公開日 2021/09/17
「働き盛り」「中間管理職」「仕事と家庭、介護との両立」……。40代社員は、仕事でもプライベートでもさまざまな役割を担い、奔走する人が多い年代だ。そうした中で、それまでのキャリアからの変節点を迎え、停滞を感じる人が多くなることが先行研究で指摘されている。
パーソル総合研究所の調査データから、昨今の40代社員を取り巻く環境が、40代社員の成長に関する意識に変化をもたらしていることが見えてきた。本コラムでは、その変化を紹介すると同時に、40代からの成長に向けたヒントを調査結果から紹介する。
当社で毎年行っている「働く1万人の就業・成長定点調査」の2017年のデータでは、40代は他の年代と比べて、仕事において成長が重要だと考える意識(以降、成長志向)が落ち込む傾向が見られた(図1)。会社への愛着や満足度も40代で落ち込む傾向があり、他の年代よりもキャリアの停滞感を抱えやすいことがうかがえる(図2)。
図1:年代別 成長を重視する人の割合(正社員、2017年)
図2:年代別 組織への愛着、満足度(正社員、2017年)
なぜ、40代社員は、仕事での成長を重視しなくなり、会社への愛着や満足を感じにくくなってしまうのだろうか?
著名な心理学者のカール・G・ユングは、人生を太陽の運行になぞらえて、40代を「人生の正午」と言っている。この時期に、それまで登り調子だった人生が暮れる方向へと変化し、考え方の転換を迫られることで、葛藤や迷いが生じやすくなるとのことだ。
40代はそのような人生上の課題を抱えやすいことに加え、キャリアにおいても特有の課題が指摘されている。同じく心理学者のエドガー・H・シャインは、40歳前後は職業生活の先が見えることにより、無気力感に支配される時期(中期キャリア危機)であると捉えている(※)。これまで理想に向かって邁進してきた人も、キャリアの終わりが見えることで現実を直視せざるを得なくなるため、現実吟味の課題を乗り越える必要があると述べている。当社の調査でも、45.5歳で「キャリアの終わりを意識する」人の割合が意識しない人を上回る(図3)。
また、出世の問題もありそうだ。従来の日本の多くの会社では、未経験者を新卒採用し、異動や転勤を通じてさまざまなキャリアを経験させ、節目で一斉研修を行いながら、同期同士を出世レースで競わせるようなマネジメントを行なってきた。しかし、40代になると、この出世レースが最終局面を迎え、出世できる人とできない人の差が明確になる。そのため、42.5歳で、出世したいと思わない人が出世したい人を上回り(図3)、出世というモチベーションを失った人の成長志向が低下すると考えられる。さらに、バブル崩壊以降、管理職のポストが減少したため、若いころは出世できると思っていた人の多くが出世を諦めるという状況が生まれており、この現象に拍車をかけている。
そのほか、勤続年数が長いがゆえのマンネリ化や、管理職になる人においてもプレーヤーとしての働き方を変えなければならないストレスなどから、キャリアが停滞しやすいといわれている。
(※)Schein, E. H. (1978) Career Dynamics: Matching Individual and Organizational Needs, Addison-Wesley. (二村敏子・三善勝代訳,1991 『キャリア・ダイナミクス』 白桃書房)
図3:出世とキャリアの終わりに対する意識の変化
出典:石山恒貴+パーソル総合研究所「会社人生を後悔しない40代からの仕事術」
しかしここ数年で、40代の成長志向に変化が生じている。先ほどの40代の成長志向のデータについて、2017年から2021年にかけての変化を見ると、他の年代と同じくらいまでに成長志向が高まっていることが分かった(図4)。
また、過去1年間で成長を「実感」した人の割合は、年齢を重ねるごとに減るが、2017年と比べて、どの年代でも増加していた(図5)。
図4:2017年~2021年の年代別成長志向の変化(正社員)
図5:2017年~2021年の年代別成長実感の変化(正社員)
このような変化には、昨今の日本の雇用環境の変化が影響している可能性がある。 VUCAの時代といわれるように、市場環境の変化が激しく、今持っているスキルや能力が陳腐化するという危機感が年々強くなっている。また、少子高齢化やグローバル化の影響で、年功序列や終身雇用といった日本型雇用が崩れてきており、さらにコロナ禍の影響で早期退職を募集する企業が増加し、いよいよミドル層も安泰ではない、という風潮が広がっている。
また、70歳までの就業機会の確保が努力義務になるなど、従来よりも長い期間を働くことが必要になってきた。従来であれば40代になればキャリアの後半戦にさしかかっていたが、今ではまだまだ先は長く、40代や50代からの学び直しがブームになりつつある。 このような理由から、40代であっても成長し続けなければならない、という意識が高まっているものと考えられる。
人生100年時代、VUCAの時代において、成長し続けたほうがよい、と感じてはいても、図5で示した通り、成長を実感しながら働く人の割合は年齢を重ねるごとに減り、40代、50代では半数程度と少ない状況だ。そこで、40代社員が成長を実感するための糸口をつかむために、実際に成長を実感できている40代社員の特徴を、調査データから分析した結果、以下の3つの特徴が見えてきた。
特徴1:通常の業務とは異なるプロジェクトに参加している
特徴2:上司と一緒に仕事の目標を設定できている
特徴3:自社の企業理念に共感できている
※職位や職種等の影響は除いた上で、40代正社員に特有の特徴を抽出
※成長実感を従属変数とした重回帰分析の結果、40代正社員で特に影響度が強かった項目を抜粋(性別、業種、職種、職位で統制)
40代社員をこの3つの特徴によって高中低群に3分割した時の高群は、いずれも7割以上が成長を実感できていると回答している(図6)。
図6:各特徴の高中低群別成長実感(40代正社員、2021年)
通常の業務とは異なるプロジェクトに参加することは、通常の業務をすでに習熟していることが多い40代社員にとって、これまでとは違った仕事から新しい刺激が得られる機会となり、新たな問題意識や、学びへの意欲を掻き立てられると考えられる。また、ベテランとして、自分の培ってきたスキルや能力を違った形で使うことにやりがいを見出すことにもなるだろう。
上司と一緒に仕事の目標設定をしっかりと行うことは、40代ミドル社員の目標を明確にし、成長の方向性を定めることにつながる。どのような目標を設定すべきかはその会社や個人の都合によりさまざまだろうが、ベテランゆえにともすれば目標管理が手薄になりがちな40代社員においても、組織的に目標を定めていくことは重要だ。
また、企業理念への共感を引き出すことは、会社への愛着心を高め、仕事で成長し続ける意欲につながるのではないかと考えられる。
40代社員の特有の状況を踏まえ、企業はこれら3点を意識したマネジメントが求められる。また、40代社員においては、副業制度等を利用して新たな環境に飛び込んでみる、仕事における目標を上司や周囲に相談の上、明確化するといった行動が、キャリアの進展につながると考えられる。
本コラムでは、社会環境が変化する中、過去の調査において低下する傾向があった40代ミドル社員の成長志向が、次第に高まってきていることを指摘するとともに、40代以降も成長を実感しながら働くにはどうすればよいのか、について考えた。
実際に成長を実感できている40代社員の特徴を再確認すると、
特徴1:通常の業務とは異なるプロジェクトに参加している
特徴2:上司と一緒に仕事の目標を設定できている
特徴3:自社の企業理念に共感できている
である。40代からのキャリア形成がこれまで以上に重要になる中で、40代社員自身がこれらを意識することに加え、企業にも40代社員の成長を促すマネジメントが今後一層求められる。
シンクタンク本部
研究員
金本 麻里
Mari Kanemoto
総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。
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