2035年の労働力不足は2023年の1.85倍―現状の労働力不足と未来の見通し

公開日 2024/10/25

執筆者:シンクタンク本部 研究員 中俣 良太

労働推計コラムイメージ画像

新型コロナウイルス感染症の収束後、経済活動が再開されるにつれ、日本社会において再び深刻な労働力不足が課題として浮上している。最近では、労働力不足に起因する企業の営業時間・営業日数の短縮、さらにはサービス提供体制の縮小といった影響などが、メディアを通じて頻繁に報じられるようになった。この問題は単なる一時的な現象ではなく、少子高齢化に伴う人口減少という長期的な背景が密接に関連している。日本の労働力不足は今後より一層深刻さを増すことが予想される中、「労働市場の未来推計2035」 ではどのような傾向が見られているのか。本コラムでは、現在の労働力不足の状況を確認するとともに、今後の労働市場の見通しについて、具体的なデータに基づきながら解説していく。

Index

  1. 現状の労働力不足
  2. 2035年の労働力不足
  3. 働き手の数は増えていくが、労働力は深刻化する
  4. 労働市場は、《マラソン型》から《バケツリレー型》へ
  5. まとめ

現状の労働力不足

初めに、労働力不足の現状について見ていこう。労働力不足を表す指標はいくつかあるが、本研究では「未充足求人」のデータに焦点を当てている。未充足求人とは、厚生労働省の雇用動向調査で調査されており、企業が求める人材を確保できていない求人の数を指す。私たちの推計では、この未充足求人数が基になる“欠員率”(常用労働者数に対する未充足求人数の割合)を就業者数と掛けることで労働力不足の数を算出※1。値が大きくなるほど、企業が必要とする労働力を確保できておらず、労働力不足が深刻であると解釈できる。2023年の労働力不足においては、「就業者数6,747万人×欠損率2.8%=労働力不足(人手)189万人」となり、「2023年の労働市場では189万人の働き手が不足している状況」と捉えることができる。

※1 就業者の中には、企業に属する雇用者以外に、自営業主や家族従業者も含まれる。本研究においては、企業に属さない層においても同様の欠員率である前提を置いている点に留意されたい。

就業者数6,747万人×欠損率2.8%=労働力不足(人手)189万人


また、現状不足している189万人の働き手に関しては、「その年の平均時間分働く就業者」を仮定している。総務省「労働力調査」のデータを基に計算したところ、就業者1人が1週間当たりに働く時間は2023年時点で平均35.6時間※2。つまり、現状の労働力不足を「労働投入量」(人手×労働時間)の観点で捉えた場合、1週間あたり約6,720万時間、1日あたり約960万時間の労働力が不足していると解釈できる。

※2 2023年の延週間就業時間(239,999万時間)を就業者数(6,747万人)で割ることで算出

労働力不足(人手)189万人×週間労働時間(就業者1人あたり)35.6時間=労働力不足(1週間あたり)6,720万時間、労働力不足(1週間あたり)6,720万時間÷7日間=労働力不足(1日あたり)960万時間


コラム「労働力は『人手』から『時間』で捉える時代へ」で述べた通り、われわれの推計では労働力不足を労働投入量、つまり「時間」の観点で捉えて推計している。現状を把握する上で、時間単位で捉えた際の労働力不足(960万時間/日)も抑えるべきポイントだ。

上記の計算式で算出した労働力不足の推移が図表1である。リーマンショック直後の2009年から、2019年までは上昇傾向をたどっている。新型コロナウイルス感染症が流行し、経済が衰退することで一時落ち込みを見せるも、最近は再び2019年以前のペースで深刻さを増していることが分かる。

図表1:労働力不足の推移【2000年~2023年】

図表1:労働力不足の推移【2000年~2023年】

出所:厚生労働省「雇用動向調査」、総務省「労働力調査」をもとに筆者作成

2035年の労働力不足

では、今後の労働力不足はどうなっていくのだろうか。前回の推計(「労働市場の未来推計2030」)で開発した予測モデルを改善・アップデートして推計を行ったところ、「2035年、日本の労働市場では1日当たり1,775万時間の労働力が不足」という結果が導かれた(図表2)。2023年の労働力不足960万時間/日よりも1.85倍大きい数である。今の組織で労働力不足を少なからず実感している読者は、その実感している倍の労働力不足に陥る場合を考えてみると、深刻さをイメージしやすいのではないだろうか。

なお、1,775万時間/日の労働力を働き手の数に換算してみると、384万人相当の不足を意味する。今回は、外国人就業者も労働供給の一部として含めているが※3、その点を加味した場合、前回の推計(労働市場の未来推計2030)から大きな見通しの変化は見られない。また、今回の推計では、前提条件の1つに「今後ほとんど経済成長しないシナリオ」を置いている。この想定以上に日本経済が成長した場合、労働力不足はより一層深刻になる点には留意されたい。

※3 前回の推計(「労働市場の未来推計2030」)は「日本人のみ」の労働供給を算出し、2030年の労働力不足を推計していたが、今回は現実に即した労働時給状況を捉えるために、外国人も含めた「総人口」を推計対象とした。日本に住む外国人の数は年々増加傾向にあり、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によると、2070年には総人口の約10%が外国人となることが予測されている。

図表2:2035年の労働力不足の予測

図表2:2035年の労働力不足の予測

出所:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2035」

働き手の数は増えていくが、労働力は深刻化する

深刻化する労働力不足の要因をひもとくために、「人手」と「働く時間」に分解して見たところ、興味深い傾向が見られた。それは、2035年にかけて「働き手の数が増えていく」傾向だ。2023年時点での就業者数は6,747万人いるとされているが、2030年では6,959万人、2035年では7,122万人と増えていくトレンドが見込まれている(図表3)。人口減少が着実に進む中で日本の労働市場においても同様の傾向が見られると思いきや、労働供給としての働き手の数は今よりも約400万人増えていく傾向が今回確認されたのである。

就業者が増えるにもかかわらず労働力不足が深刻化する背景には、コラム「労働力は『人手』から『時間』で捉える時代へ」 と同様に「就業者の多様化」と「労働時間の短縮」の2つの要因が影響している。つまり、①就業者全体の中で、短時間で働く傾向にあるシニアや女性、外国人などの占める割合が大きくなること。また、②働き方改革などの影響により、就業者全体の働く時間が短くなることで、就業者の数は増えていくものの、労働需要には追いつかず、労働力不足は深刻化していくものと考えられる。

図表3:就業者数の推移

図表3:就業者数の推移

出所:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2035」

労働市場は、《マラソン型》から《バケツリレー型》へ

今回の推計結果を踏まえると、図表4のように解釈できる。ある場所の水をバケツで汲み、別の場所にある容器に水を溜めるシーンを思い浮かべてほしい。これまでは、一人ひとりが自分で水を汲み、単独で水槽まで運ぶことができていた。いわゆる長時間労働を前提とした熱血サラリーマンが中心の《マラソン型》の労働市場である。しかし、今後はそのような人材は次第に少なくなっていき、短い距離を走るような「ショートワーカー」の存在が多くなっていく見込みだ。今後、国や企業は《バケツリレー型》で水を運ぶことを前提とした上で、ショートワーカーの活用をより一層念頭に置くべきであるといえよう。

図表4:これまでの労働市場とこれからの労働市場(イメージ)

図表4:これまでの労働市場とこれからの労働市場(イメージ)

出所:筆者作成

まとめ

本コラムでは、労働力不足の現状をおさえた上で、2035年の労働市場の未来を考えてきた。人口減少や高齢化が進む中、日本の労働市場では2035年に1日当たり1,775万時間の労働力が不足する(2023年の労働力不足より1.85倍)。就業者の数は増えていくものの就業者全体の働く時間が短くなることで、労働力不足は深刻さを増していく見通しだ。この傾向を整理したものが図表5である。

今回の推計結果は、あくまでも「現況がこのまま続いた場合」の未来の姿である。私たちの意識や行動が変わることで、こうした悲観的な未来は変えられる。次回のコラムでは、労働力不足の問題を解消するための打ち手について述べる。

図表5:労働市場の見通し

図表5:労働市場の見通し

出所:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2035」

このコラムから学ぶ、人事が知っておきたいワード

※このテキストは生成AIによるものです。

未充足求人
未充足求人とは、企業が必要とする人材を確保できていない求人のことである。未充足求が多いほど、労働力不足が深刻であることを示す。

欠員率
欠員率とは、常用労働者数に対する未充足求人数の割合である。欠員率を就業者数と掛けて算出した値が大きくなるほど、企業が必要とする労働力を確保できておらず、労働力不足が深刻であると解釈できる。

執筆者紹介

中俣 良太

シンクタンク本部
研究員

中俣 良太

Ryota Nakamata

大手市場調査会社にて、3年にわたり調査・分析業務に従事。金融業界における顧客満足度調査やCX(カスタマー・エクスペリエンス)調査をはじめ、従業員満足度調査やニーズ探索調査などを担当。
担当調査や社員としての経験を通じて、人と組織の在り方に関心を抱き、2022年8月より現職。現在は、地方創生や副業・兼業に関する調査・研究などを行っている。


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