公開日:2023年4月12日(水)
調査名 | パーソル総合研究所 「グローバル就業実態・成長意識調査 -はたらくWell-beingの国際比較」 |
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調査目的 | 世界18ヵ国・地域の主要都市の人々のはたらくWell-beingの実態やその要因について明らかにすることを通じて、日本のはたらくWell-beingがなぜ低いのかを考察する。 |
調査対象エリア | 18ヵ国・地域(調査都市) 【東アジア 】日本(東京、大阪、愛知)、中国(北京、上海、広州)、韓国(ソウル)、台湾(台北)、香港 【東南アジア】タイ(グレーターバンコク)、フィリピン(メトロマニラ)、インドネシア(グレータージャカルタ)、マレーシア(クアラルンプール)、シンガポール、ベトナム(ハノイ、ホーチミンシティ) 【南アジア 】インド(デリー、ムンバイ) 【オセアニア】オーストラリア(シドニー、メルボルン、キャンベラ) 【北 米】アメリカ(ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス) 【ヨーロッパ】イギリス(ロンドン)、ドイツ(ベルリン、ミュンヘン、ハンブルグ)、フランス(パリ)、スウェーデン(ストックホルム) |
サンプル数 | 各国・地域 約1,000サンプル |
割付 | 性・年齢による均等割付、収入による緩やかな割付(ソフトクォータ) |
対象条件 | ・20~69歳男女 ・就業している人(休職中除く) ・対象国に3年以上在住 |
調査時期 | 2022年 2月10日-3月14日 |
調査方法 | 調査モニターを対象としたインターネット定量調査 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。
調査報告書(全文)
世界18ヵ国・地域の主要都市の人々の仕事におけるWell-being(より良い状態)を表す「はたらくWell-being」の実態を把握するため、はたらくことを通じてどれほど「幸福感(はたらく幸せ実感)」と「不幸感(はたらく不幸せ実感)」を主観的に感じているかを確認した。
「幸せを感じている」就業者は、日本で49.1%と18ヵ国・地域中最下位。一方、「不幸せを感じている」日本の就業者は、18.4%(15位)と良好だった。日本は、はたらくことを通じて幸福感を感じている就業者は少ないが、不幸感を感じている就業者も少ない傾向が確認された。
図1.「はたらく幸せ実感」「はたらく不幸せ実感」の状況
いずれの国・地域においても、「はたらく幸せ実感」は、個人パフォーマンスやクリエイティビティ、ワーク・エンゲイジメントを高める影響が確認された。一方、「はたらく不幸せ実感」が高いとワーク・エンゲイジメントとクリエイティビティが低下する傾向が、とりわけ日本は他国・地域よりも大きかった。すなわち、日本においては、「不幸を感じていないこと」が組織にとっても好ましい行動を下支えしていることが示唆された。
図2.「はたらく幸せ実感」「はたらく不幸せ実感」の効果
なぜ日本の「はたらく幸せ実感」が低いのか、その要因を調査したところ大きく以下の点が明らかになった。
①40代以下や被雇用者の「はたらく幸せ実感」が低く「はたらく不幸せ実感」が高いため
②「権威主義・責任回避」の組織文化が強いため
③「はたらく幸せ実感」とは無関連の「賃金重視」の価値観が強いため
④就業者の寛容性が低いため
⑤業務外の学習・自己啓発の実施率が最も低く成長実感が低いため
⑥労働時間が男性に偏り、男性の「はたらく幸せ実感」が低いため
それぞれの要因について詳細を紹介する。
日本は、20~40代の「はたらく幸せ実感」が50代以上と比較して低く、「はたらく不幸せ実感」が高い傾向。日本では、若手ほど職位が低い傾向があり、若年層の抜擢人事が少ないことが若手の「はたらくWell-being」が低い一因とも考えられる。 なお、この傾向は韓国・台湾・香港でもみられた。
図3.「はたらく幸せ実感」「はたらく不幸せ実感」の状況(年代別)
また、雇用形態別に見ると、日本では被雇用者(正規・非正規ともに含む)の「はたらく幸せ実感」が、その他の雇用形態(自営業、自由業、専門家)に比べて低い傾向が顕著にみられた(18ヵ国・地域中最も「はたらく幸せ実感」の肯定割合の差が大きい)。
図4.「はたらく幸せ実感」の状況(雇用形態別)
職場の組織文化は、「はたらく幸せ実感」と強く関連していることが分かった。18ヵ国・地域全体を見ると、「はたらく幸せ実感」とプラスに関連する組織文化ほど強い傾向にある。
しかし、日本の傾向を見ると「上層部の決定に従う」、「社内では波風を立てないことが重要」など、「はたらく幸せ実感」とマイナスに関連している「権威主義・責任回避」の組織文化の傾向が強い。
図5.組織文化と「はたらく幸せ実感」の関係
労働価値観と「はたらく幸せ実感」は強く関連することが分かった。仕事において「所属組織に自分を捧げる」、「持てる力を出し切る」、「同僚の役に立つ」、「社会の人々を助ける」といった労働価値観を重視することは、「はたらく幸せ実感」とプラスに関連する。しかし、これらの労働価値観のうち「所属組織に自分を捧げる」を日本の就業者は重視しない傾向があり、また「はたらく幸せ実感」とは関連がほとんどみられない「良い生活をするのに十分な賃金を稼ぐ」を重視する傾向が強い。
図6.労働価値観と「はたらく幸せ実感」の関係(18ヵ国・地域全体・日本比較)
「自分とは考え方や好み、やり方が違う人とも積極的に関わる」など、寛容性(異質な他者への非排他性)が高い国・地域ほど、「はたらく幸せ実感」が高く、「はたらく不幸せ実感」が低い傾向が見られた。日本の就業者の寛容性は、18ヵ国・地域の中で香港に次いで2番目に低い。日本の人生における幸福度が低い一因として「他者への寛容性」の低さが指摘されているが*、本調査から「はたらくWell-being」においても同様の傾向が確認された。
*4国連「World Happiness Report 2022」
図7.寛容性と「はたらく幸せ実感」の関係
さらに、就業者の寛容性が高い国・地域ほど、「職場の相互尊重」の組織文化が強い傾向も確認された。しかし、日本は「職場の相互尊重」の組織文化 が18ヵ国・地域中一番低い。「職場の相互尊重」が強い場合、「はたらく幸福実感」が高く「はたらく不幸せ実感」は低い傾向にある。また、日本においても寛容性の高い就業者は、「職場の相互尊重」が強い組織に所属している傾向が見られた。個々の就業者の寛容性は、良好な組織文化と関連しながら、「はたらく幸せ実感」「はたらく不幸せ実感」を改善していることが示唆される。
図8.寛容性と組織文化「相互尊重」の関係
日本は、成長を「とても実感した」就業者の7割以上が業務外の学習・自己啓発を実施していたのに対し、「どちらでもない~まったく実感しなかった」と答えた就業者のうち、業務外の学習・自己啓発をしていたのは約3割にとどまった。日本において業務外の学習・自己啓発は成長実感を促進する一要素と考えられる。しかし、日本ではそれらの活動を、「とくに何も行っていない」就業者が52.6%と、18ヵ国・地域中最も高い。
図9.業務外の学習・自己啓発実施率(成長実感度別)
いずれの国・地域、年代でも、過去1年間で仕事において成長を実感した就業者は、「はたらく幸せ実感」を感じている割合が高く、仕事で成長を実感できるかどうかは「はたらく幸せ実感」に密接に関わっているといえる。しかし、日本の成長実感度は低く、成長を志向しているが実感できていない人の割合(成長実感度-成長志向度GAP)も18ヵ国・地域中最も多く、成長を実感しづらい様子がうかがえる。
図10.成長志向度と成長実感度
日本は、女性に比べ男性の「はたらく幸せ実感」が低く、男女差(女性ー男性)は7ptと18ヵ国・地域中で最もギャップが大きかった。
図11.「はたらく幸せ実感」の状況(性別)
週当たり平均勤務時間の男女間の差(女性ー男性)を見ると、-3.3時間と18ヵ国・地域中最も大きく、女性のほうが勤務時間が短い。週当たり勤務時間が短いほうが男女ともに「はたらく幸せ実感」が高い傾向があるため、この点が日本の男性の「はたらく幸せ実感」が低い一因と考えられる。
図12.正社員、公務員の週当たり平均勤務時間(男女別)
パーソル総合研究所の独自の国際調査や米国の調査会社であるGallup社との共同調査*1など、日本の「はたらくWell-being」の低さを指摘する調査報告は少なくない。そこで、本報告書では、『なぜ、日本の「はたらく幸せ実感」は低いのか?』との問いを立て、その背景やメカニズムの解明を試みた。その際、「幸せ」と「不幸せ」という概念は併存し得る弁別可能な概念とした先行研究*2を前提として多面的に詳細分析を行った。
本調査を通じ、日本の「はたらく幸せ実感」が低い背景とそのメカニズムには、日本の雇用慣行や組織文化、価値観といった要素が根深く影響していることを確認した。社会において年月をかけて形成・継承され、広く共有された慣行や文化、価値観といったものは一定の秩序と安定の上に成り立っているため容易に変容し難い。
しかし、官民挙げて人的資本投資やリスキリングが注目され、さまざまな助成施策が展開される今日、日本の就業者はなぜ成長実感が得難く、自己に投資する行動に至らないのかといった根本的な問いに改めて向き合う必要がある。コロナ禍を経て、就業者一人ひとりの価値観に少なからず変化が生じているこの時期こそ、容易には変容し難い組織文化や雇用慣行などへの介入を試みる好機ととらえたい。本調査のデータや観点が、今後の議論を深めることに資すれば幸いである。
*1 パーソルホールディングス『「はたらいて、笑おう」グローバル調査』。World Happiness Reportの元データとして提供
*2 井上亮太郎ら(2022)職業生活における主観的幸福感因子尺度/主観的不幸せ実感因子尺度の開発
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査 -はたらくWell-beingの国際比較」
調査報告書全文PDF
グローバル就業実態・成長意識調査-はたらくWell-beingの国際比較
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