副業人材の獲得に重要な副業求人の記載事項 ~ネガティブ情報の「積極的開示」と、組織風土の「見える化」を~

公開日 2023/11/13

執筆者:シンクタンク本部 研究員 中俣 良太

副業コラムイメージ画像

労働力不足が深刻化する昨今において、人材の採用は企業にとって重要な課題のひとつだ。そのため、副業解禁の動きが加速することに伴い、企業が副業人材を受け入れるケースは今後増えていくことが予想される。一方で、副業求人への応募を躊躇う副業意向者の意識も見られている※1。この現状を踏まえ、企業は今後どのような点に注意して副業求人を募集すればよいだろうか。本コラムでは、パーソル総合研究所が実施した「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」 のデータを基に、上記の問いについて考えていきたい。

※1 コラム「副業における最新動向とその課題 ~副業の活性化には「歯車連動型」副業への転換がカギ~」

  1. 副業求人に対し十分な応募がある企業は約3割
  2. 副業推進を阻害する副業求人への「応募控え」意識
  3. 副業求人の「情報の透明性」と「条件の柔軟性」がポイント
  4. 副業求人への重要な記載事項
  5. まとめ

副業求人に対し十分な応募がある企業は約3割

はじめに副業求人の応募実態について見ていこう(図1)。副業者を受け入れている企業の人事担当者に対して、副業求人に十分な数の応募が来ているかを質問したところ、肯定回答・中庸回答・否定回答※2がいずれも約3割という結果であった。採用は応募者の「量」ではなく、いかに自社に合った人材を採用できるかという「質」の側面が重要であるが、応募数が少なければ、優秀な人材が現れる確率も低くなるだろう。この結果だけでも、副業者の採用に頭を悩ませる企業の多さがうかがえてくるのではないだろうか。

図1:副業求人の応募の実態

図1:副業求人の応募の実態

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

※2 肯定回答は「あてはまる」「ややあてはまる」の合計スコア、中庸回答は「どちらともいえない」、否定回答は「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の合計スコアを指す。


では、副業者の採用について、企業はどのような媒体を用いているのだろうか。図2の棒グラフを見ると、副業者の採用における活用媒体として最も多いのは「従業員からの紹介」であり、48.1%と抜きん出ている。活用媒体と「副業求人の応募の多さ」の関係性もあわせて参照されたい(図2下部)。「副業サイトや求人検索サイトの利用」が「副業求人の応募の多さ」に最も強い影響を与えており、次いで「従業員からの紹介」が続く。まだまだ人づての紹介による副業者の募集が多い実態ではあるが、近年成長を遂げる副業マッチングのプラットフォームなどの活用も積極的に検討してみてはどうだろうか。

図2:副業者の採用における活用媒体の実態と「応募の多さ」との関係性

図2:副業者の採用における活用媒体の実態と「応募の多さ」との関係性

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

副業推進を阻害する副業求人への「応募控え」意識

ここからは、本コラムに関連する個人側の副業求人に対する応募意識について見ていこう。本調査では、副業求人への応募を控える意識(副業求人への「応募控え」意識)に着目し、3つの測定項目を副業意向(求職者)者と副業実施者に聴取している。それらの結果を見ると、いずれの項目も副業実施者より副業意向者の方が、「応募控え」に関する意識を強く持っていることが分かる(図3)。希望者が副業を選択できる社会の実現に向けては、この「応募控え」意識をいかに低減させていくかが重要であるといえよう。

図3:副業求人への「応募控え」意識の実態

図3:副業求人への「応募控え」意識の実態

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」


副業求人への「応募控え」意識をさらに深く理解するために、その背景にある副業求人自体への意識も見てみよう。「応募控え」意識と相関が強い要素として、副業求人における「柔軟性のなさ」「情報の不明瞭さ」「役割・権限の重さ」「経験・スキルの高さ」が挙がる。副業求人の応募を躊躇う根底には、副業求人に感じる「アンマッチさ」の意識と「ハイスペックさ」の意識が潜んでいるものと考えられる。

図4:副業求人への「応募控え」意識の背景

図4:副業求人への「応募控え」意識の背景

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

副業求人の「情報の透明性」と「条件の柔軟性」がポイント

副業求人への意識と、副業を行う動機との関係性を分析していくことで、より多角的に副業求人への「応募控え」の事象を読み解くことが可能だ。本調査では、副業を行う動機として、「自己実現」「スキルアップ・活躍の場の拡大」「収入補填」「なりゆき・頼まれ副業」「本業への不満」「現職の継続就業不安」という計6つの動機が明らかになっている※3。前半の2つはポジティブな副業動機、後半の2つはネガティブな副業動機と捉えられる。

これらの副業動機が副業求人の意識に与える影響を分析し、整理したものが以下の図5である。主だった傾向として、ポジティブな副業動機は副業求人の「柔軟性のなさ」「情報の不明瞭さ」、ネガティブな副業動機は副業求人の「役割・権限の重さ」「経験・スキルの高さ」との関係性が強いことが分かる。「副業によって新たなスキルや経験を獲得したい」といった、前向きな動機を持つ副業意向者については、副業求人の内容の《物足りなさ》を感じることで求人応募を躊躇う。一方、消極的な動機を持つ副業意向者は、副業求人の《ハードルの高さ》を感じることで求人応募を躊躇うといった二者の異なる様相がうかがえるのではないだろうか。

図5の結果を踏まえると、前向きな動機を持つ副業意向者の「応募控え」につながりやすい、副業求人への「アンバランスさ」の意識を低減させること、つまり副業求人における「情報の透明性」と「条件の柔軟性」の要素を優先して高めていくことがポイントと考えられる。

図5:副業動機と副業求人への意識の関係

図5:副業動機と副業求人への意識の関係

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

※3 項目の詳細については、「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」内のAppendixを参照されたい。

副業求人への重要な記載事項

それでは、「情報の透明性」「条件の柔軟性」を高めるために、副業求人の中にどのような情報を記載すればよいのだろうか。より詳細な副業求人の記載事項を分析することでその示唆が得られた。副業求人の記載事項について、副業意向者には「不足している」と感じる情報、企業の人事担当者には実際に記載している情報を聴取している。そして、前者の割合を縦軸、後者の割合を横軸に定めて作成したマップが図6だ。左上に布置される情報ほど、重要な記載事項として捉えることができる。

結果として、「副業先で働く上で大変なこと・デメリット」「職場の雰囲気・組織風土」「責任範囲」「働き方の柔軟性」などの記載が重要であることが分かった。特に、自社にとってのネガティブな情報や組織風土の記載は、他の項目よりもマップ上の左上に布置されており、「応募控え」意識を低減させる上で有効である可能性が示唆される。これらの情報を記載し、透明性を高めていくとともに、責任範囲や働き方などの要素は、副業意向者の状況に応じて柔軟に対応する旨の情報も記載してみてはどうだろうか。

図6:副業求人における重要な記載事項マップ

図6:副業求人における重要な記載事項マップ

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

まとめ

ここまで、「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」のデータを基に、企業が副業求人を募集する上でのポイントを見てきた。現状、副業求人の応募が十分来ている企業は多くなく、今後企業が副業人材を獲得するには、副業マッチングのプラットフォームなどの活用や、副業求人への「応募控え」意識を低減させていくことがポイントであることが分かった。また、「応募控え」意識低減のために、企業は、副業求人の「情報の透明性」や「条件の柔軟性」を高めていくことが重要である。本調査からは、副業求人の中に「副業先で働く上で大変なこと・デメリット」や「職場の雰囲気・組織風土」の情報の記載が、「応募控え」意識低減の上で特に有効である示唆が得られている。

「自社のウリ」を記載している求人は数多く見られるが、求職者の不安要素に触れている求人は少ない。「自社で働くメリット」を伝えることはもちろん大事だが、自社の弱み・デメリットや職場のリアルな雰囲気なども積極的に開示し、求職者が「自社で働く上での不安」を事前になくすことが重要だ。

「職場の雰囲気・組織風土」の情報として、組織サーベイの定期的な実施とその開示も副業求職者にとって有益な情報になるであろう。職場の雰囲気は、実際に働いてからでないと感じにくい要素ではあるが、定期的に組織サーベイを行っていくことで、部署ごとの組織風土やその推移が分かる。定量的なスコアを基に組織風土を可視化し結果を開示することが、「応募控え」意識を低減させる上でも有効な施策の一つではないだろうか。本コラムで示した知見が、企業の副業求人の在り方を議論する上でのヒントになれば幸いである。

執筆者紹介

中俣 良太

シンクタンク本部
研究員

中俣 良太

Ryota Nakamata

大手市場調査会社にて、3年にわたり調査・分析業務に従事。金融業界における顧客満足度調査やCX(カスタマー・エクスペリエンス)調査をはじめ、従業員満足度調査やニーズ探索調査などを担当。
担当調査や社員としての経験を通じて、人と組織の在り方に関心を抱き、2022年8月より現職。現在は、地方創生や副業・兼業に関する調査・研究などを行っている。


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