公開日 2016/12/21
パーソル総合研究所 代表取締役社長 渋谷和久
2016年11月29日東京イイノホールで「働く未来フォーラム」(日本経済新聞社クロスメディア営業局主催、パーソルグループ協賛)が開催されました。オープニングリマークスでは弊社代表取締役社長の渋谷和久が「労働市場の未来推計」と題し、先日発表した2025年に見込まれる労働力の不足についての推計とその解決に向けた4つの選択肢を発表しました。
既に人手不足が各業界で問題になっています。新聞では「人手不足」「労働力不足」という言葉を見ない日はないといっても過言ではありません。また、各種求人倍率などの数字を見てもそれは明らかで、アルバイト・パート採用や中途採用の現場などでは「10数人採用したいのに1人しか採用できない」というようなことが起こっています。ここにお越しの皆さんも採用業務などでご苦労されている方も多いのではないでしょうか。
では、いったい今後どれくらい労働力が不足するのか。パーソル総合研究所が先日発表した推計では2025年の労働力の不足は583万人※に上ります。産業別の推計結果では特に、「情報通信・サービス業」「卸売・小売業」「運輸業」などの業種で労働力が不足します。逆に「政府サービス等」や「製造業」では労働力の余剰が出ると見込んでいます。このことから、産業間の労働移動が今後の課題の1つになるのではないでしょうか。
※経済成長率0.8%(2015年度の年率経済成長率)が2025年までの続き、そして現在のペースで女性、シニア、外国人の労働参加が促進され、また生産性が改善したと仮定した数字
しかし、産業間の労働移動がスムーズに実現したとしても583万人の労働力の不足は解消しません。パーソル総研では労働力の不足を解消する為の具体的な4つの選択肢として①「生産性を向上させる」②「働く女性を増やす」③「働くシニアを増やす」④「日本で働く外国人を増やす」を検討しました。生産性を向上させることで労働力の需要を抑制し、女性、シニア、外国人の労働参加を促すことで労働力の供給を増し、需給ギャップを埋めようという趣旨です。以下、各選択肢についてご紹介いたします。
日本の生産性を主要先進7ヵ国と比較すると、7ヵ国中最下位です。生産性の向上について多くの皆さんが取り組んでおられますが、2010年から2013年までの生産性の伸び率も年率平均0.9%にとどまっています。AI(人工知能)、IT(情報技術)などのテクノロジーの導入や適材適所の人事異動、柔軟な働き方の推進などさらなる生産性の向上に社会全体で取り組み、この生産性の伸び率を年率1.2%まで向上させると114万人分の労働力の需要を抑制することができます。
日本における女性労働力の人口比率は、約40年前の1975年と比べるとかなり向上しています。しかし、女性の労働参加について先進的な取り組みを実施するスウェーデンと比べると大きな開きがあるのも事実です。特に30歳代~40歳代の所謂「子育て年代」で大きな開きがあります。例えば、2014年におけるスウェーデンの30歳~34歳女性の労働参加率は87.8%で日本の同年の女性労働参加率より約15%高くなっています。この「子育て世代の女性」の労働参加の促進などに取り組むことで、2025年に2014年のスウェーデン並みに女性が労働参加すると、350万人の労働力の供給増が見込めます。
言わずもがな日本は高齢化社会に突入しています。そんな中、労働人口総数に占める65歳以上の割合も増加し、2013年の統計では9.9%に上っています。では、シニア世代は何歳まで働きたいと考えているのでしょうか。2008年内閣府が発表した、全国の60歳以上の男女に行った調査によると、実に70%を超える人が70歳以上まで働きたいと答えています。シニア世代には働きたいという希望や意識があるのに、働いていただく場を提供できていないのが現状なのではないでしょうか。2025年に見込まれる65歳から69歳の労働参加率は男性57%、女性39%です。シニア世代に働いてもらいやすい制度をさらに整備し、この割合を2025年に見込まれる60歳前半の労働参加率(男性79%、女性53%)まで高めることができれば、167万人の労働力の供給増が見込めます。
現在(2015年)日本で働く外国人就労者は91万人、労働人口に占める外国人の割合は1.4%です。これは歴史的な背景や地理的な背景があると思うのですが、ほかの先進国と比べると少し低い数字になります。例えば労働人口に占める外国人の割合に関して、ドイツでは9.4%(2009年)、フランスでは5.8%(2009年)、イギリス8.2%(2013年)、移民大国といわれるアメリカにいたっては16.2%(2009年)に上ります。今後、グローバリズムは進んでいくでしょうし、外国人の労働参加推進に関しても対策が必要だと考えています。外国人の就労推進に関しての様々な懸念を払拭し、労働人口に占める外国人の割合を現在の倍である2.8%まで高めることができれば、34万人の労働力の供給増になります。
労働力の不足が深刻化・恒常化する中で、採用の局面において企業の立場は「選ぶ側」から「選ばれる側」へと変化しています。また、入社以降の働き方についても、これまでのように働く個人が企業の都合や事情にあわせるのではなく、企業が個人の価値観やライフスタイルにあわせいくことが必要になっています。企業にとって持続的に成長していくためには、働く個人と組織の関係におけるパラダイムチェンジが必要となっているのです。
パーソル総合研究所では、2016年11月に「労働市場の未来推計2025」を発表しました。
2018年10月に最新の推計として、「労働市場の未来推計2030」を発表しています。
「労働市場の未来推計」の詳細はこちらをご覧ください。
「労働市場の未来推計」
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