公開日 2023/11/02
副業解禁が進んだ2018年の「副業元年」から5年が経過した。2018年1月、厚生労働省が示す「モデル就業規則」が改定され、新たに副業・兼業に関する規定が新設されて以降、パーソル総合研究所では副業の動向に注視し調査を実施してきた※1。新型コロナウイルス感染症をはじめとするさまざまな環境変化も見られたが、副業はこの5年間でどの程度浸透してきたのだろうか。本コラムでは、2023年に実施した副業に関する最新調査のデータを見ていきながら、副業の現在地やその課題について見ていきたい。
※1 パーソル総合研究所がこれまでに実施した副業に関する調査データは以下の通り。
2018年調査:「副業の実態・意識調査」
2021年調査:「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査」
2023年調査(今回):「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」
まずは、企業における副業の実態から確認していこう(図1)。従業員数10人以上の企業に属する人事担当者に対して、自社の副業容認の状況を問うたところ、60.9%が「全面的に容認」もしくは「条件付きで容認」と回答。2021年調査から5.9pt増加しており、副業を容認する企業は増加の一途をたどっている傾向だ。
図には示していないが、企業が副業を容認する理由もあわせて確認したところ、「個人の自由なので」や「従業員のモチベーション向上のため」「優秀な人材の確保・定着のため」といった理由が前回よりも上昇していた。このことから、就業者の副業が一般的なもの、かつ企業にとっても有益なものとして徐々に認識されてきている様相がうかがえる。
図1:企業の副業容認状況
出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」
企業の副業者の受入れ実態はどうか。「副業者を受け入れたい」といった受入れ意向率も合わせると49.7%になるが、実際に副業者を受け入れている企業は24.4%で4社に1社という状況である(図2)。これは、2021年調査からもほとんど変動が見られない。企業が副業者を《送り出す》動きは進む一方、副業者を《迎え入れる》動きは停滞しているのが実状といえよう。
図2:企業の副業受入れ状況
出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」
個人側の副業実態についても見ていこう。本調査における対象者は、従業員数10人以上の企業に勤める20~50代の正社員である。現在副業を行っている割合(副業実施率)と、今後副業を行いたい割合(副業意向率)の結果を図3、4に示す。
先ほど紹介した企業の副業容認率とは裏腹に、正社員の副業実施率は7.0%で2018年調査から微減トレンドを推移している。また、副業実施率と副業意向率(40.8%)の差が大きく、意識と実態のギャップが見られる。当初政府が目指したのは、「希望者が副業を選択できる社会にすること」であったが、その実現に向けては道半ばの状況といえよう。
図3:正社員の副業実施状況
出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」
図4:副業を行っていない正社員の副業意向
出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」
では、正社員の副業実施率が低い理由は何なのか。図5は、副業意向者に対して、副業を行っていない理由を尋ねた結果だ。最も回答が多いのは、「(副業求人が)自分の希望やスキルに合っておらず、応募を控えてしまう(29.7%)」という理由であった。すなわち、企業が求める副業人材の理想像と、実際の副業意向者との間に乖離が生じているケースが考えられる。前述した通り、企業の副業受入れ率は、副業容認率と比べて低い傾向が見られていたが、そうした副業意向者の「受け皿の少なさ」に加えて、「求人のアンマッチの多さ」が、個人の副業実施の有無に強く関係しているのではないだろうか。
また、「本業が忙しくて時間が無い(29.7%)」も理由として多く、副業実施の有無に関わる主要因だろう。この点は、テレワークの実施状況とも関係していると推察する。本調査と同時期に実施しているパーソル総合研究所「第八回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によると、2023年7月のテレワーク実施率が2020年4月以降で最も低い傾向を示す。新型コロナの収束が背景にあると考えられるが、出社に費やす時間が増える分、自由に使える余暇時間が減り、そのことが「副業したくてもできない」意識を醸成させているものと解釈できる。
図5:副業意向者が副業を行っていない理由(%)
出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」
副業が注目される背景には「労働力不足」の問題があるが、本調査によると全体で62%の企業が労働力不足を感じている。これは、2021年調査よりも上昇しており、特に地方企業では深刻な状況だ。昨今の少子高齢化の状況を踏まえると、労働力不足に陥る企業は今後より一層増えていくだろう。その意味においても、企業は、副業人材という外部リソースを積極的かつ円滑に活用していくことをお勧めしたい。そのためには、正社員の副業実施率を高めていく必要がある。
副業実施率を高めるには、前述した通り「採用前のアンマッチ解消」がポイントと考える。この点に関して、本調査からは、求人に「副業先で働く上で大変なこと・デメリット」や「職場の雰囲気・組織風土」などの情報を記載することの有効性が示されている。詳細についてはコラム「副業人材の獲得に重要な副業求人の記載事項 ~ネガティブ情報の「積極的開示」と、組織風土の「見える化」を~」で紹介している。
また、副業をより活性化させていくには、長期的視点から捉え、採用前だけでなく、「採用後のミスマッチ解消」や「副業中のパフォーマンス発揮」についても考える必要があるだろう。今回の調査から見えてきたのは、企業が求人を募集し、候補者と面談し、副業者として受け入れ、パフォーマンスを発揮してもらうまでのプロセスの中で、アンマッチやミスマッチが生じている傾向。いわば、形がピッタリとはまるピースを探し続けるような「パズルはめ込み型」の副業の様相だ。今後副業を広げていく上では、こうしたアンマッチ・ミスマッチ解消に向けて、企業と個人がそれぞれ働きかけ合い、好循環をもたらすような「歯車連動型」の副業が肝要ではないだろうか(図6 ※2)。
※2 図6では、正社員と副業先企業に加えて、本業先企業の歯車も描いているが、その理由についてはコラム「副業がもたらす効果と、本業先企業の働きかけの関係 ~副業容認の在り方を再考する~」 で述べる。
図6:「パズルはめ込み型」の副業と「歯車連動型」の副業イメージ
出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」
本コラムでは、「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」 のデータから、副業の最新動向とその課題について見てきた。結果として、企業の副業解禁は進む一方で、個人が副業をする動きは停滞しており、希望しているにも関わらず副業できない層が一定数いることが分かった。また、副業を行えない要因として、副業意向者の「受け皿の少なさ」と「求人とのアンマッチの多さ」、そして「本業の多忙化」の3点が考えられた。
今後の労働力不足を見据えると、副業実施率の停滞は大きな課題である。これを解決するには副業人材の「採用前のアンマッチ解消」が必要と考える。また、長期的に副業を推進していく上で、「採用後のミスマッチ解消」や「副業中のパフォーマンス発揮」もポイントになってくるだろう。本調査では、【副業前】・【副業開始】・【副業中】の各フェーズの課題に対して、解決に向けた示唆を明らかにしている(図7)。各フェーズの詳細については以下のコラムで紹介している。
【副業前】:「副業人材の獲得に重要な副業求人の記載事項 ~ネガティブ情報の「積極的開示」と、組織風土の「見える化」を~」
【副業開始】:「企業と副業人材のミスマッチを防止する採用コミュニケーション」
【副業中】:「副業人材のパフォーマンスを高める「オンボーディング」のポイント」
これらの知見も参考にしながら、企業は今後の「副業人材マネジメント」について考えてみていただきたい。
本コラムが、企業と個人の双方にとってより良い副業社会を実現するための一助となれば幸いである。
図7:副業推進のポイント
出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」
シンクタンク本部
研究員
中俣 良太
Ryota Nakamata
大手市場調査会社にて、3年にわたり調査・分析業務に従事。金融業界における顧客満足度調査やCX(カスタマー・エクスペリエンス)調査をはじめ、従業員満足度調査やニーズ探索調査などを担当。
担当調査や社員としての経験を通じて、人と組織の在り方に関心を抱き、2022年8月より現職。現在は、地方創生や副業・兼業に関する調査・研究などを行っている。
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