公開日 2017/04/12
前回、シニア層の採用について意識と実態を概観した。人手の必要性から採用のすそ野を広げようとする職場がある一方で、すでに現役シニア層が多く活躍している職場も多くある。本稿で扱うのは、今後ますます多くの企業が直面する、シニア層の職場への「定着」の問題だ。
シニア層に長く安定的に働いてもらうにはどのようなことが必要だろうか。まずは、シニア層を雇用している職場に起こりがちな問題に焦点を当ててみよう。50代以上と40代以下の従業員の意識を比較してみた。
50代以上と40代以下の従業員の意識比較(職場で起こった問題に関して)
図1 離職者調査(単位%)
これを見ると、特にシニア層が現場で陥りがちな問題として、
①仕事量の負荷の高さ、②職場での孤立感、③店長・ベテランメンバーとの確執がそれ以外の層と比べて多く発生していることがわかる。
①については、肉体面で衰えを感じるシニア層にとって仕事量の多さが若年層よりも重くのしかかってくるのは容易に想像できる。だが、そのことと同等かそれ以上に重要なのは、②③「人間関係」の問題だ。シニア層を迎え入れた経験が少ないスタッフ、店長、上司などとのコミュニケーションがうまくいかず、孤立感を感じたり、トラブルに至ってしまっていることが多く見受けられる。
仕事量の負荷をコントロールするフォローは必要だが、特別扱いをすることによってコミュニケーションに弊害がでてしまうことも避けなければいけない。シニア層の定着にはまず、こうしたバランス感にしっかり目を向けることから始める必要がありそうだ。
では、シニア層が「長く働き続けたい」と思う職場はどのようなものだろうか。重回帰分析で職場の要因と継続就業意向との関係を分析したものを以下に抜粋する。
職場の要因と継続就業意向との関係
図2
この分析結果でも、先ほどの起こりがちな問題をいかに防止するか、ということがポイントになっている。「十分なフォロー」と「平等に接すること」の2段構えが、シニア層定着の2大原則であることが確認できる。
だが、シニア層を雇用する職場は、ただ定着してもらうだけではなく、これまでの経験を活かして、意欲的に職場に貢献してもらう必要がある。その時、どのようなことが必要なのか、ここでは上司のマネジメントの側面から見てみることにする。
図3
興味深いのは、「スキルや能力が身につく仕事を任せる」という上司の行動が、シニア層の意欲を最も強く引き出していることだ。一般的には今後より長いキャリアが待っている若年層のほうが高くなりそうな項目だが、今回の分析では、若年層よりもむしろシニア層のほうがこうした新しいチャレンジを歓迎している傾向がより強く示された。
また、もう一つの特徴として、「自分の意見を仕事に取り入れてくれている」という実感を与えることの影響度が高い。これまでの経験やノウハウから発されるアイデアや意見が取り入れられることで働くシニア層は意欲を高めている。
これらのことを合わせて考えると、図1で参照した「職場を良くしようとする人がいなかった」というシニア層の孤立感の裏には、より良い職場作りに積極的に参画したい、という強い願望があることが示唆される。シニア層の職場への積極的な意欲は採用編でも示した通りだが、こうしたシニア層の仕事への前向きな姿勢をきちんとすくい取れるようなマネジメントが求められている。
人手不足の必要からシニア層を採用しようとする企業は多いが、働くシニア層がその職場に求めていることは、単なる人数の埋め合わせ要員として扱われることではない。シニア層は、スタッフの一人であることを越えて「十分な戦力として認められ・より良い職場作りへ参加したい」という潜在的な意欲を持っているのだ。体力面でのフォローは必要なものの、気を使って軽い業務ばかりを与えるのではなく、スキル・能力を必要とするような職務への積極的なアサインと、経験から来る意見に真摯に耳を傾けること。これらのマネジメントが、今後の日本の職場を支えていくであろうシニア層の活躍の肝になりそうだ。
東京大学・中原淳准教授とパーソル総合研究所は、小売・飲食・運輸業界大手7社の協力のもと、全国約2万5,000人を対象に、「アルバイト・パート雇用」に関わる大規模な調査・分析を実施してきました。その成果を活用する形で、職場管理者向けの研修ツールの制作と、書籍の刊行を行っています。
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・調査名:一般求職者調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学
中原淳准教授
・調査対象者:全国の15~69歳の男女で、アルバイト・パートで働くことに興味・関心がある者/求職活動中の者、10,000人
・調査期間:2015年11月6日~24日
・調査名:離職者調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学
中原淳准教授
・調査対象者:小売・外食・運輸の大手企業で非正規雇用(アルバイト・パートないしそれに準ずる雇用形態)で働いており、直近3年間以内に離職した者、2,926人
・調査期間:2015年11月6日~11月24日
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソルグループ・東京大学中原淳研究室「パート・アルバイト一般従業員調査/離職者調査」
シンクタンク本部
上席主任研究員
小林 祐児
Yuji Kobayashi
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。
専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。
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