公開日 2018/02/23
急速な少子高齢化が進むわが国において、人口の半数を占める女性の社会での活躍が重要です。そこで今回は、はたらく女性の現在の状況と企業における対応の進め方を考えます。また、取り組みを行う企業にとって有用な、公開情報の活用についてもあわせて紹介します。
日本では結婚や育児などをきっかけに職を離れる女性が多く、女性の労働力率を年齢別にみると20代後半から30代に落ち込む「M字カーブ」を描くことが特徴とされてきました。しかし、近年はこれらの年代の労働力率が大きく改善しており、かつてM字カーブの底であった30歳前半の労働力率は73.2%(2016年)となりました※注1。
また、女性の離職理由のうちでも最も大きな理由の1つである第1子出産前後における就労継続率は、平成22年の38%から53.1%にまで改善しました※注2。政府が掲げた目標は「平成32年までに55%」でしたが、時期を前倒しして達成される見通しです。このように統計でみれば、日本でははたらく女性が明らかに増加しています。しかしなお、はたらく女性のおよそ半数が出産時にこれまでの仕事の継続を諦めているのもまた事実であり、家庭と仕事の両立の難しさを示唆しています。
次に、組織における女性の地位について確認します。
企業の管理職のうち女性が占める割合は13.0%(2016年)※注1 であり、国際労働機関(ILO)の最新調査では日本の順位は108の国と地域のうち96位とされています。日本のはたらく女性の地位は、諸外国と比較すると極めて低いレベルにあり、残念ながら現在の日本は女性が組織のリーダーとして活躍しやすい社会とは言い難い状況です。
性別を理由とする差別的取扱いの禁止を定めた「男女雇用機会均等法」(1986年施行)は、それまで男性に適用されてきた雇用管理を女性にも適用することになり、長時間労働が困難な女性が不利な競争条件に置かれてしまう結果をもたらしました。
2015年8月28日に成立した「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)は、これまでに生じた男女間の格差の解消が背景にあります。したがって、男性に適用してきた雇用管理を単に女性にも適用するのではなく、雇用管理のあり方そのものを見直すことが企業に求められています。2016年4月1日からは、301人以上の労働者を雇用する企業に対して、自社の女性活躍に関する情報や行動計画の策定・公表が義務付けられました。企業は自社の女性活躍推進に関する状況の把握と課題分析を行い、課題解決のための行動計画を策定し、成果の定期的な公表を行います。
「女性活躍推進法」で企業が公表する情報や行動計画は、「女性の活躍推進企業データベース」で一元管理されており、誰でも活用することができます。
たとえば、東洋大学は「女性の活躍推進企業データベース」の情報を活用して、企業の女性活躍への対応度合いを示す「女性活躍インデックス」を開発し、2017年4月に公開しました。東洋大学のホームページでは、女性活躍インデックスによる法人と業種のランキングのほか、女性活躍インデックスのシミュレーションが公開されており、自社の取り組み状況を、女性活躍インデックスのポイントと偏差値(全体の中の位置付け)として簡単に確かめることができます。
女性活躍推進法で企業に求められる行動計画の策定について、どのように進めればよいかわからないとの悩みが聞かれます。行動計画そのものは、必ずしも自社のオリジナルなものである必要はありません。これまで多くの企業で実績のある、優れた行動が事例として数多く公開されています。厚生労働省が運営する「ポジティブ・アクション情報ポータルサイト」※注3 には、行動計画策定支援ツールや取組施策集などが公開されており、様々な産業や規模の企業の行動を参照することができます。
ただし、行動計画の策定にあたって最も重要な点は、前提として自社の経営理念や戦略に女性活躍推進をきちんと整合させ、現状の把握と課題分析が行われることです。自社の経営理念や戦略に女性活躍推進を整合できている例として、「ポジティブ・アクション情報ポータルサイト」に掲載されている取組施策集の掲載企業を抜粋して紹介します。
●大塚製薬株式会社(医薬品・食料品等の製造・販売等):「革新的な製品づくりに必要な創造性は、異質なもののぶつかり合いから出てくる」との経営トップの考えが社内に浸透している。
●拓新産業株式会社(建設機材のレンタル、リース業):働きやすい職場づくりによって営業機会を失う可能性について議論があったところ、「顧客満足より社員満足を優先させる」と経営トップが判断した。
●東京急行電鉄株式会社(鉄軌道事業、不動産事業):顧客の多くが女性の消費者向け事業を手掛けているビジネス特性から、女性の戦略化が必要だと判断した。
次に、自社の現状把握と課題分析を行うことも重要です。
食品製造業の多くの企業では、会社全体に占める生産部門の従業員比率が高く、女性が多いことが特徴として挙げられます。また、消費者としての一面が強い女性従業員を、商品開発を行う技術部門や品質管理部門に対して積極的に配置している企業もみられます。一方で取引先との関係で男性中心の商慣行が未だ残っている場合もあり、このような企業では営業部門における女性従業員や管理職に占める女性の比率が低く、改善の必要性が高いと考えられます。
企業の目指す方向や取り巻く環境はそれぞれであり、女性活躍推進という同じ目的に向かう道のりもやはりそれぞれで異なります。取り組みにあたり、自社の経営理念や戦略に女性活躍推進をきちんと整合させ、女性活躍推進を経営課題として管理することが成功のポイントだと考えます。
※注1:総務省「労働力調査」
※注2:国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(2016)
※注3:厚生労働省「ポジティブ・アクション情報ポータルサイト」 http://positiveaction.mhlw.go.jp/
本コラムは「冷凍食品情報(2017年6月号)」(一般社団法人日本冷凍食品協会発行)に掲載いただいたものを再編集して掲載しています。
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