公開日 2016/08/31
スタッフの募集・面接活動の後に店長/管理者が頭を悩ませるのは、1カ月も経たずに退職してしまう「早期離職」の問題だ。どの現場でも、「入店から3日で来なくなった」「1週間で連絡がつかなくなった」といった例はあるだろう。今回の調査でも、入社から1カ月以内で辞めてしまうスタッフは、離職者のうちの22.1%にも上ることが明らかになっている。早期離職は、面接・採用のコストがほぼすべて無駄になってしまうだけでなく、店長や既存スタッフ含めた職場全体を疲弊させてしまう。会社としても現場としても避けたい事態だ。
せっかく入ったアルバイトがすぐに辞めてしまう理由はなんだろうか。アルバイト・パートの離職、特に早期で辞めてしまう場合は、店長や会社には本音の理由を言いにくく、実態をつかむのが難しいという問題がある。そこで、今回は客観的なデータとして取得した従業員調査・離職者調査からその実態を明らかにしてみたい。
前回も簡単に触れたが、1カ月以内の離職意向と入社後の働き方の相関を見てみると、アルバイトスタッフを早期離職へ導いてしまう大きな要因として、次の2つのポイントが見えてくる。
まず下図より分かるのは、、思ったよりも仕事が忙しい、聞いていた仕事の内容と違うなど、事前の想定とのギャップが早期離職を招いていることだ。休みがとりにくい、希望外勤務があるなどといった忙しさや大変さそのものよりも、「想定外」の忙しさのほうが早期離職への影響が強いことが示唆されている。この入社後のリアリティショックをいかにコントロールするか、面接の重要性が改めて分かる。
早期離職と関連の強い項目
また、「職場での放置」の問題も大きい。多忙とスタッフ不足から教育担当をうまくアサインできず、まだ職場に慣れていない新人を「ちょっと待ってて」と放置してしまう、といった光景は多くの現場で見られる。調査では、こうした仕事上の放置の多発が新人アルバイトの早期に「辞めよう」という気持ちを有意に高めてしまうことも確認できた。
上図の大まかなデータを、さらにもう少し細かく分析してみよう。
下の散布図は、「職場での発生率」、つまり職場でどのくらいその事象が起こりやすいかを縦軸に、横軸に上の「早期離職と関連の強い項目(事象)」をおいてプロットしたものだ。つまり、右上のオレンジの象限は「起こりやすく、離職への関連が強い」事象が並ぶ象限、左下が「起こりにくく、関連が弱い」事象が並ぶ象限ということになる。
職場で起こりやすい、早期離職に影響する項目
※図はクリックすると拡大します
これを見ると、「入社前のイメージよりも仕事の量が多かった」「厳しい雰囲気だった」は関連度が高く、かつ職場での発生率も高い。多くの職場で改善が必要な項目といえるだろう。
一方、「面接時の説明との仕事量・仕事内容のギャップ」は、発生率は低いが早期離職への関連度が高い「要警戒」の項目といえる。職場によっては、面接者によってやり方の異なる属人的な面接が行われ、一部の面接官の説明が実際の職場とは異なる印象を与えてしまっているケースがある。こうした要警戒の項目に対しても、面接のやり方を平準化するなど会社として取り組んでいくべきだろう。
以上の2つのポイントを踏まえつつ、早期離職を防ぐためのより具体的なアクションを考えてみたい。早期離職してしまったスタッフと長く働いたスタッフでは、職場での状況がどう違ったのだろうか。複数の観点で比較分析してみよう。
まずは、就業時の教育・評価など公式な制度面での違いである。下に示したのは、「1カ月未満で辞めてしまったスタッフ」と、それ以上続いたスタッフで、就業状況のギャップが大きいものをみたグラフだ。
「制度面」における早期離職スタッフと長期働いたスタッフの違い
ギャップが大きかったのは、「新人の時に教育担当者から指導を受けたかどうか」で、その場で教えられそうなベテランなどではなく、正式に教育担当者を割り当てられた者のほうがより多く早期離職を免れている。本稿前半でも触れた「職場の放置」の問題と裏返しの形での結果ではあるが、解決策の本質は同じといえよう。
また、職場で「全体ミーティングが行われている」ことも大きい(比でみると最大ギャップ)。シフト制でメンバーが揃うことが難しい職場も多いと思われるが、職場の目標共有やスタッフ全員の情報共有など、全体ミーティングの設定は早期離職にも有効な効果がありそうだ。
次に、少し視点を変えて、もっと非公式なコミュニケーションの側面からも見てみよう。
「非公式コミュニケーション」における早期離職スタッフと長期働いたスタッフの違い
最もギャップの大きかった項目は、「職場外での交流があった」だ。これについては、就業期間の長いスタッフのほうが必然的に機会も多くなるため、差が出るのは当然ともいえる。だが、3つ目に挙げた「上司とプライベートな話ができた」と合わせて考えると、業務以外のコミュニケーションが職場雰囲気に馴染むことを促し、早期離職の有無を大きく左右していることがうかがえる。
また、そうした非公式のコミュニケーションを生む環境として、2つ目の「職場内に談話できるようなスペースがあった」は、職場のファシリティを考える際に示唆に富む。このデータからは、職場内の談話スペースにおける休憩やシフト交代時の会話によってインフォーマルな交流が促されることで、早期離職が抑制できる可能性が示されている。
全体をまとめよう。アルバイトの早期離職防止のためには、入社後スタッフに起こりがちな【リアリティショック】と【仕事中の放置】の問題を防ぐことに留意しながら、より具体的なアクションとして、「教育担当者をつける」「全体ミーティングの機会を設ける」「談話スペースを設ける」といった公式・非公式な観点からの施策を積極的に行っていくことが有効そうだ。逆に言えば、こうした施策を実施していない職場では、早期離職リスクが高い水準にあることが示されている。
早期離職は、現在のようなスタッフに他の就業選択肢が多い売り手市場であるほど起こりやすい。詳細は書籍に譲るが、本プロジェクトにおける他調査結果では、周囲に競合店が多い店舗ほど働いているスタッフに「早く辞めよう」という気持ちが起こりやすいことも明らかになっている。上記のようなことをヒントにしつつ、人材不足の状況でせっかく入った新人がすぐ辞めてしまわないような安定した職場を築いていきたい。
【予告】アルバイト・パート成長創造プロジェクト2016年秋・書籍刊行予定です
東京大学・中原淳准教授とパーソルグループのインテリジェンスHITO総合研究所は、小売・飲食・運輸業界大手7社の協力のもと、全国約2万5,000人を対象に、「アルバイト・パート雇用」に関わる大規模調査を実施しました。そこで得られたデータ・知見は、2016年10月下旬にダイヤモンド社より書籍『アルバイト・パート[採用・育成]入門』(仮題)として刊行予定です。詳しい刊行予定等詳細は、随時ホームページでお知らせいたします。
※書籍では、早期離職防止にかかわる調査結果や対策について、より詳しい内容を掲載予定です。
■調査概要
・調査名:パート・アルバイト一般従業員調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学 中原淳准教授
・調査対象者:小売・外食・運輸大手6社7ブランドにおける非正規雇用の一般従業員 (店舗・営業所スタッフ・配送スタッフなど)/8,141人
・調査期間:2016年1月18日~2月21日
・調査名:離職者調査
・調査主体:パーソルグループ×東京大学 中原淳准教授
・調査対象者:小売・外食・運輸の大手企業で非正規雇用(アルバイト・パートないしそれに準ずる雇用形態)で働いており、直近3年間以内に離職した者、2,926人
・調査期間:2015年11月6日~11月24日
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソルグループ・東京大学中原淳研究室「パート・アルバイト一般従業員調査/離職者調査」
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