公開日 2024/04/11
2023年より、従業員数が1000人を超える企業において男性の育休取得状況の開示が義務付けられた。男性の育休取得率は、直近2022年度で17.13%(厚生労働省「雇用均等基本調査」2022年)。この数年で上昇傾向にあるが、女性の育休取得率と比べるとまだ圧倒的に低い水準にとどまる。政府は2025年に50%、30年に85%の目標値を掲げており[注1]、企業にはさらなる取り組みが求められている。
なぜ、男性が育休を取得する必要があるのだろうか。
「妻が育休をとっているのに夫も育休をとるのは贅沢だ」とか「男性が育休をとっても何の役にもたたない」といった声を聞くこともある。そうした声が生じる背景には、近年において男性が育休をとる必要性に対する理解不足があると考えられる。企業や周囲の理解不足だけでなく、本人の理解や自覚が不十分なこともある。
男性の育休取得にはさまざまな目的があるが、中でも、産後の家事や育児を担うことへのニーズが高い。その背景には、男性の家事・育児参画への期待がある。
共働き世帯が増える中、妻がより仕事にコミットしていくためには夫の家事・育児参画が不可欠である。また、子どもがいる夫婦において夫の休日の家事・育児時間が長いと第2子以降の出生率が高いというデータもあり[注2]、少子化対策の面からも男性の家事・育児参画が期待される。出産後、親としてのスタート時期に男性が家事や育児を担うことでスキルを習得すれば、その後も継続して参加しやすくなるだろう。
さらに、出産を取り巻く環境が変化してきていることもある。かつては、里帰り出産をして産後に親のサポートを受けることが一般的であった。しかし、近年では、親のサポートを得ずに夫婦だけで切り盛りする家庭も少なくない。パーソル総合研究所が2023年に実施した「男性育休に関する定量調査」では、育休を取得した女性のうち、里帰り出産をした割合は4割弱である。親に自宅に泊まってもらう(2割弱)、親に日帰りで毎日きてもらう(1割弱)というように自宅で日常的にサポートを受ける人もいるが、親が高齢であったり、まだ仕事をしていたりするなど、さまざまな事情で親のサポートを得ない人もいる(数値はすべて複数回答)。
産後は妻がずっと家にいるのだから、妻だけが家事や育児を行えば十分だと思うかもしれない。しかし、出産は女性の体に大きな負担をかけるものであり、産後もさまざまな問題に直面する。身体の痛みが続いたり、慣れない育児でストレスがたまったり、外出ができない新生児と一緒では自身の外出もままならなかったり、夜中に何度も授乳をすることで睡眠不足にも陥りやすい。そのような状況下で十分なサポートが得られないと、産後うつの発症リスクが高まることもある。産後の状況には個人差があるが、産後の産褥期(さんじょくき)と呼ばれる母体の回復期間、特に、安静にして横になっていることが基本とされる「床上げ」までの期間を考えると1カ月程度は、産後の女性を支えるためのサポートが不可欠である。
子どもがいない女性に今後出産する際にどのようなサポートを受けたいと思うかを聞いたところ、特に20代や30代の女性で夫の育休取得や家事・育児サポートへの期待が高く(複数回答でいずれも4割弱)、妻側も夫の育休取得を求めている。妻が夫に期待をするかどうかは性役割分業意識や夫の家事・育児スキルにもよるだろうが、近年は若年層を中心に出産前から毎日料理を作っているなど、日ごろから家事や育児を担っている男性も増えており、家事・育児スキルが高い男性も一定数いる。産後の家事や育児を担えるのであれば、家庭内での強力なサポート戦力となるだろう。
では、男性従業員は育休取得を望んでいるのだろうか。先述の調査データを見ると、子どもがいない男性の約7割が、今後子どもが生まれたら育休を取得したいと思っている(図1)。特に20代男性の意向が高いが、年代や部下の有無にかかわらず、7割程度の男性が育休取得を望んでいる。
図1:男性の育休取得意向
出所:パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」
さらに、どのくらいの期間育休を取得したいかを聞いてみると、1カ月以上取得したい人が6割以上にも及ぶ(図2)。これから子どもをもつ可能性のある男性の多くが、中長期の育休を望んでいることが分かる。
図2:男性の育休取得希望期間
出所:パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」
このように従業員側の育休取得ニーズは高い。では、男性の育休取得を推進すると、企業にとってどのようなメリットがあるのだろうか。もちろん、従業員のニーズに応えることが従業員のモチベーション向上や優秀な人材の定着につながることは想像に難くない。加えて、男性の育休を推進することで、企業イメージの向上や優秀な人材の採用、女性活躍推進などの効果も期待できる。
実際、男性が育休を取得したことによって、企業は、「従業員のモチベーション向上」や「優秀な人材の定着」だけでなく、「企業イメージの向上」や「優秀な人材の採用」、「女性活躍推進」といったさまざまな効果を実感している(図3)。これらの効果を踏まえると、男性の育休取得は、組織力強化につながるものであるといえる。
図3:男性育休の効果実感(取得率別)
出所:パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」
さらに、これらの効果を取得率と取得期間に分けてみてみよう。取得率が5%未満の段階では、中長期の取得者がいなくても、取得率が上がるにつれて効果を感じやすくなる。しかし、取得率が5%から80%未満の段階では、中長期の取得者がいると効果を感じやすい傾向がみられる(図4)。つまり、育休を取得する男性が極めて少ない初期段階では、取得率を上げることで効果を実感しやすいが、一定以上の取得者が発生するようになると、中長期での育休取得が効果の実感に影響を与えることが分かる。
図4:男性育休の効果実感(取得率・取得期間別)
※12項目の効果を感じている割合の平均値。12項目の効果は下記について集計:
「法的要請への対応」「女性活躍推進」「従業員のモチベーション向上」 「企業イメージの向上」「多様な人材についての理解促進」 「優秀な人材の定着(離職率の低下)」「優秀な人材の確保(採用活動)」 「従業員の時間意識(生産性)の向上」「従業員の視野拡大」「業務の見直しや属人化解消」 「従業員の自主的な行動促進(周囲支援、アイディアの発案など)」 「従業員の人材育成力の向上」
出所:パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」
このように男性の育休は従業員や企業にメリットがあるが、男性の育休取得率は低く、取得期間も短い傾向にある。実際の取得期間を見ると、企業独自の特別休暇や有給休暇を含めても、取得者の3割弱が1週間未満の取得に留まり、1カ月未満の取得が約6割を占める(図5)。
図5:男性の育休取得期間(過去3年間の人数割合)
出所:パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」
全体で見ると男性の育休取得はまだまだ進んでいない状況であるが、個々の企業別に見ると、取得が進んでいる企業と進んでいない企業で差がある。取得率を見ると、男性育休の取得率が5%未満の企業が多い一方で、取得率が80%を超えるような企業も一定数存在する。
しかし、取得率が高い企業であっても、必ずしも中長期での取得ができているわけではない。男性育休の取得率と中長期取得者の有無の関係を見ると、取得率と中長期の取得有無は逆U字カーブを描く(図6)。取得率が50%未満程度までは取得率とともに1カ月以上の中長期での取得者がいる割合も増えるが、それ以上の高い水準の取得率では逆に中長期の取得者がいる割合が少なくなる。現状では、取得率の向上のみを目的としていることで短期の取得者ばかりになってしまっている企業もあるのではないだろうか。従業員のニーズに応じた取得を促進するためには、企業は、取得率だけではなく、取得期間の向上にも注力する必要がある。
図6:男性育休取得率別の中長期取得者がいる企業の割合
出所:パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」
パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」では、男性従業員の育休取得意向は高く、期間は1カ月以上取得したい人が6割以上に上った。また、男性の育休取得を推進すると「従業員のモチベーション向上」「優秀な人材の定着」などの組織力強化につながり、企業にとってメリットがあることが分かった。しかし、実際の男性の育休取得率は低く、取得期間も短い傾向だ。男性育休の取得率が5%未満の企業が多い一方で、取得率が80%を超えるような企業も一定数存在するが、そういった企業は、中長期の取得者がいる割合が少ない。
男性の育休取得状況が情報開示される中で、育休取得のできない会社は選ばれなくなる。そうした危機意識を持つことも重要だ。企業が男性育休を推進する際には、なぜ男性の育休取得を推進するのか、それが自社の価値向上にどうつながるのかを考え、持続的成長を目指すための戦略的投資として捉えるべきである。その際、取得率だけでなく、取得期間にも目を向け、中長期での育休取得を推進する必要がある。
従業員のニーズが大きいにもかかわらず、現状では取得率も取得期間も短いことから、男性育休推進の取り組み余地は大きい。男性が中長期で育休を取得できるようにするために、育休以外でも中長期の休みをとれるようにして相互扶助の精神を促すことや、育休取得者の仕事をカバーする際にメンバーの負担感を軽減させるような職場マネジメントの工夫が重要になるだろう。
[注1]「こども未来戦略」(令和5年12月22日閣議決定)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/pdf/kakugikettei_20231222.pdf ※2024年3月22日アクセス
[注2] 厚生労働省「第11回21世紀成年者縦断調査(平成24年成年者)」(令和4年)
シンクタンク本部
研究員
砂川 和泉
Izumi Sunakawa
大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査や顧客企業のID付きPOSデータ分析を担当した他、自社内の社員意識調査と社員データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、女性の就労、キャリアなど。
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