若手社員の成長志向が低下 成長とは何かが問われる時代へ

公開日 2025/06/30

執筆者:シンクタンク本部 研究員 金本 麻里

成長定点コラムイメージ画像

近年、売り手市場化や働き方改革など、社会環境の変化により若手社員の就業意識が大きく変化している。パーソル総合研究所では2017年より毎年「働く10,000人の就業・成長定点調査」を実施しており、近年のデータからは、若手社員の管理職志向の低下※1や早期リタイア志向の高まり※2など、顕著なトレンドが浮かび上がっている。

※1 NHK(2024).管理職になりたい若者はなぜ減っている? 課長公募や管理職分業の取り組みも.NHK就活応援ニュースゼミ. Retrieved 2025年6月19日, from https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/syukatsu/syukatsu1212/
※2 パーソル総合研究所(2024).早期リタイアを希望する20~30代の若手男性が増えているのはなぜか

本調査では、就業意識の多様な側面を把握しているが、中でも「成長」に着目している点が特徴だ。2023年以降の調査では、若手社員※3を中心に成長意識が大きく変化していることが明らかになった。本コラムでは、その変化の具体像と、企業や社会にとっての示唆について考察する。

※3 本コラムでは、若手社員を20~30代の正社員と定義する。

Index

  1. 仕事での成長を重視しない若手社員が増加
  2. 業務外の学習・自己啓発活動の減少
  3. 成長に対するイメージも変化
  4. 成長意欲低下への懸念のみならず、「成長とは何か」が問われる時代へ
  5. まとめ

仕事での成長を重視しない若手社員が増加

まず、若手社員が「働くことを通じた成長」をどの程度重視しているかという基本的な調査項目に注目したい。 図表1を見ると、20~30代の正社員において、2023年頃から「働くことを通じた成長」を「とても重要」「重要」「やや重要」と回答する割合が明確に減少している。

図表1:若手正社員の成長志向の変化

図表1:若手正社員の成長志向の変化

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」より筆者作成

この傾向は統計的にも有意であり、40代以上の世代では見られない変化である。性別や企業規模、職種などの属性による違いもほとんどなく、若手社員に共通する傾向といえる。

つまり、2023年からの3年間で、20~30代の正社員において、仕事での成長を重視する人が1割程度減少したことになる。

業務外の学習・自己啓発活動の減少

若手社員の業務外における学習や自己啓発活動にも顕著な変化が見られる。図表2によれば、2022年から2025年にかけて、「とくに何も行っていない」と回答する若手社員が約10ポイント増加している。

図表2:若手正社員の勤務先以外での学習・自己啓発活動の変化(とくに何も行っていない割合)

図表2:若手正社員の勤務先以外での学習・自己啓発活動の変化(とくに何も行っていない割合)

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」より筆者作成


特に「読書」などの従来型の学習行動が減少しており、その分が「とくに何も行っていない」に置き換わっている。動画などの新しい学習メディアに移行しているわけでもなく、学習活動全体が減退していることがうかがえる。 このような傾向は、仕事上の成長を重視しない意識の変化と連動していると考えられる。

成長に対するイメージも変化

本調査では、「働くことを通じた成長」のイメージについても質問している。成長のイメージは、職種や立場によって異なることが知られている。例えば、アルバイトの主婦層やバックオフィス職では「コミュニケーション力の向上」が重視されやすいが、企画職では「キャリアの明確化」が重視される傾向にある※4

※4 パーソル総合研究所(2017).「成長「無関心」タイプが32.4%。2極化する成長意識 日本人の5つの成長タイプ」

図表3によると、2023年以降、「報酬の上昇」「効率性の向上」「専門性の向上」「コミュニケーション力の向上」「成績・評価を得ること」「視野の拡大」といった従来型の成長イメージを持つ若手社員が減少している。一方で、「ワーク・ライフ・バランスの充実」や「キャリアの明確化」は統計的に有意な差がなく、横ばいに推移している。

図表3:若手正社員の成長イメージの変化

図表3:若手正社員の成長イメージの変化

※成長イメージの各項目の補足説明は以下。
・コミュニケーション力の向上:仕事仲間や取引先との協働スキルの向上、部下指導力の向上
・視野の拡大:自身の感情をコントロールし、より広い視野で仕事ができるようになること
・ワーク・ライフ・バランスの充実:職場で仲の良い友人ができることや、職場から早く帰れるようになること
・キャリアの明確化:自分の進みたいキャリアが明確になることや、独立の準備が整うこと

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」より筆者作成


このことから、「組織内評価やスキルアップを通じて成長する」というイメージが若手社員にとって現実味を失いつつあることが読み取れる。いわば「成長の脱・組織化」「脱・スキル化」ともいえる変化だ。

成長意欲低下への懸念のみならず、「成長とは何か」が問われる時代へ

ここまで見てきたような若手正社員の変化から、大きく2つの示唆が導き出される。

示唆1.職場環境の《ホワイト化》や売り手市場化の進展により、若手社員の成長意欲が低下している可能性

2019年の働き方改革関連法や、2020年のパワハラ防止法の施行などを経て、企業の多くは働きやすい職場づくりを進めてきた。その結果、若手社員にとっての職場環境はかつてより「優しいもの」になっている。その一方で、成長のための挑戦機会や、一定の厳しさを伴う指導が避けられるようになり、若手が仕事を通じて自分の限界を知ったり、達成感を得たりする経験が乏しくなっている現実もある。

実際、2022年の別の調査では、上司の約8割が「ミスをしてもあまり厳しく叱責しない」「部下を飲み会やランチに誘わないようにしている」と回答しており、若手社員との関わりを避ける《回避的コミュニケーション》が職場に蔓延している状況がうかがえる※5

※5 パーソル総合研究所(2022).職場のハラスメントについての定量調査

こうした環境下では、成長に必要な「負荷のある経験」や「他者との深い関わり」を得づらく、結果として成長の価値自体が見えづらくなってしまう。成長志向の低下や自己啓発離れは、長期的に見て若手社員の成長スピードの鈍化を招く恐れがある。それは将来的なキャリア形成や、企業内外での価値発揮にとって不利に働き、本人にとっても企業にとっても大きな機会損失となり得る。

もちろん、若手の成長意欲や環境の実態は企業によって異なるが、仮に今回の調査データのような傾向が自社にも見られるのであれば、今一度、職場が過度に《快適さ》を重視しすぎていないか、若手の成長意欲を削ぐ環境になっていないかを点検することが求められる。職場の《ホワイト化》が一定の成果を収めた今だからこそ、次のステージとして「成長を促す職場づくり」に踏み出すべきタイミングにあるのではないだろうか。

示唆2.生成AIなどのテクノロジーの急速な進展によって、そもそも「成長とは何か」という定義自体が揺らいでいる可能性

2023年以降、若手社員の間で成長イメージの「脱・組織化」や「脱・スキル化」が進んでいるというデータが示されたが、この時期はちょうど、ChatGPTなどの生成AIが急速に社会へ浸透し始めた時期と重なる。多くの仕事がAIに代替される可能性が現実味を帯びて語られるようになり、「今の業務スキルを磨くことが、将来的なキャリア形成につながるのだろうか」「組織内での評価や給与の上昇に意味があるのか」といった漠然とした疑問や不安が、特に若い世代を中心に広がっていると考えられる。

こうした不確実性の高い状況では、「どの方向に向かって成長すればよいのか」が見えにくくなり、それが結果として「成長そのものの価値」への関心の低下につながっている可能性がある。とはいえ、テクノロジーが進化する時代においても、AIに代替されにくいスキル——例えば共感力や創造力、意思決定力、そして多様なデジタルツールを使いこなすITリテラシーなどは、これからの仕事においてますます重要性を増すと指摘されている。つまり、成長の「中身」は変化しても、成長の「必要性」そのものがなくなるわけではない。

企業は今後、単に若手社員の成長意欲を高めるための施策を講じるだけでなく、AI時代において本当に必要とされるスキルや知識を明確に提示し、それに向かって成長していく道筋を示す役割が求められるだろう。「成長とは何か」が改めて問われている今、企業と個人の双方において、成長の再定義が必要なフェーズにあるといえる。

まとめ

本コラムのポイントは以下の通りである。

・ 成長を重視する20~30代の正社員は、2023年以降に1割程度減少。
・ 同時に、業務外での自己啓発を行わない層も約1割増加。
・ 成長のイメージは、「脱・組織化」「脱・スキル化」の傾向が強まっている。
・ 背景には、職場環境のホワイト化と生成AIの影響があると考えられる。
・ 企業は今後、単に若手社員の成長意欲を高める施策を講じるだけでなく、AI時代において必要なスキルや知識を明確にする対応が求められる。

本コラムが、若手社員育成に携わる方々の一助となれば幸いである。

執筆者紹介

金本 麻里

シンクタンク本部
研究員

金本 麻里

Mari Kanemoto

総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。


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