公開日 2016/06/30
アルバイト・パート人材の採用・定着を図るにあたり、まず押さえておきたいのは、アルバイト・パートが何を求めて仕事や職場を探しているのかということだ。
この点について、本プロジェクトで求職者10,000人向けに行った調査では、仕事探しの重視点の上位は、1位が「自分の生活時間に合わせて働けること(61.1%)」、2位「働いている人たちの雰囲気がよいこと(55.0%)」、3位「安全に働けること(52.2%)」、4位「時給が高いこと(45.9%)」、5位「安定して長く働き続けることができること(44.0%)」となっている。
アルバイト・パートが仕事を探すときに重視している点
これら重視点の中で、本プロジェクトでヒアリングをした企業や店舗の採用担当者の多くが、求人を出す際に、特にアピールすべきポイントとして意識していたのが、時給の高さと雰囲気の良さである。
そこで本稿では、本プロジェクトで実施した2つの調査(一般求職者調査、離職者調査)において、アルバイト・パートの職場選びについて「職場の雰囲気」、「時給の高さ」を重視する人をそれぞれ『雰囲気派』、『時給派』とし(※1)、それぞれの属性や希望条件、就業継続理由、離職理由などの特徴を見た。
※1. 時給派と雰囲気派の定義について
【時給派】
・「一般求職者調査」で、「あなたが仕事を探す上で重要視することは何ですか」という複数回答の設問に対し、「時給が高かった」を選択し、「職場の雰囲気がよさそうだった」を選択しなかった人。
・「離職者調査」で、「(勤務経験があり、今は辞めたアルバイト先に)応募した理由について、当てはまるものをいくつでもお選びください」という複数回答の設問に対し、「時給が高かった」を選択し、「職場の雰囲気がよさそうだった」を選択しなかった人。
【雰囲気派】
・「一般求職者調査」で、「あなたが仕事を探す上で重要視することは何ですか」という複数回答の設問に対し、「職場の雰囲気がよさそうだった」を選択し、「時給が高かった」を選択しなかった人。
・「離職者調査」で、「(勤務経験があり、今は辞めたアルバイト先に)応募した理由について、当てはまるものをいくつでもお選びください」という複数回答の設問に対し、「職場の雰囲気がよさそうだった」を選択し、「時給が高かった」を選択しなかった人。
まず、時給派と雰囲気派にはどのような人が多いのかを見てみる。男性にはやや「時給派」が多く、女性には「雰囲気派」が多い。
性別で見た時給派と雰囲気派の割合
属性で見ると、時給派には学生やフリーターが多く、雰囲気派には主婦が多い。また、希望する最低時給額(応募時・全国平均)は、時給派は1074.4円であるのに対し、雰囲気派は961.5円と、時給派のほうが約113円高い結果となった。
時給派と雰囲気派の属性分布
では、時給や雰囲気以外の点で、仕事を探す上で重視しているポイントに違いはあるのだろうか。コレスポンデンス分析を用いて、仕事探しの重視点を時給派・雰囲気派でマッピングしたのが下図である。
時給派と雰囲気派が仕事探しで重視すること
時給派が職場に求めることは、「頑張った分だけ昇給や昇格ができること」「将来的に正社員になるチャンスがあること」「今後生かせるスキルが身につくこと」などが多く、何らかの形で頑張った分の対価が得られるかどうかを重視している様子がうかがえる。また、「仕事が忙しくないこと」「仕事で覚えることが少ないこと」など、楽で始めやすい仕事内容を求める傾向も強い。
一方、雰囲気派は、「お客さんから感謝される仕事であること」「身近な人からの評判がいいこと」「職場がきれいなこと」「安全に働けること」など、人との関わり合いを通じた充実感や、より安心して働ける職場環境を求めている。
このようなタイプ別の特徴をふまえて募集を工夫し、うまく採用できても、長く働き続けてくれなければその採用は成功とはいえない。そこで、時給派・雰囲気派のタイプ別の特徴が、定着や離職にも表れるのかを見てみた。
まず気になるのが、「どちらのタイプのほうが、定着率が高いのか」という点だが、時給派・雰囲気派で離職までの期間を比較したところ、大きな差はみられなかった。しかし、それぞれの就業継続理由や離職理由には違いがみられた。就業継続理由における違いから紹介する。
ある職場で半年以上働き続けた理由を聞いた結果をタイプ別に見ると、時給の高い職場を選ぶ時給派は、やはりその点が継続理由として高い傾向にある。一方、雰囲気派は「クレームや仕事のミスを誰かがフォローしてくれた」「よくしてくれるベテランスタッフがいた」など、一緒に働くメンバーや先輩との人間関係の良好さが仕事を続ける主な要因となっている。
就業継続理由(時給派vs雰囲気派)
また、仕事内容の変化について、時給派は「仕事内容がずっと変わらなかった」ことが継続理由として高かったのに対し、雰囲気派は「仕事内容に変化があって飽きがこなかった」が高くなっており、時給派と雰囲気派で正反対の傾向が見られた。楽で始めやすい仕事を好む時給派は、入社後の仕事の内容の変化にもやや抵抗感があるようだ。
離職理由については下図の通り、時給派は「思っていたより、仕事の量が多かった」「思っていたより、覚えることが多かった」を理由に辞めた人が多い。前述の仕事探しにおける重視点と同様に、離職理由でも仕事量や覚えることの多さを嫌う傾向がみられる。
一方、雰囲気派は「新しく異動してきた上司と相性が合わなかった」「仲のいいメンバーが辞めてしまった」など、一緒に働く仲間や上司の入れ替えのタイミングに生じる人間関係の変化によって離職意向が高まりやすい。どちらのタイプも、離職意向が高まる上記のタイミングでは、特にケアが必要だといえよう。
離職理由(時給派vs雰囲気派)
以上のように、仕事探しや応募の段階で職場に求めていることが時給なのか雰囲気なのかによって、働き始めた後の就業継続や離職の理由も異なる。多くの店舗で応募獲得に苦戦するなか、上述したタイプ別の特徴と採用側の職場の状況を考慮した上で、募集時に時給と雰囲気のどちらを前面にアピールすべきかを十分検討することが、長く働き続けてくれる人の応募獲得への近道になるのではないだろうか。
【予告】アルバイト・パート成長創造プロジェクト2016年秋・書籍刊行予定です
東京大学・中原淳准教授とパーソルグループのインテリジェンスHITO総合研究所は、小売・飲食・運輸業界大手7社の協力のもと、全国約2万5,000人を対象に、「アルバイト・パート雇用」に関わる大規模調査を実施しました。そこで得られたデータ・知見は、2016年秋にダイヤモンド社より書籍『アルバイト人材採用・育成入門』(仮題)として刊行予定です。詳しい刊行予定等詳細は、随時ホームページでお知らせいたします。
※書籍では、今回の仕事探しの重視点や継続理由、離職理由などについて、性別や属性、年代などの様々な切り口で詳しく分析した結果を掲載予定です。
■調査概要
・調査名:一般求職者調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学 中原淳准教授
・調査対象者:全国の15~69歳の男女で、アルバイト・パートで働くことに興味・関心がある者/求職活動中の者、10,000人
・調査期間:2015年11月6日~24日
・調査名:離職者調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学 中原淳准教授
・調査対象者:小売・外食・運輸の大手企業で非正規雇用(アルバイト・パートないしそれに準ずる雇用形態)で働いており、直近3年間以内に離職した者、2,926人
・調査期間:2015年11月6日~24日
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソルグループ・東京大学中原淳研究室「パート・アルバイト一般従業員調査/離職者調査」
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