社会人になってからのどのような経験が仕事で幸せを感じて活躍することにつながるのか

公開日 2023/11/22

執筆者:シンクタンク本部 研究員 砂川 和泉

ハタチからコラムイメージ画像

これからの社会を生きる若手社会人にとって、幸せを感じながら仕事をし、パフォーマンスを発揮することは極めて重要だ。毎日の多くの時間を費やす仕事で幸せを感じながら活躍することは、日常生活を充実させるだけでなく、キャリアの長期的な成功にも繋がりやすく、豊かな人生を築く大切な要素といえる。同時に、企業としても、自社の従業員が幸せを感じつつモチベーションを維持しながら高いパフォーマンスを発揮することは、持続的な成長の礎となる。

では、若手社会人が幸せに活躍するために、本人と企業は何をしたらいいのだろうか。

今回、未来を生きる高校生~若手社会人が、幸せに働く未来を描き、意欲を持って学びや行動へと向かうための羅針盤を届けることを目的として、「大人の学び」の専門家である立教大学の中原淳教授、教育に関する調査・研究を行っているベネッセ教育総合研究所、働く人や組織に関する調査・研究を行っているパーソル総合研究所の3者が共同で産学連携の研究プロジェクト(『ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ』 )を発足し、25~35歳の若手社会人の幸せにつながる学生時代の学びや社会人になってからの経験について探求を行った。

そこで実施した「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」の結果から、幸せを感じながら活躍している若手社会人の特徴を見てみると、以下の5つの学び方が重要であることが分かった。詳しくはコラム「仕事で幸せを感じ活躍している若手社会人に見られる「5つの学び方」とは」で紹介している。これらの学び方を実践することで、若手社会人は幸せを感じながら活躍することができる。

<幸せな活躍につながる「5つの学び方」>

1:人を巻き込んで学ぶ「ソーシャル・ラーニング」
2:困難な事からこそ学ぶ「ラーニング・レジリエンス」
3:いくつかの学びや経験を架橋する「ラーニング・ブリッジング」
4:一貫してコツコツ学び続ける「ラーニング・グリット」
5:デジタルツールを積極的に使う「ラーニング・デジタル」

この幸せな活躍につながる5つの学び方はどのようにして身につけることができるのだろうか。本コラムでは、これらの学び方を習得するための仕事経験や社会人になってからの学習経験について詳しく掘り下げていきたい[注1][注2]

  1. 主体的な学習が幸せな活躍につながる
  2. 5つの学び方につながる仕事経験
  3. まとめ

主体的な学習が幸せな活躍につながる

まず、社会人になってからのどのような学習経験が上記の5つの学び方に影響を与えているかを見てみよう。幸せな活躍につながる学び方に関連する学習経験を見てみると、主体的な学習、つまり自分から学びに取り組む経験が、5つの学び方とポジティブに関連している。例えば、勉強会を主催する経験、資格取得のための学習、社会人になってからの大学院進学などが該当する。

しかし、実際には、このような学びの経験を持つ人は2割以下にとどまっている(図1)。例えば、社内で勉強会を主催した経験がある人は9.1%で、勤務時間外に勉強会の主催・運営をしたことがある人はわずか3.7%しかいない。これらの学びの経験が幸せな活躍に関連していることを考えると、多くの人が主体的な学びに取り組むことで幸せな活躍を実現できる余地は大きい。

図1:5つの学び方とポジティブに関連する学習行動の経験率

図1:5つの学び方とポジティブに関連する学習行動の経験率

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」


一方で、新入社員研修などの一般的な研修やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)などの受動的な学びは、多くの人が経験しているものの、5つの学び方とポジティブな関連性は見られない(図2)。これらの一斉研修やOJTはスキル底上げのための基盤であるものの、幸せに活躍するためには、これだけでは不十分だといえる。受け身の学びだけではなく、積極的に学びに取り組むことが必要だ。

図2:5つの学び方と関連の見られない学習行動の経験率

図2:5つの学び方と関連の見られない学習行動の経験率

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」


これらのデータからの示唆は、自社の従業員に幸せを感じながら活躍してほしい企業にとって、一般的な研修を提供するだけでは不足するということだ。従業員の幸せな活躍につながる主体的な学びを促進する効果的な方法としては、例えば、企業が社員同士で勉強会を開催することを奨励したり、資格取得や書籍購入、通信教育、語学学習をサポートするための費用補助を提供したり、選択式の研修プログラムを提供したりすることが考えられる。これらの取り組みにより、従業員が自ら主体的な学びに取り組みやすくなるだろう。

5つの学び方につながる仕事経験

次に、どのような仕事上の経験が幸せな活躍につながる5つの学び方と関連しているかを見てみよう。これらの学び方と関連していた仕事経験には、大きく3つのポイントがある(図3)。

図3:5つの学び方に関連する社会人の仕事経験

図3:5つの学び方に関連する社会人の仕事経験

※統計的な分析の結果、2つ以上の学び方に有意に関係するものを抜粋
※「ソーシャル・ラーニング」:人を巻き込んで学ぶ、「ラーニング・レジリエンス」:困難な事からこそ学ぶ、「ラーニング・ブリッジング」:いくつかの学びや経験を架橋する、「ラーニング・グリット」:一貫してコツコツ学び続ける、「ラーニング・デジタル」:デジタルツールを積極的に使う

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」


1つ目のポイントは、「社外からの学び」を得ていることだ。取引先、顧客など会社の外の人とのコミュニケーションやそこからの気づきが、学びの幅を広げている。例えば、取引先とのやり取りの中では、いくつかの学びや経験を架橋する「ラーニング・ブリッジング」の習慣を身につけているようだ。また、困難な事からこそ学ぶ「ラーニング・レジリエンス」やデジタルツールを積極的に使う「ラーニング・デジタル」の学び方が、社外の人から気づきを得た経験で促進されている。社外の人とのやり取りにおいては、一筋縄ではいかない高い要求に向き合うこともあるだろう。そんな時、これまでの学びや経験を結び付けることで解決につなげたり、困難な事の中に学びが多いことに気づいたりして、その後もそうした学び方を実践するようになるのではないだろうか。また、デジタルツールの活用に関しては社内だとどうしても限定的な活用にとどまるため、社外の人と仕事を進めることで新たなデジタルツールに目を向けるきっかけになると考えられる。

2つ目のポイントは、「社内の人との関わり」だ。先輩や上司といった上の立場の人からの刺激だけでなく、後輩の育成や相談役をすることでも学び方の習得につながっている。後輩の指導には難しい局面が多々ある。そうした難しさに対峙することで困難な事からこそ学ぶ「ラーニング・レジリエンス」の習慣が養われると考えられる。さらに、年齢が若いほどデジタルツールへの感度が高い傾向があるため、後輩との関わりを通じてデジタルツールを活用する習慣を身につけることもある。また、見逃せないのが「転職者」からの気づきである。転職者が新たな職場で活躍するためには、分からないことを人に聞くことや、これまでコツコツと積み上げてきた自身の経験を自社の仕事に結びつけることが不可欠だ。そうした転職者の姿を見ることが、人を巻き込んで学ぶ「ソーシャル・ラーニング」やいくつかの学びや経験を架橋する「ラーニング・ブリッジング」、一貫してコツコツ学び続ける「ラーニング・グリット」の学び方を取り入れてみることにつながるのだろう。

3つ目のポイントは、「新たなアウトプット」である。新しいアイデアや企画の提案は、さまざまな学び方の習得を促進している。提案には、新しい情報やスキルの獲得、周囲の人に協力を仰ぐ、最先端のデジタルツールを取り入れるといったプロセスが含まれる。そのため、特に、人を巻き込んで学ぶ「ソーシャル・ラーニング」や一貫してコツコツ学び続ける「ラーニング・グリット」、デジタルツールを積極的に使う「ラーニング・デジタル」につながっている様子がうかがえる。

これらの3つのポイントを概観していえることは、日頃の仕事の中で自分から一歩踏み出して積極的に他者と関わることが大切だということだ。また、企業側としては、社内外の人との関わりを奨励したり、新しいアイデアや企画を提案する機会を提供したりすることで従業員の幸せな活躍につながる学びを促すことができそうだ。

まとめ

本コラムでは、仕事上の経験や社会人になってからの学習経験が、幸せに活躍している人の特徴である5つの学び方とどのように関連しているかを見てきた。その結果明らかになったのは、普段の仕事の中にも、先輩や顧客との関わりといった学びの機会が潜んでいるということだ。特別な研修や思い切った学習が必要なわけではなく、日々の当たり前の仕事こそが、幸せな活躍につながる重要な学びの宝庫なのである。したがって、われわれはこれまでも知らず知らずのうちに幸せにつながるプロセスを歩んできたといえる。

幸せな活躍は夢物語ではなく、日々の仕事の中で他者と交流し、学びを積み重ねることで実現できる。ルーティンの仕事から一歩踏み出して新しいアイデアを提案したり、社内外の人と会話を交わすことで気づきを得たりする小さな一歩が、学びの癖や習慣を身につけ、幸せな活躍への道を拓くのである。


[注1]本コラムは大卒の若手社会人を対象とした以下の調査結果に基づく。
パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」

[注2]具体的には、以下のように「幸せな活躍」を定義した。「はたらく幸せ実感」はパーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室 「はたらく人の幸せに関する調査」より「はたらく幸せ実感」の項目を使用した。

本調査での「幸せな活躍」の定義と測定
「はたらくことを通じて、幸せを感じている」などの7項目を「個人の主観的な幸せ(はたらく幸せ実感)」として測定し、「顧客や関係者に任された役割を果たしている」「担当した業務の責任を果たしている」などの5項目を個人のジョブ・パフォーマンスとして測定した上で、全体分布の中でともに高い層を「幸せな活躍層」として定義。

執筆者紹介

砂川 和泉

シンクタンク本部
研究員

砂川 和泉

Izumi Sunakawa

大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査や顧客企業のID付きPOSデータ分析を担当した他、自社内の社員意識調査と社員データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、女性の就労、キャリアなど。


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