公開日 2018/07/28
40代~60代のミドル・シニアの躍進行動を促すことで、企業の生産性向上につながることが期待されています。ミドル・シニアの躍進のために、企業はどういった取り組みをするべきなのでしょうか。
前回の調査レポート「40~60代のミドル・シニアを部下に持つ年下上司に求められる『年齢逆転マネジメント』のヒント」では、「上司のマネジメント」の観点から、ミドル・シニアの約4割を占める「伸び悩みタイプ」の躍進を促すためのポイント、ミドル・シニアの各年代に共通して、本人の仕事の仕方・進め方を認めて・任せるという権限委譲型マネジメントが部下に対して有効であるということをご紹介しました。
続く今回は、40代~60代の2,300名を対象とした「ミドル・シニアの躍進実態調査」から明らかになった「伸び悩みタイプ」の躍進を促すために、企業が取り組むべき「キャリア支援」について見ていきます。(調査概要は下記参照)
この『ミドルからの躍進を探求するプロジェクト』では、
「ミドル」 「シニア」の定義を【ミドル:40歳~54歳】 【シニア:55歳~69歳】としています
スイスの心理学者・カール・G・ユングは、人の一生を1日の太陽の軌道になぞらえ、40代を「人生の正午」と呼びました。人生の折り返し地点に差し掛かるこの時期に、多くの人が仕事やキャリアに対する考え方・価値観の変化を経験することから「中年の危機」(ミッド・ライフ・クライシス)ともいわれています。
それでは、40代~60代のミドル・シニア期における個人のキャリア意識に一体どのような変化が生じているのでしょうか。企業のキャリア支援について考える前に、まず個人のキャリア意識の特徴を確認しておきましょう。
【図1】出世に対する意識の変化
40代に見られる最も顕著な特徴が、「出世」に対する意識の変化です。2017年、パーソル総合研究所が実施した『働く1万人成長実態調査2017』によれば、組織の中で「出世したい」という意識を持つ個人の割合は歳を重ねるごとに減少し、42.5歳を境目に「出世したいと思わない」という回答が「出世したい」を上回ることがわかっています(図1)
【図2】キャリアの終わりに対する意識の変化
さらに「キャリアの終わり」を意識し始めるのも、この時期の特徴のひとつといえます。同調査によれば、キャリアの終わりを意識している人の割合が意識していない人の割合を逆転するのは45.5歳であることがわかりました(図2)
ここまで、ミドル・シニアの入り口にあたる40代前半から半ばにかけて、「出世」や「キャリアの終わり」に対する個人の意識に大きな変化が見られることをお伝えしてきました。
それでは、躍進している個人に共通して見られるキャリア意識とはどのようなものでしょうか。40代~60代のミドル・シニア社員2,300名を対象に実施した調査の結果(図3)、40代の躍進を促す個人のキャリア意識として、「社会貢献意識」「仕事を通じた成長実感」「仕事における自己効力感」がプラスの影響を与えていることがわかりました。このように、社会に与える意義や自分にとってのやりがいに基づいて仕事を捉える態度のことを「内的キャリア観」と呼びます。50代以降の躍進行動に対しても、仕事を通じた専門性の向上など、一貫して「内的キャリア観」がプラスの影響を与えていることから、40代~60代のミドル・シニアの躍進を促す重要なキャリア意識であることがわかります。一方、昇進・昇格といった目に見えやすい役職・ポストを志向する「外的キャリア観」は、いずれの年代の躍進行動にもプラスの影響を及ぼさないことがわかっています。
【図3】躍進行動を促すキャリア意識
このことから、40代の時期にいかに「内的キャリア観」を身につけることができるかが、躍進を促すキャリア支援施策上の重要なポイントであることが伺えます。
キャリア支援への受講経験と躍進行動の関連を分析した結果(図4)、40代ではキャリア・カウンセリングを受講する機会がある人ほど、躍進行動が促されていることが明らかになっています。
一方、いずれのキャリア研修も受講していない人ほど、躍進行動にマイナスの影響が出ていることもわかっており、この時期にキャリアに対する考え方を見つめ直す機会を持つことが、いかに重要であるかが示唆される結果となっています。
【図4】躍進行動を促すキャリア支援
それでは、企業におけるキャリア支援の現状はどのようなものなのでしょうか。最近では、キャリアカウンセラーを常駐させ、社員が自主的にキャリア相談できる仕組みを導入する企業も増えてきたようですが、調査の結果からは必ずしも十分とはいえない状況であることがわかります。キャリア支援受講経験の状況を示した【図5】によれば、キャリアの棚卸しやキャリア・カウンセリングの受講機会がある人は約1割程度とかなり少数であることがわかります。キャリアに対する意識が大きく変化するミドル・シニア層に対して、企業が提供すべきキャリア支援にはまだ改善の余地があるといえそうです。
【図5】キャリア支援受講経験の状況
一般的に企業が実施する、ミドル・シニアを対象にしたキャリア支援といえば、定年を控えた50代中盤を対象とした「退職後の人生設計を考えるマネープラン研修」などを想起される方が多いのではないでしょうか。しかし、調査の結果から明らかになったことは、ミドル・シニアの入り口にあたる40代前半からキャリア支援を行うことの重要性です。仕事やキャリアに対する考え方・価値観に大きな変化が生じる40代前半の時期に、自らのキャリアについて深く見つめ直し、今後のキャリアの変化に備える意識を持つ機会を企業として提供することは、個人のキャリア形成にとってプラスなだけでなく、躍進行動を促し、仕事のパフォーマンスが高まるという意味で経営の観点からも重要な意義を持つ試みです。
ミドル・シニアの入り口である40代に対するキャリア支援の内容としては、キャリアの棚卸や強みの発見など従来から各企業で行われている通り一遍のキャリア研修だけでは不十分で、仕事の社会的な意義や仕事に対する自分にとってのやりがいを見つめ直す機会が必要となるでしょう。さらに、これからのキャリアにも目を向け、役職定年制度に伴う降格・減給など近い将来直面する可能性のある『不都合さも内包した現実』を直視し、自分にとって望ましい働き方とは何かを考えるきっかけを提供することも企業が取り組むべき重要な試みといえるのではないでしょうか。
今回は、40代~60代のミドル・シニアの躍進を促すために企業が取り組むべきキャリア支援についてお伝えしました。次回は「役職定年制度」についてです。どうぞお楽しみに。
株式会社パーソル総合研究所/法政大学 石山研究室 「ミドル・シニアの躍進実態調査」 |
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調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット調査 |
調査協力者 | 以下の要件を満たすビジネスパーソン:2,300名 (1)従業員300人以上の企業に勤める40~69歳の男女 (2)正社員(60代は定年後再雇用含む) |
調査日程 | 2017年5月12日~14日 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所/法政大学 石山研究室 |
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所・法政大学 石山研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」
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