公開日 2022/10/05
企業に対し、人的資本経営を求める動きが活発化し、非財務情報の開示が要請され始めている今、経営者はどのような視点を持ち、どのような姿勢で取り組んでいくべきなのだろうか。ポーラでは、ポーラ・オルビスグループとしての非財務情報開示だけでなく、子会社であるポーラとしても情報を開示している。自身の社長就任とともに、ポーラの「サステナビリティレポート」の発信を始めたという、ポーラ代表取締役社長の及川美紀氏にお話を伺った。
株式会社ポーラ 代表取締役社長 及川 美紀 氏
1991年ポーラ化粧品本舗(現株式会社ポーラ)入社。美容スタッフ・ショップの経営をサポートする埼玉エリアマネー ジャーを経て、2009年より商品企画部長に。2012年に執行役員(商品企画・宣伝担当)、2014年に取締役就任(商品企画・ 宣伝・美容研究・デザイン研究担当)。2020年1月より現職。
「経営戦略と人事戦略の連動」が繰り返し強調されていますが、危機感の表れと受け止めています。
また、経済産業省の「未来人材ビジョン」も拝見しましたが、やはり日本に活力を生む人材をつくっていくには、企業内はもちろん、社会の枠組みや教育が重要であり、長期的な人材育成のプラットフォームのひとつとして企業に求められる役割もますます重要になるだろうと感じています。
ポーラは2021年に「サステナビリティ推進室」を設け、ポーラ単体で「サステナビリティレポート」の発信を始めました。これは私が社長に就任した際に、「数値目標を立て、本気でゴールに向かって取り組んでいく」という姿勢を、社会と社員に示したかったからです。特に社員に対しては、「このようなメッセージを開示して、数値目標まで作っている」ということを通して、インターナルな理解を深めていきたいと考えています。
また、ポーラには約3万3千人のビューティーディレクター(※)をはじめ多くのビジネスパートナーが活躍しています。その方々には、社員以上に分かりやすく会社の方向性を示さなければ共感していただけません。そこで、事業活動が生み出す社会価値を定量化した非財務目標として「人・社会・地球環境」の3観点・15指標の中から、「当社は何から着手し、どのような未来をつくっていこうと考えているのか」を示すべく、それぞれ注力指標を定め、開示しています。
※全国各地にて商品やエステの販売、スキンケアやメークなどのカウンセリングなどを通じて顧客に最適な美容を提供する人々。株式会社ポーラと委託販売契約を結び個人事業主として活動するほか、法人設立もできるなど活躍の幅は広い。
ポーラではダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に注力しており、目標も示しています。それにより全国にいるビジネスパートナーが自ら勉強したり、「自分たちのお店でできるD&Iに関する取り組みは何か」を考え、実行したりしてくれるようになりました。例えば、ひとり親家庭のサポートや「生理の貧困」のサポート、使用されなかったペーパーバッグの費用を子ども食堂に寄付するといった取り組みです。会社としては女性管理職や男性育休などの数値開示をしていますが、それとは別の基軸で各店舗が活動してくれています。こうした草の根活動の広がりはSDGsにおいて重要なことだと考えています。
年に1回、全国の店舗におけるSDGsへの取り組みを表彰する式典を開催しています。動画でのプレゼン審査を経て、最終審査で賞を決めています。テーマはジェンダーギャップの解消、D&I、地域活動、環境問題へのアクションなどさまざまです。
2022年にグループの「ダイバーシティ推進委員会」を設置しました。そもそも当グループには、性別や考え方の違いによらず、「個の可能性」に目を向けてきた歴史があります。1937年、訪問販売を行う男性ばかりのセールス集団に、20代の未経験女性が門をたたきました。これが「ポーラレディ(現ビューティーディレクター)」の始まりです。扉を開けた女性の勇気も素晴らしいですが、未経験の女性を受け入れた男性陣もすごいです。ダイバーシティには「やりたいと挑戦する人」だけでなく、「受け入れてサポートする人」も必要ですから。この文化は今も根付いています。
ポーラは女性が牽引する業態であることもあり、ポーラにおける女性の管理職比率は30%までは自然発生的に実現できました。しかし、入社人数でいえば男女比は50%対50%ですから、女性の管理職比率は50%を達成していてもおかしくありません。家事労働の役割分担の問題や社会的な枠組みの制約などで、ポテンシャルの高い女性が能力開発できる機会をまだまだ確保できていないのかもしれない。そう考え、男性の育休取得率の向上にも尽力しています。ただし、数字を追いかけるのではなく、あくまで「個の力、組織の可能性を高めるため」に取り組んでいます。
個人の人権や働きやすさを尊重し、自分らしさを発揮できるための施策は、いくつも実施しています。例えば、出産期を考慮し女性に早期にリーダー経験ができる機会を提供するよう呼び掛けたり、男性の育休取得に関する研修を全社員向けに行ったり。また、2022年1月には人事制度や福利厚生の適用対象範囲を、事実婚の相手方、同姓パートナーを含めた「実質上の家族・親族」まで広げました。こうした施策は人事部がかなり頑張ってくれています。
それと同時に、社員が主体的に活動する「ワーキンググループ」も立ち上がっています。産育休中の悩みや本音、復帰後の育児やキャリア、男性育休の事例などの情報を共有できる「産育応援プロジェクト」や、LGBTQ+、更年期などテーマはさまざまです。
1つに、個人の目標設定の20%を「長期変革ビジョン」に充てていることが影響しているかと思います。「尖れ、つながれ。」というスローガンの下、「1〜3年以内に組織をどう変革させるか」というWILLをそれぞれ定め、全社員間で公開するのです。近しいテーマを持つ人とつながり合い、一緒に推進することもできます。さらに年に1度、社内のイントラに「達成度」を投稿し、全社員が「いいね」ボタンで投票、共感度の高いプロジェクトには最終プレゼンで賞を贈っています。
人事とは、最低でも月に1回はディスカッションします。意欲的なメンバーが集まっており、とても丁寧に現場をケアしてくれています。
現場との距離感は、経営が現場に対して興味を持つかどうかだと考えています。結果、「自分の仕事を見てくれている」という信頼につながります。リモートワークで気軽に会えない今、経営企画部が社員と対話をする機会を設けてくれました。とにかく皆さんの日々の活動を教えてもらっています。また、四半期に1度、業務報告のビデオメッセージを配信するのですが、社員から届く数百件の質問にすべて返答しています。
先日、エンゲージメント指標の調査で、「認められる機会がある」「上司は、部下の意見やアイデアに耳を傾けている」「社会課題のために行動を起こしている」という項目が向上していました。さまざまな施策の成果が少しずつ表れていると感じます。
企業は「人の集合体」だからです。一人の想いや一人の理解から変革は起こります。例えばブランディングも、外見ばかり整えても決してうまくいきません。サステナビリティ経営も同じです。社員やビジネスパートナーの意識改革から始めることが何よりも重要だと考えています。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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HITO vol.19『人事トレンドワード 2022-2023』
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2022年-2023年人事トレンドワード解説 - テレワーク/DX人材/人的資本経営
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人的資本経営は人事によるビジネスへの貢献の場 リーダーの発掘・育成の環境を整え企業成長を
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人事は経営企画、財務、事業企画と共に 「持続的な企業の成長ストーリー」を語ろう
特別号 HITO REPORT vol.13『動き出す、日本の人的資本経営~組織の持続的成長と個人のウェルビーイングの両立に向けて~』
人的資本情報の開示に向けて
人的資本経営と情報開示を巡る来し方と行く末 ―ウェルビーイング時代の経営の根幹「人」へのまなざし―
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人的資本情報開示に関する調査【第2回】~求職者が関心を寄せる人的資本情報とは~
会社と社員のパーパスを重ね合わせ エンゲージメントの向上を通じた人的資本経営の高度化を目指す
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