公開日 2016/12/19
パーソル総合研究所は、2016年12月1日、東京秋葉原UDXカンファレンスルームにて「人材不足時代のアルバイト・パート採用・育成術」フォーラムを開催いたしました。深刻化するアルバイト・パート(以下アルバイト)の人材不足問題に対し、フォーラム参加者とともに問題の本質やその対策について議論し、考えを深めました。
第1部では弊社代表取締役社長渋谷が、先日パーソル総研が発表した2025年に見込まれる労働力の未来推計についてご紹介し、第2部では東京大学中原淳准教授に大規模調査から見えたアルバイト不足の現状や対策についてご講演いただきました。また第3部では外食・小売業大手企業で活躍中の現役店長として、イオンリテール株式会社渡辺浩昌氏(イオン浦和美園店)、株式会社エー・ピーカンパニー西山政希氏(塚田農場品川港南口店)、日本マクドナルド株式会社西村裕美氏(六本木ヒルズ店)にご登壇いただき、パネルディスカッションやワークを通じて、高業績店の店長が行っている現場での採用の工夫やマネジメントの具体策などをご紹介いただきました。参加者は174人に上り、イベント後に行ったアンケートでは98.3%の方が「満足」と答えていただくなど大盛況のイベントになりました。
ここでは第2部の中原准教授のご講演の様子をお届けいたします。
現在、アルバイトの人材不足は深刻化しています。しかし、パーソル総研の推計では、なんと2025年には583万人の労働力が不足し、現在の2.3倍も人が採用しにくくなるということです。アルバイトの領域に関してもますます人材が不足していくのではないでしょうか。
「アルバイトが辞めれば、また採用すればいい」という考え方もあるかもしれません。しかし、人材が不足する中でアルバイトを次々採用することは困難になってきています。既に各企業による人材の奪い合い、採用競争が始まっており、企業はアルバイトを「選ぶ側」からアルバイトに「選ばれる側」に変化してきているのです。採用力を高め、アルバイトに定着してもらうことが企業の成長に欠かせないものだと思います。
皆様の中にも「採用したアルバイトが入社辞退する」「せっかく採用したアルバイトが半年後には全員辞めている」などの問題に直面された方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回、パーソル総合研究所と共同で現役アルバイトスタッフや離職したスタッフ、さらに現場の上司(店長)など合計約25,000人※を対象に、働き方の意識に関する大規模調査を実施しました。今回はその調査で得られたデータを参照しながら、フォーラムに参加している全員で対話し、考えを深めていきましょう。
※外食・運輸・小売の大手企業7社による協力
まず、面接に関する調査結果をいくつか見ていきましょう。「アルバイトに応募するとき、複数の応募先に同時に応募している」人は42%に上ります。約半数の応募者が複数企業に応募しており、どちらに入社するか天秤にかけているのが分かります。また「応募する前に、店舗の様子を前もって下見する」と答えた人は43%。応募の前に利用している人や応募後に下見した人を含めるとこの数字はもっと高くなると思います。次に、「合格しても内定を辞退する応募者」については24%です。企業側が内定を出しても約4人に1人が辞退するということです。ここで取り上げた数字は全国規模の調査で得られた数字であり、地域や業種、現場の状況などで違いは出ると思います。しかし、ここで確認したいのは、今やアルバイト応募者は常に企業側をチェックし、複数の選択肢の中で入社企業を選定しているということです。
では、応募者に選ばれるためには、企業はどのような対策が必要なのでしょうか。まず応募者が職場選びで重視しているのはどのような点なのか見ていきましょう。応募者が一番重視しているのは「シフト」についてです。当然ですが、学生や主婦にとって自分の生活時間に合わせて働けることは重要なポイントです。次に挙がるのが「職場の雰囲気」についてです。「働いている人たちの雰囲気がよい」などの理由が決め手となり入社を決める人が多いことがうかがえます。すこし目線を変えて、アルバイトの採用の対策として実施されることが多い「時給を上げる」対策はどれくらい効果があるのでしょうか。分析結果では、時給に関する項目は重視する点の4番目であり、時給を上げるだけで応募者に選ばれるというような効果はさほど期待しにくいことが分かります。
応募者は職場選びで「シフト」「職場の雰囲気」を重視していることが分かりました。そのことをふまえて、応募者に入社を選んでもらうための面接段階での対策について2つのポイントを紹介します。1つのポイントは「職場そのものが有力な採用メディアである」ということ。応募者は面接に来た際、面接に至るまでのコミュニケーションやスタッフの対応、雰囲気などを見て、どのような職場であるかチェックしています。その際、既存のスタッフは「この人はお客さんではない」と考え、丁寧な対応がされていないケースが多くあります。職場では事前に「今日は何時ごろ応募者が面接に来る」ということを共有し、訪問してきた応募者に対し適切に接する必要があります。
2つ目のポイントは、面接時に応募者の希望をしっかりとヒアリングし、そのうえで職場の仕事のやりがいや魅力を伝えることです。ただ一方的にやりがいや魅力を押し付けるのではなく、応募者のシフトや働き方に関する希望などを聞いたうえで、自社のやりがいや魅力を伝えることがポイントです。応募者の希望は様々ですから、面接官としては、様々な希望に答えられる魅力ある職場をつくると同時に、多様な希望に合わせた多くの引出しをもつことが必要です。
これまで主に採用段階での対策を考えてきましたが、せっかく入社してもすぐに辞めてしまう人もいます。調査によると、辞めていくアルバイトスタッフのうち、採用後半年以内に辞める人は実に55%に上り、その辞める理由として一番多いのが「ベテランの態度の悪さ」によるものです。その中で長く働き続けたいと思うポイントは上司から「フェアに接してもらえる」「注意や叱り方に納得できる」こと。この2つのことについて、店長が「自分はできている」と思っている意識と、スタッフが「そう接されている」と感じている意識に大きなギャップがあることも調査からは明らかになっています。つまり、周囲のスタッフに悪影響を与えてしまうようなベテランスタッフに対して、フェアに、時に厳しく、適切なマネジメントを行えていないことが多くのアルバイトスタッフの離職に直結しているということです。
しかし、人手が足りない中、既にスキルを身に着けているベテランスタッフは職場でなくてはならないポジションを担っているでしょうし、「ベテランスタッフに耳の痛いことを言って辞められたら困る」というのが店長・マネージャーの本音ではないでしょうか。
そこで本日は、優れた店長らが行っているベテランスタッフへの適切なマネジメントのポイントを3つだけ紹介します。1つ目のポイントは「具体的に行動を指摘すること」です。例えば「Aさん、B君への○○の指導だけど、あのやり方では伝わらないと思う」などと、具体的にどの行為が好ましくないかを明確に示しながら指摘することが重要です。ベテランスタッフの指導が苦手なマネージャーは、しばしば何が問題なのかを曖昧に指摘してしまいます。2つ目のポイントは「鏡のように伝えること」です。マネージャー自身が見聞きしたという事実を事実として伝えることです。具体的には「私には~のように見えるよ」といった言葉で伝えるといいかもしれません。3つ目のポイントは、最後に必ず「一緒にやろうと伝えること」です。「やりなさい」ではなく「自分と一緒にやりましょう!」と伝え、ベテランスタッフと課題を共有し一緒に取り組む姿勢を見せる必要があります。
ここまで調査結果を基にアルバイトの人材不足問題について考えてきました。この問題に関して、お店や事業所などの現場で実施できる対策として本日は主に2つのことを述べました。1つは面接前の対応や面接などを見直し採用力を高めること。2つ目はベテランスタッフなどへの適切なマネジメントを通じて、雰囲気のよい職場をつくり離職を防止することです。
現在発売中の「アルバイト・パート採用・育成入門」(ダイヤモンド社)では、本日取り上げなかった様々なデータや対策が掲載されています。本日のフォーラムや書籍を参照していただき、皆さんの現場改革の参考にしていただけたらと思います。また、2017年春のリリースを目指して、2種類の研修ツールをパーソル総合研究所、テンプスタッフラーニングとともに開発中です。今回の調査結果を基に、「採用・面接」や「職場づくり」について再現ドラマやワークなどを交え、参加型で学べる内容になっています。そちらも是非活用していただけたらと思います。
【お知らせ】アルバイト・パートの成長創造プロジェクト
2016年11月1日に書籍「アルバイト・パート[採用・育成]入門」『アルバイト・パート[採用・育成]入門』が刊行されました。
東京大学・中原淳准教授とパーソルグループのパーソル総合研究所は、小売・飲食・運輸業界大手7社の協力のもと、全国約2万5,000人を対象に、「アルバイト・パート雇用」に関わる大規模調査を実施しました。そこで得られたデータ・知見がダイヤモンド社より書籍『アルバイト・パート[採用・育成]入門』として刊行されました。書籍には、WEBに掲載されていない分析についても、多く盛り込まれています。
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