公開日 2018/02/02
周知のとおり、現代日本の人手不足の波はアルバイト労働市場にも押し寄せています。アルバイトの人材確保は、職場の困りごとから、事業継続そのものを左右する課題へと変化しました。
これらの課題を解決するため、パーソル総合研究所では、東京大学・中原淳研究室とともに大手企業7社(外食/小売/運輸業)、約2万5,000人を対象とする大規模定量調査を実施しました。ここでは、そこで得られた結果から、業界を問わず見られた重要なポイントをお伝えします。
まず、最初の大きなメッセージは、「採用」と「定着」は常にセットで考える必要があるということです。現場管理者も会社本部も、目の前の人手不足を埋める「採用」の方に施策と予算配分がやや傾いてしまっている風潮が、調査からも確認できました。なぜ定着と採用を繋げて考える必要があるのでしょうか。ここでは2つの要素から考えていきます。
その2つを結ぶ1つ目の要素は、求職者の「下見」行動です。売り手市場と化したアルバイト労働市場では、シフト・給与などの条件面だけでなく、言語化しにくい職場の質が厳しく見極められるようになりました。「ブラックバイト」なる言葉も世間に広がる中で、「職場スタッフの雰囲気」を重視する求職者が増えてきています。
こうした意識が実際の行動として現れるのが「下見」です。今回の調査結果からは、約43%の求職者が事前にお店やサービスを利用していることが明らかになっています。どの職場も抱える、「求人を出しても応募が少ない」という課題の背景には、近くまで職場を見に来て応募を取りやめている求職者が多く存在するのです。
また、調査から浮かび上がった2つ目の要素は、採用の入り口に必ずある「面接」の重要性です。
アルバイトの面接は、時間にして30分〜1時間程度、ほとんどが一度きりの機会です。しかしそのわずかな職場接触の体験が、入社の意思決定だけでなく、入社後の定着にも強い影響力を持っていることが調査で明らかになりました。その影響は、直接的/間接的な2つの側面から整理できます。
前者は、「内定辞退」という直接的影響です。今回の調査でアルバイトの「内定辞退」の割合は約24%。およそ4人に1人は内定を出しても入社に至らず辞退をしている計算になります。複数応募が当たり前になっている中で、「面接を受けてから決める」行動が慣習化されてきています。面接は、応募者にとって入社を決める場、「最後の下見」として機能しているのです。
後者は、入社後の「定着」への間接的影響です。図1は、入社1ヵ月以内で辞めてしまう早期離職と相関の強いネガティブな項目を並べたものです。ここからわかることは、入社後の早期離職は、「面接のときの/入社前のイメージ」と現実とのギャップ、"リアリティ・ショック"が大きな原因になっていることです。面接できちんと意欲を高め、納得感をもって入社してもらわないと、結局すぐに辞めてしまい、採用コストは水の泡になってしまいます。
では、どんな面接が有効なのでしょうか。データから見えたポイントを3つお伝えします。
「既存のスタッフの対応」とは、面接のために来社した応募者に対する職場スタッフの対応のことです。これは面接前の極めて短い時間の体験ですが、その第一印象で入社意欲は大きく左右されます。相手が「お客様」ではないことが分かったとたん言葉遣いが乱暴になったり、バタバタした現場で長い間待たせたりするなど、このタイミングでの職場への悪印象は後々まで尾を引くことが明らかになっています。
面接で作業内容やシフト、時給などの「条件合わせ」に終始することなく、スタッフをモチベートする言葉をいかに投げかけられるか。これが意欲の向上に最も影響力が高いことが判明しています。サービスやお店の魅力をはじめ、職場ごとに/応募者ごとに異なる、働くことの魅力や価値をいかに示すことができるか。これは一朝一夕にできることではありません。事前準備を伴う対策が必要なポイントです。
そして最後の重要な点は、面接官が前述のようなことを「できているつもり」になっていることです。図2で示したように、面接で重要な要素について、面接担当者が考えているほどにはスタッフは理解できていません。属人的になりがちなアルバイト・パートの「面接」は、この意識の変革が必要なことが示唆されます。
採用と定着をリンクさせながら、今回は主に採用側の活動についてお伝えしました。次回は定着サイドに寄せた課題についてお伝えする予定です。
本コラムは「冷凍食品情報(2017年3月号)」(一般社団法人日本冷凍食品協会発行)に掲載いただいたものを再編集して掲載しています。
シンクタンク本部
上席主任研究員
小林 祐児
Yuji Kobayashi
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。
専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。
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