公開日:2022年11月18日(金)
調査名 | 職場のハラスメントについての定量調査 |
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調査内容 | ・ハラスメントの実態とその影響を確認し、ハラスメントの発生要因を明らかにする。 ・ハラスメントが暗数化(=潜在化)する要因と、その防止策について明らかにする。 ・ハラスメントと上司マネジメントの関係を明らかにする。 |
調査対象 | 全国の就業者 20~69歳男女 28135s うち、① 5年以内ハラスメント被害経験者 n=3000s ② 5年以内ハラスメント目撃経験者 n=1000s ③ ハラスメント非経験・非目撃者 n=1000s ・いずれも性別×年代別に均等割付。また、①の業種(20分類)×雇用形態(正規・非正規)に合わせて、②③は割付。 ・いずれもライスケール1問正答者 ※男性20代のみ16名の誤答者を含む |
調査時期 | 2022年 8月30日-9月5日 |
調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。凡例の括弧内数値はサンプル数を表す。
調査報告書(全文)
全就業者の34.6%が過去に職場でハラスメントを受けた経験が「ある」と回答。過去5年以内にハラスメントの被害を経験した人に対し、ハラスメント被害の実態について聞いたところ、「自分の仕事について批判されたり、言葉で攻撃される」(65.1%)が最も多く、「乱暴な言葉遣いで命令・𠮟責される」(60.8%)、「小さな失敗やミスに対して、必要以上に厳しく罰せられる」(58.8%)が続く。
図1.ハラスメント被害の経験
図2.ハラスメント被害の実態
ハラスメント被害を引き起こす組織的要因を分析したところ、「属人思考」、「権威主義・責任回避」、「成果主義・競争」の組織風土や、職場での「対人関係の険悪さ」、「仕事の量的負担」、「仕事のコントロールの困難さ」が強く影響していた。
図3.ハラスメント被害を引き起こす要因
企業の経営状況別に見ると、経営状況が悪い企業も、良い企業もともにハラスメント率が上がる「U字」の傾向が共通して見られた。経営状況が悪い企業・良い企業ごとの要因の違いを見ると、悪い企業では、仕事の量的負担や身体的負担、良い企業では権威主義的な組織風土や年功・安定雇用がハラスメントにつながっていた。
図4.経営状況別に見たハラスメント率
図5.経営状況別に見たハラスメントを引き起こす要因の違い
ハラスメントの被害を受けることで、「主観的生産性(業務遂行能力や生産性)」の低下【=プレゼンティーズム】や、「幸福度」、「継続就業意向」の低下が見られた。
図6.ハラスメント被害がもたらす影響
2021年のハラスメントを理由とした離職者数を簡易推計*した結果、86万5,480人であった。ハラスメントによる退職者の内、会社に退職理由を伝えなかった人数(年間)を簡易推計すると、57.3万人であった。
*簡易推計方法については、報告書p.61参照。
図7.全国のハラスメント離職者数と会社への伝達実態(簡易推計)
ハラスメントに対する被害者の対応について、「特に何もしなかった」は約4分の1(24.4%)を占める。対応内容を見ると、「社内の上司に相談した」(27.2%)が最も多く、「社内の同僚に相談した」(26.2%)が続く。
*実際にはハラスメントが発生しているが、会社からはハラスメントの発生件数として把握されなくなること
図8.ハラスメントに対する被害者の対応
全就業者の39.5%が職場で過去にハラスメントを見聞き(目撃)した経験があるが、目撃後の対応としては「特に何もしなかった」=傍観行動をとる者が最多で41.4%。次いで「被害者の相談にのった/声をかけた」が40.7%。
図9.ハラスメントを見聞きした経験
図10.ハラスメント目撃後の対応
被害者が認識したハラスメントに対して、会社側の対応まで至った割合は17.6%であり、82.4%のハラスメントは未対応となっている。「会社は認知していたが、対応なし」も37.2%。
会社側の対応に至った場合の具体的な対応内容を見ると、「被害者の要望を聞いたり、相談にのってくれた」(40.8%)や、「被害者に事実確認のためのヒアリングを行った」(40.2%)、「加害者に事実確認を行った」(38.1%)などの割合が高い。
図11.ハラスメントに対する会社の対応有無
図12.ハラスメントに対する会社の対応(上位10項目、複数回答)
ハラスメント被害が発生する組織では、「会議で誰が提案者かによって通り方が異なる」、「トラブルの原因が何かよりも誰の責任かを優先する」、「仕事ぶりよりも好き嫌いで 人を評価する傾向がある」といった「属人思考」の組織風土が強い。全体では、こうした風土に当てはまる組織が7割を超えている。
図13.ハラスメント被害者が属する組織の特徴
「属人思考」の高い組織のほうが、ハラスメント被害が発生しやすいにも関わらず、ハラスメントに対する会社対応率が低く、被害者が「相談しても無駄だろう」と予期する「相談無力感」も高まっている。
図14.属人思考の程度別に見た会社対応率(左図)と、属人思考の組織への影響(右図)
「ハラスメントにあたるか」の判断基準が厳しいことを表す「ハラスメント厳格度の高さ」は、ハラスメント被害者および目撃者の対処行動を促進し、ハラスメントの顕在化を促す傾向が見られた。
図15.ハラスメント厳格度がもたらす効果
社内に相談できるメンバーの多さを、社内の社会関係資本(=社内関係資本)とし、相談行動との関連を見た。社内関係資本が厚くなるほど、ハラスメント被害者・目撃者の会社への相談行動の実施率が高まる。結果的に、社内関係資本高群は会社から対応があった割合も高い傾向がある。社内関係資本が厚いと、ハラスメント被害者・目撃者の会社への相談行動を促進し、ハラスメント被害の潜在化を防いでいた。
図16.社内関係資本がもたらす効果
ハラスメントの度合いが高い上司がとるマネジメント行動として、最も傾向が強いのは、「仕事の進め方を細かく指示する」、「組織のルールに従うことを厳しく要求する」などの「マイクロマネジメント」。「部下をプライベートなイベントには誘わないようにする」、「部下が不注意なミスをしてもあまり厳しく叱咤しない」などの「回避型マネジメント」は、ハラスメントから遠ざかっている。
図17.ハラスメントと親和性の高い上司行動
上司の多くは「飲み会やランチに誘わないようにしている」(75.3%)や「ミスをしてもあまり厳しく叱咤しない」(81.7%)など、ハラスメントを回避するような行動を多くとっている。
図18.上司の回避的なマネジメントの実態
一方、こうした上司の行動は、部下に上司との心理的な距離感を感じさせ、上司との距離感を感じている部下ほど、成長実感を得られていない。
図19.部下が感じる上司との距離感と部下の成長実感
ハラスメントを回避しながら部下を成長させている上司の特徴は、部下の意見や話についての「傾聴行動」をどれくらいとっているかという点である。
図20.ハラスメント防止と部下成長両立の上司特徴
ハラスメントへの社会的意識が高まっている昨今だが、全就業者の34.6%が職場で過去にハラスメントを受けた経験があり、日本で年間おおよそ87万人もの退職者がでているという実態が明らかになった。被害者が認識したハラスメントに対して、会社側の対応まで至った割合はわずか17.6%であり、8割のハラスメントが未対応のまま放置されていることは、労働力不足の環境の中で、大きな社会課題だ。
ハラスメントの多くが暗数化=潜在化してしまう大きな要因として、「原因が何かよりも誰の責任かが優先される」、「好き嫌いで人を評価する」といった組織の「属人思考」の風土が広く見られた。ハラスメントの多い企業や業界では、成果偏重主義の是正や脱・年功的な人材マネジメントを通じ、この属人思考を低減させ、潜在化を予防することがまず必要だ。
一方で、ハラスメントを見る目が厳しくなるとともに、現場ではハラスメントを回避する上司マネジメントが常態化している。そうした行動が上司と部下間の心理的距離感を生み、部下の成長を妨げてしまっている。
ハラスメント防止と部下の成長を両立させている一部のマネジャーは、回避的なマネジメントではなく、メンバーの話を丁寧に聞き切るような「傾聴行動」を多く行っている。
ハラスメント予防と対処は必要だが、防衛的な施策だけでは不十分だ。職場での対話的コミュニケーションを促進するようなマネジメントの訓練や、その余地を生み出せるような就業環境整備などによる「育成志向のハラスメント対策」が今まさに検討されるべきである。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「職場のハラスメントについての定量調査」
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