「キラキラした若者」はなぜ会社を辞めるのか ソーシャル・エンゲージメントの視点から

ハタチからコラムイメージ画像

パーソル総合研究所では、立教大学の中原淳教授、ベネッセ教育総合研究所との研究プロジェクトである『ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ』において、若手社会人が仕事で活躍し幸せを感じること(幸せな活躍[注1])のヒントを探求している。本コラムでは、そこで得られた成果のうち、就業者の幸せな活躍にとって重要な社会へのエンゲージメント、「ソーシャル・エンゲージメント」について詳細な分析を紹介したい。

すでにコラム「社会」へのエンゲージメントが仕事で活躍し幸せを感じることに導く――ソーシャル・エンゲージメントとは何かで紹介したとおり、本ラボでは、就業者の重要なエンゲージメントとして、「社会」へのエンゲージメントである「ソーシャル・エンゲージメント」という概念を提起した。

ソーシャル・エンゲージメントとは、①「社会への関心があること」、②「社会的責任感を持っていること」、③「社会課題解決への効力感」という3つの側面からなる、個人が持つ「社会への志向性の強さ」のことである。定性的・定量的な検証ののち、このソーシャル・エンゲージメントは、本人のウェルビーイング(Well-being)、職場での個人パフォーマンス、ジョブ・クラフティング(従業員が自らの職務内容や職務のフレームを再構築し、それをより意味があるものに変える行為)[注2]といった重要な成果に強いポジティブな関係があることが分かっている。本コラムでは、そのソーシャル・エンゲージメントという概念を用いながら、若者の仕事意欲の低下や離職リスクなどについて議論を行っていく。

  1. 入社後「意識の高い若者」の目が曇っていく
  2. 若者のソーシャル・エンゲージメントはなぜ下がるのか
  3. 「今の仕事」が社会貢献へとつながるかが鍵
  4. まとめ

入社後「意識の高い若者」の目が曇っていく

就活の現場を見ていると、ボランティアや国際活動など、何らかの社会性に溢れた活動を学生時代から積極的に行い、コミュニケーションがうまく経験豊富な学生に出会うことが多々ある。学生はその経験を活かした就活を行い、しばしば企業からの人気も高く、大手企業の内定を幾つも獲得していく。また、企業側も、採用マーケティングや企業説明会などで、自社の事業の社会的意義や地域への貢献、地球環境への配慮などをアピールすることがほぼ通例となっている。

しかし、そうした「キラキラした」「意識の高い」ように見える学生の多くが、社会人として数年を過ごしていくうちに企業内で意欲を失っていくことが多いこともまた事実だ。企業理念や事業の社会的な意義に共感し、意気揚々と入社するにもかかわらず、入社後にどこかのタイミングで落胆し、早期離職に至ることも、「意識の高い若手あるある」として採用担当者の間でよく聞かれるものだ。こうしたケースで見られるのは、「社会」的な関心が強い20代の若者、つまりここでいう「ソーシャル・エンゲージメント」が高い層の若者が、入社後に活躍していかないという課題である。

ソーシャル・エンゲージメントの各要素を、年齢別に見てみよう。「社会課題への具体的関心」と「課題解決への効力感」は20代を通じてやや減少傾向にある。その後ソーシャル・エンゲージメント全体は横ばい傾向になり、50代後半から上昇するという傾向が見られる。「キラキラした意欲が失われていく」といった現象は、データでも兆候として見られるようだ。ただ、この年齢傾向は、世代効果(コーホート効果)か加齢効果かの判別はできない。そのため、詳細な仕事経験とソーシャル・エンゲージメントの関係を見てみよう。

図1:年齢別の社会への意識

図1:年齢別の社会への意識

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「就業者の社会貢献意識に関する定量調査」

若者のソーシャル・エンゲージメントはなぜ下がるのか

34歳以下の若年層に絞って、ソーシャル・エンゲージメントにマイナスの関係を持つ仕事経験を分析した。すると、仕事における3つの要素が、人の社会への志向性を奪っているような様子が見られた。

その要素の1つ目は、仕事における「貢献感の欠如」だ。これは、「会社の利益だけを出す仕事だ」「直接人から感謝されにくい仕事だ」といった貢献実感のなさである。2つ目に、「他人を傷つけたり、軽んじたりすることがある仕事だ」「人を騙している気になることがある仕事だ」という「他者軽視感」である。3つ目に、「今の仕事は自身の成長につながっていない」「遠くない未来に不要になる仕事だ」といった「無成長実感」である。これらの3つが、若者のソーシャル・エンゲージメントにマイナスの関係が見られたのだ。

また、「貢献感の欠如」と「他者軽視感」の一部は、入社してすぐに特に強く感じられているという傾向も見られた。社会的志向の高い若者が、ビジネスの貢献実感のなさや他者を軽視した仕事の在り方に気が付き、学生時代からのリアリティ・ショックとして経験されている可能性が高い。

図2:ソーシャル・エンゲージメントが下がる仕事の経験率(就業年数別)

図2:ソーシャル・エンゲージメントが下がる仕事の経験率(就業年数別)

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「就業者の社会貢献意識に関する定量調査」


人類学者デヴィッド・グレーバーは、著書『ブルシット・ジョブ』において、まったくやりがいの感じられないようなムダで無意味な仕事=ブルシット・ジョブが社会で増えているということを指摘している。グレーバーの表現を借りれば、現代はこうした「どうでもいい仕事」が蔓延する一方、本当に役に立つ仕事は低賃金で搾取されるという倒錯が起こっているという。

ここで若年層に見られたこの3つのネガティブな要素は、まさにグレーバーが喝破した「どうでもよさ」を、就職後の若者が感じてしまっている例である。実際にこの3つの要素は、就業者の社会変化への諦め感(達観視・無力感・無関心)を上昇させており、そうした諦念感が、ソーシャル・エンゲージメントの低下につながっていることが判明している。

「今の仕事」が社会貢献へとつながるかが鍵

先ほどのデータが示すのは、ソーシャル・エンゲージメントが高くても、今の仕事が社会貢献へとつながっている実感がないのであれば、人は社会への関心を低減させていくということだ。つまり、ソーシャル・エンゲージメントだけ高くとも、現状の仕事とつながっていなければいけないのだ。

この事態は、ソーシャル・エンゲージメントにもう一つのコンセプトを組み合わせることでより見通しの良い議論が可能になる。 われわれは、こうした「今の会社での仕事が、社会貢献に何らか関連しているという実感」のことを、「ソーシャル・レリバンス」と呼んで測定した。レリバンスとは、「関連」や「意義」といった意味をもつ言葉だ。詳しい項目は下記に図示する。

図3:ソーシャル・レリバンスの詳細

図3:ソーシャル・レリバンスの詳細

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「就業者の社会貢献意識に関する定量調査」


このソーシャル・エンゲージメントとソーシャル・レリバンスの2つを組み合わせ、高低を組み合わせて4群に分けて分析すると、最も企業で活躍しウェルビーイングが高いのは、ソーシャル・エンゲージメントが高いことに加えて、ソーシャル・レリバンスも高い群(共に高い層)である。高い社会への志向性からパフォーマンスを引き出そうとするのであれば、具体的な仕事と社会貢献へのつながりを実感することがやはり有効だということである。

ソーシャル・エンゲージメントのみ高い層は、パフォーマンスやワーク・エンゲイジメントが高いが、同時に転職意向・キャリア焦燥感(キャリアを築くことへの焦り)も高いという結果になった。

図4:ソーシャル・エンゲージメントとソーシャル・レリバンスの高低別特徴

図4:ソーシャル・エンゲージメントとソーシャル・レリバンスの高低別特徴

出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「就業者の社会貢献意識に関する定量調査」


これがまさに、社会的志向性が高い若者が、貢献実感のなさに落胆し、その会社を辞めていくという事態を説明しているといえよう。ソーシャル・エンゲージメントはソーシャル・レリバンスと組み合わさったときに大きな力を発揮するのであり、その就業者の社会貢献への期待が裏切られてしまえば、他に活躍の場を求めていく者が増えるリスクがあるようだ。

では、ソーシャル・エンゲージメントが低い就業者だけで組織を構成すれば良いかといえば、そうではない。先ほどの4群の中でソーシャル・エンゲージメントとソーシャル・レリバンスの両者が低い群(共に低い層)は、ソーシャル・エンゲージメントのみが高い層よりもパフォーマンスもウェルビーイングも最も低いからだ。社会性を一切感じず、興味もないという群が最も活躍から遠のいている。そうした人だけを集める企業が持続的に成果を出すのは難しいだろう。

このソーシャル・エンゲージメントとソーシャル・レリバンスの両立のために企業は何ができるだろうか。詳しくは別コラム(近日公開予定)に譲るが、「貢献実感のなさ」や「他者軽視感」といった若手就業者の働く状況を改善することが第一歩であろう。

求人広告や採用ホームページでは事業の社会貢献性を強調しておいて、働き始めた途端、細切れで何に貢献しているかが分からない仕事に関わることになったり、顧客のためにならないような詐欺的なサービスの売り上げをひたすらに追いかけさせられたりするなどの仕事の在り方が、社会性の強い若者にリアリティ・ショックを生んでいる。それは、社会倫理的にというよりもまず、人材マネジメントの戦略としての失敗であろう。人事や管理部門は、こうしたことが自社で起こっていないか、まずは現場に降りて確認してほしい。

まとめ

「ソーシャル・エンゲージメント」が高い若者は、視野が広く、ジョブ・クラフティングができ、パフォーマンスが高いものの、「自社での仕事」が社会への貢献とひもづいている実感がないと、離職していくリスクが高まっている。これが本コラムで議論した「意識の高い若者から辞めていく」という「あるある」の背景を説明している。

離職しなくても、短期業績ばかり追い、貢献実感が欠如した仕事を続けることで、人は「社会」を考えることを徐々にやめていく様子も見られた。社会貢献など青臭いことだと「達観」し、「無力感」に囚われ、「無関心」になっていっている。このような傾向は、企業での働き方が、人から社会性を失わせていくメカニズムそのものである。90年代以降の成果主義トレンドの功罪はこうした観点からも検討されるべきである。


[注1] 具体的には、以下のように「幸せな活躍」を定義した。「はたらく幸せ実感」はパーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室 「はたらく人の幸せに関する調査」より「はたらく幸せ実感」の項目を使用した。

本調査での「幸せな活躍」の定義と測定
「はたらくことを通じて、幸せを感じている」などの7項目を「個人の主観的な幸せ(はたらく幸せ実感)」として測定し、「顧客や関係者に任された役割を果たしている」「担当した業務の責任を果たしている」などの5項目を個人のジョブ・パフォーマンスとして測定した上で、全体分布の中でともに高い層を「幸せな活躍層」として定義。

[注2] ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ 単行本 – 2023/3/18 高尾 義明 (編集), 森永 雄太

執筆者紹介

小林 祐児

シンクタンク本部
上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)など多数。


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