日本企業が高度外国人材を受け入れるためには何が必要か

公開日 2024/12/04

執筆者:シンクタンク本部 研究員 児島 功和

労働推計コラムイメージ画像

パーソル総合研究所と中央大学が共同で実施した「労働市場の未来推計2035」では、外国人就業者を含めた「労働力」の需給関係について推計を行った。2023年の外国人就業者は実績値で約205万人、本推計によれば2030年は約305万人、2035年は約377万人と増加する見込みである。今回の推計で外国人就業者を含めたのは、外国人就業者の存在感が今後ますます大きくなるとの見立てから、日本社会の「労働力」を精緻に捉えるためには必要と判断したためである。

本コラムで取りあげるのは、外国人就業者の中でも「高度外国人材」である。一義的な定義はないが、本コラムでは技術・技能レベルが相対的に高く、高等教育機関等を卒業した外国人就業者とする。日本政府は高度外国人材の受け入れを積極的に進めており、その数も増えているが、課題も指摘されている。そこで、本コラムでは、パーソル総合研究所が実施した調査を含めた各種調査結果から、日本企業の高度外国人材受け入れ体制について論じたい*1

*1:技能実習生に対する人権侵害がたびたび報道され、国際的にも強い批判を受けて、2024年に技能実習制度の廃止が閣議決定。技能実習制度は育成就労制度に組み替えられることになっているが、詳細がまだ見えていないこともあり、本コラムでは技能実習生については取りあげない。技能実習制度に対する国際的な批判については、以下の資料を参照。技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第1回)資料「技能実習制度に対する国際的な指摘について(外務省資料)」https://www.moj.go.jp/isa/content/001385807.pdf(2024年9月12日アクセス)

Index

  1. 高度外国人材の現状と背景
  2. 日本企業の高度外国人材採用に関する論理
  3. 日本企業が高度外国人材を受け入れるために必要なこと
  4. まとめ

高度外国人材の現状と背景

まず、日本政府が2012年に導入した「高度人材ポイント制」から、高度外国人材の現状を確認しよう。「高度人材ポイント制」とは、「高度学術研究活動」「高度専門・技術活動」「高度経営・管理活動」の3つの活動類型に対して、項目ごとにポイントを設定し、ポイントが一定以上になると「高度人材」と認定され、出入国在留管理上の優遇措置を受けられる制度である。2012年~2023年の約10年で「高度人材」認定件数は増加している(図表1)。増加の背景には、同制度の「高度人材」認定基準が緩和されたことや、永住許可申請に要する在留期間が短縮されたことがあるとされる*2

*2:総務省(2019)「高度外国人材の受入れに関する政策評価書」における「第2 政策効果等の把握の結果」 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/hyouka_r010625_02.html (2024年9月11日アクセス)

図表1:高度人材ポイント制の認定数(累計)の推移[件]

図表1:高度人材ポイント制の認定数(累計)の推移[件]

出所:出入国在留管理庁「高度外国人材の受入れ状況等について」より筆者作成


日本政府は外国人留学生を高度外国人材になり得る人材と位置づけており、高度外国人材の主な供給源と捉えているため、外国人留学生の状況も確認したい*2。外国人留学生数は、コロナ禍とされる時期を除き、一貫して増加傾向にあり、2023年度は約28万人に達している(図表2)。外国人留学生増加の背景には、日本政府がグローバル戦略の一環として2008年に「留学生30万人計画」を策定し、2020年までに外国人留学生を30万人受け入れる目標を設定したことがある*3

*3:「留学生30万人計画」関係省庁会議「「留学生30万人計画」骨子検証結果報告」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1405546_00004.htm (2024年9月13日アクセス)

図表2:外国人留学生数の推移[人]

図表2:外国人留学生数の推移[人]

出所:日本学生支援機構(JASSO)「2023(令和5)年度外国人留学生在籍状況調査結果」より筆者作成


このように高度外国人材および外国人留学生は増加傾向にあるが、課題もある。例えば、「高度外国人材ポイント制」で認定された高度外国人材の16.8%が国外に流出していると指摘されており*4、外国人留学生の約6割が卒業後に日本での就職を希望していながらも*5、実際は約4割しか就職できていない(約2割は違う進路に切り替えている)*6

*4:大石奈々(2018)「高度人材・専門人材をめぐる受入政策の陥穽」(『社会学評論』68(4))https://doi.org/10.4057/jsr.68.549 (2024年9月12日)
*5:日本学生支援機構(2022)「令和3年度 私費学生国人留学生生活実態調査概要」https://www.studyinjapan.go.jp/ja/statistics/daily-life/data/2008301726.html (2024年9月11日アクセス)
*6:日本学生支援機構「2021(令和3)年度外国人留学生進路状況調査結果」https://www.studyinjapan.go.jp/ja/statistics/career-and-degrees/data/2312031025.html (2024年9月11日アクセス)

日本企業の高度外国人材採用に関する論理

そもそも、日本企業はなぜ高度外国人材を採用するのであろうか。社会学者・園田薫が、大企業の中でも外国人材を積極的に採用している日本企業の人事部に対して行ったインタビュー調査の結果を見てみよう*7。人事部関係者の発言を一部引用する。

*7:園田薫(2022)「第2章 外国人を採用する日本企業の説明と認識:社会の論理と企業の論理の交差点」(松永伸太朗・園田薫・中川宗人編著『21世紀の産業・労働社会学:「働く人間」へのアプローチ』ナカニシヤ出版https://www.nakanishiya.co.jp/book/b604696.html(2024年9月13日)

マジョリティーだけに特化していると、その人間たちというのはある意味で言うと金太郎あめ的になりやすいわけですよね。(中略)そういう人たちがこれからの新しい価値を生んでいける人材なのかということで言うと、違うかもしれないというのが、たぶん最近の世の中が今考えていること。要するに新しい価値を、イノベーションを生み出せる人たちというのは、実はその周辺領域のところにいる人(外国人や女性)なんじゃないかと(中略)。(A社)

日本企業は、《マジョリティ》で構成される自分たちの組織にイノベーションを起こしてほしいという理由から、高度外国人材を採用していた。他方、採用では、日本人学生と同様の選抜条件を設定し、それをクリアした外国人留学生のみ採用しているという。すなわち、国籍を意識して採用したのではなく、結果的にその選抜条件をクリアしたのが外国人留学生だったという説明である。

本社での外国籍の社員というのは、特に国籍による何か区別というのは一切設けていなくて、自然体で採用して、今の人数の者がいるということなんですけれども。そういう意味で言うと、本社での採用基準というのは、当然面接等も日本語でやっていますし、そういう意味では日本語をビジネスレベルというか、普通に使える者を求めていますので、日本人の応募者と全く同じ選考で採っているというのが現状ですね。 (D社)

園田は、「実際に企業で採用された外国人は、日本人と異なる多様性をもった存在として期待されると同時に、日本人と同質的なふるまいをも期待されている」と日本企業の高度外国人材採用に関する論理を整理している。要するに、日本企業は《マジョリティ》である「日本人」が構築した従来のルールを変えないまま、イノベーションを起こしてくれる《マイノリティ》としての「外国人」を採用し、定着・活躍してほしいと考えているのだ。このことは、日本企業で高度外国人材として就業を希望する外国人にとって、ハードルが高いように思われる。このようなハードルの高さが、先述した高度外国人材ポイント制で認定された人材の国外流出や外国人留学生が希望通りに就職できていないことに繋がるのではないだろうか。

日本企業が高度外国人材を受け入れるために必要なこと

日本企業が高度外国人材を積極的に採用し、定着や活躍を促すために必要なものは何か。パーソル総合研究所が実施した「留学生の就職活動と入社後の実態に関する定量調査」から、高度外国人材(日本の大学を卒業し、日本にある企業に正社員として就職した元留学生)が日本企業に入社後受けたサポートに関する調査結果を見てみよう(図表3)。

回答率が最も高いのは、日本人と同様の「ビジネスマナー研修」である。点線で囲んでいる箇所は外国人向けのサポートにあたるが、いずれも2割以下となっている。「社内の標識、掲示、文章などが母国語や英語で作成されている」はわずか1割、「日本語以外で対応してくれる相談窓口がある」は1割以下である。日本企業の高度外国人材に対するサポートは、マジョリティである「日本人」が構築した従来のルールに適応するためのものであり、日本企業に適応するために必須と思われる「日本語研修」ですらほとんど提供されていない。端的にいえば、サポートが極めて少ないのだ。

図表3:高度外国人材が日本企業に入社後受けたサポート(%)

図表3:高度外国人材が日本企業に入社後受けたサポート(%)

出所:パーソル総合研究所(2020)「留学生の就職活動と入社後の実態に関する定量調査」


パーソル総合研究所が行った「日本で働く外国人材の就業実態・意識調査」によれば、高度外国人材を含む外国人材の「働き続けたくない」「人に勧めたくない」という意向に影響を与えているのは、「給与への不満」「業務とキャリアとの結びつきへの不満」「コミュニケーションへの不満」の3点であった(図表4)。「コミュニケーションへの不満」の中には「職場の異文化への無理解」も含まれている。これは、異なる文化や価値観を持つ高度外国人材をマイノリティとして日本企業が尊重するのではなく、自分たちへの適応を迫る対象と捉えていることの反映であろう。

図表4:「職場への不満」が引き起こす継続就業意向や他者推奨意向への影響

図表4:「職場への不満」が引き起こす継続就業意向や他者推奨意向への影響

出所:パーソル総合研究所(2020)「留学生の就職活動と入社後の実態に関する定量調査」


マイノリティである高度外国人材がイノベーションを起こすことを日本企業は期待しているが、同時に従来のルールに従うこと(郷に入っては郷に従え)も強く求めている。このような制約があると、イノベーションを起こすポテンシャルをもつ高度外国人材であっても活躍が難しいのではないだろうか。高度外国人材の採用・定着・活躍を日本企業が目指すのであれば、マジョリティである「日本人」がマイノリティである多様な背景をもつ高度外国人材の文化や価値観を尊重しつつ、それまで馴染んだ自分たちのルールを組み替えることが必要になるだろう。具体的には、高度外国人材の母国語や英語で書かれたマニュアル、日本語以外で対応してくれる相談窓口の整備が挙げられる。その上で、外国人材が日本企業で働き続けたいと思い、他人にも仕事を勧めたいと思うようになるためには、処遇改善やキャリアパスの明示化も重要となる。

高度外国人材は日本社会や日本企業にとって今後ますます重要となる。日本社会や日本企業がDiversity, Equity & Inclusionの理念に対してどれだけ本気なのかが、いま問われている。

まとめ

● 2023年の外国人就業者は実績値で約205万人、「労働市場の未来推計2035」によれば2030年約305万人、2035年約377万人と増加する見込みである。

● 日本政府は、高度外国人材の受け入れを積極的に進めており、その数も増えているが、定着や採用、活躍に関して課題もある。

● 日本企業は、高度外国人材に対してイノベーションを起こしてくれることを期待しつつ、同時にマジョリティである日本人が構築してきた従来のルールに従う人物であることを求めている。日本企業で就業を希望する高度外国人材にとって、日本企業が設定する日本人学生と同様の選抜条件や入社後のサポートが少ない職場に適応するハードルは極めて高い。

● 日本企業による入社後の高度外国人材に対するサポートは、「日本語研修」など、日本企業に適応するものが中心であり(それも十分ではない)、高度外国人材の言語・文化・志向に配慮したものではない。そして、「職場の異文化への無理解」のようなコミュニケーションへの不満は、勤めている企業を人に紹介したくないという気持ちを強くする。

● 日本企業が積極的に高度外国人材を受け入れるためには、マジョリティである「日本人」がマイノリティである多様な背景を持つ高度外国人材の文化や価値観を尊重しつつ、それまで馴染んできた自分たちのルールを組み替えることが必要となる。具体的には、高度外国人材の母国語や英語で書かれたマニュアル、日本語以外で対応してくれる相談窓口の整備があげられる。その上で、処遇の改善やキャリアパスの明示化も重要となる。

このコラムから学ぶ、人事が知っておきたいワード

※このテキストは生成AIによるものです。

高度外国人材ポイント制
高度人材ポイント制とは、「高度学術研究活動」「高度専門・技術活動」「高度経営・管理活動」の3つの活動類型に対し項目ごとにポイントを設定し、一定以上のポイントを得ると高度人材として認定され、出入国在留管理上の優遇措置を受けられる制度。

留学生30万人計画
留学生30万人計画とは、日本政府が2008年に策定した外国人留学生を2020年までに30万人受け入れる目標を掲げた計画である。 外国人留学生数は、コロナ禍とされる時期を除き、一貫して増加傾向にあり、2023年度は約28万人に達している。

執筆者紹介

児島 功和

シンクタンク本部
研究員

児島 功和

Yoshikazu Kojima

日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。


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