公開日 2017/11/01
一言に「働くことを通じた成長」といっても、その成長の内容についてのイメージは人によって異なります。今回の調査では、成長のイメージを30項目聴取し、因子分析を用いて以下の8つの因子にまとめました。
働く人々の8つの成長イメージ(因子)
そして、イメージの内容を元に、クラスター分析(非階層クラスタリング、k-means法)を行い、日本人の5つの成長タイプを明らかにしました。それを全体の割合とともに示したのが下のグラフです。
5つの成長タイプ
この5つのタイプの概観を、それぞれが抱いている成長イメージのレーダーチャートを示しながら説明していきましょう。[レーダーチャート:成長イメージの上位3位を聴取し、加重平均にて得点化。全体平均を100(点線)として作図]
成長イメージのレーダーチャート①
■バランス成長型
日本人にもっとも多いのがこのバランス成長タイプです。名前の通り、成長イメージは各項目と、平均的ですが、その中では専門性の向上、成績評価の上昇、キャリアが明確化することへの意識がやや高いタイプです。正社員、公務員に多く、もっとも一般的な成長タイプと言えそうです。このタイプは高齢になるほど微増していく傾向にあります。
■他者協調型
他者協調型は、職場の仲間や取引先など、他者との「コミュニケーション力の向上」を重視し、周囲の人と協調して仕事ができるようになることを成長と捉えているタイプです。アルバイトの主婦層や、バックオフィス系の職種に多く見られました。特に営業事務、総務職などにも多い傾向にあります。
成長イメージのレーダーチャート②
■キャリア構築優先型
キャリア構築優先型は、5つの成長タイプの中でも、特徴が最もくっきりと表れたタイプです。専門性を伸ばし自身のキャリアが確立していくことや、独立・転職などのキャリアアップに向けた準備が整うことを成長のイメージとして強く抱いているタイプです。自分のキャリア構築を主眼に置くため若年層に多く、年齢があがるほど減っていきます。また、職種としては、企画系職種、そして人事職に多くみられたのも特徴的です。
■プライベート優先型
アルバイト・パートに多いのがこのタイプです。アルバイトの多い販売/サービス系の職種に多く、その他、法務、ITの通信技術職にも多く見られました。早く帰ることや職場での友人関係を重視し、ワーク・ライフ・バランスを整えることを成長イメージとして大事にしているタイプです。このタイプは、年齢が上がるほど微増していきます。
■無関心型
特に営業職系、SE、技術職に多い傾向が見られました。成長への関心が低く、イメージも明確に持っていません。プライベートの充実とキャリアの明確化はやや高めの数値がでていますが、その他タイプと比べると特徴づけるほどの傾向ではありませんでした。
簡単に5つのタイプ全体を紹介しましたが、ここで着目したいのは、「無関心型」、そして「プライベート優先型」の2タイプです。これらのタイプは、働くことを通じた成長を、そもそもあまり重要だと思っていません。
下の成長への志向性(重要だと思っているか)についてのグラフを見ても、他の3つのタイプと大きく差があり、日本人の成長への関心は大きく2極化していると言えます。つまり、「働くことを通じて成長することに興味のある層=成長志向層」が約6割(61.6%)、そして「成長にそれほど関心が無い=成長非志向層」が4割近く(38.4%)存在する、ということです。
この「成長を志向しない」従業員が4割近く存在するというのは、企業側にとって、あまり好ましくない状況にも見えます。また、今後「ワーク・ライフ・バランスを大切にしたい」という価値観が一般的になってくると、「働くことを通じた成長」に関心を強く持たない人が増えていくことも予想されます。
ここで参考にしたいのが、第1回のコラムでお伝えした今回の調査結果です。組織や個人にとってポジティブな影響を与えているのは、成長を「志向」するかどうかではない、という結果をお伝えしました。成長を目指すこと自体よりも、成長を「実感」できることのほうが、ずっと本人の前向きな意識を引き出し、組織のパフォーマンスも高めていました。つまり、成長にあまり関心のない従業員に対して、無理に成長を志向させようとする必要はない、ということです。企業として、従業員の働くことについての考え方を転換させ、現状の低い関心を底上げしようとするよりも、成長を実感する具体的な機会を提供することに注力する方が、この層にアプローチする際、有効なのです。
タイプ別成長要因
では、この2つのタイプにどのように成長機会を与えればいいのでしょうか。今回の調査から、そのヒントになる結果を上の表にまとめました。
「無関心型」は、成長を阻害する要因として、仕事に余裕がなく、「自分の仕事を振り返る機会がないこと」が特徴的に高くなりました。また、ライバルのような同僚と競争的な関係を築くことが他のタイプよりも重要なようです。毎日の仕事に埋没してしまいがちなこの層に、自分の仕事を内省する機会と競争の機会を与えられるような仕掛けが必要になりそうです。「プライベート優先型」は、同僚、そして社内の上位者との対話が少ないことが、成長実感の阻害要因となっているようです。組織内でのコミュニケーションが少なく、一体感が不足していることが考えられます。言い換えれば、組織内社会化が十分でないために仕事への成長に関心が向いていないと言えそうです。社内での対話量を増やし、組織に巻き込んでいくことによって成長を実感するチャンスが増えそうです。
ここまで、日本人の5つの成長タイプと、その中で成長を志向していない層について述べてきました。このような結果が示唆するのは、同じ属性や職場の従業員でも、成長についての考え方は人によって大きく異なるということです。今回は大きく5つのタイプへ分解できましたが、今後も就業価値観が多様になるにつれ、こうしたバリエーションは増えていく可能性があります。企業は、個々の従業員の成長への考え方を理解し、ニーズをすくい取りながら適切な成長「実感」戦略を練ることがますます重要になってきそうです。
【調査概要】
調査主体:株式会社 パーソル総合研究所
調査名:働く1万人成長実態調査2017
調査対象者:全国男女15-69歳の有職者
対象人数:10,000人(性別及び年代は国勢調査の分布に従う)
調査期間:2017年3月
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「働く1万人成長実態調査2017」
シンクタンク本部
上席主任研究員
小林 祐児
Yuji Kobayashi
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。
専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。
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