公開日 2018/02/09
「スタッフがとにかくすぐに辞めてしまう」「なかなか戦力にならない」といった、アルバイト職場の声はよく聞かれます。 本コラムでは前回に引き続き、パーソル総合研究所が東京大学・中原淳研究室とともに実施した大規模調査の結果から、業界問わず見られた定着のヒントをお伝えします(対象:大手企業7社〔外食/小売/運輸業〕、約2万5,000人)。
まずは、アルバイトスタッフの定着状況を数字で確認します。我々の調査では、アルバイト職場では、離職者の約半数(約55%)が6ヵ月未満で離職していることが明らかになっています。せっかく人を採用しても、その多くが一人前の戦力になる前に職場を去ってしまっている。これでは職場の人材不足感が解消されるはずもありません。人がアルバイトに応募する目的は「すぐ辞めること」では決してありませんし、どんどんスタッフが辞めていく職場には疲弊感が蔓延します。スタッフ・現場・会社全てに大きな無駄が発生している状況です。
核心に移りましょう。左下の図1が、「なぜアルバイトが辞めてしまうのか」についての在職期間別に見たデータです(離職者への調査結果よりスコア化)。
【図1】アルバイトが辞める理由
このデータからは多くのことが読み取れますが、ここでは大きく3つのポイントに絞ります。
まず目に留まるのは、1ヵ月未満離職の「面接時の印象」の高さです。これは端的に言えば「面接のときの話と実態が違う」という、イメージと現実の間のギャップによる離職です。先月号でも触れたとおり、面接での正確な情報提供と動機づけは早期離職の防止には外せないポイントです。
2つ目に、就業期間が長くなるにつれ青色の「給与への不満」と「業務の忙しさ」が同時に上昇してくる点です。徐々に職場で頼られるようになるにつれ、「多忙になるにも関わらずそれに見合う正当な報酬をもらえていない」という不満が上昇していくことがわかります。その不満と連動するかのように、キャリア展望の見えなさも長期就業になるにつれ上がってきます。
3つ目は、職場関係についてです。早期には「職場全体の雰囲気と合わない」が高いのですが、中期にはより具体的な「ベテランの態度の悪さ」が最上位に上がります。職場での人間関係トラブルがこの頃に顕在化し、特に「ベテランとの関係性の悪化」が大きなボトルネックとなることを示しています。職場でのいじめや高圧的な態度など、決定的な離職要因を与えてしまうベテランをいかに管理するかは、きわめて重要です。
さらに発展的に、どうすればスタッフに「働き続けたい」と思ってもらえるかについてのデータも見ていきましょう。ここで特にお伝えしたいのは、「どのような上司(店長)のマネジメントが定着を促進するか」です。図2は、スタッフの継続就業意欲に影響を与えている上司のマネジメント行動です。重回帰分析という手法を用いて、影響の強さについて◎○△で簡易的に示しています。
【図2】上司のピープル・マネジメントによる「働き続けたい」という気持ちへの影響度
ひと目見て、上司のマネジメントの基本原則が浮かび上がります。それは、上司から「他のメンバーと平等に接してもらえている」ことがどの層でも意欲を大きく左右している点です。例えば、上司の個人的な好みやベテラン・新人などで接し方やシフトの融通が違う、といった理不尽な不平等があると、どの層でも就業意欲が大きく下がります。「公平性」は、アルバイト定着の基本事項。このことを念頭に置いて、まずは日々のマネジメントを振り返ってみてください。
他の要素は、属性別に違いが見られます。学生層は、「スキルや能力が身につくような仕事」を与えつつ「ねぎらいの言葉」をかけてあげることで意欲が上がっています。その他のデータからも、学生は上司の「人としての信頼感」を重視する傾向がでています。将来に役立ちそうな仕事を与えつつ、積極的に声をかけてあげ、人格的な情緒に寄ったマネジメントを行うことで長く働いてもらえる可能性が示唆されます。
主婦層では、「十分なフォローをすること」と「仕事に見合った評価」の影響が大きくなっています。体力で劣ることの多い主婦には、きちんとフォローを行ってケアすることが重要そうです。また、主婦は情緒的マネジメントよりも「的確で合理的な指示」を好む傾向にあります。主婦層の定着には、的確な業務の振り分けと明確な指示、それに見合うフィードバックと評価をきっちりと与えることが重要そうです。
フリーター層には、「キャリアについて話す機会」「目標がしっかり伝えられている」ことなど、中長期的な展望についてのコミュニケーションや目標の共有が強く影響を与えています。働き続けた先に自身のキャリアがどうなるのか、目的や目標を持ち続けられるか否かで、意欲を大きく左右する層と言えそうです。
アルバイトの離職防止には、報酬や昇格といった基本的な制度整備は必要不可欠です。離職要因からもそれは示唆されます。ただそれと同時にデータが示しているのは、公平な扱いや適切なフォロー、コミュニケーション方法など、属人的に行われがちなピープル・マネジメントの質の底上げが必要なことです。採っても採っても人が辞めていく不毛なスパイラルを終わらせるために、紹介したデータが少しでも後押しになれば幸いです。
本コラムは「冷凍食品情報(2017年4月号)」(一般社団法人日本冷凍食品協会発行)に掲載いただいたものを再編集して掲載しています。
シンクタンク本部
上席主任研究員
小林 祐児
Yuji Kobayashi
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。
専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。
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