公開日:2024年6月25日(火)
調査名 | 精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査[上司・同僚調査] |
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調査内容 | ・精神障害者の雇用における受け入れ現場の負担感の実態と影響、その要因および解決策を明らかにする。 ・精神障害者の雇用がもたらす周囲へのポジティブな波及効果を明らかにする。 ・精神障害者の受け入れの成功と関連する上司・同僚の意識・行動を明らかにする。 |
調査対象 |
A. 精神障害者と働く上司:220名、同僚:509名、計:729名 |
調査方法 |
調査モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査期間 | 2024年2月6日-2月12日 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
アドバイザリー協力 | 神奈川県立保健福祉大学・東京通信大学 名誉教授 松為信雄氏 一般社団法人職業リハビリテーション協会理事、ハローワーク精神・発達障害者雇用サポーター(企業支援分)宇野京子氏 |
※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計と内訳の計は必ずしも一致しない場合がある。
※括弧内の数値はサンプル数を表す。
※倫理的配慮:本調査中の設問表現に十分に倫理的配慮がなされていることを、所属機関責任者に確認した。また、調査前に特定の人物について詳しく尋ねる設問があるが、個人が特定されることは一切ないこと、不快に感じることがあればいつでも回答を中止できることを明記した。
※調査対象者のA、Bについては、共に働く「精神障害者」や「その他の障害者」の障害種を認識している上司・同僚のみが対象。
※調査対象者B、Cについて、「その他の障害者」の大半(75%)は身体障害者で、「障害以外の事情」の大半(67%)は育児となっている。
調査報告書(全文)
精神障害のある従業員への対応について、「精神的な負担が大きい」と感じている上司・同僚は約4割であった。他方、「できるだけサポートしたい」と答えた上司・同僚も約8割と多数を占めた。
上司・同僚の受け入れの負担感が高いほど、精神障害者全体に対して「周囲が影響を受け疲弊する」などといったネガティブなイメージが強化され、イメージの悪化によって上司や同僚の支援的行動が少なくなる傾向が見られた。
精神障害者への配慮の実施数が多くても上司・同僚の負担感は増えない。他方、受け入れにおいて発生する課題の多さが負担感を増大させていた。
課題の中でも特に、「突発的な業務の肩代わり・サポート」といった業務コントロールの課題、「障害への配慮の仕方がわからない」「感情的に巻き込まれて疲弊する」などといったコミュニケーションや配慮の課題の影響が大きい。
精神障害者の受け入れにおける課題の発生を防ぐ方向性を探るべく、課題感の少ない職場、上司・同僚にはどのような特徴があるのかを分析した。
まず、業務コントロールの課題に関しては、「複数人でチームを組んで進める」「決まった作業手順やルールがある」「上司・同僚の残業時間が短い」などといった特徴のある職場では、業務コントロールの課題が発生しづらい。部署内の業務手順が可視化・共有しやすく、複数人でカバーし合えるような業務設計や体制の構築が有効といえる。
コミュニケーション・配慮の課題に関しては、感情的にならずに本人の意見を聞きながら具体的な対応をする上司や、回避的な行動をとらず他のメンバーと平等に接する同僚は、課題感が少ない傾向がある。
精神障害者と働くことに対して、「思っていたよりもコミュニケーションはスムーズにとれた」「思っていたより、自分の常識が通じた」など、事前の想定よりもポジティブだったと感じている上司・同僚の割合は、約7割と多い。
本調査では、精神障害者の受け入れ成功度について、「職場での受け入れはうまくいっている」「期待通りの業績・成果をあげている」「職場の仲間とうまくやれている」など、「総合評価」「業務パフォーマンス」「周囲との関係」から質問している。その回答率が高い職場(つまり精神障害者の受け入れ成功度が高い職場)では、約8~9割が「自分の中の障害者への偏見がなくなった」「多様な人と一緒に働きたいと思うようになった」や、「互いに助け合う雰囲気が強まった」「職場に個別配慮が広がることで、全員の働きやすさにつながった」など、精神障害者と一緒に働くことによる偏見の解消や多様性包摂の対応力・意識向上といったポジティブな波及効果を実感していた。成功度の低い群では効果の実感度が低いことから、波及効果を実感するには受け入れに成功することが重要であることが分かる。
精神障害者の受け入れ成功度の高さ別(低・中・高)に、上司・同僚のマインドセット・リテラシー・行動を見た調査結果を図10にまとめた。受け入れに成功している職場ほど、直属上司および同僚が、ダイバーシティや助け合いに肯定的なマインドセットや、障害者雇用についてのリテラシーを持ち、直属上司はエンパワメント(部下の能力開花)、同僚は平等な対応といった行動をとっている。
精神障害者の受け入れに成功している職場では、他部署の同僚の「困っている時の声かけ」「業務外の雑談」といった行動率が高いのも特徴的である。このような同部署より他部署の同僚の行動が受け入れ成功度と関連する傾向は、身体障害などの「その他の障害」や、育児などの「障害以外の事情」がある者の受け入れでは見られなかった。
また、図示はしないが、課題が少ない場合に限り、精神障害のある本人の協力的態度も、上司・同僚の負担感を軽減する傾向があった。こうした傾向は、身体障害などの「その他の障害」や、育児などの「障害以外の事情」がある者でも同様に見られた。
現場の上司・同僚に向けた人事の支援策としては、「本人の業務のカバーやフォローの評価・報酬への反映」「仕事のやり取りや進捗状況の可視化・共有」といった本人が不在時のマネジメントの支援、「(精神障害者の)入社時の職場見学・実習」といった採用時のマッチング強化、「配慮内容の明文化・共有」などが受け入れの成功につながりやすい。
本調査から、精神障害者の雇用において、共に働く上司・同僚の負担感が大きい現状が明らかになった。このような上司・同僚の負担感は、上司・同僚自身の“はたらくWell-being”を低下させ離職意向を高めるだけでなく、精神障害者全体に対するネガティブなイメージを強め、支援行動を減少させ、より受け入れが困難な風土につながることが示唆された。これまでもマタハラなどの問題で、負担を感じた周囲の不満の矛先が、会社ではなく産休・育休を取得する本人に向くことが指摘されてきた(*1)。周囲の負担感を軽減する職場の体制整備が必要だ。
上司・同僚の多くは本人へのサポート意欲があり、障害への配慮そのものに負担を感じているわけではない。業務コントロールやコミュニケーション・配慮の難しさといった課題が負担感を増加させていた。そのため、まずは複数人でカバーし合える体制構築や業務カバーの評価・報酬への反映などによって、業務の負担を軽減する。そして、上司・同僚への学習支援・啓発によって、マインドセットやリテラシー、適切な対応を学んでもらう必要がある。他部署の理解の醸成も精神障害者の受け入れで特に重要度が高い。また、本人の協力的態度が周囲の負担を大きく軽減していた点から、雇用の質のみならず、支援の質、本人のキャリアへの主体性の三位一体の取り組みが必要であることが示唆される。
なお、このような取り組みは、精神障害のみならず他の多様な人材への対応力を高める人材マネジメント力向上施策と位置づけられる。例えば、業務のカバー体制構築や生活面の問題把握は育児・介護者の対応に、わかりやすい業務指示は外国人材の対応に通じる。
上司・同僚の約7割は、精神障害のある従業員と働くことについて、事前の想定よりも実際の体験はポジティブだったとした。ただし、ただ受け入れるだけで偏見の解消や多様性包摂の対応力・意識向上といった好影響が得られるわけではなく、前提条件として受け入れに成功する必要がある。職場の多様性包摂の対応力・意識向上は上司・同僚の “はたらくWell-being”を高め、ひいては全従業員の働きやすさにつながると期待される。
今後も精神障害者の雇用は進むと予想されるが、雇用率だけを重視した安易な受け入れは、周囲も巻き込んだ悪影響をもたらす点で注意が必要だ。本人の能力発揮やキャリア形成を目的に、外部支援機関(*2)を巻き込みながら、採用や受け入れの体制を整える必要がある。
*1 小酒部さやか(2016)「マタハラ問題」ちくま新書
*2 外部支援機関とは、障害者就業・生活支援センターをはじめ、障害者の就労・生活を専門的な知見を基に支援する行政、福祉、医療機関を指す
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査[上司・同僚調査]」
調査報告書全文PDF
精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査[上司・同僚調査]
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