副業人材のパフォーマンスを高める「オンボーディング」のポイント

公開日 2023/11/15

執筆者:シンクタンク本部 研究員 中俣 良太

副業コラムイメージ画像

転職することが「当たり前」の社会となった昨今、新しく入社する社員がうまく組織になじむことの重要性は高まり続けている。こうした動きに伴い、近年では中途採用者の定着・活躍を促す「オンボーディング(人材の受け入れ~定着・戦力化までのプロセス)」に関心が寄せられている。他方、転職に限らず、「副業も当たり前」になる時代を見据えるとすれば、今後は副業者の活躍を促すオンボーディングについても考えていく必要があるのではないか。本コラムでは、パーソル総合研究所の調査「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」のデータを通して、主にオンボーディングの観点から、副業者のパフォーマンスを高めるためのポイントを考えていきたい。

  1. 副業者のオンボーディングの実態
  2. 副業者のパフォーマンスの実態
  3. 副業者のパフォーマンスを高める三要素
  4. まとめ

副業者のオンボーディングの実態

企業は、副業者のオンボーディングにどの程度力を入れているのだろうか。副業者を受け入れる企業の人事担当者に、その取り組みの意識を尋ねたところ、力を入れている企業は36.3%、力を入れていない企業は63.7%という結果であった。なお、尾形真実哉氏が2020年に行った調査によると、「中途採用者のオンボーディング」に力を入れている企業は40.9%、力を入れていない企業は59.1%である※1。およそ3年前に行われた調査のため、2023年現在、中途採用者のオンボーディングに力を入れている企業はこれよりも多いと考えられるが、そうした点も踏まえると、まだまだ副業者のオンボーディングに目が向いていない企業の多さがうかがえよう。

図1:副業者へのオンボーディングの意識

図1:副業者へのオンボーディングの意識

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

※1 『組織になじませる力』、著者:尾形真実哉、2022年、株式会社アルク


企業が取り組んでいるオンボーディング施策の実態はどうか。副業者へ何らかのオンボーディング施策を行っている企業はおよそ6割であり、その内訳は「顔合わせミーティングの設定(17.8%)」「社内の施設見学機会の創出(17.5%)」「仕事でわからないことを質問できる相談役の配置(16.1%)」などの項目が上位を占める。また、企業1社当たりのオンボーディング施策の実施数は1.9項目という結果であり、こうした傾向からも副業者のオンボーディングの弱さが見えてくる。

図2:副業者のオンボーディング施策の実態

図2:副業者のオンボーディング施策の実態

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

副業者のパフォーマンスの実態

ここからは、副業者個人の意識を見ていこう。まずは、副業者のパフォーマンスに関する結果だ(図3)。パフォーマンスを測定する際の具体的な聴取項目は、以下の3項目である。

① 副業先で、担当業務を滞りなく遂行している
② 副業先で、任されたレベル以上の成果を果たしている
③ 副業先で、メンバーからの期待を超えるパフォーマンスを発揮している

これらの項目について、「あてはまる」~「あてはまらない」までの5件法で聴取すると、①「滞りなく遂行」の肯定回答は半数程度であるが、②「任されたレベル以上の成果」、③「期待を超えるパフォーマンスの発揮」の肯定回答は3割台に留まる。何らかの支障をきたしながら業務を行うケースが一定数見受けられる傾向や、ワンランク上のパフォーマンスをあまり発揮できていない現状を踏まえると、副業者のパフォーマンスは、まだまだ向上の余地がありそうだ。

図3:副業者の副業先でのパフォーマンス

図3:副業者の副業先でのパフォーマンス

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

こうしたパフォーマンスの高低は、副業先への企業業績だけでなく、副業者自身の学びとも関係する。「副業先でのパフォーマンス」は「副業からの学び」にプラスの影響を与えており、高いパフォーマンスを発揮できる副業者ほど、副業からの効用を獲得しやすい傾向が明らかになった。

また、上記の傾向は過重労働の状況によって違いがある。過重労働を強いられる副業者よりも、そうでない副業者の方が、パフォーマンスの発揮が学びにつながりやすい傾向が見られている。副業者のパフォーマンスを考える上では、過重労働をいかに抑制するかという点も注視すべき要素だ。

図4:副業先でのパフォーマンスが副業者の学びに与える影響

図4:副業先でのパフォーマンスが副業者の学びに与える影響

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

副業者のパフォーマンスを高める三要素

副業者が高いパフォーマンスを発揮するには、どのような状態であることが重要だろうか。本調査では、尾形氏が、インタビュー調査のデータを基に示す「中途採用者の組織再適応課題」の内容を参照し、以下の3つの要素が副業者のパフォーマンスに影響を及ぼすという仮説を立てた。

副業先での「固有ルールの理解」:副業先固有の文化や慣習、仕事の進め方を理解できているか
副業先での「人的ネットワークの構築」:仕事で関わるメンバーを把握しているか
副業先メンバーとの「信頼関係の構築」:仕事で関わるメンバーと信頼関係を築けているか

上記の要素とパフォーマンスの関係を分析したところ、三要素のいずれもが、「副業先でのパフォーマンス」に対して良い影響を与えており、特に「固有ルールの理解」の影響度が最も強い結果となった(図5)。これは、目に見えない暗黙のルールや慣習は、目に見えるルール以上に副業者の職務遂行に影響を及ぼす可能性を示唆するものであろう。

一方で、「人的ネットワークの構築」の影響度は、三要素の中で最も小さい結果となった。副業はジョブ型のように、仕事が切り出されているケースが多く、1人で完結するものも多い。本調査の回答者の中に、周囲を巻き込む必要のない職務を行う副業者が一定含まれているとすれば、今回の傾向も合点のいくものであろう。ただし、マーケティングやコンサルティングなどの、部署を横断する必要がある職務については、広く良質な人的ネットワークの構築が重要になる点には留意されたい。

図5:副業先でのパフォーマンス発揮への影響

図5:副業先でのパフォーマンス発揮への影響

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」


副業者のパフォーマンスを高めるには、副業先固有ルールを理解し、副業先での人的ネットワークや副業先メンバーとの信頼関係を構築することが有効であることが分かった。では、実際にこうした「固有ルールの理解」「人的ネットワークの構築」「信頼関係の構築」につながるオンボーディング施策とは、具体的にどういったものだろうか。

図6は、上記で挙げた三要素とオンボーディング施策数の関係を見たものだ。「固有ルールの理解」「人的ネットワークの構築」「信頼関係の構築」のいずれも、多くのオンボーディング施策が行われているほど、スコアが高い傾向が見られている。ポイントの1つめとしては、副業先が副業者に対して働きかける《量》を増やしていくことが有効であるようだ。

図6:副業者の状態とオンボーディング施策数の関係

図6:副業者の状態とオンボーディング施策数の関係

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」


一方で、オンボーディング施策の《質》はどうだろうか。より詳細にオンボーディング施策との関係性を分析した結果が図7である。要点を絞って見ていくと、まず副業者との「顔合わせミーティング」「現場責任者との定期面談」を行うことや、「歓迎ランチ会・懇親会」の実施は、「固有ルールの理解」「人的ネットワークの構築」「信頼関係の構築」すべてと良い関係にある。また、「歓迎ランチ会・懇親会」の実施率は、相対的に低いことも同時に分かっている。いわゆる、副業者と会話するための場を設けることの有効性が示唆されているが、ポイントは、会議のような「フォーマルな場」だけでなく、食事会といった「カジュアルな場」もあわせて設けることであるようだ。

そして、副業先での「社内重要人物に関する説明」も、三要素すべてに影響を与えており、特に「固有ルールの理解」と「信頼関係の構築」の影響度が強い。これは、会社固有の文化や仕事の進め方のカギは、管理職などの上位者が握っていることを意味する傾向ではないだろうか。会社の中心メンバーらによって組織文化や慣習が醸成されているとすれば、そうした人達の情報をあらかじめ副業者に連携し、「誰にどのようなことを相談すればよいか」などを把握してもらうことで、円滑に業務を進めやすくなるだろう。

図7:副業者の状態とオンボーディング施策の関係

図7:副業者の状態とオンボーディング施策の関係

出所:パーソル総合研究所「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」

まとめ

本コラムでは、パーソル総合研究所の「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」のデータを通じて、主にオンボーディングの観点から、副業者のパフォーマンスを高めるためのポイントを見てきた。副業者に高いパフォーマンスを発揮してもらうには、副業先固有のルールを習得し、副業先での人的ネットワークや副業先メンバーとの信頼関係を構築することが重要であることが分かった。また、そのための具体的な取り組みとして、副業者への働きかけの《量》を増やしていくこと、顔合わせミーティングなどの「フォーマルな場」だけでなく、食事会といった「カジュアルな場」も設けること、そして、社内におけるキーパーソンの情報連携を行うことが有効と示唆された。

副業者のオンボーディングに力を入れている企業はまだまだ少ない現状であるが、今後、副業が「当たり前」になる時代を見据えると、副業者のオンボーディングは、今から検討すべき重要なテーマといえよう。本コラムが副業者のオンボーディングを組織的に考える上でのきっかけになれば幸いである。

執筆者紹介

中俣 良太

シンクタンク本部
研究員

中俣 良太

Ryota Nakamata

大手市場調査会社にて、3年にわたり調査・分析業務に従事。金融業界における顧客満足度調査やCX(カスタマー・エクスペリエンス)調査をはじめ、従業員満足度調査やニーズ探索調査などを担当。
担当調査や社員としての経験を通じて、人と組織の在り方に関心を抱き、2022年8月より現職。現在は、地方創生や副業・兼業に関する調査・研究などを行っている。


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