ミドル・シニアの学びと職業生活に関する定量調査

公開日:2023年8月31日(木) 

調査概要

調査名 パーソル総合研究所 「ミドル・シニアの学びと職業生活に関する定量調査」
調査内容

・ミドル・シニアの業務外の学び(学び直し、趣味)の実態と効果を明らかにする。
・学び直す意欲があるのに学び直せないミドル・シニアの学び直し行動を促進する個人・企業要因を明らかにする。

調査対象

■スクリーニング対象者:全国の就業者35~64歳男女 最終学歴高卒以上 n=36,537
※令和2年国勢調査の雇用形態・学歴別の構成比に合わせてウェイトバック処理

■本調査対象者:業務外学習の実施状況・学び直し意欲により割付
①仕事関連学習層 n=1,800
②非仕事関連学習層 n=2,700
③学び直し意欲あり・非学習層 n=2,700
④学び直し意欲なし・非学習層 n=1,800 ①~④の合計 n=9,000
※回答の早い上位10%のデータを削除
※一部の分析では、ウェイトバック処理後のスクリーニング対象者の①~④の区分・学歴の構成比に合わせてウェイトバック処理

調査期間

2023年 3月24日-28日

調査方法

調査会社モニターを用いたインターネット定量調査

実施主体 株式会社パーソル総合研究所
共同研究 産業能率大学 齊藤弘通研究室

※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。

調査報告書(全文)

Index

  1. ミドル・シニアの学び直しの実態
  2. 学び直しの効用
  3. ミドル・シニアの学び直す意欲を行動に移すには
  4. ミドル・シニアの学び直しを促進するには

用語の定義

●ミドル・シニア就業者:本調査では、35~64歳就業者と定義。

●学び直し:業務外の時間に、仕事やキャリアに関して継続して学習することと定義。
*調査設問中では、「本業(現在の仕事)に関する学習」「本業以外の仕事やキャリアに関する学習」を行っているとの回答により把握。

●趣味の学習:業務外の時間に、仕事やキャリアとは無関係の趣味として継続して学習することと定義。
*調査設問中では、「スポーツに関する学習」「文化的な趣味に関する学習」「レジャーに関する学習」「ボランティア、NPO活動に関する学習」「ライフイベント(出産・育児・療養・介護等)や生活に関する学習」「その他の学習」を行っているとの回答により把握。

●学び直しタイプ:学び直す意欲と学習実施状況に基づき、以下の3タイプ(詳細6タイプ)に分類。

企業理念・人事制度の浸透の実態(%)

調査結果(サマリ)

ミドル・シニアの学び直しの実態

6~7割は学び直しを肯定するが、「仕事は仕事の中で学ぶのが一番」という意識も

ミドル・シニア就業者の70.1%が、「何歳になっても学び続ける必要がある時代だ」と考え、63.0%が、「学び直しは将来のキャリアに役立つと思う」と回答。多くのミドル・シニア就業者が学び直しを肯定的に捉えている。他方、ミドル・シニア就業者の70.1%が、「仕事のことは、仕事の中で学ぶのが一番」という考えに肯定的に回答したほか、学び直しているミドル・シニア就業者の56.2%が、「業務時間外の学習・自己啓発についてあまり周囲に言わない雰囲気がある」とも感じている。

図1.学び直しに対するミドル・シニアの意識

学び直しに対するミドル・シニアの意識1
学び直しに対するミドル・シニアの意識2

学び直すミドル・シニアは14.4%

ミドル・シニア就業者の中で実際に学び直しをしている「学び直し層」は14.4%にとどまる。趣味の学習だけをしている「趣味学習層」は8.2%。学び直す意欲はあるが特に学んでいることはない「口だけ層」が29.8%を占める。

図2.ミドル・シニアの学び直しタイプの割合

ミドル・シニアの学び直しタイプの割合

ミドル・シニアの学び直しは、「リスキリング」より「アップスキリング」が多い

学び直し層のうち、71.1%の人が「本業に関する学習」をしているのに対し、「本業以外の仕事やキャリアに関する学習」を実行している人は47.0%である。ミドル・シニア就業者の学び直しは、現在の仕事に関する「アップスキリング」が多い傾向だ。

図3.学び直しの種類

学び直しの種類

最も多い学習内容は「英語」

学び直しをしているミドル・シニア就業者の学習内容は、「英語」が18.2%と最も多く、次いで「IT」(プログラミングなど)、「資産形成・資産運用」(投資・ファイナンシャルプランナー資格など)、「医療・医学」、「語学(英語に限定されない)」の順で多い。

図4.学び直しをしているミドル・シニアの学習内容

学び直しをしているミドル・シニアの学習内容

学び直していない理由は、金銭・時間の余裕のなさ

学び直す意欲があるが特に学んでいることはない「口だけ層」に、学び直していない理由を尋ねると、「金銭的・時間的余裕のなさ」をあげる人が3割超と多い。「学ぶ対象や学ぶ方法のわからなさ」をあげる人も2割前後と比較的多い。

図5.「口だけ層」が学び直していない理由

「口だけ層」が学び直していない理由

学び直しの効用

学び直すミドル・シニアは年収が高い

ミドル・シニア就業者のいずれの年代においても、「学び直し層」は年収が高く、50~54歳では平均642万円。「高年収の職業についているため学んでいる」「過去の学び直しが年収を高めた」という双方向の因果関係があると考えられる。

図6.学び直しタイプ別 個人年収[年代別]

学び直しタイプ別 個人年収[年代別]

学び直していないミドル・シニアの正社員と同質のグループが、学び直していたと仮定し、学び直していない場合との個人年収の差を推定した。個人年収が平均+12万円、3年以上の学び直しに限定した場合は平均+30万円高まる。

図7.[推定]学び直し非実施との年収差(正社員)

[推定]学び直し非実施との年収差(正社員)

学び直すミドル・シニアの6~7割は仕事やキャリアの効果を実感

学び直し層の60.7%が「仕事のパフォーマンスを高められた」と回答。「学びが将来のキャリアに活かされると思う」との回答は68.1%と、多くが仕事やキャリアへの効果を実感している。

図8.ミドル・シニアの学び直しの実利的効果

ミドル・シニアの学び直しの実利的効果

転機に学習した人ほど収入が高く要職に就いている

「通常業務とは異なるプロジェクトへの参加」「出産・育児」など、社会人になってから遭遇したさまざまな転機における学習度合いを「転機学習度合い」と定義し、個人年収や職位との関係を見たところ、学歴を問わず、過去の転機において学習していた度合いが高い人ほど、個人年収が高く、管理職や取締役・社長など要職に就いている割合が高い傾向にある。

図9.転機学習度合い別 個人年収・職位

転機学習度合い別 個人年収・職位

20代の学習・自己啓発経験が年収を高める

ミドル・シニアの正社員の男女ともに、20代に「業務外の学習・自己啓発に取り組んだ経験」があるほうが、現在の個人年収が高い傾向。学生時代の学習態度よりも、20代の学習・自己啓発経験のほうが年収を高めていた。

図10.20代・学生時代の学習経験別 個人年収

20代・学生時代の学習経験別 個人年収

仕事の成果向上を促進する学び方のポイント

「学び直しによる仕事の成果向上」を実感しているミドル・シニア就業者の学び方では、「体験・活用しながら学んでいる」、「学びの全体像を把握しながら学んでいる」、「人と関わりながら学んでいる」、「仕事に役立つことを学んでいる」といった特徴が抽出された。

図11.仕事の成果向上を促進する学び方

仕事の成果向上を促進する学び方

ミドル・シニアの学び直す意欲を行動に移すには

学び直す意欲はあっても、学び直しを実行しているのは26.0%

学び直す意欲があるミドル・シニア就業者のうち、実際に学び直しを実行しているのは、26.0%にとどまる。60.9%は、意欲はあっても特に学んでいることはない「口だけ層」だ。そのため、「口だけ層」が学び直す意欲を行動に移し、「学び直し積極層」になるための要因を分析した。

図12.学び直す意欲があるミドル・シニア就業者の学び直し実行率

学び直す意欲があるミドル・シニア就業者の学び直し実行率

組織の人材マネジメントの効果

組織の人材マネジメントの5つの要素(上司の行動、職務特性、人事管理、研修訓練経験、職場の学習風土)について、「学び直し積極層」と「口だけ層」を比較分析し、学び直し意欲の行動化を促す効果を確認した。その結果、以下図の要素に、学び直す意欲の行動化を促進する効果が確認された。

図13.ミドル・シニアの学び直しの行動化を促進する効果が確認された要素

ミドル・シニアの学び直しの行動化を促進する効果が確認された要素

上司の学びへの熱心さが部下に影響

「上司が仕事関連の学びに熱心」な場合、学び直す意欲のある部下は積極的に学び直すようになる傾向。管理職の学び直しを促進することで、その部下の学び直しも促進されることが示唆される。

図14.上司の仕事関連の学びへの熱心さ別 部下の学び行動

上司の仕事関連の学びへの熱心さ別 部下の学び行動

企業の人事管理の在り方も、社員の学び直し行動に影響

企業の人事管理については、「キャリアの透明性」「職務範囲の無限定性」「育成の手厚さ」が高い企業に属していると、学び直す意欲のある社員が積極的に学び直しを行う傾向が見られる。

図15.企業の人事管理別 就業者の学び行動

企業の人事管理別 就業者の学び行動

キャリアのセルフアウェアネスが高いと学び直し意欲が高く、積極的に学ぶ

自分のキャリア全体がどういった方向に向かっているかを理解できているなど、内面的な自己認知を指す「キャリアのセルフアウェアネス」が高いミドル・シニア就業者は、学び直す意欲がある割合が高い。学び直す意欲があるミドル・シニア就業者の中で、「キャリアのセルフアウェアネス」が高い群は、積極的に学び直している傾向がある。
なお調査では、「キャリアのセルフアウェアネス」は、「技能の高度さ」「成果の明確さ」などの職務特性や、「キャリアの透明性」などの人事管理、「個別の業務に関するスキルアップ研修」などの研修訓練によって高まることも確認された。

図16.キャリアのセルフアウェアネスと学び直し意欲・行動への影響

キャリアのセルフアウェアネスと学び直し意欲・行動への影響

キャリア不安を煽るだけでは「口だけ層」が増える

専門性の低いミドル・シニア就業者ほど、キャリア不安が高い傾向が見られる。35~54歳のミドル層の「専門性低群」では、「将来の収入やキャリアに強い危機感を持っている」割合が約4割を占めた。

図17.専門性とキャリア不安

専門性とキャリア不安

キャリア不安が強いほど、学び直す意欲が高い傾向がある。特に、専門性の低い群でその傾向が顕著である。

図18.キャリア不安の学び直しへの影響

キャリア不安の学び直しへの影響

しかし、いずれの専門性の群でも、キャリア不安が高いほど「口だけ層」の割合が多く、「学び直し層」の割合はあまり変わらない。つまり、専門性が低いミドル・シニア就業者ほどキャリア不安が高い傾向にあり、キャリア不安が強いほど学び直す意欲は高いが、学び直す行動は起こらず「口だけ層」が増加する。

図19.専門性×キャリア不安×学び直しタイプ

専門性×キャリア不安×学び直しタイプ

学び直す意欲を行動に移すには「学び直しマインド」が有効

「口だけ層」が「学び直し積極層」に移行するには、「好奇心」「いけ図々しさ※」「エンジョイメント」「自己効力感」といった「学び直しマインド」を持つことが効果的である。

※「いけ図々しさ」は、いやになるほどの厚かましさを意味する罵りのニュアンスが強い言葉だが、本調査中では思い切りのよさ・積極性といったポジティブなニュアンスを込めて用いた。

図20.学び直し行動を促進する学び直しマインド

学び直し行動を促進する学び直しマインド

図21.学び直しマインドの構成項目

学び直しマインドの構成項目」と題して追加

分析コメント

ミドル・シニアの学び直しを促進するには

働く個人に向けて

これまでは「学び直し」などしなくとも、何とかなってきたかもしれない。しかし、生成AIの進化・普及など、私たちの仕事や働き方に大きな変化が予想される中、今後どうすべきかと悩む人は少なくないだろう。

学び直しをしない理由では、まず「金銭的・時間的余裕」があがる。しかし、学び直しへの投資許容額よりも実際の投資額は少なく、労働時間が長い人ほど学び直している傾向も確認された。この背後には「心の余裕のなさ」や「振り返り機会の乏しさ」がありそうだ。何をどう学ぶかと考える前に、時に仕事から距離を取って、自分は「何のために働くのか?どう働きたいのか?」と問い直してみてはどうだろうか。本調査結果では、キャリアのセルフアウェアネスを高めることが学び直しの実行につながっていたが、内省するにしても「心の余裕」は欠かせない。

また、学び直しは中長期的に年収が高まるなど「労力に見合う」ことが確認された。自分の興味・関心(好奇心)や仲間との語らいなど、学びを楽しむ自分なりのポイントを見出し、継続することが大切だ。いくつになっても、恥をかくことを恐れずに一歩踏み出し、まずは粘ってやり続けることで得られる喜びもあろう。

経営層・人事に向けて

大人の学びには実利的な側面もある。ミドル・シニア層には学び直し意欲を行動に移せていない人たちも多く確認された。自組織においてもこの傾向が見られるならば、学び直す意欲を行動に向かわせるためのインセンティブシステムが機能していないとも考えられる。人事諸制度の内容や運用状況は就業者の学びを抑制してはいないか、育成施策は学びを促進するものとなっているかなど、社内アンケート等を通じ確認してみてはどうだろうか。

学び直しを怠ることのリスクを喧伝し、将来不安を煽るだけでは行動が伴わない「口だけ層」が増える。危機感は学び直す意欲を高めるかもしれないが、合わせてキャリアのセルフアウェアネスを高めることが肝要となる。介入策としては、自身のキャリアについて振り返るような教育機会などは有効な施策となるだろう。

また、職場上司の言動は、部下の学び直し行動に影響していた。管理職向けの教育では、管理者自らが学び直しを実践するとともに、メンバーの学び直しを後押しする働きかけの大切さを強調したい。学び直しに対する上司の積極的な言動は、学び直しに対してオープンな組織風土を醸成していくことにもつながるだろう。

※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所+産業能率大学 齊藤研究室「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」


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