人間ならではの能力を育みAIと共生・協働するかけがえのない人材に

公開日 2025/06/26

時代が変わっていっても解雇されづらい人材でいるには、何が必要なのだろうか。AI時代における人間の「かけがえのなさ」の重要性について、著書『IRREPLACEABLE:The Art of Standing Out in the Age of Artificial Intelligence』で論じているPascal Bornet氏に話を伺った。

Pascal Bornet 氏

AI・オートメーション専門家、作家 Pascal Bornet 氏

マッキンゼー・アンド・カンパニーやアーンスト・アンド・ヤングで20年以上にわたり、インテリジェント・オートメーションプロジェクトを主導し、各国の企業のAI戦略を支援。AIと人間の接点に焦点を当て、人間中心のAI活用の重要性を訴えている。著書『INTELLIGENT AUTOMATION:Learn How to Harness Artificial Intelligence to Boost Business & Make Our World More Human』はベストセラーに。

  1. 個を尊重した多面的な手法でヒューミックス育成を後押し
  2. 人間的な能力の開発はAI時代のビジネス戦略に

――AIは今や、人間の仕事を次々とこなせるようになっています。

AIの影響が日増しに強まる昨今、「置き換えることのできない存在」であること、そうなろうと努力することが、かつてないほど重要になっています。AIが容易に習得できるスキルに依存すれば、時代に取り残され解雇されるリスクがあるからです。代替不可能な存在であるためには、機械に再現できない人間固有の資質である「ヒューミックス」を発揮することだと、私は考えています。

ヒューミックスの主な要素として、「真の創造性」「批判的思考」「社会的オーセンティシティ」の3つが挙げられます。「真の創造性」とは、人間特有の感情や知性、洞察力、そして個々の人生経験から、新しく独創的なアイデアや表現を生み出す力のことで、AIによる生成物とは本質的に異なるものです。「批判的思考」は、独立した視点と倫理的な判断を基に情報を分析・評価する力です。「社会的オーセンティシティ」とは、感情の理解といった「人間らしさ」を伴う信頼関係の構築力を指します。これは、従来のリーダーシップに求められてきた「自分らしさ」を大切にする「オーセンティックリーダーシップ」が進化したものといえるでしょう。そこで生まれる人間同士のつながりの質は、AIには決して再現できないものです。

これら3つの要素は相互に連携し、私たちを人間たらしめている価値の中核を成しています。

個を尊重した多面的な手法でヒューミックス育成を後押し

――従業員のヒューミックスを育むための具体的な取り組みを教えてください。

「真の創造性」を引き出すには、探索と実験を促すようなワークが効果的です。例えば、日常の業務を離れてアイデアを出す時間の確保、SCAMPER法など創造的問題解決のためのフレームワークを使ったワークショップの実施などが挙げられます。

※ Substitute(代替)、Combine(組み合わせ)、Adapt(適応)、Modify(修正)、Put to other uses(転用)、Eliminate(削除)、Reverse(逆転)の視点から新しいアイデアを生み出すフレームワーク。

「批判的思考」を育むには、分析的推論、問題解決、意思決定を重視した研修を導入するとよいでしょう。プロジェクト後の振り返りや、部門横断的な議論を定期的に設けることも多様な視点を醸成できます。

「社会的オーセンティシティ」の育成には、対面での直接的な交流が不可欠ですが、リモート環境下でもテクノロジーの活用次第で従業員同士の信頼関係を構築することは可能です。以前にも増して、リーダーには、共感力や傾聴力、オープンコミュニケーションの姿勢が求められるでしょう。


――代替不可能な人材を採用し評価することも、これからの人事部門の課題です。

採用のポイントは、履歴書や資格だけに捉われず、その人がどれだけヒューミックスを育て活用できるかを見極めることです。好奇心が強く創造的な問題解決力を持ち、倫理観が高く対人スキルに優れた人材に注目しましょう。面接では、新しい状況にどう対応したか、他者とどのように協力したかといった問いを通じて判断します。

ヒューミックスは、形式的な評価制度で測れるものではないので、日々のやり取りにおける振る舞いにも目を向けましょう。例えば、会議で新たな視点を頻繁に提供しているか、前提を疑う鋭い質問をしているか、同僚や顧客と本物の信頼関係を築いているかなどです。

が持ち得るものではなく、誰もが備えている力です。もしヒューミックスを発揮できていない従業員がいたとしても、画一的な基準を押し付けるのではなく、「その人がどういう人間であるか」を尊重し、個性に合わせた支援を行うべきです。忍耐と関心を持って、適切な環境と機会を提供すれば、ヒューミックスは際限なく成長していきます。


――AI時代を生き抜くため、他にどのような能力が必要でしょうか

技術革新のスピードが加速している現代社会では、自分自身を再定義・再構築しなければならない状況に何度も見舞われるでしょう。困難や挫折から立ち直って前進するためには、「レジリエンス(回復力)」が不可欠です。また、状況の変化に応じて、自分の思考や行動を柔軟に調整し、新しい現実を受け入れる「アダプタビリティ(適応力)」も重要になります。

この2つの資質を高める取り組みとして、ある企業で行った未来予測のワークショップが印象的でした。自社の業界で将来起こり得るシナリオを想定し、その混乱にどのように対応すべきかをチームで議論するのです。定期的に実施することで、「変化は危機ではなく、仕事の一部である」という前向きなマインドセットが組織に定着していきました。AIを活用する力と人間的なヒューミックスに加え、変化に柔軟に対応する力を兼ね備える││未来を切り開く鍵となるのは、テクノロジーと人間ならではの能力とのシナジーにあると考えています。

人間的な能力の開発はAI時代のビジネス戦略に

――企業の縮小や人員整理といった局面で、ヒューミックスはどの程度評価されているのでしょうか。

アメリカにおける解雇を見てきた限りでは、多くの場合、人間的な資質よりもパフォーマンスによる指標が基準とされています。しかし、定量的なパフォーマンス評価に頼り過ぎると、定性的でありながら組織に長期的な価値をもたらすヒューミックスの価値を見落とすことになってしまいます。

例えばある先進的な企業では、解雇に際して、適応力や革新的思考力を考慮していました。部門横断的な協働経験や創造的な問題解決力、役割の変化に応じた成長の可能性といったヒューミックスの要素です。このアプローチが優れているのは、技術的なスキルが徐々に一般化する中で、人間的な能力こそが競争力になるという本質を捉えている点です。こういった手法は、合理的なビジネス戦略であると同時に倫理的な統率力の表れであると、私は考えています。


――AI時代における人材育成で、経営陣や人事部門が担う役割はどう変化するでしょうか。

私が描くAIと人の関係は、共生と協働によってより良い未来を築くことです。経営陣はこのビジョンを率先して掲げ、継続的な学習の文化を育む必要があります。その根底には組織内の信頼関係が築かれていることも大切で、従来のトップダウン型のマネジメントから、コーチングやエンパワーメントを重視するアプローチへとシフトする必要があるでしょう。

人事部門はこの変革の最前線に立ち、AIと協働できる人材の採用・育成、ヒューミックスの継続的な向上・再教育を設計してください。従来の人材管理だけでは不十分で、人とAIが互いの強みを補完し合うエコシステムを醸成していかなくてはなりません。テクノロジーが急速に進化し続ける中、人間にしかない能力は文化や国を超えてますますかけがえのないものになっていくでしょう。AIと共生・協働する社会で重要なのは、テクノロジーを活用しながら人間の本質を大切に育む、そのバランスを見つけることなのです。


※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。


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