公開日 2016/11/24
どのような職業でも、勤務地や周囲の環境によって採用や定着の課題は異なってくる。前回まで日本全国の数字を見ながらアルバイト・パートの採用定着の課題を見てきたが、調査からは同じブランドや業界においても都心部・地方・地域によって異なる傾向が見られた。
そこで今回は職場への入り口、採用周りのデータについて、【関東圏】【関西圏】【その他の地域】という代表的な区分に分けてそれぞれの特徴を見てみることにしよう。
都道府県の内訳は以下の通り。
関東圏:一都六県(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)
関西圏:二府三県(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県)
その他の地域:上記以外の都道府県
まず、わかりやすく地域で違いがでるのが、希望時給の差だ。周知の通り、国が定めている最低時給額は各県ごとに異なり、2016年10月時点では最も高い東京都が932円、最も低い沖縄・宮崎が714円に設定されている。だが昨今の人手不足のなかで、この最低時給額で求人活動を行ってもなかなか人が集まらないのが現状だ。では、求職者が「最低このくらいは欲しい」と思う時給はどのくらいなのだろうか。下の表は最低希望時給額の平均を地域と属性別に見たものである。
※一般求職者調査より
一見して、地域に関わらず求職者は最低時給額よりもずっと高い時給を求めていることが分かる。その中で最も高いのは【関東圏】で、【関西圏】よりも約67円、【その他の地域】よりも約110円高くなっている。
もう少し内実を見てみると面白いことが分かる。下のグラフは「アルバイト探しで重視すること」を地域別に見たものだ。
※一般求職者調査より
このグラフからも分かることだが賃金に関わる項目(「時給が高いこと」「通勤交通費が支給されること」)を重視するのは【関東圏】の特徴のようだ。交通費については、地方では車通勤のスタッフも多く、公共交通機関の費用への意識が都会に比べ薄いことも考えられる。だが、興味深いことに【その他の地域】は時給・交通費への意識は低いものの、「頑張った分だけ昇給や昇格ができること」については【関東圏・関西圏】よりやや高くなっている。これらの傾向は属性別に見てもほぼあてはまる。
ここから読み取れるのは地方のアルバイト求職者は、最初の時給額の低さは受け入れるが、入社後の昇給・昇格については都市圏以上に求めているということである。グラフは省略するが、「アルバイトを探すきっかけ・理由」を尋ねた質問でも、【その他の地域】の方が「収入を得る必要がある」が高くなっており(※)、地方の方がアルバイトへの期待は収入面に寄っていると言えそうだ。
※複数回答で関東68.7%、その他の地域で72.2%
最低賃金の額こそ低いものの、入社後の定着まで見据えると、「地方のアルバイトの給与は安くてもよい」ということは単純に言えそうにない。むしろ地方のアルバイトスタッフの方が、きちんと評価され、昇給を求める傾向にあることが調査からは明らかになっている。
※一般求職者調査より
興味のあるアルバイトの職種についても、地域差が見られた。地域によって特徴がでた職種を学生層、そして主婦層からピックアップしてみよう。【関東圏】の学生層では、居酒屋・カフェなどのフード、軽作業・ラインスタッフが人気となっているが、この2職種は【関西圏】【その他の地域】では人気がやや低い。逆に、コンビニスタッフは【関東圏・関西圏】で人気が低く、【その他の地域】のほうが高くなっている。この背景には、繁華街や工場など職場が特定の場所に集まっているような職種よりも、比較的全国に点在しているコンビニの方が働く場所として想定されやすいことが考えられる。
次に、主婦層の興味のあるアルバイトについて地域別の特徴を見たのが次のグラフだ。
※一般求職者調査より
主婦層については、学生とは逆に、軽作業・ラインスタッフの【関東圏・関西圏】での人気が低く、【その他の地域】での人気が高い。都心部の方が深夜帯の軽作業バイトなどが多く学生が働きやすい土壌があるのだろうか。属性別に地域の傾向が異なる興味深い結果となった。また、医療・福祉・介護の職種でも、【関東圏】が低く【その他の地域】が最も高い傾向がでている。昨今、特に大都市圏において介護職員など福祉サービス分野の深刻な人材不足が指摘されているが、地方の主婦層の方がこうした職種により強い関心を抱いていることは今後の超・高齢化社会を考えるうえでも着目に値する。
※一般求職者調査より
ここまではで主に首都圏と地方の対比でデータを読み解いてきたが、【関西圏】ならではのアルバイト選びの特徴は無いだろうか。応募理由を聴取したデータで【その他の地域】との差を見ると、【関西圏】で目立って高いのは「自宅・学校・遊び場から職場が近いこと」、「人の雰囲気の良さ」「同世代の人が働いている」といった項目であり、コミュニケーションや親近感をアルバイト職場により強く求めていることが分かる。
また、仕事への考え方を聞いた設問でも「仕事を通じて気の合う友人や異性を見つけたい」という項目で【関西圏】が最も高くなっており(※)、上のデータと合わせると、関西は職場内の出会いや交友の場としてアルバイト先を捉える傾向があることが見えてくる。一般通念的なイメージからも想起できる通り、関西では人と人の距離感が近い/近いことを求める傾向が示唆される結果となった。求人の際のコミュニケーションも親近感を押し出すものが受け入れられる土壌がありそうだ。
※一般求職者調査より。「とてもあてはまる」もしくは「あてはまる」回答率で関東38.8%,関西42.0%、その他39.3%。
以上、地域の区分に基づいてアルバイトの採用周りの分析と考察を行った。これらの違いを生み出す背景には人口のバランスや歴史的な地域風土、商業施設の数など多くの要因があるだろうし、それを詳細に論じることはここでの議論の範疇を超える。
既に、アルバイトを雇用する各企業はそれぞれの地域特色に合わせた採用を行っているが、地方の地元密着のお店でも都心の繁華街のお店でも「十分な数の応募が来ない」ということは共通の課題となってきている。今後も、採用・求人の方法をより精緻なやり方で求職者のニーズと合致させていくことが強く求められるだろう。その際、上記のようなデータが少しでも参考になれば幸いである。
【お知らせ】アルバイト・パートの成長創造プロジェクト2016年11月1日に書籍「アルバイト・パート[採用・育成]入門」『アルバイト・パート[採用・育成]入門』が刊行されました。
東京大学・中原淳准教授とパーソルグループのパーソル総合研究所は、小売・飲食・運輸業界大手7社の協力のもと、全国約2万5,000人を対象に、「アルバイト・パート雇用」に関わる大規模調査を実施しました。そこで得られたデータ・知見がダイヤモンド社より書籍『アルバイト・パート[採用・育成]入門』として刊行されました。書籍では、このWEB連載には掲載されていない分析についても、多く盛り込まれています。
■調査概要
・調査名:一般求職者調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学 中原淳准教授
・調査対象者:全国の15~69歳の男女で、アルバイト・パートで働くことに興味・関心がある者/求職活動中の者、10,000人
・調査期間:2015年11月6日~24日
・調査名:離職者調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学 中原淳准教授
・調査対象者:小売・外食・運輸の大手企業で非正規雇用(アルバイト・パートないしそれに準ずる雇用形態)で働いており、直近3年間以内に離職した者、2,926人
・調査期間:2015年11月6日~11月24日
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソルグループ・東京大学中原淳研究室「パート・アルバイト一般従業員調査/離職者調査」
シンクタンク本部
上席主任研究員
小林 祐児
Yuji Kobayashi
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。
専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。
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