ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査[PART2 趣味の学習の実態・効果]

調査レポート | 2024年1月31日(水)

公開日:2024年1月31日(水) 

調査概要

調査名 ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査[PART2 趣味の学習の実態・効果]
調査内容 ・ミドル・シニアの業務外の学び(学び直し、趣味)の実態と効果を明らかにする。
・学び直す意欲があるのに学び直せないミドル・シニアの学び直し行動を促進する個人・企業要因を明らかにする。
調査対象

■スクリーニング対象者:全国の就業者 35~64歳男女 最終学歴高卒以上 n=36,537
※令和2年国勢調査の雇用形態・学歴別の構成比に合わせてウェイトバック処理

■本調査対象者:業務外学習の実施状況・学び直し意欲により割付
①仕事関連学習層 n=1,800
②非仕事関連学習層 n=2,700
③学び直し意欲あり・非学習層 n=2,700
④学び直し意欲なし・非学習層 n=1,800  ①~④の合計 n=9,000
※回答の早い上位10%のデータを削除
※一部の分析では、ウェイトバック処理後のスクリーニング対象者の①~④の区分・学歴の構成比に合わせてウェイトバック処理

調査時期 2023年3月24日~3月28日
調査方法

調査会社モニターを用いたインターネット定量調査

実施主体 株式会社パーソル総合研究所
共同研究 産業能率大学 齊藤弘通研究室

※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。
※図中の()内の数値はn数を示す。

調査報告書(全文)

Index

1ミドル・シニアの趣味の学習実態・効果
2「意欲あり趣味層」と「学び直し層」の類似点
3「意欲あり趣味層」が「学び直し層」に移行するには
4学習意欲を刺激し、自ら学ぶ姿勢を育む環境(ラーニング・カルチャー)の再構築を

用語の定義

●ミドル・シニア就業者:35~64歳就業者と定義。35~54歳をミドル、55~64歳をシニアと定義。

●学び直し:業務外の時間に、仕事やキャリアに関して継続して学習することと定義。
*調査設問中では、「本業(現在の仕事)に関する学習」「本業以外の仕事やキャリアに関する学習」を行っているとの回答により把握。

●趣味の学習:業務外の時間に、仕事やキャリアとは無関係の趣味として継続して学習することと定義。
*調査設問中では、「スポーツに関する学習」「文化的な趣味に関する学習」「レジャーに関する学習」「ボランティア、NPO活動に関する学習」「ライフイベント(出産・育児・療養・介護等)や生活に関する学習」「その他の学習」を行っているとの回答により把握。

●学び直しタイプ:学び直す意欲と学習実施状況に基づき、以下の3タイプ(詳細6タイプ)に分類。

用語の定義

調査結果(サマリ)

ミドル・シニアの趣味の学習実態・効果

「趣味の学習」のみのミドル・シニアは8.2%

ミドル・シニア就業者の中で、学び直しをしている「学び直し層(14.4%)」のうち、4.4%が同時に趣味の学習も実施。趣味の学習だけをしている「趣味学習層(8.2%)」と合わせると、12.6%が趣味の学習を行っている。以降は、「趣味学習層(8.2%)」に焦点をあて、分析した。

図1.ミドル・シニアの学び直しタイプの割合
図1.ミドル・シニアの学び直しタイプの割合

趣味の学習によって「人間関係が広がった」ミドル・シニアは約半数

趣味の学習を通じて、仕事や収入の面でどのような効果を実感しているかを見た。「人間関係が広がった」は49.1%が実感。次いで、「社会に参加している実感が得られた(37.7%)」「将来の生活への不安が減った(37.3%)」が多い。社会関係資本の増加だけでなく、約4割は将来の生活やキャリア、仕事のモチベーションへの効果を感じている。

図2.趣味の学習による仕事や収入への波及効果
図2.趣味の学習による仕事や収入への波及効果

約8割のミドル・シニアが趣味の学びを継続する意向

「趣味学習層」の約8割が、「学ぶことで興味・関心の範囲が広がった」「今の学び活動をこれからも続けたい」「学ぶことが楽しい」などの心理的効果を感じている。この割合は、学び直し層とほぼ変わらない。

図3.趣味の学習による心理的効果
図3.趣味の学習による心理的効果

「趣味学習層」は短期間で幸福感を感じる

「学ぶことが楽しい」といった幸福感を感じる割合は、「趣味学習層」では学習期間3カ月~6カ月未満で急激に高まり、「学び直し層」よりも短期間で幸福感を感じる傾向。まずは幸福感を感じやすい趣味の学習に取り組むことを通じて、学習行為への抵抗感をなくすことが期待できると考えられる。

図4.趣味の学習による幸福感[学習期間別]
図4.趣味の学習による幸福感[学習期間別]

「意欲あり趣味層」と「学び直し層」の類似点

「意欲あり趣味層」の自己追求行動は「学び直し層」と差がない

ミドル・シニア就業者の学び直しを促進する要因※を どれだけ持っているかを、「意欲あり趣味層(学び直す意欲はあるが趣味の学習だけをしている)」と「学び直し層」の間で比較した。まず、キャリア意識について見ると、「意欲あり趣味層」は、学び直す意欲や行動を高める「仕事と興味関心の一致度」「キャリアのセルフアウェアネス(キャリアへの内面的な自己認知)」「自己追求行動」のいずれも、他の学び直しタイプに比べれば学び直し層に最も近い。特に「自己追求行動」は、「学び直し層」と差がない。

※口だけ層と学び直し積極層の比較分析により導出

図5.ミドル・シニアのキャリア意識[学び直しタイプ別]
図5.ミドル・シニアのキャリア意識[学び直しタイプ別]

「意欲あり趣味層」の何事も楽しむマインドは「学び直し層」と差がない

次に、学び直す意欲を行動に移す ことを促す「学び直しマインド(①好奇心、②いけ図々しさ※、③エンジョイメント、④自己効力感)」を比較したところ、「意欲あり趣味層」は、「好奇心」「いけ図々しさ」「エンジョイメント」「自己効力感」のいずれも、他の分類と比較し「学び直し層」に最も近しい。特に、何事も楽しむマインドである「エンジョイメント」は「意欲あり趣味層」と「学び直し層」で有意差がなく近似する。

※「いけ図々しさ」は、いやになるほどの厚かましさを意味する罵りのニュアンスが強い言葉だが、本調査中では思い切りのよさ・積極性といったポジティブなニュアンスを込めて用いた。

図6.ミドル・シニアの学び直しのマインド[学び直しタイプ別]
図6.ミドル・シニアの学び直しのマインド[学び直しタイプ別]

「意欲あり趣味層」が「学び直し層」に移行するには

学び直す意欲はあっても、趣味学習のみを実施しているのは13.1%

学び直す意欲があるミドル・シニア就業者のうち、学び直しを実行している「学び直し積極層」は26.0%で、13.1%は趣味学習のみを実施する「意欲あり趣味層」。「意欲あり趣味層」が仕事・キャリアの学びに関心を広げ、「学び直し積極層」になるための組織的介入のポイントを探った。

図7.学び直す意欲があるミドル・シニアの学び直しの実行率
図7.学び直す意欲があるミドル・シニアの学び直しの実行率

「学び直し積極層」への移行はキャリアビジョンの明確化が鍵

キャリア意識について、学び直す意欲や行動を高める「仕事と興味関心の一致度」や「キャリアのセルフアウェアネス」が高いグループでは、「意欲あり趣味層」の割合が低く、「学び直し積極層」の割合が高い傾向がある。この実態から、仕事と興味関心の一致度を高めたり、キャリアビジョンを明確にしたりすることで、「意欲あり趣味層」が「学び直し積極層」に移行する可能性が示唆される。

図8.キャリア意識の学び直し促進効果
図8.キャリア意識の学び直し促進効果

キャリア意識を高めるキャリア・育成支援

「キャリアプランニング研修」「キャリアの透明性(キャリアパスの明示、社内公募等)」「副業・兼業の自由さ」といった職場のキャリア自律支援策や育成支援策を経験していると答えたミドル・シニア正社員ほど、「仕事と興味関心の一致度」「キャリアのセルフアウェアネス」ともに高い傾向が見られた。これらの施策で「意欲あり趣味層」の「仕事と興味関心の一致度」や「キャリアのセルフアウェアネス」が高まれば、趣味だけでなく仕事・キャリア関連の学び直しの実施や趣味学習自体の仕事・収入への波及効果の増加につながる。

図9.「意欲あり趣味層」の学び直し促進施策
図9.「意欲あり趣味層」の学び直し促進施策

分析コメント

学習意欲を刺激し、自ら学ぶ姿勢を育む環境(ラーニング・カルチャー)の再構築を

ミドル・シニア従業員の活性化は、雇用組織にとって重要な経営課題であるが、曖昧で不確かな将来へ備えることは多くの従業員にとっても本来的に重要な課題である。AIなどの技術が急速に進化・普及する中、求められる学びも変わらざるを得ない。就業者が働くことを通じて自らを更新し続ける意欲を育むためにも、学習という行為を狭く捉えすぎず、提供する教育施策を再構築していく必要もあるだろう。

そこで本調査では、仕事に関連はしないものの学習を行動化している「趣味学習層」へ着目し、その実態を確認するとともに、どうすれば学習対象を仕事や自身のキャリアにも向けることができるのかを把握することを目指した。経営層や人事部門の方には調査から明らかになった以下の3点を特にお伝えしたい。

1.「趣味学習層」は、仕事・キャリア領域を学ぶ「学び直し層」と学びのレディネス(学習への前向きな態度・習慣)を有する点などが共通し、潜在的な「学び直し層」として期待できる。

2.「趣味学習層」から「学び直し層」への移行には、キャリア意識を高めるための教育施策が有効。

3.趣味の学習は、人脈を広げ、仕事への意欲を向上させる越境学習※としての効果が期待できる。

これまでの企業の人材育成において、「実務に直結する学び」には教育予算を充てるが、趣味的領域は福利厚生の位置づけとしていた組織は少なくない。変化の激しい今日、どのような学びが実務に直結し、何がしないのかの線引きはますます難しい。だとすれば、「何を学ぶか」ではなく、従業員の学ぶ姿勢(意欲)や学び得た有形・無形の資産を社内にいかに往還する(周囲に共有し、活かす)ことができているかを評価してはどうだろうか。

これは単に趣味活動を補助するのではなく、その活動の中に実務にも生かし得る「学び」 を見いだすことのできる人材を育む施策と位置付けたい。従業員が自身の興味・関心に基づいた学びを行い、周囲と共有する機会を設けることは、「非学習層」の学習意欲を刺激することにもつながる可能性がある。このような試みとして、企業内の部活動など、趣味的活動や学習イベントを組織として開催する事例もあるが、自社らしい教育施策としての工夫の余地も多分にあると考える。

※越境学習:法政大学大学院の石山 恒貴教授は、越境学習を「自分にとってのホームとアウェイを行き来することによる学び」と定義している。

※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所+産業能率大学 齋藤研究室「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査【PART2】」


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