障害のある就業者の「はたらくWell-being」実現に向けた課題と方策

公開日 2023/09/11

執筆者:シンクタンク本部 研究員 金本 麻里

精神障害者雇用コラムイメージ画像

障害者福祉の世界では、障害者のWell-being(幸福)が損なわれている現実を打破するために、さまざまな法整備や政策、支援が行われてきた。広辞苑によれば、福祉とは、「幸福」を意味している。福祉は、すべての人に最低限の幸福を保証するために存在するとされる。

障害者福祉の一環として、障害者の就労支援が行われているが、その出口である障害者雇用(一般企業等での就労)では、障害によって生じる業務遂行上の障壁を、合理的配慮によって、企業の過重な負担にならない範囲で取り除くことが努力義務となっている(令和6年4月より義務化)。しかし、一部の組織での障害のある就業者に対する虐待(経済的虐待が最多)※1が問題視されるように、現実には障害者の仕事を通じた幸福の実現は道半ばといえる。

パーソル総合研究所では、2020年より、就業者の「はたらくWell-being」についての調査研究を実施してきた※2。「はたらくWell-being」とは、「仕事を通じて、喜びや楽しみを感じることが多く、怒りや悲しみといった嫌な感情をあまり感じずにいる状態」と定義され、要約すれば仕事を通じた幸福感を表す。 2023年1-2月には、障害者、とりわけ近年就職例が増加している精神障害者の就業実態・意識に関して調査を実施し、その中で「はたらくWell-being」についても検討した※3。本コラムでは、その結果をもとに、障害のある就業者の「はたらくWell-being」実現に向けた課題と、実現のために企業や周囲に何ができるのかについて見ていきたい。

※1 厚生労働省「令和3年度使用者による障害者虐待の状況等」
※2 パーソル総合研究所(2020)「はたらく人の幸せに関する調査」、(2021)「はたらく人の幸せに関する実証研究」(2021)「はたらく人の幸せに関する調査【続報版】(テレワーカー分析編)」(2023)「グローバル就業実態・成長意識調査―はたらくWell-beingの国際比較」
※3 パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)(2023)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」

本調査における「精神障害者」の定義
精神障害者の定義は場面によってさまざまだが、本調査では気分障害や神経症性障害、統合失調症、依存症、てんかん、およびそれらの関連疾患を抱えている方(高次脳機能障害、認知症、発達障害、性同一性障害は除く。)と定義。つまり、後天的に発症することが多い心の病気を抱える方を対象としている。
  1. 障害者がより幸福に働くために重要な点(障害のある就業者の声)
  2. 障害者の「はたらくWell-being」は定着・活躍につながる
  3. 障害者の「はたらくWell-being」を高める企業の対応
  4. 障害者の「はたらくWell-being」を高める周囲の対応
  5. まとめ

障害者がより幸福に働くために重要な点(障害のある就業者の声)

障害者がより幸福に働くために重要なことを知るには、障害のある就業者本人に尋ねることが近道であろう。障害のある就業者883名(精神・発達・身体障害者のみ)に行ったアンケート調査の自由記述回答結果を図1に示した。障害者がより幸福に働くために重要な点として、「周囲の理解」を挙げる声が最も多く、次いで「待遇の向上」「合理的配慮」が多かった。

図1: 「障害者が幸福に働くために重要な点」についての障害のある就業者の声

図1: 「障害者が幸福に働くために重要な点」についての障害のある就業者の声

出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」[障害者個人調査]


「周囲の理解」の記述例からは、障害者の実態が世に広まっていないことが、周囲の理解の乏しさ、ひいては働く上での厳しさにつながっていることが読み取れる。その他に、「こちらもお願いや説明はしていても、本当の意味で理解しようとしてもらえない。(中略)弱い立場なので、甘く見られていると感じます。」といった声もあった。
自身が抱える事情について説明したにもかかわらず、理解しようとしない職場で働き続けることは困難だ。障害に限らず、育児や介護、能力の偏りなどでも同じことがいえるだろう。このような多様な制約をもった従業員を包摂する姿勢は、昨今の企業でますます求められているが、こと障害については包摂の前提となる知識が不足していることが多いのではないか。

この観点に関連して、「区別しない対応」「障害者と括らず個別対応」の回答をみると、「障害者」と括り、健常者の従業員と別の存在と思われることへの違和感を指摘する声も少なくないことが分かる。記述例の他にも、「障害者というだけで、過剰に親切に教えてくれるが、「そのくらい分かるわ」と言いたくなることが多々あり、バカだと思われてるのかな、と傷つく。」という声もあった。世間一般で共有されている「障害者像」のステレオタイプは、障害のある就業者の実情とは乖離しており、職場でのコミュニケーションでも悪影響が起きていることが分かる。また、障害の特性や程度は人によってさまざまであるにもかかわらず、「障害者」と括られることで、業務内容が一律で柔軟性がないなど、働く上での困難につながっていることも指摘された。

障害のある人と接した経験が乏しい場合に生じやすいステレオタイプ(偏見)は、当事者からすれば疎外感や理不尽さを感じ、幸福感を大きく損なう体験となり得る。このようなステレオタイプが、知識不足と相まってますます正しい理解を損っていると考えられる。ステレオタイプを克服するには現実を自分の目で確かめたり、自身で気づく癖を身につけることが重要だと言われる。

「待遇の向上」の回答では、収入面の困り感や不公平感について指摘するものが多かった。障害を理由に待遇を下げることは法律で禁止されているが、合理的配慮の分、他の一般社員に比べて給与や昇進機会が少ないことは多い。このような他社員との待遇の違いについて、企業の説明に納得感が持てることも重要であることが分かる。

「合理的配慮」については、企業は過重な負担にならない範囲で提供すればよいことになっているため、希望したものの職場で得られなかった配慮について、「○○ような配慮があってほしい」と望む声が多かった。

なお、障害者側の態度・行動の改善を挙げる声も少なくなかった。例えば、「仕事への意欲」の回答では、「配慮や支援をしてもらって当たり前だと思っている障害者が多いように感じる。」のように、障害者側の甘えを問題視している。障害者がこのような姿勢になってしまう原因のひとつに、福祉的支援に慣れてしまうことがあるといわれる。福祉的支援に慣れてしまうと、配慮してくれる人々への感謝や、周囲に意欲を見せることの大切さに気付けなくなるのだ。令和6年(2024年)4月より義務化される合理的配慮は、働く上での機会や待遇の「公平さ」を、雇い入れる企業が過重な負担にならない範囲で担保することであり、職業人としての成果発揮や努力は他の一般社員と同様に本人の責務となる。そのため、「支援を受ける側である」という意識は、障害者自身が払しょくしていく必要があるのかもしれない。

障害者の「はたらくWell-being」は定着・活躍・安定就労につながる

同調査では、障害のある就業者の「はたらくWell-being」が高ければ、現職場への定着意向や活躍度、安定就労度、昇進・昇格意向がいずれも高いことが確認された(図2は精神障害者について。身体障害者や発達障害者についても同様の傾向を確認)。

図2:精神障害者の「はたらくWell-being」と、定着や活躍との関係

図2:精神障害者の「はたらくWell-being」と、定着や活躍との関係

※「はたらくWell-being」は、「私は、はたらくことを通じて、幸せを感じている」「私は、はたらくことを通じて、不幸せを感じている(逆転項目)」の平均値

出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」[障害者個人調査]


「はたらくWell-being」は従業員の定着率や活躍度を高めるため※4、経営戦略としても近年重視されている。障害のある従業員や、障害者雇用に取り組む企業にとっても重要な視点だといえる。

※4 パーソル総合研究所(2020)「はたらく人の幸せに関する調査」、(2021)「はたらく人の幸せに関する実証研究」

障害者の「はたらくWell-being」を高める企業の対応

では、障害者の「はたらくWell-being」を高めるために、企業のどのような対応が有効かについて、同調査の定量的な分析結果も見ていきたい。障害者枠での就労の場合に限定して分析すると、さまざまな企業の対応の中でも、「就職時の配慮内容の丁寧なすり合わせ」が「はたらくWell-being」を高めていた(図3)。障害は一括りにはできず、人によって必要な配慮は異なるからこそ、配慮を丁寧にすり合わせることの重要性が浮かび上がったと考えられる。

図3:精神障害者、身体障害者の「はたらくWell-being」を高める企業の対応

図3:精神障害者、身体障害者の「はたらくWell-being」を高める企業の対応

出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」[障害者個人調査]


しかし、「就職時に配慮内容を丁寧にすり合わせてもらえた」と感じている障害のある就業者は、精神障害者の28.4%、身体障害者の23.9%、発達障害者の21.1%と3割にも満たず、改善の余地があった。
また、精神障害者において「全従業員に向けた啓蒙」が「はたらくWell-being」を低下させていた点も注目すべきだ。これは、障害者への過剰な気遣いや特別視が強まることによると考えられる。啓蒙活動では、特別視を助長してしまわないか、注意する必要がありそうだ。

「能力・適性に合った業務」「仕事の質」といった業務内容面も、「はたらくWell-being」と関連が強かった(図4は精神障害者について。身体障害者や発達障害者でも類似した傾向※5)。今回の調査では、「適性に合った仕事ができている」との回答が全体の半数を超えていたが、障害があると能力や適性、過去のキャリアに合う仕事が見つからないというケースは多く聞かれる。障害者雇用では比較的難度の低い業務や納期が緩やかな業務などを切り出すことが一般的だが、店舗や専門性の高い部署など一見、適していなさそうな部署でも業務が切り出せる場合があるため、柔軟な目で見直してみることも重要になるだろう。

※5 発達障害者については「単調ではなくさまざまな仕事をしている」は無関連。

図4:精神障害者の「はたらくWell-being」と、評価・処遇の関連

図4:精神障害者の「はたらくWell-being」と、評価・処遇の関連

出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」[障害者個人調査]

障害者の「はたらくWell-being」を高める上司・同僚の対応のポイント

周囲の上司・同僚の対応については、上司の対応が障害のある本人の「はたらくWell-being」を左右する重要な要因であることが分かった(図5)。中でも、「肯定的なフィードバック」「公正な評価」「業務フォロー」などは関連が強いが、これは就業者一般への調査と類似した傾向であり、障害の有無は関係ないと考えられる。障害者特有の傾向として、「障害への配慮」や「障害への否定的態度のなさ」、「平等な対応」も関連が強い。

図5:障害のある就業者の「はたらくWell-being」を高める上司・同僚の行動

図5:障害のある就業者の「はたらくWell-being」を高める上司・同僚の行動

※値が大きい程、障害のある就業者の「はたらくWell-being」を強く左右することを表している。

出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」[障害者個人調査]


とりわけ精神障害者については、同僚の「障害への否定的態度のなさ」「区別しない対応」といった態度・行動が、「はたらくWell-being」を左右していた(図5、6)。周囲の同僚が、精神障害のある本人に対して、配慮を受けているために休みが多いといって否定的な態度をとったり、気を遣い過ぎて腫れ物に触るように接したりすると、本人の精神的な負担になりやすいと考えられる。企業としては一緒に働く同僚にも障害への配慮や接し方のポイントを説明したほうがよいと考えられる。

図6:精神障害者の「はたらくWell-being」を高める同僚の行動

図6:精神障害者の「はたらくWell-being」を高める同僚の行動

出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」[障害者個人調査]

まとめ

本コラムでは、障害のある就業者の「はたらくWell-being」実現に向けた課題と、実現のために企業や周囲ができることについて、調査結果から解説した。本コラムのポイントは以下の通りである。

・障害者がより幸福に働くために重要な点として、障害のある就業者から、「周囲の理解」「待遇の向上」「合理的配慮」を挙げる声が多かった。また、障害者と括られたり区別されたりすることへの違和感や、障害者側の仕事に対する意欲や態度・行動の改善を指摘する声も挙がった。
・障害のある就業者の「はたらくWell-being」は、定着・活躍につながるため、企業にとっても重要な視点である。
・障害のある就業者の「はたらくWell-being」を高めるためには、「合理的配慮の丁寧なすり合わせ」が重要だが改善の余地が大きい。上司や同僚は、障害への理解と配慮をしながらも分け隔てなく対応することが重要。特に、精神障害者は同僚の態度・行動に影響を受けやすいため、重要なポイントだ。

本コラムが、障害者雇用に関わる企業や個人の一助となれば幸いである。

執筆者紹介

金本 麻里

シンクタンク本部
研究員

金本 麻里

Mari Kanemoto

総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。


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