公開日 2023/07/24
2023年6月、「女性版骨太の方針2023」が公表された[注1]。そこでは、プライム市場の上場企業を対象に、次の内容が盛り込まれた。
この内容について各所で賛否を見かけるが、本コラムでは、類似の取り組みがなされた海外の動向や、2023年3月期決算の株主総会招集通知の情報を確認しながら、女性の取締役登用について考えてみたい。
「2020年までに指導的地位の女性を少なくとも30%」。これは政府が、今から20年前の2003年に掲げた目標である。ここで指導的地位を指していたのは、管理職層だったが依然達成されていない。今回の目標では「役員」とされたので、より上級職をターゲットにしたことが分かる。こうした役員層をターゲットにする先行事例は、ヨーロッパに多く見られる。
そこで、ここではまず役員層の一定割合を女性に割り当てる仕組み、クオータ制を導入したヨーロッパの国々について確認したい[注2]。ノルウェーは2005年、世界ではじめて企業役員を対象としたクオータ制を導入した。これによって少なくとも40%の女性取締役が求められるようになった。フランスは2011年に取締役クオータ法が制定され、2014年までに20%、2017年までに40%の達成が義務付けられた。ドイツでは2015年に監査役会を対象にクオータ制が制定された。
クオータ制の導入以外に、日本と同様に数値目標を掲げて、各社の努力を促す国もある。イギリスである。イギリスでは2011年にデーヴィス報告書が公表された[注3]。同報告書は、イギリス時価総額上位100社であるFTSE100構成銘柄企業の女性取締役比率を2015年までに少なくとも25%とするよう勧告した。その後の2015年、女性取締役比率は26.1%となり、この目標は実際に達成された。さらに、目標は2020年までに33%へと引き上げられたが、こちらも達成されている。
女性取締役の数値目標を掲げるイギリスの取り組みは、一定の成功をあげてきた。ただし、「一定の」である。取締役会には大きく2つの機能がある。業務執行を行う経営機能と、そのモニタリングを行う監督機能である。女性取締役比率25%を達成した2015年には、業務執行を行う取締役について女性の選任が少ないことが課題とされた。この2015年の時点で業務執行を行う取締役は9.6%、この数値は2022年でも16.4%と伸び悩んでいる[注4]。イギリスの事例から分かることは、女性役員の増加を掲げた際、その選任は監督側に集中する傾向があることだ。言い換えれば、女性役員の増加を掲げても、経営を担う女性はそれほど増加していない。
イギリスでは、取締役会全体の女性比率が増加する一方、経営側の取締役の選任はそれほど進んでいないことを確認してきた。これは、日本においても既に同様の傾向が見られる。中小規模の企業での設置がほとんどの会計参与を除くと、会社法上、上場企業の役員は、取締役と監査役に分けられる。そして役員が男性で占められている状況は長く続いてきた。近年では女性役員の選任が進んでいるものの、その多くは社外取締役と監査役である。つまり、女性は監督側で増える一方、経営側での登用は進んでいない。
具体的にその状況を確認するために、TOPIX100構成銘柄のうち2023年3月期に決算を迎えた企業、81社の株主総会招集通知の取締役の選任状況を確認してみよう。この81社の取締役のうち、監督側の取締役(社外取締役、監査役、監査等委員である取締役など)を除き、経営側の取締役として選任される女性数をカウントした。その結果、対象の81社には経営側の取締役が400人以上存在するが、そのうち女性は14人にとどまった。
取締役選任議案に伴って、招集通知には各取締役の経歴が記載されている。この経歴を確認すると、14人のうち13人が新卒からグループ会社を含む同じ企業でキャリアを歩んできたことが分かる。つまり、経営に関わる取締役は、圧倒的に生え抜きが選任されている。中途・キャリア採用は徐々に広がっているものの、経営に関わる女性取締役を社外から招くパターンや、中途採用の女性管理職が取締役に昇格するパターンは、ほとんどないといえる。
この14人を選任する企業に目を移そう。経営側の女性取締役を2人選任する企業が1社あるため、企業数としては13社となる。日本の最大手81社で、経営に関わる女性取締役を選任していない企業が依然68社あることが分かる。
上記のように、全体数としては少ないものの、経営に関わる女性取締役は生え抜きの割合が多い。今後、労働市場の流動性が高まったとしても、経営に関わる女性取締役をすべて外部労働市場から獲得することは難しいように思われる。それでは、今後こうした生え抜き人材を増やしていくにはどうすればよいのだろうか。取締役候補者がある日突然生まれてくるわけではない。したがって、女性取締役、特に経営に関わる取締役を増やすためには、採用から育成、登用までを一連の流れで捉え、ひとつのパイプラインを形成する必要がある。
その入口は採用、特に新卒採用である。この段階で一定数・率の女性が確保できなければ、その後いかに素晴らしい育成ができたとしても、管理職候補や役員候補となる女性数は限られる。2023年3月期決算から有価証券報告書に多様性に関する3指標の記載が義務化されたことで、女性管理職比率の数値に注目しがちだが、実際にはその前段階の新卒採用から手を打たなければならない。
その後、パイプラインは管理職登用で問題に直面することが多い。管理職登用まで時間をかけている間に、結婚などのライフイベントを経ているが、その間に男性の業務経験が蓄積する一方、女性は時間を重視する意識に変化する傾向がある。企業が時間をかけて慎重に選抜している間に、女性は管理職意欲を失ってしまうのである。これに対処するためには、コラム「女性活躍のハードルは日本独特の昇進構造」でご紹介したように、早期選抜・早期登用へと舵を取る必要がある。
そしてパイプラインの流れは、取締役候補者に行き着く。しかし、取締役候補者の育成について各社の動向はそれほど明らかではない。コラム「株主総会の招集通知から見えた、人材に関する専門性不足」では、各社のサクセッションプランの記載状況をご紹介した。招集通知は株主とのコミュニケーションツールのひとつであり、次世代の経営を担い得る人材の育成計画は重要なポイントのはずだ。しかし、TOPIX100構成銘柄のうち2023年3月期に決算を迎えた81社のうち、人材の選抜・育成のプロセスや施策について記述していたのは、女性のサクセッションに限定していないにもかかわらず、9社にとどまった。
こうしたパイプラインの観点で捉えると、人的資本経営の取り組み方も変わってくるはずだ。具体的には、人的資本の指標として義務化された女性管理職比率だけでなく、女性の新卒採用数・率や次世代経営人材プールの女性数・率などが視野に入ってくる。
この段階までくると、さらに見えてくることがある。例えば、女性の新卒採用を増やすと、若年層は賃金が低いため、女性従業員の平均賃金は下がる。すると、開示が義務となった男女の賃金の差異も翌年以降、少なくとも一時的に悪化することが予測される。実際の開示の場面でも、このように順を追って丁寧に記載ができるのではないだろうか。また、問題が採用後にあるのであれば、メンター制度など、取締役登用までの間に必要な育成施策をどの程度行っているかという点も浮上してくる。ここまでくれば女性活躍を実現するために、説得力をもって施策を展開し、また開示することができるのではないだろうか。
本コラムでは、女性役員比率の30%目標を起点に、女性の取締役登用について検討してきた。女性取締役の選任が監督側に偏っており、経営に関わる女性取締役は現時点で極めて少ない。この状況を変えるためには、採用から育成、登用までをパイプラインとして捉え、それぞれの段階で適切な施策を打つことが必要だろう。こうしたパイプラインの観点を人的資本経営の取り組みに活かすことで、企業の持続的な成長の実現にもまた一歩、歩みを進められるのではないだろうか。
[注1]内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)」(https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/pdf/sokushin/jyuten2023_honbun.pdf)
[注2]内閣府男女共同参画局「共同参画」(https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202206/pdf/202206.pdf)
[注3]Lord Davies of Abersoch ”Women on boards”( https://ftsewomenleaders.com/wp-content/uploads/2015/08/women-on-boards-review.pdf)
[注4]FTSE Women Leaders “FTSE women leaders review”(https://ftsewomenleaders.com/wp-content/uploads/2023/03/ftse-women-leaders-review-report-2022-v2.pdf)
シンクタンク本部
研究員
今井 昭仁
Akihito Imai
London School of Economics and Political Science 修了後、日本学術振興会特別研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科助手を経て、2022年入社。これまでに会社の目的や経営者の報酬など、コーポレートガバナンスに関する論文を多数執筆。
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