労働市場の今とこれから 
第10回 地方における雇用創造

公開日 2018/03/30

地方における雇用創造

これまで本連載では、日本の労働市場が今どういう状況にあり、今後どうなっていくかについて様々な角度から論じてきました。しかし、一言で「日本」と言っても、地域によって置かれている状況は大きく異なっています。そこで、今回は「日本」という塊を分解し、地域ごとに、労働市場がどのような状況にあるかを明らかにするとともに、特に東京以外の地域(所謂「地方」)における採用や雇用を、どう変えていく必要があるかを考えたいと思います。

地域別に見た労働市場の概況

人手不足感を把握するために有効求人倍率を見てみると、図表1にあるように高いのは東京や福井で、その値は沖縄や北海道の2倍近くになっています。特徴的なのは、福井だけでなく石川や富山等の北陸や岡山・広島といった中国地方の倍率が高くなっていることです。この理由として、製造業における活発な生産活動を背景に、その周辺産業の求人数が伸びていることが挙げられます。

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これに人口増加率を重ねてみると、4類型、すなわち、①人口増×有効求人倍率大(東京、愛知の2都県)②人口増×有効求人倍率やや大(埼玉、神奈川等の5県)③人口減×有効求人倍率大(福井、岐阜、岡山等の7県)④人口減×有効求人倍率やや大(秋田、青森、高知等の33道府県)に分類することができます(図表2)。

アセット 3@2x.png

ここから読み取れるのは、[1]人口の東京一極集中の進行、[2]沖縄県注1を除くすべての都道府県において有効求人倍率が1.0を超えている「人手不足状態」にあること、[3]「人口減」の状態にある所謂「地方」の中でも、有効求人倍率が高い=仕事がある地域の人口減少率は低く、有効求人倍率が低い地域の人口減少率は高いということ、[4]47都道府県のうち7割に相当する33道府県が人口減少の中、人手不足の克服が必要な状況にあるということです。

「地方では働く場所がない」と考える若者

東京よりも出生率が高い地方において、なぜ人口減が進むのでしょうか。人口減は「自然減(死亡が出生を上回る)」と「社会減(転出が転入を上回る)」によって生じますが、このうち、社会減に大きく影響しているのが、若年層人口の東京圏への移動です。ある民間企業の調査によれば、学生が地元(Uターン含む)就職を希望しない理由の上位には、「都会のほうが便利だから」(38.4%)や、「志望する企業がないから」(38.1%)といった項目が並びます。

一方、地元就職への意向度が高まる条件として、「働きたいと思うような企業の多さ」(47.1%)、「給料がよい就職先の多さ」(35.4%)を求める声も多く、労働環境の改善に向けた企業の努力次第では、地元で働くことを望む学生の増加が期待できると推測されます注2。また、総務省が全国の地方公共団体を対象に実施したアンケートにおいても、人口流出の主たる要因は「良質な雇用機会の不足」と考えられています注3。これらの結果から、若者にとって魅力的な就業機会が地方には不足している様子が伺え、それは、若者から見た「働く場所がない」と、企業から見た「働く人がいない」という一見矛盾した状況を同時に作り出していると言えます。

地域の人口が減少するということは、生活関連サービスや行政サービスの縮小をはじめとして、そこに居住する人々の生活の質が維持できなくなることをも意味し、それがさらなる人口減少につながる、という悪循環が生じているのです。

何から手を打つべきか?

それでは、地方の人手不足の状況は、どうすれば改善することができるでしょうか。

既に多くの企業が、U・Iターン人材を増やすために、合同企業説明会への参加や、地方公共団体の支援を受けるといった取り組みをしています。昨今では、地方金融機関と人材サービス会社がタッグを組み、人材を必要とする企業に対し経験豊富な大手企業の管理職やOB社員を紹介・派遣する試みも実施されています。これらは、地方で働くことの魅力を伝え、求職者と求人企業が出会う場を増やす非常に有益な取り組みですが、その前にやらなければならないことがあると考えています。

それはまず、雇用の質を上げる努力をするということです。具体的には、賃金、働きやすさ、評価・報酬や人材育成の仕組み、マネジメントなどを改善し、労働者が魅力的に感じる労働環境を作ることです。それには、お金がかかることもあります。しかし、工夫次第で、それほどお金をかけずにやれることもたくさんあります。人材育成であれば、地域の中小企業が集まって1社単独では実施できない人材育成(入社時導入研修や勉強会、育成目的の出向など)を共同で進めている事例があります。働きやすさについて、弊社の調査によればフレックス勤務制度や在宅勤務制度など、柔軟な働き方を制度として整備している企業の割合は、まだまだ都市部の方が地方よりも高い傾向にあります。25〜44歳の育児をしている女性の都道府県別有業率は、高い県では70%前後になりますが、全国平均は52.4%とまだ伸びる余地が大きく、これら制度の充実で、育児等を理由に画一的な労働条件(時間、場所)で働くことが難しい女性や高齢者の労働参加を後押しすることにつながります。

最後に

地方の労働市場が活性化しなければ、この国の東京一極集中はますます進みます。人が集積することで化学反応が起きやすくなるといった意味など、東京一極集中のメリットは少なからずあるものの、進み過ぎると国として見たとき産業や人材の多様性は低下し、ゆくゆくは国力の低下につながるのではないかと考えています。

地方の労働市場の活性化には、政府や地方公共団体の地方創生推進施策も必要ですが、1つ1つの企業が、多くの労働者を惹きつけられるよう、企業の魅力を高め、雇用の質を上げる不断の努力をすることも不可欠なのではないでしょうか。

※注1:沖縄県も2017年1月以降、1倍を超えている。
※注2:マイナビ「2018年卒 マイナビ大学生Uターン・地元就職に関する調査」(2017年)より引用
※注3:総務省「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」(2017年)より引用

本コラムは「冷凍食品情報(2017年11月号)」(一般社団法人日本冷凍食品協会発行)に掲載いただいたものを再編集して掲載しています。


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