公開日:2023年7月10日(月)
調査名 | パーソル総合研究所 「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査[企業調査]」 |
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調査内容 |
・一般企業の障害者雇用に対する意識と障害者雇用市場のマクロ的な動向を明らかにする。 |
調査対象 |
①一般企業:691社 ②特例子会社:37社 ③就労継続支援A型事業所・その他:18社 計:746社 【郵送先】 【除外対象】 |
調査期間 |
2023年 1月17日-2月9日 |
調査手法 |
郵送法によるWEBアンケート調査(QRコード記載のハガキを郵送し、WEBのみで回答を求める) |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
調査名 | パーソル総合研究所 「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査[障害者個人調査]」 |
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調査内容 |
・精神障害(精神疾患)のある就業者(障害者手帳を保持)の就業実態の特徴を明らかにする |
調査対象 |
【有効回答者】『dodaチャレンジ』のメールマガジンに登録している障害者 883名、うち精神障害者205名 【アンケート調査配信条件】※配信時に用いた登録情報の就業状況とアンケートで回答された就業状況は異なる場合がある 【回答者条件】 |
調査期間 |
2023年 2月7日-2月28日 |
調査手法 |
WEBアンケート調査(『dodaチャレンジ』のメールマガジンにて配信) |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計と内訳の計は必ずしも一致しない場合がある。
※倫理的配慮について
【企業調査】回答開始前に、調査の目的と内容、個人名・個社名・個別のデータが第三者に開示されないことについて説明し、任意で回答を求めた。個人情報の取得(任意回答)にあたっては、回答前に取得の目的と個人情報の取り扱いについて説明し、同意を得た。
【個人調査】本調査は、無記名で実施し、調査の目的と内容、個人情報の取り扱いについて説明し、同意を得たうえで回答を得た。個人情報の取得(任意回答)にあたっては、回答前に取得の目的と個人情報の取り扱いについて説明し、同意を得た。調査中の設問表現に十分に倫理的配慮がなされていることを、所属機関責任者および専門機関に確認した。
調査報告書(全文)
障害者を3人以上雇用する一般企業(特例子会社を除く企業のこと、以下同様)に対し、直近5年間の障害者の雇用数増減を聞いたところ、精神障害者の雇用が「増えた」とする企業が33.8%と、身体障害者や知的障害者などほかの障害種に比べ最も多い。
図1.障害者の雇用増減(障害種別)
しかし、一般企業の雇用ノウハウの蓄積状況を見ると、精神障害者においては、雇用ノウハウが「蓄積途上の段階にある」「雇用経験が乏しく手探り状態だ」とする企業が57.0%と過半数を占めており、特に「手探り状態」は25.5%と全障害の中で最も多い
図2.障害者の雇用ノウハウの蓄積状況(障害種別)
一般企業および特例子会社に、障害者雇用に対する企業としての態度を聞くと、一般企業では「障害者には成果発揮は求めず安定的に働いてもらうことを重視している」が55.3%と過半数を占め、「障害者の業務能力育成を重視している」の34.4%を上回る傾向にあった。また、「障害者雇用は社内で優先度が低く、人や資金が割かれていない」割合は、28.9%にのぼる。
図3.企業の障害者雇用に対する態度
精神障害者を雇用し、ノウハウが蓄積できている一般企業では、ノウハウが蓄積できていない企業に比べ、精神障害者に対して、「適切な治療を続けていれば、就労できる人は多い」「仕事の潜在能力が高い人が多い」といった肯定的なイメージが多い傾向にある。また、「どう接したらよいか分からない」「何をするか分からないので恐ろしい」など接し方への懸念に関するイメージは減少する傾向が見られ、雇用経験がイメージを肯定的に変化させると考えられる。
図4.障害者雇用担当者の精神障害者のイメージ
精神障害のある就業者に対し、働く上での困りごとや不満を聞いたところ、障害者枠で働いている人では、「教育・研修機会が少ない」「仕事が簡単・単調すぎる」といった『成長機会のなさ』が多いのに対し、一般枠で働いている人では、「障害をうち明けられない」「人間関係に馴染めない」などの『コミュニケーション』に関する困りごと・不満が多い傾向が見られた。
*障害のある人が就職・転職する場合、「一般枠」「障害者枠」の2つの採用枠から選択が可能。「障害者枠」は企業が障害者を雇用するために設けた求人枠を指し、「一般枠」は障害者用ではない一般の求人枠を指す。
図5.精神障害のある就業者が特に感じている「困りごと・不満」
精神障害のある就業者に対し、自身の定着や活躍、安定就労の度合いを聞くと、一般枠よりも障害者枠で働く人のほうが、「任された役割を果たしている」といった活躍度を評価する回答ポイントが高く、安定就労ができている傾向がある。身体障害者でも、障害者枠で働く人のほうが「定着度」が高い傾向が見られたが、「活躍度」「安定就労」については差異が見られなかった。
図6.雇用枠別に見た精神障害者の定着度・活躍度・安定就労
精神障害者においては、障害発生後に「一般枠と障害者枠両方」の就労経験がある割合が41.5%と、他障害種よりも多い。また、調査時点における障害者枠就労者の過半数が、障害発生後に一般枠でも就業した経験を持つ。この要因として、社会的偏見等により精神障害を開示する心理的ハードルが高いことや、待遇の面で一般枠就労を試みるケースが多いことが考えられる。
図7.障害発生後の就労経験
企業調査・個人調査の結果をもとに、精神障害者の定着・活躍を促す人事施策について探った。なお、精神障害のある就業者(個人調査)に関しては、個人によって回答された定着度や活躍度が、各回答者の所属する企業の障害者雇用の方針や雇用形態に左右されるため、「はたらくWell-being」に着目して分析した。本調査にて、精神障害のある就業者の「はたらくWell-being」は勤務先における定着度・活躍度を高める、ということが明らかになっている。
図8.精神障害者の定着度・活躍度を高めている「はたらくWell-being」
分析の結果、精神障害者の定着・活躍を促していた人事施策をまとめたのが下図である。
図9.精神障害者の定着・活躍を促す[人事施策]のポイント
特に、「採用計画の立案」「職場見学・実習の実施」「障害者トライアル雇用の活用」(採用時のマッチング強化)、「雇用管理方法の明文化」(現場・個人双方への支援)、「休暇をとりやすい制度」「多様な働き方の整備(時短勤務制度やテレワークなど)」(障害者個人への支援)を行っている企業では、精神障害者の定着・活躍度が高い傾向が見られた。また、精神障害のある就業者の「はたらくWell-being」を高めている配慮は、「就職時の配慮内容の丁寧なすり合わせ」「上司との定期的な面談」であった。
さらに、精神障害者を取り巻く社内関係者の中で配属先の「管理職(責任者)」のみ、雇用意欲が定着・活躍に寄与していた。しかし、管理職(配属先現場の責任者)が障害者雇用に意欲的な一般企業の割合は24.3%にとどまる。管理職(配属先現場の責任者)の意欲喚起には、人事からの「現場への情報提供」や「業務の切り出し」、「受け入れ先上司と障害者個人の定期面談」、「トラブル対応方法の明文化」といった支援が有効であることが分析から見えている。
次に、精神障害者の定着・活躍を促す「上司や同僚の対応」について探った。分析の結果をまとめたのが、下図である。
図10.精神障害者の定着・活躍を促す[現場対応]のポイント
上司・同僚ともに、「他のメンバーとの平等な対応」「肯定的なフィードバック・存在承認」が、「障害への配慮」以上に「はたらくWell-being」と強く関連しているほか、同僚については、「本当に配慮を受ける必要があるのか疑われない」といった「障害への否定的態度のなさ」も強く関連しており、平等性や肯定的態度の重要性が改めて確認された。他障害に比べて精神障害のある人においては、特に「同僚」の行動が「はたらくWell-being」を高めているという特徴が見られており、精神障害者の受け入れにおいては、上司だけでなく同僚への情報提供や理解促進がより重要と考えられる。
また、精神障害のある就業者自身が、自身の希望する配慮や能力について自己開示しているほど、上司や同僚からの配慮を受けている傾向も見られている。
近年、障害者の法定雇用率は継続的に引き上げられており、企業は障害者雇用の取り組みを深化させることが求められている。そのような中、精神障害者の雇用数は急速に増加しているが、その雇用ノウハウは蓄積途上にあることがデータからも明らかになった。また、障害者雇用の経験が浅い企業では、精神障害者の就労可能性や能力を過小評価する傾向があることや、いまだ多くの企業が障害者に能力を発揮してもらうことより、義務化された雇用数の確保を優先する傾向があることも見えてきた。
一方、一般枠での就労よりも障害者枠での就労のほうが、精神障害のある就業者の「はたらくWell-being」は良好な傾向にあった。これはすなわち、企業の雇用ノウハウが未熟な中での配慮であっても、障害者手帳を提示して配慮を受ける働き方のほうが、精神障害のある就業者の安定的就労と活躍が促進されているということである。しかし、障害開示や障害者枠での就労への心理的ハードルの高さから、障害発生後、障害者枠での就労に至るまでに一般枠を経る人が多い傾向も見られた。
また、障害者枠で働く就業者からは「成長機会のなさ」への不満が高い傾向も見られた。単純作業しか業務が用意されていない職場や、戦力化を求めないような雇用態度の企業は、就労経験や高い能力を持つ精神障害者にとって魅力的ではない。こうしたことから、就労経験や能力のある精神障害者も視野に入れ、障害者枠の求人(業務内容幅など)の拡大が求められるほか、障害者雇用やロールモデルに関する情報発信などにより、障害者枠での就労を前向きな選択肢の1つとして柔軟に活用できる空気づくりが一層必要になるといえよう。
昨今広がりを見せるDI&EやESG投資(*)への理解や活動がさらに進めば、企業利益の源泉としての障害者雇用の重要性は増す。精神障害者の雇用ノウハウの蓄積は、精神障害者の就労可能性に対する企業の誤解を解くとともに、ますます身近になるメンタルヘルスの問題を包摂する力を企業が得ることにもつながる。障害者、中でも精神障害者を雇用する意義をとらえ直す必要があるのではないだろうか。また、現場においては、精神障害を抱える個別の事情に対応することが重要ではあるが、本記事で紹介したような実証的なデータによって大局を把握することで、一定の雇用の質の担保につながるものと考える。ぜひ参考にしていただければ幸いである。
*企業の業績だけではなく、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)に対する取り組みを考慮した投資行動。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」
調査報告書全文PDF
精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査
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