公開日 2024/10/30
少子高齢化に伴う15歳から64歳までの生産年齢人口の減少が着実に進む中、日本の労働力不足はより一層深刻さを増す見込みだ。パーソル総合研究所と中央大学の共同研究「労働市場の未来推計2035」 では、2035年の労働市場において、2023年の2倍近い規模の労働力が不足するという予測が示された。国や企業は、今後どのようにこの危機的状況を乗り越えていくべきだろうか。本コラムでは、これからの日本が取り組むべき労働力不足解決のための方策について考察する。
労働力不足を解決する上で、最もシンプルで直接的な打ち手は「労働力を増やすこと」だ。具体的には「働く人の頭数を増やすこと」と「働く時間を増やすこと」を指す。コラム「2035年の労働力不足は2023年の1.85倍―現状の労働力不足と未来の見通し」 で述べた通り、2035年には《バケツリレー》のように短く動く(働く)人材が連携し合うような労働市場になってくると考えられる。このバケツリレーの中で上記の打ち手を表すとすれば、図表1のようなイメージとなる。
図表1:「労働力の増加」に関する打ち手(イメージ)
出所:筆者作成
この、バケツリレー型で労働力を増やすための具体的な打ち手として今回提案するのは、「ショートワーカーの活躍機会の創出」である。これは、「もっと働きたいシニア」「もっと働きたいパートタイマー」、そして「もっと働きたい(副業したい)就業者」の活躍機会をつくることを意味する。
就業者や働き方の多様化により、今後は短時間勤務者の割合が増えていく見込みだ。その中でも、今回焦点を当てている3タイプの就業者は、「もう少し働きたい」と希望する層が見受けられるにもかかわらず、就業環境や制度などの関係で、その希望が制約されている傾向にある。働きたいのに働けずにいる状況は大きな社会的損失であろう。現に、われわれの推計結果からは、こうした希望者が全員働いた場合に、一定の労働力を確保できることが分かっている(図表2)。
図表2:「労働力の増加」に関する打ち手のインパクト
出所:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2035」
1点留意されたいのは、われわれは「就業者全員がもっと働くべきだ」といった現行の長時間労働規制を否定するメッセージをうたっているのではない。あくまで働くことを希望する就業者が希望通り働けて活躍できる機会を提供することが望ましいのではないかという考えだ。就業者の希望に応じた働き方を選択できる環境整備こそが、労働力不足を解決する1つ目のポイントである。
人口が減少する中で労働力不足を解決するには、単に就業者数や労働時間を増やすだけでは限界がある。そこで、第2の方策として考えられるのが、労働生産性を向上させることである。労働生産性とは、労働者1人当たり、もしくは就業1時間当たりにどれだけの付加価値を生み出しているかを測る指標だ。日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2023」によれば、2022年の日本の労働生産性は、就業1時間当たりGDPが52.3ドルであり、OECD加盟38カ国中30位という低い水準にある。前年よりも実質ベースで0.8%の上昇傾向であるものの、順位としては1970年以降で最も低い結果であり、依然として国際的な競争力が低迷している現状が浮き彫りとなっている(図表3)。
図表3:OECD加盟諸国の時間当たり労働生産性(2022年)【上位10カ国、日本】
出所:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023」より筆者作成
労働生産性を高めるための打ち手としては、「ポテンシャルへの積極的投資」を提案する。この「ポテンシャル」の中には、「ヒトの成長」と「新たなテクノロジー」が含まれる。具体的にいえば、Off-JT(職場外訓練)を通じた労働者のスキル向上と、生成AIの活用による業務の自動化や効率化を指す。いずれも昨今の注目度が高く、重要性が認識されつつあるテーマではないだろうか。バケツリレー型に例えて上記の打ち手を表すとすれば、図表4のように「働く人の質を高める」イメージや「働く備品を充実させる(大きなバケツを用意する)」イメージとなる。
図表4:「生産性の向上」に関する打ち手(イメージ)
出所:筆者作成
そして、「ヒトの成長」と「テクノロジー」への投資は、前述した労働力を増やす打ち手以上に、労働力不足解決へのインパクトが大きい可能性が示されている(図表5)。しかし、これはあくまでも2035年時点に見込まれるインパクトだ。労働生産性の向上には時間がかかる。短期間で効果を期待するのではなく、長期的な視点で持続的に取り組むことが求められる。
図表5:「生産性向上」に関する打ち手のインパクト
出所:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2035」
今後重要なのは、労働力を増やしていく「量的拡大」の取り組みと合わせて、労働生産性を高める投資をバランスよく行い「質的向上」に努めていくことだ。単に頭数や時間を増やす取り組みだけでなく、1人1時間あたりのアウトプット、つまりタイムパフォーマンスを高めることも欠かせない。他方、今回挙げているタイムパフォーマンス向上の取り組みは、投資という表現からも分かるように、必ずしも成功を約束するものではない。投資したにもかかわらずうまくいかないケースや、投資からリターンが得られた場合でも、その効果は短期的には表れにくいかもしれない。それゆえに、タイムパフォーマンス向上の取り組みだけを行っていくのはリスクが大きい。量的拡大と質的向上に関する打ち手を両輪で回していく二刀流の姿勢が、抜本的に労働力不足を解決する糸口と考える。
本コラムでは、今後深刻化する労働力不足に対して求められる対応策を考えてきた。2035年に日本が直面する労働力不足は、1日当たり1,775万時間に及ぶと予測されている。この問題に対処するためには、「ショートワーカーの活躍機会の創出」と「ポテンシャルへの積極的投資」という2つの施策をバランスよく推進することが求められるのではないだろうか。短時間勤務者の活躍機会を広げ、1人1時間あたりのアウトプット(タイムパフォーマンス)を高めるための積極的な投資を行うことが、労働力不足を根本的に解消するための鍵となる。国や企業がこれらの施策を総合的に展開することで、日本は持続可能な社会に向けた一歩を踏み出すことができるだろう。
※このテキストは生成AIによるものです。
ショートワーカー
ショートワーカーとは、短時間で働く労働者のこと。これからの労働市場では、シニアやパートタイマー、副業希望者などのショートワーカ―の存在が増えていく見込みがある。
労働生産性
労働生産性とは、労働者1人当たり、もしくは就業1時間当たりにどれだけの付加価値を生み出しているかを測る指標である。日本はOECD加盟38カ国中で30位(2022年)。
シンクタンク本部
研究員
中俣 良太
Ryota Nakamata
大手市場調査会社にて、3年にわたり調査・分析業務に従事。金融業界における顧客満足度調査やCX(カスタマー・エクスペリエンス)調査をはじめ、従業員満足度調査やニーズ探索調査などを担当。
担当調査や社員としての経験を通じて、人と組織の在り方に関心を抱き、2022年8月より現職。現在は、地方創生や副業・兼業に関する調査・研究などを行っている。
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