公開日 2017/11/01
今回の調査で確認した、仕事を通じて成長を感じている人の割合は全体で49.4%(7件法の選択肢のうち「とても実感した」「実感した」「やや実感した」の合計)でした。しかし、その割合は、職種によって大きく異なります。
今回調査した31の職種における成長実感が高い上位10職種を以下に示します。
成長実感が高い上位10職種
最も成長実感が高い人の割合が多い職種は「マーケティング」の64.6%でした。次いで、「法人営業(ルートセールス)」64.5%、「海外営業」64.0%となっており、これらの営業関連職種で3位までを独占する結果となりました。そのほかには、5位から7位まで「経営企画」60.7%、「人事」59.0%、「法務」57.4%というように間接部門が上位に含まれています。なお、図には示していませんが、成長実感が高い人の割合が少ないのは、「サポートエンジニア」23.7%、「プログラマー」30.0%、「生産管理」42.4%、「システムエンジニア(SE)/ネットワークエンジニア」45.1%、「研究・開発・設計」46.8%といった、IT関連職や技術職という結果でした。
仕事を通じて得られる成長実感は職種によって異なることがわかりました。そして、前述のランキングから、営業関連の職種や間接部門での成長実感が高く、IT関連職や技術職の成長実感が低い傾向にあることがわかりました。この職種による成長実感の違いを、「職務特性」から考えてみます。
今回の調査では、各仕事の代表的な5つの職務特性について質問しています。これらは客観的な職務特性ではなく、あくまで回答者の認識によるものですが、全ての回答を職種別に集計することで、それぞれの職種のおおよその職務特性を把握することが可能になります。調査で使用する職務特性は次の通りです。
l 技能多様性:様々な能力や経験を必要とする仕事である
l タスク完結性:他の部署等と連携せずに仕事を完結できる
l タスク重要性:会社もしくはお客様にとって重要な仕事である
l 自律性:自分で仕事の範囲ややり方を決めることができる
l フィードバック:仕事の成果を知ることができる
以下に成長実感が高い人の割合が多い上位10職種の職務特性の集計結果を示します。青字のセルは平均以上を、赤字のセルは平均以下であることを表しています。
成長実感の上位10職種の職務特性
上位10職種だけをみると、ほとんどの職種において職務特性が平均以上の数値(青字)になっています。つまり、成長実感の得られやすい職種とは、5つの職務特性が高い傾向にあるといえそうです。
もう少し詳しくみてみましょう。
成長実感のある人とない人の双方を軸に、それぞれが自分の仕事の職務特性をどのように認識しているかを確認します。成長実感のある人とない人の認識の差が大きいほど、成長実感に与える影響の大きい職務特性ということになります。
5つの職務特性と成長実感のギャップ
上記の表の5つの職務特性は、上から成長実感の有無によるギャップが大きい順に並べています。5つの項目のいずれも、成長実感のある人の方がない人に比べて高い数値となっています。ただし、「タスク完結性」のみ、他の4項目よりもやや低い数値(6.1pt)になりました。この結果から、「タスク重要性」「フィードバック」「技能多様性」「自律性」の4項目を満たすことが、成長実感を得られやすい職種の条件といえそうです。
「職務特性」はその仕事に特有のものであり、その特性自体を容易に変えることはできません。そうすると、職務特性が低い職種では成長実感を得られない、ということになってしまいそうです。しかし、そんなことはありません。前述した通り、本調査で確認した職務特性はあくまでその仕事に就いている回答者が認識しているものを指しています。たとえば、「タスク重要性」は、"会社もしくはお客様にとって重要な仕事である"と回答者が「認識」しているということです。
「技能多様性」や「自律性」については、仕事の進め方に関することであることから、従業員の認識のみをあらためることが難しいと考えられます。しかし、「タスク重要性」と「フィードバック」については、会社側の工夫や注意によって従業員の認識に好影響を与えることが可能だと考えられます。
「タスク重要性」については、日常従業員が取り組んでいる仕事の意義をより上位の観点から意義付け、丁寧に説明することが効果的です。従業員が従事する仕事が部門や企業経営にとってどのような意義や目的があるのか、あるいは企業を通じてどのようにお客様や社会に価値をもたらすのか、といった仕事の位置付けをしっかりと説明し、意識付けることで、自分の仕事を"会社もしくはお客様にとって重要な仕事である"と認識できるようになります。
「フィードバック」については、仕事の成果を日常的に従業員に説明することが効果的です。お客様や他部門に直接対面する職種が仕事の成果を容易に得られるのにくらべて、"縁の下の力持ち"的な役割を担う職種では自分の果たす役割を自分自身で評価することが難しくなります。うまく仕事をこなしている状況ではポジティブなフィードバックを感じることができないため、もし本人がいなかったら、あるいは役割を果たすことができなかったらどうなるか、ということを想定し、その意義を従業員に意識付けることで、自分の"仕事の成果を知ることができる"ようになります。
働く人が成長を感じている職種別のランキングを確認しました。この結果、成長実感が得られやすいのは営業関連の職種、得られにくい職種はIT関連や技術職に多いことがわかりました。成長実感が得られる仕事には共通の職務特性がみられます。それは、会社もしくはお客様にとって重要な仕事(タスク重要性)であり、様々な能力や経験(技能多様性)により、自分の判断で仕事を進めることができる(自律性)こと。また、自分の仕事の成果を知ることができる(フィードバック)というものです。
すべての仕事はそれぞれ特有の職務特性を持っており、成長実感が得られにくい職種が存在することは残念ながら否定できません。しかし、企業の管理者は、すべての従業員が適切な成長実感を得ることができているかを、たえず気に留めておくことが必要です。そして成長実感が得られにくい職務特性の職種に就く従業員に対しては、その仕事の重要性や成果の意義の十分な説明など、管理者からの積極的な働きかけが必要不可欠といえます。
【調査概要】
調査主体:株式会社 パーソル総合研究所
調査名:働く1万人成長実態調査2017
調査対象者:全国男女15-69歳の有職者
対象人数:10,000人(性別及び年代は国勢調査の分布に従う)
調査期間:2017年3月
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「働く1万人成長実態調査2017」
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