公開日 2024/05/28
2024年3月大学等卒業予定者内定率(就職希望者に占める内定者割合)は、2023年12月1日時点で86.0%と前年同期を1.6ポイント上回り[1]、大学生の就職状況は「コロナ禍」の厳しさから脱しつつある。現在、新卒者の採用は「売り手市場」との声も聞かれる。背景には、景気がゆるやかな回復基調であること、新卒一括採用という雇用慣行が今なお根強く、また若年者が減少トレンドの中で、企業が新卒者を確保する動きを強めていることがあると考えられる。このことは、新卒者の採用を行う企業にとって「選ぶ立場」から「選ばれる立場」へのシフトを意味している。中でも面接は、就活生が就職先を選ぶ上で重要な役割を担っている。そこで本コラムでは、面接が就活生の内定承諾と内定辞退に及ぼす影響について、パーソル総合研究所が実施した「新卒者の内定辞退に関する定量調査」 [2]の結果、および先行研究の知見から、検討したい。そして、最後に就活生の内定辞退を防ぐための手がかりを提示したい。
「新卒者の内定辞退に関する定量調査」 では内定承諾の決め手を自由記述で聞いている。それを見たのが図1である。調査対象者から得られた411の回答項目を「その他」を除く21のカテゴリーで分類し、それぞれの割合を第1位から第10位まで見た。就活生の内定承諾の決め手の第1位は、「社員に対する印象・社員から感じる職場の雰囲気」であった。
図1:就活生の内定承諾の決め手[自由記述]
出所:パーソル総合研究所「新卒者の内定辞退に関する定量調査」
関連した指摘を行っているのが、井口尚樹『選ぶ就活生、選ばれる企業』である。井口は、就活生がさまざまな方法を使って企業を選んでいることを聞き取り調査から明らかにしている。井口によれば、就活生が就職先を決める仕方は主に次の3つのパターンに分かれるという。
① 就職活動前から明確な志望があり、そのまま選考を通過し内定を得る場合
② 就職活動前は明確な志望がなく、就職活動を通じてもこれが形成されなかったが、家族・知人・大学就職部の紹介など、社会的ネットワークを通じ就職する場合
③ 就職活動前は明確な志望がなかったが、選考過程での企業とのやり取りを通じて志望を形成・変化させ、就職先を決める場合
井口が注目するのは③である。調査対象者50名中36名(約7割)が③のようなパターンで就職先を決めていた。さらに③の中でも[1]社員の様子を通じ、志望が形成されるパターンと[2]選考の仕方により志望が変化するパターンが見られたという。注目したいのは[1]である。具体的にはどういうことだろうか。以下、同書からソウタという大学生の話を引用したい。ソウタは3社から内々定が出たが、このJ社に入社を決めている。
ソウタ
私が最終的にJ社に決めたのは、選考過程で、まあ説明会からもう最後までなんですけど、人事の方の対応が素晴らしくて。(中略)[内々定を辞退した]1社と比べたときに、面接官がすごくあたたかかったですね、J社は。(中略)すごくやわらかいっていうかこちら側が肩の荷が下りると言いますか、リラックスしてしゃべれる環境を作っていただいて。その部分で違いを感じて[3]。
このように、就活生は社員の様子から、ある企業に対しては志望度を下げ、ある企業には志望度を上げているのだ。
就活生の企業志望度は何をきっかけにどのように変化するのだろうか。「新卒者の内定辞退に関する定量調査」 の結果を見てみよう。内定承諾企業の第1志望者数・割合の変化を見たのが図2である。「エントリーシート提出時」から「適性検査・筆記試験受検」へ進む過程では、志望者数が1名しか増えていない。しかし、「適性検査・筆記試験受検」から「第一次面接」では25名、「第一次面接」から「第二次面接」では42名も増加している。第1志望としていた他の企業に落ちた結果、消極的な理由から選考過程の後半になって第1志望にした就活生も一定いるはずだ。だが、それだけではなく、面接が志望度を上げることに大きな影響を及ぼしている可能性もある。
図2:就活生の内定承諾企業に対する第1志望者数・割合の変化
出所:パーソル総合研究所「新卒者の内定辞退に関する定量調査」
次に、就活生が内定承諾企業と内定辞退企業の面接にどのような評価(点数)を与えているのかを見てみる。それが図3である。内定承諾企業の得点平均が8.3pt、内定辞退企業が6.7ptと大きな差が開いている。就活生は内定承諾企業の面接を高く評価していることになる。
図3:就活生からの面接に対する評価[10点満点]
出所:パーソル総合研究所「新卒者の内定辞退に関する定量調査」
続いて、就活生が面接時にどのような感情になっているのかを内定承諾企業と内定辞退企業で比較したのが図4である。就活生は内定辞退企業の面接時に「嬉しい気持ちになった」「楽しかった」など、ポジティブな感情になっている割合が高い。ネガティブな感情のうち、約6人に1人が「うんざりした」と感じており、「うんざりした」「悲しくなった」「腹が立った」の3項目で内定辞退企業の割合のほうが高くなっている。
図4:就活生の面接時の感情[%]
出所:パーソル総合研究所「新卒者の内定辞退に関する定量調査」
それでは、就活生の面接官に対する印象が就活生の面接評価にどのような影響があるのだろうか。また、面接評価は内(々)定が出た時の入社意欲にどのような影響があるのだろうか。それを見たのが図5である。就活生の面接評価にプラスの影響を与えているのは、面接官の「熱意がある」「誠実だ」「頼りになりそう」「親しみやすい」という印象であった。そして、面接評価の高さは入社意欲にプラスの影響があった。
これらのことから、就活生の就職先選びにとって面接がいかに重要であるかが分かる。この結果は、先述の井口の聞き取り調査に基づく知見とある程度重なるものである。就活生は社員とのさまざまな接点の中で自分に合う会社かを見極めようとしており、その社員の様子が自分にフィットするものであれば、それが内(々)定が出た時の入社意欲につながり、内定承諾の決め手になることがあるのだ。
図5:[内定承諾企業]面接官の印象が面接評価に与える影響と面接評価が入社意欲に与える影響
出所:パーソル総合研究所「新卒者の内定辞退に関する定量調査」
服部泰宏は『採用学』の中で、就活生の不安について次のように書いている。
(1)自分はいまから、極めて大きな決断をしようとしているという現実と、(2)にもかかわらず、この会社に入ることが正しいことかどうかに関する確信が持てないという事実が、頭の中で併存していることは、意思決定を行おうとする人間に大いなる不協和を経験させる[4]
就活生が面接での社員の様子や話を重視するのは、こうした頭の中の不協和を打ち消そうとするためであろう。就活生は就職が(メンバーシップ型雇用という制度のもとで)「組織の一員」になることだとよく分かっている。例えば、就活生がA社とB社のどちらに入社するかを悩んでいるとする。A社よりもB社のほうが初任給などの労働条件が良いとしても、B社に入社するかは分からない。一緒に働くことになるかもしれない社員の印象が悪ければ、「ここで働くのは大変そうだ」となるはずだ。就活生の多くがアルバイト経験者である[5]ことから、働くとは他人と協働することであり、職場の人間関係が就労に与える影響が大きいことを就活生はよく分かっている。就活生が面接やそこでの社員の様子や話を重視するのは、「本当にこの会社でよいのか」という不安を打ち消し、「あの社員の方がいるなら大丈夫そうだ」と自分(や周囲)を納得させる有力な手がかりを得ることができる場や資源と捉えているからだと思われる。
最後に、就活生が面接後に社員から感想やアドバイスを受け取った割合を見たのが図6である。内定承諾企業と内定辞退企業を比較すると、内定承諾企業からフィードバックを受け取る割合のほうが高い。先述したように、就活生は「本当にこの会社でよいのか」と不安を感じている。面接後に社員からフィードバックをすることは、当該企業が「あなたのことを大切に思っている」というメッセージを伝えることにもなっているはずだ。そのことが図6に表れていると思われる。
図6:就活生が面接後に社員から感想やアドバイスを受け取った割合
出所:パーソル総合研究所「新卒者の内定辞退に関する定量調査」
本コラムでは、面接が就活生の内定承諾や内定辞退に及ぼす影響について、先行研究の知見を紹介するとともに、パーソル総合研究所が実施した「新卒者の内定辞退に関する定量調査」 の結果から、検討してきた。
それでは、企業が内定辞退を防ぐためにはどうすればよいだろうか。このことは、「本当にこの会社でよいのか」という就活生の不安にどう応えればよいのかということでもある。
まず、面接は人材を「選ぶ(選抜する)場」である以上に、自社を就活生に「好きになってもらう場」だと位置づけることが重要だろう。面接官には、仕事や企業文化の適性を判断することに長けている「ジャッジタイプ」と、自社の魅力を丁寧に就活生に伝え、志望度を高めることに長けている「フォロータイプ」がいる[6]。「フォロータイプ」の必要条件とされるのは、「候補者の人生に影響を与えることに対する責任感」であり、候補者に親身になれるということである。面接官がそれぞれどのようなタイプであるのかを社内で検討した上で、面接には「フォロータイプ」の社員を必ず入れるようにすることが考えられる。
また、面接官の印象が就活生からの面接評価に影響を与えているという調査結果を紹介したが、例えば、就活生が面接官に感じる「誠実だ」という印象は、面接官が「私は●●だと思う」という自己開示と関係していると推察できる。面接官自身の入社理由や経験してきた自社でのエピソードについて話すことは、就活生にとって誠実さの表れとして受け止められると思われる。2024年に入り、就活生が面接官を評価する制度を導入する企業について報じられた[7]。自社の面接官の何が就活生に伝わっており、何が伝わっていないのかという課題を整理し、次の新卒採用時の役に立てることができる点で注目に値する。
面接後、就活生にフィードバックをすることも重要である。採用したい就活生はもちろん、採用を見送った就活生に対しても選考過程参加への感謝と、どういった点が良かったのかも併せて伝えられるとよいのではないだろうか。「新卒者の内定辞退に関する定量調査」では、およそ4割の就活生が内(々)定を承諾するかどうかの判断の際、同じ企業を受けた就活生に相談していることが分かっている。就活生が内(々)定を承諾するかを悩んでいるときに、その選考で採用を見送った就活生に相談している可能性があるということだ。採用を見送った就活生が面接後までを含めた面接への評価を基に相談に乗ることを考えると、選考の合否にかかわらずフィードバックをすることは、企業が「選ばれる」現代の面接において考慮する必要があるといえる。
本コラムが新卒者採用を考える上での一助になれば幸いである。
注1:厚生労働省・文部科学省「令和5年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査(令和5年 12 月1日現在)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000184815_00043.html (2024年4月16日アクセス)。
注2:この調査での就活生とは、2024年4月入社に向けて民間企業の就職活動を行い、調査時点で就活を終えた者、かつ2社以上から内(々)定を獲得した20代の大学4年生・大学院(修士課程)2年生のことを意味する。
注3:井口尚樹(2022)『選ぶ就活生、選ばれる企業』晃洋書房(kindle pp.47-48)
注4:服部泰宏(2016)『採用学』新潮社(kindle p.21)
注5:全国大学生活協同組合連合会「第59回学生生活実態調査 概要報告」https://www.univcoop.or.jp/press/life/report.html (2024年4月27日アクセス)
注6:曽和利光(2022)『採用面接100の法則』日本能率協会マネジメントセンター(kindle pp.96-197)
注7:日本経済新聞「住友商事、就活学生が面接官評価:来年入社から 採用改善、人材つなぎとめ」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79130920Q4A310C2NN1000/ (2024年4月30日アクセス)
シンクタンク本部
研究員
児島 功和
Yoshikazu Kojima
日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。
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