自社の人材戦略に沿ったストーリーあるデータを開示
人材に惜しみなく投資することで成長するサイバーエージェントの人的資本経営

公開日 2022/08/08

2022年5月に経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート2.0」*において、人的資本経営の取り組みが紹介されているサイバーエージェント。人的資本経営やESG経営という言葉が流行する以前から、人材に対し惜しみなく投資を行ってきたサイバーエージェントに、人的資本経営推進の背景や人的資本情報の開示ポイントを伺った。

石田 裕子氏

株式会社サイバーエージェント 専務執行役員 石田 裕子 氏

2004年新卒でサイバーエージェントに入社。広告事業部門で営業局長・営業統括に就任後、Amebaプロデューサーを経て、2013年及び2014年に2社の100%子会社代表取締役社長に就任。2016年より執行役員、2020年10月より専務執行役員に就任。人事管轄採用戦略本部長兼任。

株式会社サイバーエージェント

インターネット広告事業を中心に、ゲーム事業、メディア事業、投資育成事業などを展開。
1998年創業。従業員数(連結)5,944名(2021年9月末時点)。

  1. 人的資本経営によるプラスのループで急成長
  2. 経営戦略と人材戦略の連動のポイントは対話と経営視点
  3. 経営戦略と人材戦略の連動ストーリーに合わせて情報開示を
  4. 情報格差をなくし、共通認識を持つ

人的資本経営によるプラスのループで急成長

――「人材版伊藤レポート」をご覧になった感想を教えてください。

サイバーエージェントは以前から『GEPPO(ゲッポウ)』というエンゲージメントサーベイを活用するなどして、個人と組織の課題をデータで可視化し、改善を繰り返してきました。2020年9月に通称「人材版伊藤レポート」、22年5月に「人材版伊藤レポート2.0」が公表されたことをきっかけに、当社が行ってきた情報の「可視化」、改善、「人への投資」によってプラスのループが生まれていること、まさに人的資本経営の重要性を再認識できました。


――どのような経緯で「人的資本経営」に取り組むようになったのでしょうか。

1998年の創業当初から経営資源(人、物、金)の中で競争優位性の高いものは「人」だと考えていました。常に働きがいと働きやすさを追求し、新しい仕事へのチャレンジや選抜やミッションチェンジの環境の提供なども含め、人に対して投資し続けることが当社の文化にもなっていったのです。変化の激しいインターネット産業において、サイバーエージェントが猛スピードで急成長できたのは「人の力」が一番大きかったといえます。


――働きがいや働きやすさというと、近年ではWell-beingに注目が集まっています。人的資本経営の観点からどのように考えていますか。

生産性の向上、優秀な人材の獲得、そして企業価値の向上につながるという点から、社員のWell-beingを考えることは重要だと捉えております。サイバーエージェントでは、2016年に健康推進室を設置し、心身ともに健康で持続的に働ける環境づくりに注力しています。ストレスチェック、産業医面談、睡眠の質向上のためのセミナー、介護に悩む社員に向けたセミナーなど、いろいろな施策に取り組んでいます。

経営戦略と人材戦略の連動のポイントは対話と経営視点

――「人材版伊藤レポート」では、「経営戦略と人材戦略の連動」についてうたわれています。サイバーエージェントではどのように捉え、推進していますか。

事業戦略と人材戦略は切っても切り離せない関係であり、もともと密接に連動しています。「こういう事業に新たに参入しよう。ではこういう人材が必要になる」「こういう人なら、この事業に当てはまる」という具合に、サイバーエージェントでは基本的に事業と人をセットで考えるようにしています。現在の組織規模になった今でも経営層が社員のことをよく知っているため、役員会においても人材の話に相当の時間をかけています。


――組織の規模が拡大すると、経営と現場の連携が難しくなりますが、どのように工夫していますか。

工夫していることは2つあります。1つは、経営層が現場の社員の声をよく聞くことです。リアルの場でも『GEPPO』を介しても、経営層は現場の社員とよく対話をしています。また、現場から出た奇譚のない意見を忖度なく経営会議に持っていきます。


2つ目は、現場と現場のマネジャーが、経営視点に立って物事を判断していることです。方針や制度がどのような経緯で決まったのか。背景や意図を探ろうとするマインドが備わっているのです。

経営戦略と人材戦略の連動ストーリーに合わせて情報開示を

――人的資本情報の開示方針や大事にしているポイントを教えてください。

ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)情報も含めてオープンな情報開示を心がけてきたため、この人的資本情報の開示に向けた動きを機に方向性を変えることはありません。情報においては以前からデータを蓄積しているため、無理に慌てて新しいデータを取得することもないでしょう。経営戦略と人材戦略の連動ストーリーに必要なデータを必要なタイミングで包み隠さずオープンに出す、これが当社の考え方です。


開示にあたっては、投資家、株主の目線で考えて、競争優位性の高い項目を明確に提示したいと考えています。例えば、新規事業の創出数、子会社の誕生数、事業責任者の就任年齢などです。


一方で、組織課題を感じ改善に取り組んでいる項目についても情報開示をしていきます。投資家からの意見も真摯に受け止め、社内でディスカッションし、改善アクションにつなげています。

情報格差をなくし、共通認識を持つ

――データ蓄積の面において、サイバーエージェントはデータに基づいて人事課題を解決する「ピープルアナリティクス」に早くから取り組まれている印象です。何から始めるのがいいでしょうか。

社員の声を定量的かつ定性的にストックできる体制を整えることが重要です。サイバーエージェントでは人事部の中にデータ統括室をつくり、データを集める人、不足しているデータを整える人、分析する人、課題を特定する人が集まって協業しています。


集めたデータの捉え方は人それぞれであり、どう意味づけるかが重要です。数値情報だけでなく、データをどのように捉えたのかも含め、各事業部のボードメンバーにきちんと伝えるようにしています。同じ結果を見て共通認識を持つこと、情報の格差を極力無くしていくことが大切なのです。また、意思決定の際は、データや社員の声だけでは意味がなく、企業文化や事業状態も加えてバランス良く照らし合わせています。このバランスは各社各様です。総合的なバランスを自社にあったやり方で見つけていくのがいいのではないでしょうか。


*人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

実践事例集
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。


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