現在、日本は前例を見ないほどの
人手不足に直面しています。
読者の方々も、様々な場面で人手不足を
実感されていることだろうと思われます。
しかし、需要と供給のギャップが明確になっておらず、
先の見通しが立たないため、
対策に繋がっていないのが現状です。
そこで、パーソル総合研究所では、中央大学経済学部の
阿部正浩教授と共同開発した「予測モデル」を使用し、
2030年時点での人手不足の状況を
推計しました。
公開日:2019年2月1日
現在、日本は前例を見ないほどの
人手不足に直面しています。
読者の方々も、様々な場面で人手不足を
実感されていることだろうと思われます。
しかし、需要と供給のギャップが明確になっておらず、
先の見通しが立たないため、
対策に繋がっていないのが現状です。
そこで、パーソル総合研究所では、中央大学経済学部の
阿部正浩教授と共同開発した「予測モデル」を使用し、
2030年時点での人手不足の状況を
推計しました。
公開日:2019年2月1日
推計の結果、2030年には、7,073万人の労働需要に対し、6,429万人の労働供給しか見込めず、「644万人の人手不足」となることが分かりました。
産業別において、特に大きな不足が予測されるのは、サービス業、医療・福祉業など、現在も人手不足に苦しむ業種であることが分かりました。これらの業種は、少子高齢化やサービス産業化の進展により今後も大きな需要の伸びが予測され、労働供給の伸びがそれに追いつかないと考えられます。
今回の「予測モデル」は、「労働需要ブロック」「労働供給ブロック」「需給調整ブロック」の3ブロックからなり、相互に作用するこの3つのブロックを用いてシミュレーションを繰り返すことで、より精緻な予測を目指しました。「労働需要ブロック」では、2030年の産業計の労働需要を算出。「労働供給ブロック」では、2030年の労働力人口を算出。3つ目の「需給調整ブロック」では、「市場が埋めようとする需要と供給の差」を調整しました。労働需要量と労働供給量を用いてマッチングを行い、就業者数と失業者数を推計。その失業者数から実質賃金を推計し、その賃金レートにおける需給量を再び推計し、結果を得ました。
なお、この推計結果には、2つの前提条件があります。2030年までの経済成長と人口動態です。経済成長については、政府が2018年1月に発表した「中長期の経済財政に関する試算」を基に検討しました。人口動態については、国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口(2017)」を基に検討しました。推計結果が生じる前提には、これらの前提資料にあるような経済成長と人口減少・少子高齢化が進んだ日本の状況があります。
慶應義塾大学商学部卒業、慶應義塾大学大学院商学研究科単位取得中退、博士(商学)。(財)電力中央研究所経済社会研究所主任研究員、一橋大学経済研究所助教授、獨協大学教授を経て、2013年より現職。
2030年の人手不足を解決する方向性としては、労働供給を増やすか労働需要を減らすかしかありません。労働供給を増やす場合は、女性、シニア、外国人を増やす策が考えられます。また、労働需要を減らすには、生産性向上が不可欠です。それぞれの方向性において、どれくらいの人手不足解消が見込めるでしょうか。
対策1
女性の労働力を増やすにはどうすればよいのでしょう。ひとつには、女性の労働力率をグラフ化したときに現れる日本固有の「M字カーブ」をいかに解消するかが鍵となるでしょう。M字カーブを生じさせる大きな要因として、出産育児による離職が挙げられます。そこで、25歳〜49歳の間に現れるM字カーブの要因を「保育事情」のみと仮定して、その人数を試算しました。もちろん働けない理由にはさまざまな要因がありますが、今回は議論をシンプルにするために、前述の仮定のみとしました。この仮定では、保育所定員が増えて育児問題が解消された場合、25歳〜29歳時の労働力率が49歳まで維持されます。このとき創出される新たな労働力人口は、102万人となります。
保育サービスを充実させさえすれば、女性の働き手は増えるのでしょうか。断定は難しいです。しかし、都道府県別に保育所定員と女性の労働参加率の相関関係を調べてみると、「女性ひとり当たりの保育所定員が多い都道府県の方が、女性の労働参加率が高い」という傾向にあることが分かりました。パートなど短時間で柔軟な働き方を選択する人を含め、広く必要な人が必要なときに保育所を利用できるようになれば、もっと働く女性は増えるのではないでしょうか。
※総務省「国勢調査(2015)」、厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(2017)」、総務省統計局「人口推計(2016)」保育の受け皿はどれくらい必要なのでしょうか。まず、2030年における小学校に入る前の未就学児童は486.7万人の見込みであり、その児童(ここでは兄弟姉妹は考慮しない)の母親である女性の就業率を88.0%に引き上げるとなると、428.3万人分の保育が必要となります。このうち保育サービスが必要でない人を減じると、約390万人分となります。2017年4月時点における保育の受け皿は約274万分であるため、2030年までに追加すべき保育の受け皿は116万人分。116万人分の保育の受け皿が追加されれば、102万人の女性が出産後に、少なくとも子供を預けられないことが理由で働き続けられない問題は解消されます。
※【2017年までの数値】厚生労働省「保育所等関連状況まとめ(2017)」対策2
シニアの働きやすい環境が整った場合、シニアの労働力率にどのような変化が表れるかを試算してみます。シニア層については男女によって労働参加の状況が大きく異なるため、男女別で見ていきます。まず男性は、64歳時点での労働力率80.9%が変わらず69歳まで続くと仮定すると、2030年には、さらに22万人が働き手として活躍できると予測できます。女性の場合は、60歳以上で働いていない人が現状でもまだ多く存在するため、60歳から69歳までの女性のうち、約70%までが働くようになると仮定すると、141万人の労働市場における活躍が予測されます。シニアの人が働きやすい労働環境を整備し、就労を促すことで、男女合わせて163万人のシニアの活躍が期待できます。
働くシニアの割合は、年々上昇しています。また、厚生労働省の調べによると、2016年の男性の健康寿命は72.14歳、女性は74.79歳であり、70歳を超えても元気に生活するシニアは増えています。では、シニアの労働参加の現状や働く意欲はどのようになっているのでしょうか。「労働力調査」をもとに年代別の労働人口比率を見てみると、60代の約半数の55.3%が現在働いていることが分かりました。
※総務省「労働力調査」をもとにパーソル総合研究所にて算出内閣府が行った意識調査によれば、全国の60歳以上の男女で現在仕事をしている人に対して「何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか」をたずねた質問項目では、79.7%が「70歳を超えても働き続けたい」と回答しています。「働けるうちはいつまでも」と答えた人も42%を占めました。多くのシニアが既に働いており、これからも「働き続けたい」と考えています。
※内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査(2014)」労働政策研究・研修機構が行った調査によると、60代の人が仕事に就いていない理由は、「条件にこだわらないが、仕事がない」ためだといいます。男性は「職種」、女性は「労働時間」が希望と合わないようです。特に、「短時間での雇用」を希望する人が多い。シニアの労働参加を促すためには、働く時間などの条件や環境の整備が必要になるでしょう。
※独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査(2015)」対策3
出入国管理及び難民認定法(入管法)と法務省設置法の一部を改正する法律案が成立しました。改正案では、相当程度の知識・経験を要する業務に就く「特定技能1号」と、熟練した技能が必要な業務に就く「特定技能2号」という2つの在留資格を新設します。政府は、この新たな在留資格創設により2025年までに50万人超の外国人の就業を目指します。我々は、こうした政府の目指す外国人労働者の増加ペースが2030年まで維持された場合、どのくらいの外国人が就業しているかを試算しました。その結果、2030年には、2017年における外国人労働者よりも81万人増加すると予測されます。
※なお、本推計発表後となる2018年11月に、政府が提示した新在留資格による外国人労働者受け入れ見込み数では、制度導入の2019年度から5年間で、新在留資格の「特定技能」で想定する14業種において、最大約35万人の受け入れを目指すとしている。
そもそも外国の人々が働く先として日本を選んでくれなければ目標通りには外国人労働者数は増えません。ここで懸念となるのが、アジア圏内における労働力競争の激化です。少子高齢化は、日本だけでなくアジア各国でも進み、労働力不足が叫ばれつつあります。韓国や香港、シンガポール、中国などでは急速な高齢化が見込まれています。また、こうした高齢化の進む国々では経済成長も著しい。働く場として魅力的でなければ、今後、日本を選ぶ外国人は増えないでしょう。労働環境や労働条件、そして住環境などを、継続的に向上させ、働く場所としての魅力を磨く努力が必要といえます。
※国際連合(UN) World Population Prospects「Population by Age Groups - Both Sexes」ここまで労働供給を増やす策について見てきました。対策①で女性の働き手を102万人、対策②でシニアの働き手を163万人、対策③で外国人の働き手を81万人、計346万人の働き手の確保が見込めることが分かりました。しかし、2030年に不足する人手は、644万人。まだ、298万人足りません。この不足分を補うには、生産性の向上によって労働需要自体を下げるしか方法は考えられません。本推計では、現在のテクノロジー進化のトレンドが続く場合は考慮済みですが、こうした成り行きの進化にとどまらず非連続的な生産性向上が必要とされます。
対策4
今回の推計では、2030年の労働力需要は7,073万人でした。この7,073万人の需要に対し、298万人分の需要を削減したい場合、単純計算で最低でも4%、生産性を向上させなければいけません。生産性を向上させる策のひとつに、AIやRPA(ロボットによる業務自動化)などを活用した自動化が挙げられます。自動化がすべてとはいえませんが、労働需要を下げる一因になることは間違いありません。OECDが2016年に発表した推計結果によれば、自動化可能性がタスクの70%を超える仕事に就く労働者の割合は、日本において7%に上ります。自動化が2030年まで十分進めば最低でも4.9%(70%×7%)の工数が削減でき、298万人分の労働需要はカバーできると予測されます。自動化は需要削減のための策として、大いに進展が期待されます。
※OECD「The Risk of Automation for Jobs in OECD Countries」(2016)「2030年時点で644万人の人手不足」という推計を示すことで、早い段階から対策を検討することが可能となり、状況の悪化を予防するための具体的な手立てが見えてきます。実際に644万人の人手不足に直面してから動き出すのでは遅すぎます。将来を予測する目的は、より良い未来をつくるためにあります。
今回の推計では644万人の人手不足を埋めるために、働く女性、シニア、外国人を増やすこと、そして生産性の向上という4つの対策を提起しましたが、4つの対策は、下手をすると互いに相反する可能性があります。注意すべきことは4つの対策をバランスよく、総動員させることです。
女性やシニア、外国人にどのように活躍してもらうか。女性、シニア、外国人といった働き手の人数さえ揃えばよいという話ではなく、これらの人たちにフィットする人事制度や労務環境を提供してモチベーションを高め、一人ひとりの生産性を上げることが重要でしょう。この人手不足を乗り越えるために、企業にできることはまだまだあります。各社にとって日本にとって良い未来が訪れるよう、2030年の労働市場を想像し、今から準備を始めるにあたり、この推計が少しでもお役に立てば幸いです。
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※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2030」
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