイプⅢ(フレキシブル型)の企業ではJDを作らず、役職位をベースにしたグレーディングが主流になっている。
図2.職務記述書の有無と役職位序列
管理職層の非マネジメント職をどう位置づけるかは企業によって考え方が分かれている。大別すると、マネジメント職と同等のプロフェッショナル職(非組織長、専門職)を設置する企業と、「管理職層=マネジメント職」とする企業に分かれる。後者は、マネジメント職の処遇優位が明確であり、制度体系としても役職職階制に近い。
図3.プロフェッショナル職の有無
制度上、マネジメント職と同等のプロフェッショナル職を設置する企業も運用は厳格。特に部長同等のプロフェッショナル職はハードルが高く、全社でもほんの一握りの人数にとどまる。
職責軸だけではプロフェッショナル職をマネジメント職同等にグレーディングすることは難しく、希少性軸が加味されている。特にIT人材など、自社の通常の給与水準では採用・リテンションが難しい場合に、プロフェッショナル職としてグレーディングするパターンが目立つ。プロフェッショナル職は採用・リテンション対策の意味合いが大きい。
図4.プロフェショナル職の相場観
図5.職責×希少性マトリックス
マネジメント職の最下位グレードを組織長のみに限定せず、組織長ポストを持たない「部下なし管理職」のグレードとする企業が散見される。一般に、管理職層の最下位グレードは定義と運用が不透明になりやすいが、定義にかなわない場合は一般社員層(労働組合員)に戻す運用も始まっている。「部下なし管理職」は次の3通りに分類できる。
1.実質的マネジメント職
公式組織傘下のチームなどのリーダー。組織フラット化、大括り化の影響で、位置づけとしてはチームは公式組織ではない。
2.ポスト待機
管理職層に昇格し、ポスト待ちの人。たいてい組織長の補佐と位置づけられている。役割が不明確な場合は、一般社員層の最上位グレードと判別がつかず、職能的処遇になる。
3.実質的プロフェッショナル職
管理職層にプロフェッショナル職の設定がない場合、プロフェッショナル系の人材が混在する。管理職層から一般社員層に戻さない運用の場合は、制度が歪むリスクが大きい。
一般社員層は、職務給といっても各職種に共通の職責や難易度などを軸にしたグレード体系で、典型的には「初任、定型業務、企画・指導業務」などの難易度軸に応じて各レベル定義を行う。需給がタイトな特定職種のジョブ型採用や、特定の職務についてプロフェッショナル職用のジョブ型雇用制度への転換制度を設ける企業がある。いずれも総合職全体を職種で切り分けるのではなく、特定職種だけを切り出すかたちを採っている。
一般社員層の人事制度体系は職務等級、役割等級、職能等級、ハイブリッド型とバリエーションに富んでいるが、いずれも、制度内容や運用には職能的な側面を残している。
図6.一般社員層の職務給と特定職種の切り出し
異動配置は社内公募を中心にする企業(タイプⅠ グローバル志向型)もあるが、社命異動の行いやすさを重視する考え方も根強い(タイプⅡ 組織長厚遇型、タイプⅢ フレキシブル型)。「マネジメント職の処遇差別化をどの程度徹底させたいか」とともに、「マネジメント職の社命異動の行いやすさをどの程度重視するか」が各社のグレード体系や職務給の構造に大きな影響を与えている。両者は相反するところがあり、そのバランスをどう考えるかによって基本的なスタイルが決まる。
図7.人事異動ポリシー
職務給はシングルレートの企業もあるが、レンジレート(開差型・接続型・重複型)で個人の業績評価や習熟を反映させる考え方も根強い。管理職層の給与体系は職務給導入タイプⅠ~Ⅲごとにそれぞれの考え方が顕著に表れる。給与水準は需給逼迫の特定職種以外は社内バランス重視の傾向だ。
図8.給与レンジのパターン
図9.管理職層の給与体系例
仕事基準の給与を導入したい、給与における仕事要素を高めたいという流れの中で、そのアプローチはこれまで見てきた「職務給導入タイプⅠ~Ⅲ」の3つに大別されるが、いずれのタイプにも共通する4つの課題が見えてきた。
マネジメント職に比べて、プロフェッショナル職の位置づけが曖昧で、やや消極的であることは否めない。プロフェッショナル職の充実は人材層の厚さに直結するにもかかわらず、マネジメント職相当処遇のプロフェッショナル職の設定・運用には課題が大きい。まずは職種やポジションなどをしっかりと定義していくことが望まれる。
そもそも総合職という考え方と職務給の考え方とは矛盾が大きい。また、大半の職種においては企業横断的な給与相場はないに等しく、現状では総合職全体を職務に切り分けて値札を付けることには無理がある。現実的には、ジョブ型採用のように、総合職の中から職務給の適用が相応しい職務と人材を順次切り出していく必要がある。
仕事要素が高まるにつれ、運用は本社による統制型ではなく現場主導型になっていく。現場のマネージャーの負荷が大きくなっていくが、それをサポートするHRBPの体制が整っていない。従業員支援の面でもHRBPの役割は大きい。制度が機能するか否かは運用体制次第でもあり、HRBPの体制整備・充実が不可欠だ。
人事異動は手挙げ重視のトレンドだが、社命による戦略配置の必要性がなくなるわけではない。手挙げの異動と社命異動のバランスが問われる。また、ポジションニーズを中心とした人事異動に対して、適材適所の異動(育成などを企図した、ポジション想定前の異動候補者リストによる異動)や人事ローテーションの意義をあらためて考える必要がある。
冒頭に掲げた、「総合職社員にどのように職務給を適用するのがよいのか」という問いに対し、本調査結果を通して、以下5つの職務給導入・運用のポイントが見えてきた。職務給に関心がある企業において、今後の職務給導入・運用における参考になれば幸いである。
職務給へのアプローチには併存・並列的な3つのタイプがある。自社の目的や状況に適合する基本的なタイプを選択し、さらに、自社向けにカスタマイズする。
図10.職務給導入3タイプの典型パターン
マネジメント職のグレーディングは、「部長ポジションより上位の課長ポジションがある」と考えるかどうかが大きなポイントになる。処遇区分としての妥当性とともに、異動配置をどう考えるかによって4つ(下図中の①~④)に大別される。企業ヒアリングでは、③「同一役職位でも担当ポジションの職責や組織規模などによって2~3グレードに分ける」考え方が主流との印象だが、役職位による使い分けも見られ、自社ニーズ・状況に応じたカスタマイズの必要性が大きい。
図11.マネジメント職のグレーディング方法
そもそも管理職層にプロフェッショナル職を設置する企業(下図A)と設置しない企業(下図B)がある。さらに、プロフェッショナル職を設置しない企業を精査すると4パターン(下図B①~④)に分かれる。高グレードのプロフェッショナル職を想定するかどうかと、管理職層と一般社員層の間の壁をどう考えるかがポイントになる。
図12.プロフェッショナル職の位置づけとグレーディング方法
一般社員層の人事制度体系は職務等級、役割等級、ハイブリッド型、職能等級とバリエーションに富んでいるが、何らか職務給的なものを導入する企業と、職能等級の企業に大別される。職務等級的要素の導入企業も制度内容、運用には職能的な側面を残しており、実質的には似通っている。新卒新入社員採用を前提としたうえで、職務給的要素を導入するには「特定職種だけを切り離す」ことが現実的対応と思われる。
図13.一般職層への職務給導入
職務給導入タイプⅠ~Ⅲの給与体系や昇給運用の考え方はそれぞれ異なる。給与体系・昇給運用から、さらに各タイプの特徴が明確になる。
図14.職務給導入3タイプの典型パターン
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「職務給に関するヒアリング調査」
調査報告書全文PDF
職務給に関するヒアリング調査
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