2025年、法改正により人事・労務担当者の対応が変更になるもの、新たに対応が必要になるものがある。その中で特に注目の4つの法改正の概要と対応のポイントについて、弁護士の今井靖博氏に伺いました。
今井靖博氏(弁護士)
山田・尾﨑法律事務所パートナー弁護士。2008年弁護士登録。企業における予防法務や、トラブル対応、改善策の策定など企業法務全般を広く取り扱う。ハラスメントに関する執筆活動や企業・大学・学校等各種団体における講演活動多数。
2025年4月1日より、賃金の額がみなし賃金月額の64%相当額未満の場合、高年齢雇用継続給付の給付率が15%から10%に引き下げられます。また、賃金がみなし賃金月額の64〜75%未満になった場合は、その割合の程度に応じて、給付率が10%から減少することになりました。
高年齢雇用継続給付は、60歳到達時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の労働者で、一定の要件を満たした方に支給される給付です。高年齢者の就業意欲を維持、喚起し、65歳までの雇用の継続を援助、促進することを目的とした制度で1994年に創設されました。
60歳になると定年や再雇用となり、それに伴い収入は下がることが多い一方、60歳から65歳の間は、原則として年金を受け取れないため、この期間は、最も収入が減る期間といえます。そこで、60歳以降の賃金の低下を補う制度として、高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金および高年齢再就職給付金)が定められていました。
しかし、2025年度には高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)による継続雇用制度の経過措置が終了し、60歳以上65歳未満の労働者は、希望すれば全員が継続雇用制度の対象者になるなど、高年齢者雇用確保措置の進展などがあることから、高年齢雇用継続給付の給付率は2025年度から縮小となることが決まりました(最終的に廃止の予定)。
2025年4月1日から、賃金の額(65歳以後の各月に支払われる賃金額)がみなし賃金月額(60歳に達した日を離職日とみなして算定した賃金日額に30を乗じて得た額)の64%相当額未満の場合、給付率は従前の15%から10%に引き下げられます。また、賃金がみなし賃金月額の64〜75%未満になった場合は、給付率の変更に応じて、給付額が減少することになりました。
高年齢雇用継続給付の申請は、会社を通してハローワークに手続きを行う必要があります。手続きに必要な賃金証明書や受給資格確認票の提出がなかったり、遅れたりすると、被保険者の方が支給を受けられなくなることがあるので、注意が必要です。
多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築、人への投資の強化や共働き・共育ての推進などを目的に、雇用保険制度の拡充と見直しが行われ、2025年度から、教育訓練やリスキリング支援の充実、出生後休業支援給付の創設、育児時短就業給付の創設などが施行されます。
現状では、自己都合離職者が失業給付(基本手当)を受給するには、待期期間(7日間)満了の翌日から原則2カ月間の給付制限がありますが、ハローワークの受講指示を受けて公共職業訓練などを受講した場合は、給付制限が解除されます。
今回の改正では、労働者が安心して再就職活動を行えるようにする観点などから、離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定および就職の促進に資する教育訓練を行った場合にも、給付制限が解除されることになりました。また、通達の改正により、原則の給付制限期間が2カ月から1カ月へ短縮されました。
現状では、労働者が自発的に、教育訓練に専念するために仕事から離れる場合に、その訓練期間中の生活費を支援する仕組みがありません。労働者の主体的な能力開発(リスキリング)をより一層支援する観点から、離職者を含め、労働者が生活費などへの不安なく教育訓練に専念できるようにする必要があります。今回の改正により、雇用保険被保険者が教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、基本手当に相当する給付として、賃金の一定割合を支給する教育訓練休暇給付金が創設されることになりました。
現状では、育児休業を取得した場合、休業開始から通算180日までは賃金の67%(手取りで8割相当)、180日経過後は50%の育児休業給付が支給されますが、今後、夫婦共に働き、育児を行う「共働き・共育て」の推進が必要であり、特に男性の育児休業取得のさらなる促進が求められます。
そこで、今回の改正により、子の出生直後の一定期間以内に、被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を給付し、育児休業給付とあわせて給付率80%(手取りで10割相当)へと引き上げることとされました。
現状では、育児のための短時間勤務制度を選択し、賃金が低下した労働者に対して給付する制度はありませんが、柔軟な働き方として、短時間勤務制度を選択できるようにすることが求められます。
そこで、今回の改正により、被保険者が、2歳未満の子を養育するために、時短勤務をしている場合の新たな給付として、育児時短就業給付が創設されました。給付率は、休業よりも時短勤務を、時短勤務よりも従前の所定労働時間で勤務することを推進する観点から、時短勤務中に支払われた賃金額の10%とされます。
2004年の高年齢者雇用安定法改正により、65歳未満の定年を定めている事業主に対して、65歳までの雇用を確保するため、高年齢者雇用確保措置の導入義務が定められました。
この高年齢者雇用確保措置のうち、65歳までの継続雇用制度の導入に当たっては、継続雇用制度の対象となる高年齢者に関する基準を労使協定により定めたときは、希望者全員を対象としない制度も可能でした。しかし、2012年の法改正により、2013年4月1日から継続雇用制度の対象となる高年齢者につき事業主が労使協定により定める基準により限定できる仕組みを廃止することが決定されました。
一方、2012年度までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主は、経過措置が認められていましたが、その経過措置は2025年3月31日で終了します。そのため、2025年4月1日以降は、高年齢者雇用確保措置として、①定年制の廃止、②65歳までの定年の引き上げ、③希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入のいずれかの措置を講じる必要があります。
2012年度までに、労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主は、経過措置として、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の者について継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められていましたが、その経過措置は2025年3月31日をもって終了します。
これにより、すべての企業は、従業員が希望する場合に65歳まで雇用機会を確保することが義務付けられました。これは、企業に65歳までの定年制を義務付けるものではなく、次のいずれかの対応を企業に義務付けるものです。①定年制の廃止、②65歳までの定年の引き上げ、③希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入。
定年延長の場合は、再雇用と異なり改めて雇用契約を結ぶ必要はありませんが、高年齢者雇用確保措置に伴い、労働条件に変更が生じる場合は、従業員に対して労働条件の変更の内容を周知し、新たな雇用契約書や労働条件通知書を作成する必要があります。
また、65歳までの定年の引き上げや継続雇用制度の導入に当たり、労働条件などに変更が発生するため、就業規則の内容を変更する必要があります。特に退職に関する項目は、就業規則への記載が義務付けられていますので、就業規則の変更を忘れないでください。
高年齢者雇用確保措置に伴い、シニア従業員の賃金をどのように設定するかは、企業のコストやシニア従業員のモチベーションに関わる問題です。現状の賃金制度を維持するのか、それともシニア従業員専用の新しい賃金制度を創設するのか、それぞれの企業に見合った選択が必要です。
前述の通り、2025年4月1日より高年齢雇用継続給付が縮小されるので、賃金体系によっては、シニア従業員の収入が減少することも考えられます。モチベーション維持のためにも、賃金制度の見直しを検討してもよいでしょう。
他にも、シニア従業員の健康状態や勤務形態に応じて柔軟に対応する労働環境づくりが必要となります。改正を機に、シニア従業員の処遇改善について検討してもよいかもしれません。
次の3点を目的として、育児・介護休業法等が改正されました。①子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、②育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化、③介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化など、の3点です。
男女共に仕事と育児・介護を両立できるようにするため、各支援制度の強化を講ずる法改正が行われ、2025年4月1日から段階的に施行されます。
女性の正社員をはじめ、子の年齢に応じてフルタイムで残業をしない働き方やフルタイムで柔軟な働き方を希望する割合が高くなることなどから、男女とも希望に応じて仕事・キャリア形成と育児を両立できるようにしていく必要があります。そのため、残業免除の対象範囲拡大、テレワーク導入の努力義務化、子の看護等休暇の拡大などの措置が取られます。
仕事と育児の両立支援のニーズに対応するためには、「柔軟な働き方を実現するための措置」の制度などの周知とその利用の意向を確認するとともに、子や各家庭の状況に応じた個別の意向に配慮する必要があることから、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向の聴取・配慮などが新設されます。
男性の育児休業取得などをはじめとした仕事と育児の両立支援に関する事業主の取り組みを一層促す必要があることから、従業員数が300人超の企業に、育児休業取得状況の公表義務などが課されます。
仕事と介護の両立支援制度を十分活用できないまま介護離職に至ることを防止するため、事業主に対し、労働者が家族の介護に直面した旨を申し出たときに、両立支援制度などについて個別の周知・意向確認を行うことや、労働者らへの両立支援制度などに関する早期の情報提供や、雇用環境の整備(労働者への研修など)が義務付けられます。
育児や介護に直面する従業員がいなくとも、従業員から育児・介護の相談を受けたときに、どう対応し、どう仕事と育児・介護の両立支援を進めていくのかなど、普段から準備しておくことが重要です。
パーソル総合研究所が、2024‒2025年において注目される人事の3大ワードとして選出した《カスハラ対策》《スキマバイト》《オフボーディング》。なぜこれらのワードの注目度が上がってきたのか、人事としてどのように向き合うべきなのかについて、働き方やダイバーシティなどについて取材・発信するジャーナリストの浜田氏とワード決定の責任者を務めた小林に、各々の立場から語ってもらいました。
「白馬のリーダー」は現れない 現実を正しく捉え、人事から議論を仕掛けよう企業の人事担当者の方々に、自社での取り組みなども含めて、2024年を振り返り、2025年を見通す上で、注目しているHRキーワードを伺いました。
《人事自身の変革》事業成長の一翼を担う存在に 今こそ人事が変わるべきとき株式会社電通コーポレートワン 執行役員 人事オフィス長 佐藤 淳氏
《Finding Paths. Making Impact.》未来をひらくのは社員 そのポテンシャル発揮の士壌をつくるオリックス株式会社 執行役/コーポレート部門 人事、総務、広報、渉外管掌/取締役会事務局長 石原 知彦氏
《Well-Being》「働きやすさ」のその先へ 一人ひとりの「働きがい」を実現するためにSCSK株式会社 執行役員/人事分掌役員補佐(DEIB・Well-Being推進担当) 河辺 恵理氏
《無自覚・無能からの脱却》企業成長に貢献する人事への変革は人事自身のアンラーニングからはじまる日清食品ホールディングス株式会社 執行役員/CHRO 正木 茂氏
《人材の力を祖織の力に》変革後も制度を改善し続け 人材の成長と組織貢献を最大化丸紅株式会社 常務執行CHRO 鹿島 浩二氏
組織や社会、人に関わるテーマを探究する研究者に、研究に至る経緯や今注目するテーマについて語っていただきました。
「主体性」という曖昧な言葉に翻弄されないように。企業と学生の認識のギャップを解消したい早稲田大学 教育・総合科学学術院 非常勤講師 武藤 浩子氏
認知バイアスとは誰もが持っている「認知の偏り」。正しく理解して、より良い職場環境、住み良い社会へ関西大学 社会学部 心理学専攻 教授 藤田 政博氏
常識の枠を超えて考える「哲学思考」の実践が、イノベーションや「より良く生きる」ことにつながる哲学者、山口大学 国際総合科学部 教授 小川仁志氏
《Well-Being》「働きやすさ」のその先へ 一人ひとりの「働きがい」を実現するために
教員の職業生活に関する定量調査
2024年版 人事が知っておきたい法改正のポイント-労働条件明示ルールの変更/時間外労働の上限規制と適用猶予事業・業務について/パートタイム・アルバイトの社会保険適用事業所の拡大
つながらない権利の確保に向けて
2023年版 人事が知っておきたい 法改正のポイント - 育児休業取得率の公表/中小企業の割増賃金率の引き上げ/男女間賃金格差の開示義務
特別号 HITO REPORT vol.12『「副業」容認しますか?~本業への影響、人事の本音、先進事例などから是非を考える~』
働き方改革の進展と働く人の心的状態の変化
日本的ジョブ型雇用で労使関係はどう変わるか?
「動かない部下」はなぜできる?マイクロマネジメントの科学
テレワークに役立つHRテクノロジー、アフターコロナを見据えた導入を
働き方改革の最大被害者──"受難"の管理職を救え
特別号 HITO REPORT vol.8『解説 同一労働同一賃金 ―人事・労務が知っておくべきこと、企業が対応するべきこと―』
働き方改革の影響 Vol.3 経営方針を浸透させ労働生産性を高める
働き方改革の影響 Vol.2 働き方改革の意図せざる結果
働き方改革の影響 Vol.1 労働時間の短縮は幸福度を高めるか
労働市場の今とこれから 第11回 働くことの未来
業種・職種別残業実態マップ──どの業種が、どのくらい働いているのか
【イベントレポート】無期転換ルールにおける人事労務対応と今後の人材戦略
【イベントレポート】現場のやる気を削がない労働時間管理
【イベントレポート】ヤフーが取り組む働き方改革
【イベントレポート】大和証券グループが取り組む働き方改革
【イベントレポート】働き方改革と企業の持続的成長に向けて
【イベントレポート】労働市場の未来推計
特別号 HITO REPORT vol.1『労働市場の未来推計 583万人の人手不足』
【経営者・人事部向け】
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