日本の就業者の“はたらくWell-being”をとりまく社会・経済的要因の国際比較

公開日 2024/05/09

執筆者:シンクタンク本部 研究員 金本 麻里

Gullupコラムイメージ画像

昨今、国際的にWell-beingに注目が集まっている。パーソルグループでは、はたらくことを通して、その人自身が感じる幸せや満足感を“はたらくWell-being”と定義し、2020年度より、Gallup国際世論調査において、“はたらくWell-being”に関する調査を行っている。同調査は、Gallup Inc.および公益財団法⼈ Well-being for Planet Earthの協力のもと毎年実施している。

本コラムでは、このGallup国際世論調査のデータから、日本の“はたらくWell-being”を支える社会・経済的要因を分析し、国際比較をまじえて紹介したい。

  1. 日本の“はたらくWell-being”の状況
  2. 日本の“はたらくWell-being”を支える社会・経済的要因
  3. 他国の“はたらくWell-being”を支える社会・経済的要因との比較
  4. まとめ

日本の“はたらくWell-being”の状況

ギャラップ国際世論調査で聴取している“はたらくWell-being”指標では、仕事における幸福をQ1「仕事の体験」、Q2「仕事の評価」、Q3「仕事の自己決定」の3つの次元から聴取している。具体的な調査項目は図1の通りだ。2022年度の調査では、これら3つの項目を、世界142カ国・地域の就労者約14万人(1カ国・地域当り500~2000名程度)に尋ねている。

2022年度の日本の結果は、Q1の「あなたは、日々の仕事に、喜びや楽しみを感じていますか?」に76.6%が「はい」と回答。Q2の「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっていると思いますか?」に85.9%が「はい」と回答。Q3の「自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?」に73.3%が「はい」と回答した。国際的にみてQ1が低く、Q2が良好で、Q3は比較的良好という傾向は、調査開始後の3年間で変わらない傾向だ。

図1:“はたらくWell-being”指標の日本の結果(2022年度、142カ国・地域中)

図1:“はたらくWell-being”指標の日本の結果(2022年度、142カ国・地域中)

出所:Gallup国際世論調査

※各国の得点やランキングは、パーソルホールディングスの特設サイト「世界のはたらくWell-being 」に掲載。


Q1の結果については、日本の就業者の労苦はよく指摘されるため、納得感があるかもしれない。しかし、他のさまざまな国際調査でも、日本人はポジティブな感情を表現しない傾向がある。背景には、謙遜を美徳とする文化や国民の性格傾向の偏りなどがあるといわれる。その分、Q1の結果は割り引いて捉える必要がある。

日本の“はたらくWell-being”を支える社会・経済的要因

Q1の解釈は一概にはいえないとしても、日本の“はたらくWell-being”を高めていくために、日本の“はたらくWell-being”がどのような要素によって支えられているのかを知ることは重要だろう。

ギャラップ国際世論調査では、経済、社会、政治、日常生活の状況などを表すさまざまな指標が聴取されている。それらの指標と“はたらくWell-being”を測る3指標との関連を見ることで、日本のはたらくことを通じたWell-beingと関連する社会・経済的要因を確認できる。

図2は、“はたらくWell-being”指標と社会・経済の指標との関連度を横軸、各指標の国際順位を縦軸にとり、右に行くほど、“はたらくWell-being”との関連が強く、上に行くほど国際順位が高いことを表している。なお、2021年度以降は聴取されていない指標が多いため、以降の分析では2020年度の調査データを用いている。

図2:各指標の“はたらくWell-being”との関連度と国際順位(2020年度、日本、142カ国・地域中)

図2:各指標の“はたらくWell-being”との関連度と国際順位(2020年度、日本、142カ国・地域中)

出所:Gallup国際世論調査

※1 ネガティブ体験、汚職は、順位が高い方が良好(汚職、ネガティブ体験が少ない)。
※2 相関係数0.15以上を関連の基準とした(全て1%水準で有意)。


こう見ると、日本は「個人健康度(自分自身の健康状態に対する認識)」や「ネガティブ体験(調査前日のネガティブな体験の少なさ:痛み、心配、悲しみ、ストレス、怒り)」、「治安の良さ」、「国家機関への信頼(軍隊、司法制度、国政、選挙の公正さなど、国の主要な機関に対する信頼度)」などは”はたらくWell-being”と関連があり、国際順位が高い(図2黄色点線)。日本は個人が健康で、ネガティブな体験が少なく、治安が良く、国の機関がよく機能していることが、日本の就業者の“はたらくWell-being”を支えていることが分かる。

他方で、「楽観度(将来の生活や経済、人生に対する楽観的な姿勢)」や「社会生活(助けてくれる親族や友人がいるか、友人を作る機会)」、「ポジティブ体験(調査前日のポジティブな体験の度合い:休息、尊敬をもった対応、笑い、学び、楽しさ)」は、”はたらくWell-being”と関連し、やや国際順位が低い(図2青色点線)。個人が将来に楽観的な見通しが持てないことや、人とのつながりの希薄さ、ポジティブな体験の少なさが、日本の就業者の“はたらくWell-being”の低さにつながっている要素といえそうだ。

なお、日本で順位が低かった3つの指標の内訳を見ると、日本の就業者は「昨日、尊敬をもって対応された」「友達を作る機会がある」といった人間関係と、「5年後の人生幸福度」「生活水準がよくなっていくと思うか」といった将来展望の順位が低く、これらが“はたらくWell-being”とも比較的関連する。逆に、「昨日よく休んだ」「助けてくれる友人・親せきがいる」「昨日よく笑った」は国際順位が高い。

図3:「ポジティブ体験」「楽観度」「社会生活」指標の構成項目(2020年度、142カ国・地域中)

図3:「ポジティブ体験」「楽観度」「社会生活」指標の構成項目(2020年度、142カ国・地域中)

出所:Gallup国際世論調査

※ 各項目の日本語訳は、実際の調査での質問と異なる。


日本人は見知らぬ他者への信頼感が低く、シャイといわれる。それが、友人を作る機会の少なさや、尊敬をもった対応の少なさにつながり、“はたらくWell-being”にも影響しているのかもしれない。将来展望についても、「失われた30年」の経済の停滞がはたらく人の悲観的な見通しにつながり、“はたらくWell-being”にも影響していると考えられる。

他国の“はたらくWell-being”を支える社会・経済的要因との比較

では、他の国ではどのような状況なのだろうか。例として、アメリカ、ドイツ、中国、インドについて、同様に分析を行った(図4)。

図4:各国の“はたらくWell-being”と関連する指標とその順位(2020年度、142カ国・地域中)

図4:各国の“はたらくWell-being”と関連する指標とその順位(2020年度、142カ国・地域中)
図5:各国の“はたらくWell-being”と関連する指標とその順位(142カ国・地域中)

出所:Gallup国際世論調査

※ 中国は、「国家機関への信頼」「汚職」指数は聴取なし。
※ ネガティブ体験、汚職は、順位が高い方が良好(汚職、ネガティブ体験が少ない)。
※ 相関係数0.15以上を関連の基準とした(全て1%水準で有意)。


アメリカやドイツでは、日本ほど「個人健康度」は高くないが、多くの指標が比較的上位に位置していた。アメリカでは個人の「ポジティブ体験」や「経済状況」、寄付やボランティアといった「市民活動」の国際順位の高さが、“はたらくWell-being”を支える傾向があった。なお、日本では「市民活動」は国際順位が最下位であり、大きく異なっている。ドイツでは、“はたらくWell-being”と関連する指標が少なかったが、個人の「ポジティブ体験」の国際順位の高さが“はたらくWell-being”を支える傾向があった。

中国やインドでは、かなり様相が異なっていた。中国とインドはともに、「雇用環境(仕事の得やすさに関する意識)」や「地域経済信頼感(自分の地域の現在と今後の経済状況に対する評価)」、「楽観度」が上位であり、“はたらくWell-being”とも関連が強い。IT産業の発展が目覚ましい中国やインドの経済状況がもたらす将来への明るい見通しが、“はたらくWell-being”を支えていることが想像される。

他国の傾向と比較することで、より日本の“はたらくWell-being”をとりまく社会・経済的な状況が見えてくる。

まとめ

本コラムでは、Gallup国際世論調査のデータから、日本の“はたらくWell-being”をとりまく環境と、主要国との違いを紹介した。本コラムのポイントは以下の通りである。

●2022年度の日本の“はたらくWell-being”の3指標は、例年通り、日々の仕事に対して喜びや楽しさが低く、仕事を通じた社会への貢献意識が高く、仕事の選択肢がやや高い傾向。

●日本は「個人健康度」や「ネガティブ体験」、「治安の良さ」、「国家機関への信頼」の国際順位が高く、“はたらくWell-being”を支えている。一方、「楽観度」や「社会生活」、「ポジティブ体験」は国際順位が低く、“はたらくWell-being”を押し下げる要素。

●アメリカは「ポジティブ体験」や「経済状況」、「市民活動」が、ドイツでは「ポジティブ体験」が “はたらくWell-being”を支えている。中国・インドでは、経済状況の良さや将来への楽観度、仕事の得やすさが“はたらくWell-being”を支えていた。


※ Gallup国際世論調査 調査概要
実施内容:国際世論調査”Gallup World Poll”に、「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加
対象  :世界142カ国・地域、各約1000名
調査期間:2022年6月~2023年6月(2022年調査)、2020年3月~2021年3月(2020年調査)

執筆者紹介

金本 麻里

シンクタンク本部
研究員

金本 麻里

Mari Kanemoto

総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。


本記事はお役に立ちましたか?

コメントのご入力ありがとうございます。今後の参考にいたします。

参考になった0
0%
参考にならなかった0
0%

follow us

公式アカウントをフォローして最新情報をチェック!

  • 『パーソル総合研究所』公式 Facebook
  • 『パーソル総合研究所シンクタンク』公式 X
  • 『パーソル総合研究所シンクタンク』公式 note

関連コンテンツ

もっと見る
  • 「日本の人事部」HRワード2024 書籍部門 優秀賞受賞

おすすめコラム

ピックアップ

  • 労働推計2035
  • シニア就業者の意識・行動の変化と活躍促進のヒント
  • AIの進化とHRの未来
  • 精神障害者雇用を一歩先へ
  • さまざまな角度から見る、働く人々の「成長」
  • ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ
  • メタバースは私たちのはたらき方をどう変えるか
  • 人的資本経営を考える
  • 人と組織の可能性を広げるテレワーク
  • 「日本的ジョブ型雇用」転換への道
  • 働く10,000人の就業・成長定点調査
  • 転職学 令和の時代にわたしたちはどう働くか
  • はたらく人の幸せ不幸せ診断
  • はたらく人の幸福学プロジェクト
  • 外国人雇用プロジェクト
  • 介護人材の成長とキャリアに関する研究プロジェクト
  • 日本で働くミドル・シニアを科学する
  • PERSOL HR DATA BANK in APAC
  • サテライトオフィス2.0の提言
  • 希望の残業学
  • アルバイト・パートの成長創造プロジェクト

【経営者・人事部向け】

パーソル総合研究所メルマガ

雇用や労働市場、人材マネジメント、キャリアなど 日々取り組んでいる調査・研究内容のレポートに加えて、研究員やコンサルタントのコラム、役立つセミナー・研修情報などをお届けします。

コラムバックナンバー

  • 「日本の人事部」HRアワード2024 書籍部門 優秀賞受賞

おすすめコラム

PAGE TOP