公開日 2017/03/08
これまでアルバイト・パート職場の中心であった学生層や主婦層が激しい採用競争にさらされる中、企業が次なる採用ターゲットにしようとしているのが、より高齢のシニア層だ。世界でも類を見ない超高齢化社会を迎える日本において、そのシニア層の働き場所の選択肢としてアルバイト職場が注目されてきている。
長寿国である日本のシニアの就業意欲は概して高い。全国の60歳以上を対象に行った調査では、「いつまでも働きたい」が全体の30%近く、「70歳以上まで働きたい」を合わせると65.9%が70歳を超えても働き続ける意欲を示しており、これは先進国の中で見ても高い水準である(それぞれ、平成25年度 内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」、平成27年度「 第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」より)。
しかし、多くのアルバイト職場では、これまでシニア層を採用したこともなければ、働いてもらったこともない。また、シニア層を対象に「アルバイト」というテーマで広く実施された調査も極めて少ないのが現状だ。以下では、我々が実施した調査データを紹介しながら、シニア層活用のヒントを探っていきたい。
その前にまず、一つのトピックについて触れておこう。人材業界でもマーケティング業界でも、シニア層をターゲットにしようとするときしばしば話題になるのが、「何歳からがシニアなのか」「何歳からを高齢者と呼ぶのか」といった、年齢別の呼称問題だ。本稿もここまで便宜的にシニア層と呼んできたが、これには画一的な正解があるものではない。高齢化が進む中、どの年齢の人々をどのように呼ぶべきかは社会の意識と共に変わってくる。ここでは、その意識を少しでも客観的に浮かび上がらせるため、以下の調査を参照しておこう。
Video Research Digest 2013.4(対象:16歳以上の男女個人2,573人、インターネット調査)
より筆者作成。単位は歳。
上の調査は、高齢層に対する呼び方と、「その呼び方が何歳を連想するか」を年代別に聴取したものだ。これによると、「シニア」<「シルバー」<「高齢者」<「老人」の順でイメージされる年齢が高くなり、「シニア」はこの中で最も若い年齢イメージをもたれている。また、「高齢者」「老人」の呼び方は回答者自身が高齢になるほどイメージする年齢が高くなるが、「シニア」「シルバー」については年代間を比較的フラットに推移し、70代以上でやや下がるという傾向を示している。この結果を見ると、今人材マーケットで注目されているような引退前後の高齢層を「シニア」と呼ぶことは、一般的な意識に照らしてある程度妥当とみてよさそうだ。そこで本稿では、60歳以上の年齢層を「シニア層」と呼び、その特徴を浮かび上がらせるための「シニア予備軍」として50代のデータも適宜確認していくことにする。
次にシニア層が「アルバイトに関心をもった理由」について、回答上位の項目を抜粋し、性・年代別に5歳刻みとやや細かく意識の変遷をグラフ化した(一般求職者調査・単位は%)。
現役引退、そして年金受給が始まる60代で「収入を得る必要がある」が下がり、逆に「社会との接点が欲しい」が男女ともに高くなるのは、想定の範囲内の傾向だろう。ここで注目すべきポイントは以下のことだ。
○男性は60歳を超えると急激に志向性が変化し、「収入を得る必要がある」以外の仕事への積極的な志向性が強くなる
○女性は「社会的接点」以外の仕事への積極的な志向性が、年齢を重ねるとともに横ばい、または微減していく傾向にある
正社員として働いている割合の高いこの世代の男性は、定年というライフイベントの主人公である。多くの企業の定年基準である60歳前後を機に、急激に就労意識が変化している。「(アルバイトで)働ける時間ができた」も大きく上昇しており、働くということに関して人生の大きな節目の時期であることがデータからも読み取れる。一方で、女性は年齢を重ねるごとに時間的余裕・チャレンジ意欲・社会貢献意欲といった項目が横ばい、または微減する傾向にある。女性は体力・気力が年とともに衰えていくと同時に、仕事への意欲もやや先細りしてしまうようだ。
続いて、職場選びについてはどうだろうか。まず、60歳以上のシニアは、それ以下の年代と比べると、体力面への不安があることと同時に、「雰囲気のよさ」「同世代のメンバーがいること」など、職場への溶け込みやすさを求める傾向が示されている(一般求職者調査)。アルバイトを探すシニア層にとって、高齢者が職場に自分一人だけだったり、周囲と馴染めないような職場は避けたい、という気持ちが前提としてありそうだ。
では具体的な職種について見てみよう。下のグラフは、59歳以下の年代の職種の選好を1.0としたとき、60代以上のシニア層がどの職種を好む/避けるかを見たものだ(一般求職者調査)。
男性シニアの好む職種は、「軽作業」「事務」などの単純作業系と、「営業職」「講師」などの専門業種系にわかれている。これまでの就労経験を活かした職種か、もしくは単純作業中心の職種へと二極化していると言えるだろう。また、「理容」「アパレル」など美的な感性が求められそうな職種は59歳以下の年代と比べて一気に避ける傾向が見られる。
女性は、「講師・インストラクター」「コールセンター」が好む職種として抽出されている。また、立ち仕事や専門技術系の職種は避ける傾向が示されている。そして目立つ傾向としては、あくまで相対的にではあるが「避ける」職種のほうが全体的に多いことだ。既に述べた積極的な労働意欲の低減傾向が具体的な職種選びにも表れていると見てよいだろうか。これまで「主婦パート」として多くの日本のアルバイト職場を支えてきた女性アルバイト層だが、高齢化が進み60歳を超えてくるとやや風向きは変わってきそうだ。
まとめると、今後アルバイト職場が60歳以上を積極採用していくのであれば、まずシニアを5歳刻み・少なくとも男女別で見た詳細なターゲッティングを行うことが必要だろう。その上で、就労意欲の積極さが増し、好みが二極化しそうな男性シニア層には、志向性にピンポイントで響くような求人施策が有効そうだ。逆に女性シニア層に対しては「60歳以上を積極採用」などと年齢区切りで的を絞るのではなく、微減していく意欲に合わせ年齢の間口を広げた採用施策、または50代から働いているスタッフが継続的に働ける環境を整えるなど、定着施策による人材確保のほうが有効な場合もありそうだ。
中長期的な人材不足時代と寿命100年時代が同時に訪れようとしている今、どの業種でもシニアの人材獲得競争は激しくなっていくことが見込まれる。今回は主に採用の局面についてデータとその解釈を議論したが、次回はアルバイト職場で現在も働いているシニア層のデータを見ながら、「定着」について議論していきたい。
東京大学・中原淳准教授とパーソル総合研究所は、小売・飲食・運輸業界大手7社の協力のもと、全国約2万5,000人を対象に、「アルバイト・パート雇用」に関わる大規模な調査・分析を実施してきました。その成果を活用する形で、職場管理者向けの研修ツールの制作と、書籍の刊行を行っています。
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上の調査データをもとに、人手不足解消の具体的打ち手として中原淳氏とともに研修プログラム共同開発いたしました。下記の体験会では、映像等を活用しつつ効果的に店長向けの研修が実施できるプログラムを紹介しています。外食・小売・サービス業など、アルバイト・パートを積極活用している企業の人事ご担当者様に好評いただいております。
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■調査概要
・調査名:一般求職者調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学 中原淳准教授
・調査対象者:全国の15~69歳の男女で、アルバイト・パートで働くことに興味・関心がある者/求職活動中の者、10,000人
・調査期間:2015年11月6日~24日
・調査名:離職者調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学 中原淳准教授
・調査対象者:小売・外食・運輸の大手企業で非正規雇用(アルバイト・パートないしそれに準ずる雇用形態)で働いており、直近3年間以内に離職した者、2,926人
・調査期間:2015年11月6日~11月24日
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソルグループ・東京大学中原淳研究室「パート・アルバイト一般従業員調査/離職者調査」
シンクタンク本部
上席主任研究員
小林 祐児
Yuji Kobayashi
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。
専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。
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