テレワークに役立つHRテクノロジー、アフターコロナを見据えた導入を

公開日 2020/04/22

執筆者:シンクタンク本部 研究員 砂川 和泉

テクノロジーの力で"不可能"と思われるテレワークを可能にする

新型コロナウイルス対応は長引くことが想定され、長期的な共存を覚悟しなければならない。目下、政府や自治体が積極的なテレワーク実施を呼びかけているものの、期待されているほどテレワークが浸透していないのが実情である。

パーソル総合研究所が実施した調査(※1)では、緊急事態宣言後の4月中旬時点でテレワークを実施しているのは緊急事態宣言地域の7都府県で38.8%、東京都に限れば49.1%(3月中旬は23.1%)であった。この1か月間でテレワーク実施率は増加しているとはいえ、政府が要請する出社7割減には程遠い。テレワークを実施していない理由としては、テレワークで行える業務ではない(47.3%)、テレワーク制度が整備されていない(38.9%)ことが上位に挙がっている。医療・介護・物流・食品関係など、現場でないと確実に仕事ができない職種もあるが、オフィスワークであれば環境さえ整えばテレワークが可能となる職種も多い。テレワークでは仕事ができないという思い込みがテレワークの普及を阻害しているとも言える。

もともとテレワークが導入されていた企業であっても、週に1回程度のテレワークであれば、その日は1人で集中しておこなう類のテレワークに「適した」仕事、テレワークでも「できる」仕事をするというスタンスで事足りていた。しかし、今回のようにテレワークが常態化すると、そうした仕事だけをテレワークでおこなうという対応では限界がくる。
このような状況下では、テレワークではできないと思っていた"当たり前"を見直し、テレワークを前提として、すべての仕事をどのようにしたらテレワークでできるのかという発想に切り替える必要がある。

前述の調査でテレワークを実施していない理由として、テレワークのためのICT環境が整備されていないと回答した人は19.9%に過ぎなかったが、ICT環境を使えば自身の業務をテレワークで置き換えられるというイメージができていなければ、ICT環境の問題として考えることは難しい。テレワークを浸透させていくためには、テクノロジーを使えばより一層出勤する必要性を減らせることを理解し、積極的に"テクノロジーの力を借りる"ことが必要である。

テレワーク浸透に欠かせないHRテクノロジー。テレワークという働き方が中長期化するに伴って生じるさまざまな課題に対してもまた、HRテクノロジーが解決の要となるでしょう。そこで、人事や人材マネジメントの分野において役立つテクノロジー領域についてまとめました。

短期的には、セキュリティを保持しながらテレワークできる環境整備を。採用業務はオンラインで進める

では、テクノロジーの力を借りればどんなことが可能になるのか。 人事や人材マネジメントの分野でテレワークに役立つテクノロジー領域を、喫緊の課題解決のための短期的視点、そして、テレワークが中長期化することによって想定される課題解決のための中期・長期視点でまとめたのが下記の図である。

図.テクノロジーをテレワークに活かせる領域 テクノロジーをテレワークに活かせる領域テクノロジーをテレワークに活かせる領域

短期的には、セキュリティを保持しながら在宅勤務がおこなえる環境を整えることが第一関門である。

既に多くの企業がトライをしているが、まずは、ビデオ会議やチャットツールといった遠隔コミュニケーションツールの利用、リモートアクセス等のテクノロジー導入を検討することになる。リモートアクセスについては、VPN(仮想プライベートネットワーク)の他、例えばCACHATTOのように、セキュリティを保持しながら私物PCやスマホから社内ネットワークに直接接続せずに簡易的に社内環境にアクセスできるようなツールもある。

そして、あわせて検討すべきは勤怠管理方法である。働き方改革関連法の施行で、大企業では2019年4月から、中小企業でも2020年4月から労働時間の把握義務が生じている。法律上の要請を満たすためであれば電子化にこだわる必要はなかったが、紙のタイムカードではテレワークの足かせとなってしまいかねない。
また、テレワークで仕事をするには、給与や契約関連、承認プロセスなど、その他の労務関連の資料・書類も電子化(ペーパーレス化)して共有することが前提となる。現在、押印や紙資料の確認のために出社せざる得ないことが問題になっている。これらを支えるシステムがテレワークを支える基本的なインフラである。

そして、人事領域で目下喫緊の課題は2021年の新卒採用活動である。既にオンライン説明会やリモートOB・OG訪問等への切り替えが進んでいる。選考過程においても、これまでにも1次面接はHARUTAKAやHireVueといったデジタル面接ツール(WEB・録画)に切り替える企業が出てきていたことから、1次面接であれば大きな支障なく置き換えることもできるのではないだろうか。

中長期的には、コミュニケーションの可視化でチームワークとマネジメントを進化させる

先進的な企業であれば、ここまでは現在でも取組みが進んでいることだろう。しかし、ここにきて事態が長引きそうな見通しとなり、テレワークの常態化にともなう現場のチームワークや人材マネジメント、人材育成への影響も考えなくてはならなくなってきている。

既にテレワークを実施している企業においては、チームでおこなう仕事がテレワークでなかなか進まなかったり、人材マネジメントに苦慮している人も多いのではないだろうか。
テレワークでのチームワークやマネジメントに共通するポイントは「コミュニケーションの可視化」である。テレワークはともするとソロワークになりがちであり、意識しないとコミュニケーションが不足する。また、毎日顔を合わせるわけではないので、上司はコンディションや進捗の確認も意識しておこなわなくてはいけない。
そうしたこともテクノロジーを使えばある程度補完することができる。ビデオ会議やチャットツールに加えて、Bizer teamなどのチームワーク可視化ツールやKAKEAIのようなマネジメント可視化ツール、1 on 1 naviなどのタイムリーなフィードバック支援ツールやMotifyなどのコンディション管理支援ツールなどもある。
また、「さぼっていると思われるのではないか」という不安からテレワークをする側が躊躇することもあるが、例えばMITERASのような労務実態把握ツールを使って労働時間把握に加えて作業内容を見える化すれば、社員がきちんと働いていることを証明できるようにもなる。

人材育成の分野では、既に新人研修がeラーニングなどを利用して進められているが、既存社員の人材育成も凍結していては競争力の低下につながる。あらかじめ録画されたコンテンツを視聴するeラーニングだけでなく、UMUのように双方向コミュニケーションが可能なサービスを使ったオンライン集合研修などもある。今回の新型コロナウイルス対応を機に、オンラインではない通常の集合研修を提供していた研修会社も新人研修や管理職研修などのオンライン集合研修サービスを提供し始めている。

長期的には、評価や異動、健康管理といったマネジメントの在り方も視野に入れる必要があるだろう。今回の新型ウイルスの流行にかかわらず、HRテクノロジー導入は時代の流れであり、HRテクノロジー市場はこの数年で大きく拡大傾向にある。初期は労務管理や採用といった特定の分野にとどまっていたが適用範囲が広がってきており、実用化フェーズにあるサービスも多い。新たなテクノロジーの導入は不安がともなうが、導入実績を踏まえて選定することもできるだろう。

「働きやすさ」と「効率化・最適化・高度化」がアフターコロナの競争優位性につながる

いまはBCP(事業継続計画)としての対応であったとしても、テクノロジーの導入は中長期的に、「働きやすさ」による従業員のエンゲージメント向上や人事業務、および、人材マネジメントの「効率化・最適化・高度化」による新たな付加価値をもたらすものである。アフターコロナを見据えて、"生産性向上"や"精度の高い意思決定"を実現するための戦略的投資と考えるべきであろう。

HRテクノロジーは働き方改革の要でもある。業務の効率化や標準化が進み、時間や場所にとらわれない働きやすい環境が実現されれば、多様な社員の活躍やエンゲージメント向上が見込めるとともに、生産性の向上につながる。さらに、浮いた時間でより付加価値の高い仕事に集中することや、最適化や高度化の実現によってより精度の高い意思決定が可能になり、競争優位の源泉となる。

例えば、前述のデジタル面接であれば、時間や場所の制約からの解放による時短社員の活躍という「働きやすさ」の観点や時間の短縮化という効率化の側面に加えて、地理的・時間的に多様なバックグラウンドをもつ人にアクセスすることができ、採用母集団の裾野が広がる。また、選考にあたって複数の面接官による多角的な評価をおこなうことで評価基準のバラつきを阻止できること(=最適化)もメリットである。なかには、AIを使って活躍人材の予測をおこなうことができるようなツールもある(=高度化)。

人材育成もテクノロジーの力で進化させることができる。"いつでも、どこでも"受講可能なeラーニング/マイクロラーニングでは時間や場所の制約からの解放につながることはもちろん、個々人が自身に適したコンテンツを受講することもできる(=最適化)。また、オンライン集合研修では、その場でWEBアンケートの回答を集計・共有したり、リアルタイムで双方向フィードバックが可能になるような仕組みを使えば、これまで手を挙げて発言しづらかった人の意見も吸い上げて共有することができるメリットもある(=高度化)。

システム選定時は"データの一元管理" に留意

最後に1つ、システム選定にあたって考慮すべきポイントを付記したい。いまは緊急事態として導入を急がざるを得ない側面もあるが、中長期的視点で考えると、"データの一元管理"を念頭に置いた選定が必要である。

近年ピープルアナリティクスと呼ばれる人事・人材マネジメント分野のデータ分析に基づいた科学的意思決定への関心が高まっているが、せっかくシステムを導入してデータが溜まってもデータが散在しているのでは後に分析を実施しようとしたときに大きな壁となる。三菱UFJリサーチ&コンサルティングがおこなった調査(※2)によると、人事業務におけるデータ活用を実施していない企業の6割以上が「データの一元管理」を導入障壁と回答しており、データがバラバラであることが分析にあたっての大きな障壁となっている。セキュリティの観点や自社の規模・特性にあったものを選択することは勿論であるが、将来の分析を念頭に、既存システムとの連携や拡張性を考慮したもの、また統合的なシステムを検討することも1案であろう。

終わりに

国難とも呼べる現況において、明暗を分ける1つのカギはテクノロジーの活用にある。

働き方改革の流れとあいまって、HRテクノロジー導入は時代の要請とも言える。ピンチをチャンスにすべく、テクノロジーの力で不可能を可能にし、抜本的に「働き方」を見直すこと、そして、生産性を向上させ、より精度の高い意思決定に舵を切っていくことが、目下の事業継続とその先の明るい未来につながる。

※1:パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査 第二回調査」
※2:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「人事のデジタル化に関する実態調査」

執筆者紹介

砂川 和泉

シンクタンク本部
研究員

砂川 和泉

Izumi Sunakawa

大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査や顧客企業のID付きPOSデータ分析を担当した他、自社内の社員意識調査と社員データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、女性の就労、キャリアなど。


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