仕事で幸せを感じ活躍する若手社会人の学び特性と学生時代の学習・経験の関連 ―専門学校を経由した社会への移行に着目して―

公開日 2023/12/08

ベネッセ教育総合研究所は、立教大学の中原淳教授、パーソル総合研究所と共同研究プロジェクト『ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ』 の立ち上げを行い、若手社会人の「仕事で幸せを感じ活躍すること(幸せな活躍*1)」につながる要因を探ってきた。本コラムでは若手社会人の教育歴に注目し、中でも大学以外の進路を選択し社会に移行した若者、特に専門学校卒社会人の「幸せな活躍」に関わる学び特性や学生時代の学習・経験について確認してみたい。

  1. なぜ「専門学校卒社会人」に注目するのか―社会での「幸せな活躍」を教育歴と合わせて確認することの意義
  2. 幸せな活躍につながる「3つの学び特性」とそれに関連する学び・経験
  3. 必要な学びや経験をいかに自ら取りに行くか

なぜ「専門学校卒社会人」に注目するのか―社会での「幸せな活躍」を教育歴と合わせて確認することの意義

大学進学は卒業後の雇用やその先の安定した人生を保証するものではないという指摘がなされるようになって久しい。しかし大学以外の進路を選択した場合、その先にどのような学びや成長、職業生活が存在しているのだろうか。文部科学省が令和4年度に実施した学校基本調査によれば、新規高卒者のうち16.8%(過年度卒を含めると22.5%)が専門学校へ進学しており、これは大学進学に次ぐ進路選択肢である。とりわけ地方で生活する若者にとって、専門学校は重要な社会への移行ルートであり、例えば宮崎県では、県内にとどまった新規高卒者のうち4割が専門学校に進学している。それにもかかわらず専門学校での学びやその後の状況を把握する基礎的なデータが不足しており、大学以外の多様な進路を検討しづらい状況が続いている。

ではなぜ専門学校の教育やその後の状況に関する情報が不足しているのか。その背景について、例えば植上(2011)は普通教育と職業教育、教養と実学といった比較の中で、専門学校進学が、大学進学を中心とした「標準的な」社会への移行ルートとは異なる「代替的進学」として位置づけられ、等閑視されてきた点を指摘している。最近、国立教育政策研究所(2023)が実施した高校生の進学動向に関する調査結果では、世帯年収や教科学力によって大学・専門学校・就職の選択比率に明確な差があることが確認されており*2、ある種の「序列」やそれに伴う社会的関心の低さが、データの量的な不足につながっている可能性がある。

またデータは質的な面でも不足している。専門学校の教育成果は、概して「どの企業に就職できたか」「どのレベルの資格を取得できたか」といった職業能力養成の観点から語られがちである。しかしながら教育現場では、技能や資格習得にとどまらない、就職後の適応を見据えた幅広い人間形成が目指されており、多面的な教育成果の検証が不足している。上述した国立教育政策研究所のデータが示すように、高校時点の家庭の経済状況や教科学力が高卒後の進路を規定しているのであれば、なおさら社会人時点の活躍や学びの状況だけでなく、社会人に至るまでの教育歴を踏まえ「幸せな活躍」の要因を探索する必要がある。その意味で、今回の調査は「幸せに活躍」している社会人の状況について、社会人時代だけでなく学生時代の学びや経験を含めてその関連を確認することができ、非常に貴重なデータであるといえる。

幸せな活躍につながる「3つの学び特性」とそれに関連する学び・経験

はじめに専門学校卒社会人の「幸せな活躍」層の割合を大卒・院卒と比較し、確認してみよう。「幸せな活躍」は「幸せ(はたらく幸せ実感*3)」と「活躍(個人のジョブ・パフォーマンスの高さ )」に関するそれぞれ5項目の平均値を標準化した上で、2つの平均値を足し合わせた数値を、「幸せな活躍(活躍していて幸せ)」の度合いとして定義、算出したものである。図1の結果を見ると、専門学校卒、大卒・院卒ともに全体のうち3割程度が「幸せな活躍」をしていると回答しており、そこに教育歴による差は見られない。

図1:教育歴別 「幸せな活躍」層の割合

図1:教育歴別 「幸せな活躍」層の割合

※パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査<高卒・専門学校卒・短大卒編>」


では、こうした社会人の「幸せな活躍」はどのような学び特性によって支えられているのだろうか。ここではコラム「仕事で幸せを感じ活躍している若手社会人に見られる「5つの学び方」とは」 でも紹介された「幸せな活躍」と関連する5つの学び特性について、本コラムが注目するより詳細な教育歴とあわせて実態を確認してみたい。図2はその結果を示したものである。分析の結果、「ソーシャル・ラーニング(人を巻き込んで学ぶ)」「ラーニング・レジリエンス(困難な事からこそ学ぶ)」「ラーニング・ブリッジング(いくつかの学びや経験を架橋する)」「ラーニング・グリッド(一貫してコツコツ学び続ける)」「ラーニング・デジタル(デジタルツールを積極的に使う)」のすべての学び特性のスコアについて、専門学校卒と偏差値中位・下位層の大卒の比較においては統計上、有意な差が見られず、偏差値上位の大卒と偏差値下位の大卒および専門学校卒の比較において有意な差が確認された。

図2:教育歴・大学の偏差値帯別 5つの学び特性の実態(平均スコア)

図2:教育歴・大学の偏差値帯別 5つの学び特性の実態(平均スコア)

※「ソーシャル・ラーニング」:人を巻き込んで学ぶ、「ラーニング・レジリエンス」:困難な事からこそ学ぶ、「ラーニング・ブリッジング」:いくつかの学びや経験を架橋する、「ラーニング・グリット」:一貫してコツコツと学び続ける、「ラーニング・デジタル」:デジタルツールを積極的に使う

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査<高卒・専門学校卒・短大卒編>」


この結果はどのように解釈できるだろうか。ここでは2点ポイントを挙げておきたい。

1点目は、高校卒業までの学習・教育経験が学び特性に与える影響である。5つの学び特性のいずれのスコアみても、大学偏差値の高低と対応する形でスコアが変動している。「ソーシャル・ラーニング」(関心ある分野の専門家や詳しい人に話を聞きにいくことがある、周囲の人や上司に自分の関心のある領域を積極的に伝えている)、「ラーニング・ブリッジング」(仕事で得た経験と、これまで学んできたことを結び付けて考えている)などの姿勢や、「ラーニング・レジリエンス」(忙しい時も、粘り強く地道に学びを続けている、自分にとって難しい事ほど経験する価値がある)などの価値観は、一朝一夕に形成されるものではなく、高校卒業までの学びや経験が社会人以降の学びや経験との向き合い方にも影響している可能性がある。

2点目は、職業実践的な学びや社会との豊富な接点をもつ教育が、「幸せに活躍」につながる学び特性に与えるポジティブな効果である。注釈で示した「高校の入学難易度別進学後の進路」のデータを確認する限り、専門学校への進学を選択した層の多くは、大学進学層と比べ、高校卒業時点で、知識習得や学びと前向きに向き合うことに最も苦しんできた層と推察される。しかしながら図2を見ると、一部の偏差値帯を除き大卒者と同レベルの社会で必要となる資質や学び特性を、専門学校でも身につけてきた可能性がある。特に、ソーシャル・ラーニングについては、偏差値上位の大卒との比較においても明確な関連が見られず、職業に必要なスキルの習得に収まりきらない、職業人として社会に位置づいていくことを目的とした教育の効果や広がりが影響しているのかもしれない。一方で、「ラーニング・デジタル」(SNSで自ら発信したり、ネットワークを広げたりしている・学びのなかで積極的にデジタルツールを使っているなど)のような偏差値上位の大卒社会人と明確な差がみられた学び特性も存在する。デジタルを単なる情報消費のためのツールではなく、自身のアクションや新たな学びを創造するためのツールとして活用していくなど、新しい技術やデバイスを利用した学びや経験の広げ方などは強化していく必要があるだろう。

以上、5つの学び特性について大卒の実態と比較しながら、その特徴を見てきた。次に、以上の5つの学び特性のうち、どの特性が特に専門学校卒社会人の「幸せな活躍」とより関連しているのかを確認するために重回帰分析を行った(図3)。分析の結果、(ⅰ)積極的に人を巻き込みながら学ぶ「ソーシャル・ラーニング」と、困難な事からこそ学ぶ「ラーニング・レジリエンス」、いくつかの学びや経験を架橋する「ラーニング・ブリッジング」の3つが重要な学び特性として関連していること、(ⅱ)中でも特に「ソーシャル・ラーニング」と強い関連がみられることが明らかになった。

図3:「幸せな活躍」と特に関連の高い学び特性(専門学校卒社会人のみ)

図3:「幸せな活躍」と特に関連の高い学び特性(専門学校卒社会人のみ)

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査<高卒・専門学校卒・短大卒編>」


ではこうした3つの学び特性はどのように形成されてきたのだろうか。前述したように、これらの特性は社会人時代だけでなく、学生時代を含む学びや経験の積み重ねにより備わってきたものであることが予想される。そこで、3つの学び特性と関連の強い学生時代の学び・経験を確認するための追加分析を行った。その結果を示したものが図4である。「ソーシャル・ラーニング」は、グルーワークへの積極的な参加や社会問題についての友人との議論、先輩からのアドバイスなど、人との関わり合いを通じた学びと、「ラーニング・レジリエンス」は、資格取得などに向けて学習に計画的に取り組んだり、サークルや部活動を通じて粘り強くやり抜いたりした経験と、「ラーニング・ブリッジング」は実社会との接点や自身が目指す職業や進路に関わる教員からのアドバイスをもらった経験と関連があった。

図4:専門学校卒社会人の幸せな活躍につながる学び特性と関連する学生時代の学び・経験

図4:専門学校卒社会人の幸せな活躍につながる学び特性と関連する学生時代の学び・経験

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査<高卒・専門学校卒・短大卒編>」


こうした傾向は、アンケート調査と併行して実施したインタビュー調査においても確認されている。例えば、看護学校を卒業後、看護師として社会貢献を目指した若手社会人は、理想と実力のギャップから心と体のバランスを崩し離職。その後、看護師として復帰するも、やはり限界を感じ再度離職。ただそこで諦めずに、自身が抱えてきた悩みや経験を生かして「看護師を支えるメンタルサポート事業」を起業。NPOの代表として医療現場の外から看護師をケアする形で社会に貢献していこうとする姿が報告されている。(https://berd.benesse.jp/special/well-being/wim.php

当初想定していた「看護師として社会を支える」という形ではないかもしれないが、粘り強く自身と社会と関係を位置づけ直し、自分なりの「幸せな活躍」を見いだそうとアクションを継続しており、ラーニング・レジリエンスの学び特性との関連性を感じる事例である。もっとも、こうした経験は専門学校卒社会人に限らず、大卒社会人のインタビュー調査においても確認されており、教育歴に関わらない、幸せな活躍につながる学びの特性を形成する上で鍵となる経験の共通項といえるだろう。

必要な学びや経験をいかに自ら取りに行くか

どのような教育歴を辿るかは、学生時代時代の学びや経験のみならず、就職後の職業を通じた教育機会にも影響している。詳細は割愛するが、本調査の報告書では、専門学校卒社会人の「幸せな活躍」につながる学び特性にポジティブな効果がある経験として「戦略・企画策定業務」や「書籍を通じた学び」が確認されたが、経験率が低いことが明らかになっている。これらの経験は調査対象である20代や30代で必要でなかったとしても、「人生100年時代」と呼ばれ、働きながら学び続けることの長期化が予想される時代において、「店舗経営の戦略立案を任される」「管理職登用のために資格取得が求められる」などの形で、誰もがどこかのタイミングで必要になってくる学びや経験といえる。

以上を踏まえると、学生時代、社会人時代にかかわらず、これまでの自身の教育歴や今いる場所を俯瞰しながら、どのような経験は得やすく、どのような経験は得にくいのかを把握し、自らに必要な学びや経験を取りにいくような積極性が今後より一層重要になってくるのではないか。その意味で、「周りの人から積極的に意見をもらうようにしている」 「周囲の人や上司に自分の関心のある領域を積極的に伝えている」といった「ソーシャル・ラーニング」が専門学校卒社会人だけでなく、他の教育歴をもつ社会人にとっても*4、「幸せな活躍」と特に関連の強い学び特性として浮かび上がってきた点は興味深い。


[*1] 具体的には、以下のように「幸せな活躍」を定義した。「はたらく幸せ実感」はパーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室 「はたらく人の幸せに関する調査」より「はたらく幸せ実感」の項目を使用した。

本調査での「幸せな活躍」の定義と測定
「はたらくことを通じて、幸せを感じている」などの7項目を「個人の主観的な幸せ(はたらく幸せ実感)」として測定し、「顧客や関係者に任された役割を果たしている」「担当した業務の責任を果たしている」などの5項目を個人のジョブ・パフォーマンスとして測定した上で、全体分布の中でともに高い層を「幸せな活躍層」として定義。

[*2] 国立教育政策研究所(2023)「高校生の高等教育進学動向に関する調査研究 ―第二次報告書」、第1章に示されている 「世帯収入別高校卒業後の進路」「高校の入学難易度別 高校卒業後の進路」の結果は以下の通り。なお、高校の入試難易度はI~Vの5段階で示されている。世帯年収が低い層ほど、高校の入試難易度(≒教科学力)が低い層において「短大・専門等」に進学が選択されやすい傾向がうかがえる。

図4:「世帯収入別高校卒業後の進路」「高校の入学難易度別 高校卒業後の進路」

[*3] 「はたらく幸せ実感」の尺度についてはパーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室の「はたらく人の幸せに関す る調査」を参照

[*4] 若年就業者のウェルビーングと学びに関する定量調査<高卒・専門学校卒・短大卒編>,25スライド目を参照 https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/hatachikara2.pdf

参考文献
・国立教育政策研究所(2023)「高校生の高等教育進学動向に関する調査研究 ―第二次報告書」, 令和2~4年度
プロジェクト研究報告書, 第1章 令和3年度「高校生の進路に関する保護者調査」の概要(濱中 義隆) p7-53
・文部科学省(2022)学校基本調査、令和4年度
・中原淳・パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所(2022), ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ,若者インタビュー
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/hatachikara/#youth
・植上一希(2011)「専門学校の教育とキャリア形成 進学・学び・卒業後」,大月書店

プロフィール

佐藤 昭宏 氏

ベネッセ教育総合研究所 学習科学研究室 室長

佐藤 昭宏 氏

ベネッセコーポレーション入社後、ベネッセ教育総合研究所にて子ども・保護者・教員に関する調査研究や編集業務、学習理論に基づく教材・研修開発、自治体・高等教育機関との教育の質保証に関する共同研究に複数携わる。文科省「職業実践専門課程等を通じた専修学校の質保証・向上の推進事業」(2017-)「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」(2016-2018)委員。経団連「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」委員(2019)。関東学院大学非常勤講師(2019-2022)。専門社会調査士。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。


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