仕事で幸せを感じ活躍している若手社会人に見られる「5つの学び方」とは

公開日 2023/11/21

執筆者:シンクタンク本部 研究員 砂川 和泉

ハタチからコラムイメージ画像

「幸せ」になりたい。これは、万国共通、老若男女問わず、ほとんどの人にとって共通の望みではないだろうか。社会人であれば1日の大半を仕事に費やすことが一般的であることから、幸せに働けるのであればそれに越したことはない。しかし、パーソル総合研究所が2022年に実施した国際比較調査では、働くことを通じて幸せを感じている日本人は49.1%しかおらず、調査対象となった18カ国・地域の中で最も少なかった[注1]

日本人が幸せに働くためにはどうしたらいいのだろうか。昭和の時代には、学歴や収入、出世といった「王道の幸せ」のモノサシがあった。しかし、今は若年層を中心に価値観が多様化しており、幸せのカタチは変化している。では、これからの社会を生きる若い世代にとって、何が「幸せ」なのだろうか。そして、若手社会人が幸せに働くためには何が必要なのだろうか。

若手社会人の幸せには、今の仕事だけでなく、学生時代の学習や学内外での活動の積み重ねも大きな影響を与えると考えられる。しかしこれまで、学生時代の教育と社会人の仕事は分けて議論されることが多く、学生から社会人への接続を横断的に捉えた知見は乏しい。

そこで今回、未来を生きる高校生~若手社会人が、幸せに働く未来を描き、意欲を持って学びや行動へと向かうための羅針盤を届けることを目的として、「大人の学び」の専門家である立教大学の中原淳教授、教育に関する調査・研究を行っているベネッセ教育総合研究所、働く人や組織に関する調査・研究を行っているパーソル総合研究所の3者が共同で産学連携の研究プロジェクト(『ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ』 )を発足。若手社会人の幸せにつながる学生時代の学びや社会人になってからの経験について探求を行った。本コラムでは、プロジェクト内で実施した「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」 の結果から、若手社会人が幸せに働くためのヒントを提示したい。

  1. 若手社会人にとって、「幸せに働く」とはどういうことなのか
  2. 「幸せ」と「活躍」の関係性
  3. 幸せに活躍する若手社会人は「学び」に積極的
  4. 幸せな活躍につながる「5つの学び方」
  5. まとめ

若手社会人にとって、「幸せに働く」とはどういうことなのか

「幸せ」の追求は普遍的なテーマであり、持続的な幸せ「ウェルビーイング(Well-being) 」に関わる研究がさまざまな学問領域で行われている。例えば、心理学や経済学、産業衛生学などの研究分野にわたる学際的アプローチであるポジティブ心理学においては、持続的な幸せを構成するものとして「PERMA(パーマ)」と略される5つの要素が提唱されている。持続的な幸せには、Positive Emotion(ポジティブな感情)、Engagement(没頭)、Relationships(人間関係)、Meaning(人生の意味や意義)、Accomplishment(達成)の5つの要素が関係しているとされる[注2]

では、実際に、若手社会人は、幸せに働くことをどのように捉えているのだろうか。幸せに働く状態を具体的にイメージするために、われわれは、「働いていて幸せを感じる状況」について1,600名の若手社会人(25~35歳)から自由回答を集めた。すると、「お客様に喜んでいただけたとき」や「他の社員の仕事を助けて感謝されたとき」、「自分のした仕事が何かしら社会の役に立っていることが目に見えて実感できたとき」といった社内外で役に立っている実感を得ることや、「給料を貰ったとき」「ボーナスが出たとき」といった報酬をもらうことに関して、幸せを感じている人が多いことが分かった。

しかし、最も多かった回答は、「働いていて幸せを感じることがない」というものであった。なんと約4割もの人が「ない/わからない/考えたことがない」と回答している[注3]。「そういわれると、思いつかない」というように、幸せを感じていても具体的な状況を挙げるのが難しい人もいるが、働くことで幸せを感じることが「特にない」人が多数を占めていた。中には、淡々と業務をこなしているだけで仕事で幸せを意識したことがない人や、そもそも「仕事に幸せは必要ない」「働くこと自体が幸せではない」「労働に幸せなど存在しない」といったように、仕事と幸せを切り離して考える人もいる。働くことを通じて幸せを感じる人が少ないだけでなく、具体的にイメージできていない人が多いのが実情なのである。幸せに働くイメージもできていない人からすれば、幸せに働くことは非現実的な夢のように感じられることだろう。

「幸せ」と「活躍」の関係性

一方で、ビジネスパーソンとして自分自身が幸せを感じていればそれで十分かというと、そうとは言い難い。近年では企業経営においても従業員のウェルビーイングが注目され、業績などの組織的成果との関連性について研究が進められている[注4]。企業経営においては、従業員が幸せを感じながらも、役割を遂行してパフォーマンスを上げて活躍することが重要だ。前述のPERMAモデルでは「活躍(達成)」は幸せの一要素にすぎないが、ビジネスパーソンにとっては、自己満足として幸せを感じているだけでなく、活躍もできている状態が望ましい。

幸せ実感の高低と活躍度の高低で4象限に分けてみると[注5]、右上の活躍度と幸せ実感がともに高い層が幸せを感じながら役割を遂行してパフォーマンスを上げている人たちであり、目指すべき層(幸せな活躍層)であるといえる(図1)。この人たちは、なぜ幸せに活躍できているのであろうか。今回のコラムでは、これらの「幸せに活躍している人々」の特徴を探っていきたい[注6]

図1:幸せ(はたらく幸せ実感)の高低×活躍(パフォーマンス)の高低4象限

図1:幸せ(はたらく幸せ実感)の高低×活躍(パフォーマンス)の高低4象限

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」

幸せに活躍する若手社会人は「学び」に積極的 

どうしたら幸せに活躍できるのか。そのヒントは「学び」にある。今回、幸せに活躍している若手社会人の特徴をひもといてみると、年収や雇用形態などにも違いが見られたが、特に顕著であったのが学びへの姿勢であった。

幸せな活躍をしている若者は、そうでない人々と比較して、「学びや学習に前向きに取り組んでいる」割合が2.7倍多い(図2)。具体的には、社内勉強会への参加や主催、勤務時間外の研修参加など、業務以外で学習活動に取り組んでいることが多い(図3)。ここから、幸せに活躍している若者は、学びに対して積極的であることが分かる。

図2:学びや学習に意欲的に取り組んでいる割合

図2:学びや学習に意欲的に取り組んでいる割合

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」

図3:学習実施率

図3:学習実施率

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」

幸せな活躍につながる「5つの学び方」

では、幸せに活躍している人々の学び方にはどのような特徴があるのだろうか。若手社会人の幸せな活躍に影響を与えている学び方について分析を行った結果、幸せな活躍には、「ソーシャル・ラーニング」「ラーニング・レジリエンス」「ラーニング・ブリッジング」「ラーニング・グリット」「ラーニング・デジタル」の5つの学び方が影響していることが分かった(図4)。

「ソーシャル・ラーニング」は人を巻き込んで学ぶこと、「ラーニング・レジリエンス」は困難な事からこそ学ぶこと、「ラーニング・ブリッジング」はいくつかの学びや経験を架橋すること、「ラーニング・グリット」は一貫してコツコツ学び続けること、「ラーニング・デジタル」はデジタルツールを積極的に使うことである。幸せに活躍している人々は、そうでない人々と比較してこれら5つの学び方をより実践している傾向がある。

図4:幸せな活躍につながる「5つの学び方」

図4:幸せな活躍につながる「5つの学び方」

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」


中でも、幸せに活躍していることに最も影響しているのは、人を巻き込んで学ぶ「ソーシャル・ラーニング」という学び方である。ここでの「ソーシャル」は「人と人とのつながり」を指し、具体的には、何かを学ぶときに仲間と一緒に学んだり、詳しい人からアドバイスを受けたり、周りの人から積極的に意見をもらうといった学び方である。ソーシャル・ラーニングを実践している人々(平均以上)は、そうでない人々(平均未満)と比較して、幸せな活躍をしている割合が4.0倍高い(図5)。

若手社会人が幸せな活躍をするために重要な「ソーシャル・ラーニング」は、いわば学びのオペレーティングシステム(OS、全体を管理・制御するシステム)であるといえる。他者との関わりを意識し、人を巻き込みながら学ぶ方法が、幸せな活躍ができるかどうかを左右する基盤となるのである。

図5:ソーシャル・ラーニングの高低と幸せな活躍をしている人の割合

図5:ソーシャル・ラーニングの高低と幸せな活躍をしている人の割合

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」


なお、若手社会人といってもいろいろな人がいる。今回の調査で、仕事やキャリアに関する志向性(はたらく志向性)についてタイプ分けしてみると、職場の人間関係を大切にする人、知識・経験を追求する人、目立たずに裏方としてサポートすることを好む人など、7つのタイプに分かれた。はたらく志向性のタイプによって重要な学び方にも若干の違いがある。しかし、共通していえることは、人を巻き込んで学ぶ「ソーシャル・ラーニング」が幸せな活躍につながっているということだ。どのタイプの人であっても、人との関わりの中で学び、自らをアップデートすることが幸せな活躍の鍵なのである。

学びについて考えると、通常、資格取得のための勉強や一人で机に向かって黙々と学ぶイメージが浮かぶ。しかし、学び方には多くのアプローチが存在し、学びが勉強に限らないことを理解する必要がある。普段の仕事においても他者とのかかわりがあることから、学びの機会は絶えず存在している。日常の仕事に新しいアプローチを取り入れることで、幸せな活躍につながる学びが実践できるのである。

まとめ

今回の調査から明らかになったのは、幸せに活躍している若手社会人の学び方に特徴があるということだ。具体的には、人を巻き込んで学ぶ「ソーシャル・ラーニング」、困難な事からこそ学ぶ「ラーニング・レジリエンス」、いくつかの学びや経験を架橋する「ラーニング・ブリッジング」、一貫してコツコツ学び続ける「ラーニング・グリット」、デジタルツールを積極的に使う「ラーニング・デジタル」の5つの学び方を実践している。中でも、積極的に人を巻き込みながら学ぶ「ソーシャル・ラーニング」が肝要だ。近年では、1人で手軽に学べるeラーニングなども充実しており、学びの個人化が進んでいる。しかし、今回の結果からは、孤独に学ぶのではなく、誰かと共に学ぶことや周囲の人に意見を聞くといった他者とつながることの大切さが浮かび上がった。若手社会人が幸せに活躍するためのポイントは、他者との関わりにあるといえる。


[注1]パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」
18ヵ国・地域(調査都市)
【東アジア】日本(東京、大阪、愛知)、中国(北京、上海、広州)、韓国(ソウル)、台湾(台北)、香港
【東南アジア】タイ(グレーターバンコク)、フィリピン(メトロマニラ)、インドネシア(グレータージャカルタ)、マレーシア(クアラルンプール)、シンガポール、ベトナム(ハノイ、ホーチミンシティ)
【南アジア】インド(デリー、ムンバイ)
【オセアニア】オーストラリア(シドニー、メルボルン、キャンベラ)
【北米】アメリカ(ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス)
【ヨーロッパ】イギリス(ロンドン)、ドイツ(ベルリン、ミュンヘン、ハンブルグ)、フランス(パリ)、スウェーデン(ストックホルム)

[注2]Seligman, M. E. P.(2011). Flourish. New York, NY: Simon & Schuster.

[注3]若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査<高卒・専門学校卒・短大卒編>:学歴別集計結果の単純平均値。

[注4]上林 憲雄・小松 章(編)(2022).SDGsの経営学(pp.193-¬208)千倉書房 参考

[注5]具体的には、以下のように「幸せな活躍」を定義した。「はたらく幸せ実感」はパーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室 「はたらく人の幸せに関する調査」より「はたらく幸せ実感」の項目を使用した。

本調査での「幸せな活躍」の定義と測定
「はたらくことを通じて、幸せを感じている」などの7項目を「個人の主観的な幸せ(はたらく幸せ実感)」として測定し、「顧客や関係者に任された役割を果たしている」「担当した業務の責任を果たしている」などの5項目を個人のジョブ・パフォーマンスとして測定した上で、全体分布の中でともに高い層を「幸せな活躍層」として定義。

[注6]以降のデータは大卒の若手社会人を対象とした以下の調査結果に基づく。 パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」

執筆者紹介

砂川 和泉

シンクタンク本部
研究員

砂川 和泉

Izumi Sunakawa

大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査や顧客企業のID付きPOSデータ分析を担当した他、自社内の社員意識調査と社員データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、女性の就労、キャリアなど。


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